SPIRIT WORLD獲得
乾燥室は作業台がいくつかあるだけの教室。恐らく技術の授業で作った作品を乾燥させたり保管したりする場所だと推測出来る。埃っぽいが何もないのでガランとしている。
その透けている少年は真ん中の机に腰掛け、ずっと真っ直ぐ前を見ているだけ。虚ろで寂しげな目が印象的だった。
動く気配がないので一度ドアを閉め、あたしの考えを全員に伝える。
「…怪物じゃないと思う。あたしもみんなと同じように視えてるみたいだし、一見幽霊みたいだけど悪意が全然ない感じ。今まではそれなりに殺気とか嫌な感じとかあったから」
「成る程な」
「じゃあ番人ですか?」
「その線が高い」
話し合った結果、中に入って話し掛けることにした。番人なら白玉を渡す必要あるから重要人物になるし、怪物なら怪物で倒せばいい。
一応護身の為に武器を持ちながら、順ちゃん先頭で入る。みんなが入室しても微動だにしない少年。
近くで視ると、真っ白な髪が福井少年くらいの長さあって、目はやや垂れ目。可愛い部類に入ると思われる。ショタって言わないで。
「…なあ、お前」
順ちゃんが話し掛けるが反応がない。まるで屍のようだ。え?違う?
「すいません。話を聞きたいんですが」
テッちゃんが言っても無反応。他のみんなも声を掛けたり目の前で手を振ったり気を引こうとするが、まるで置物かのように全く動く気配がない。瞬きすらしない。
勇気を振り絞ってテッちゃんがかがみんの腕を持ち少年に触れようとするが通り抜けた。
「自分の手でやれよ!!」
ごもっともである。
「…これ、何かの映像とかじゃないですよね…ホログラム的な」
ひろやんが少し離れた位置で様子を見守りながら言う。唯一声を掛けていなかったあたしは歩み寄り向き合う位置に立った。視点はずれない。
「…ねえ、君」
目を合わせるように少し身を屈めて声を掛ける。すると、少年の目が上を向いた。
じっと真っ直ぐ見つめられ交わる視線。あたしを認識している。
「あたしはそら。君の名前は?」
…影葉…
影葉。小さな声で紡がれた名前を聞いて、あたしが近くにいたアレクさんを見上げると頷かれた。他の人にも聞こえたらしい。
「影葉君。質問があるんだけどいい?」
…あなたが案内人なら。
やっぱりあたしが案内人だから反応を示したって事か。コクリと頷いて、あたしは口を開く。
「君は怪物?幽霊?それとも…番人?」
ドキドキしながら待つ。もし「僕は…怪物だあああ」とか言って変形しだしたら堪ったもんじゃない。
だがそれも杞憂に終わった。
僕は…番人だ。
皆さん。無事に番人見付かりましたよ。言い方、テッちゃんのあの有名な台詞に似てるね。
その答えを聞いて、あたしは安堵の息を漏らした。
「じゃあ影葉君。白玉が何処にあるか教えてくれたりしないかな?」
ちょっと待て!と言いたげな順ちゃん達。多分そんな事聞いて怒られないか心配なんだろうね。でも聞いちゃう。教えてくれるかも知んないし。
………それって白玉の事?
あ、
白玉っていうんですか。
「誰だよ
白玉なんて言った奴!!」
「えっオレ!?でもそらだってずっと白玉って言ってたじゃねえか!!」
「うるせえ!!あたしが恥かいちまったじゃねえか!!」
「そらさん口悪いです」
怒り心頭。少年に諭された気分になったのもかがみんの所為だ!名前で呼ばれてもときめいてやんねえ!!テッちゃんの冷静なツッコミを受けて落ち着く。近くで水戸さんがオロオロしていた。でかいのに可愛い奴だ。
ゴホンと咳払いをして影葉君に向き直った。
「白玉ね、教えてくれてありがとう。それで、それって何処にあるか教えてくれたり」
しない。
「ですよね」
やっぱり