SPIRIT WORLD
糸口

「…で、戻って来たんですね」

「はいです」

 現在、あたしは霧崎のみんなと体育館に生還し赤君達に状況説明をしているところです。
 何故こんな状況になったかと言えば、遡る事数分前。










「理科室…」

 三階のL字突き当たりを曲がり別館の方へ移動したあたし達。T字の突き当たりに来ると、右手奥に理科室、手前に準備室、左手奥に美術室、手前で男女トイレがあり、目的の理科室を見付けた。

「アリ?開かないけど」

 かずやんがドアノブを捻るが鍵が掛かっていて開かず、隣の準備室にも手を掛けるが開かない。鍵を探す必要があると考えられ、どうするかと一同考えていれば足音が聞こえ、振り返ればそこには斧を持ち仮面を被った男、あたしには鬼に見えるソイツがいた。

「ぎゃああああ!!」

「オイオイ、斧でかくねえか!?」

 そこじゃねえよ!!鬼の顔本当怖い夢に出る!!あ、叫んだのはあたしです。
 某妖怪時計に出てくる赤鬼を思い浮かべちゃ駄目だよ。ほら、例えば風神雷神の鬼いるじゃん、あんな感じの顔が立体でいるのよ。怖いのよ。しかも2m以上はある。
 つか鬼なら金棒持てよ!!

 近くにいた健ちゃんに隠れると、察してくれたのか庇ってくれている。だが状況は更に悪くなる。

「!?おい、あれ!!」

 狭い空間で斧を振り翳す鬼男を避けながらザキが指す方向は美術室。曇りガラス越しのそこにわらわらと人影が見えていた。

「ひっ!?」

 突如バン!!と音と共に曇りガラスに血の付いた人が押し付けられるのが視えた。ガリガリ爪で掻いて開けようともがいている。それに続くようにどんどん人が張り付いていく。もう間もなく開けて飛び出てきそうな勢いだ。

 曇りガラスでもあそこまで近付けば何かはわかる。所謂ゾンビだ。某ハザードに出てくるゾンビ。
 健ちゃんに支えられながら斧を避けているが、ただならぬあたしの悲鳴を聞いて健ちゃんが美術室を一瞥し、彼にどう見えたかは知らないが顔を歪めてマコマコに声を掛ける。

「花宮!此処はまずい、一旦退くべき!」

「チッ…仕方ねえ!」

 舌打ちしたマコマコは折り畳み式ナイフを取り出すとそれを開き、ザキと康ちゃんが隙を突いて鬼男の両腕を抑え、かずやんが膝裏をバットで殴り(所謂膝カックン)体勢を崩させるとマコマコがナイフで鬼男の両目を切り付けた。

 アア゛アアアァァァア゛アア!!!

 地の底から湧き上がるような悍おぞましい大声を上げながら目を覆いふらつく鬼男。その隙にと健ちゃんはあたしの腹に手を回して横に抱え、みんなが引き返して全力で走り出す。
 その瞬間美術室は開けられ、そこからゾンビが湧いて出てくる。ひいいいい!

「何あれ!?マネキン!?」

「マネキンって歩くんだな」

「いや此処だけだろ!!」

 かずやん、康ちゃん、ザキの言葉を聞いてみんなにはマネキンに見えている事を理解した。

「おいそら。お前にはどう視えてる」

 マコマコに名前を呼ばれてまたドキドキしたけど、ちょっとずつ慣れてきたわ。そして振り向いて最終確認。うん。

「ゾンビ」

「成る程」

 だからあんなに怯えてたんだな、と健ちゃんが労わるように声を掛けてくれた。優しさが身に染みる。
 鬼男は追ってこないがゾンビはフラフラしながら追ってくる。だが現役バスケ部の脚力の凄さは霧崎の彼らも例外ではなく、あっという間にく距離を離して無事に体育館に帰還したのだ。










 で、今に至る。

「何も持ち帰れなくてごめんね…」

「いえ、無事に戻って来てよかったです」

 赤君にそう言ってもらうが少し落ち込む。あたしとか何もしてないし。ただ怪物見て守ってもらってるだけだし。
 何か役に立ちたかったなと思っていると、ハタ、と動きと思考が止まる。あれ、そういえば一つ気になる事があったんだ。

「じゃあ探索に理科室の鍵を探す目的も追加かよ…」

「あ、ごめん話の途中に」

 主将が固まって話しており、笠松少年が言った後に挙手をすると注目を集めた。そんなに見ないで。

「鬼…斧の男いるじゃん?」

「小野妹子みたいなニュアンス…」

「小野妹子の弟は斧の男だ…キタコレ!」

「伊月黙れ」

「ふっ」

 いやそういうつもりで言ってないんだけど、そう呟いた小金井少年に続いて伊月少年がダジャレを披露し日向少年が一蹴する。元々笑いのツボが浅いと言われるあたしが思わず吹き出すと、全員が固まった。

「え、今そらさん…」

「ウケた…!?」

 リコぴんはまさかと顔を引き攣らせ伊月少年は目を輝かせて喜ぶ。みんなに疑いの目を向けられ居心地が悪くなる。

「いやいや、拾うねーって思っただけじゃん」

「でもウケたんじゃん」

「あ、うん」

 ふへっと変な笑い方をすると笑いのツボが浅過ぎだろ…と霧崎メンバーにじと目で見られた。

「山口さん…いや、そらさん!同志ですね!!」

 そう言って伊月少年があたしの両手をその両手でガシッと包み込み、ブンブン上下に振りたくる。相当嬉しいらしい。

「まあダジャレはあたしも言うし、面白い時は面白いもんね。滑るとハズいけど」

「やっと理解者に巡り会えた…!」

「俊ちゃんって呼んでいい?」

「勿論!」

 今まで酷い扱いされてたもんね。でもあたしみたいなツボ浅い人もっといると思うけど、と思いながら喜ぶと彼を見て可愛かったのでそのままにしておいた。

「…で、言い掛けた事は何じゃ?」

「あ、そうそう。忘れてた」

 岡村少年に促され主旨を思い出す。どさくさに紛れて俊ちゃん呼びの許可を得たあたしが彼の手をやんわり解いてみんなに向き直るその後ろで、嬉しさのあまり勢いで手を握った事で今更羞恥心がじわってる俊ちゃんがいたのをあたしは知らない。

「アイツから逃げる時にね、アイツの一部が一瞬光ってた気がすんのよ」

「光ってた?オレら見てねえけど」

「案内人だから視えたんじゃね?」

「何処が光ってた?」

「股間」

 ザキとかずやんが各々喋り、マコマコの質問に素直に答えると空気が固まった。

「そらさん…」

「お前…何処視てんだよ…」

 さっちゃんとリコぴんが赤面しており、マコマコが引いた顔で見てくる。他の数名もやや顔が引き攣っている。

「いやいや違う違う。あたし健ちゃんに担がれたから視線低かったじゃん?だから擦れ違う時に一瞬視えただけ。だから確証はないって話」

 手をチョイチョイと横に振りながら淡々と弁解するが、一同の疑う視線は止まないのを見て高尾少年と峰さんがゲラゲラ笑う。黙れそこの二人。

「そんなに見てえなら見せてやろーか?」

「「「青峰ぇぇぇ!!」」」

「もう大ちゃん!!」

「いらんわ!!」

 峰さんの衝撃的な発言にスーさん若ちゃん緑間少年、そしてさっちゃんが赤面して怒鳴る。あたしも見たいわけじゃないからと突っ込んだ。

「話を戻します」

 咳払いした赤君が話を戻し、怪物が光っていた事をどう考えるのかと聞く。あたしは口元に指を添えながら自分の考えを告げた。

「何か隠してるのかなって。他に見えていなかったんなら尚更、何かある気がする」

「あってもキン◯マじゃね」

「下品なのだよ!!」

「玉は玉でも違う玉…みたいな」

「そらさんもノらんでええ」

 眠たそうに下品な語呂を言う峰さんに緑間少年がど突く。純粋だなあ。
 あたしもキリッとして言い切ると翔ちゃんにデコピンされた。おうふ。

「白玉しらたまの可能性はあるんじゃないかなって。玉だけに」

「もうええっちゅうねん」

 次はペシッと額を叩かれた。どんどん強くなってない?

「あるいは理科室の鍵かな」

「玉の次は棒かよ」

 峰さんが一番アカンやつを言った瞬間にドゴンッと鈍い音がした。吃驚して見ると赤君の手で床に顔面をめり込まされた峰さん。
 とんでもない光景に一部の者とガクガク震えて見ていると、俯いていた綺麗なお顔が拝見出来た。

「青峰、話が進まないだろう」

 笑っているのに目が笑っていない。
 峰さんはそこから動く事はなかった。赤君ヤバい。

「山口さん」

「はいいいいっ!」

「もう少し自重しましょう」

「はい」

 免疫ない人も女性もいるので、と言う赤君に頷くしか出来なかった。まあ絶対どっかでまた言うんだけどね。

「確かめる必要はありますね。倒すには山口さんがいなければわからないので、やはり同行してもらうしか…」

 説明している時に鬼めっちゃ怖いって言い続けてたから、気に掛けてくれてるんだろうな。

「大丈夫。弱点も今回はバッチリ視てきたからトントンとやっちゃおう」

「じゃあ行く必要ないんじゃ?」

 握り拳を作っていると弱点が既にわかっているならとリコぴんが止める。

「光りに関しては確証ないし、もし違ってたらその時もその後も何かあった時に大変だから」

 ポンポンと頭を撫でて安心させるように言うとリコぴんはそうですか、と苦笑した。

「弱点は背中、肩甲骨辺りに靄があった」

「わかりました。では今からの探索は男を探し倒す事。この一つに目的を絞ります」

「見事倒して白玉しろだまか鍵があれば万々歳、何もなかったらしゃーなしに戻って来るっちゅう事で」

「ゲットしてもしなくても帰ってくるんだね?」

「はい。無理は禁物です」

 話がまとなった所で行く学校を決める事に。鬼が大きく手強い可能性や先程のゾンビがいる事を考え、メンバーは多めで先程のクジに外れた学校の中で行くという事になり、

「宜しくお願いします」

「宜しくー」

 誠凛に決まりました。黒子少年に挨拶され、挨拶を返すとニコリと微笑まれた。かわゆし。
 行くメンバーは日向少年、俊ちゃん、水戸部少年、小金井少年、火神少年、黒子少年、福田少年。リコぴんは女子だし、木吉少年は手術前だからあんまり無理させたくないとの事で日向少年によって外され、土田少年と降旗少年と河原少年はお留守番。

「私も行くぞ」

 と言い出したのはアレクさん。他のみんなが止めようとするのを無視し、あたしに近付き肩を組んできた。

「さつきは膝枕、リコは手当て。私はまだそらの為に何も出来ていないからな」

「え、いやいやそんな」

「そらがこんなに頑張っているのに何もしないのは嫌なんだ。だから行かせてくれ」

 アレクさんの言葉がじーんとする。嬉しい。

「アレックスなら大丈夫だと思うよ」

「コイツすげえ蹴りだから」

「…わかった。そこまで言うならお願いします」

 たっちゃんと火神少年の言葉にも推され、赤君は了承した。

「よし!そらは私がちゃんと守ってやるからな!」

 ちゅーっとほっぺにキスしながら言うアレクさん。嬉しいけどキスは必要なかったんじゃないかな。当然火神少年によって引き剥がされた。

「よし、行くぞ!」

 休憩を促されたが断った。特に疲れてもいないので、大丈夫だ。各々武器を霧崎から受け取り、アレクさん俊ちゃん日向水戸部黒子少年がナイフ、小金井福田少年が鋏、火神少年がバットを装備。
 言わずもがなあたしはフライパンだ。さっき使わなかったからちゃんと次は使用します。

 さあ、鬼男の股間もぎ取りに行くぞおおおおお!!
 心の中で叫んだのでツッコミは入りませんよ。

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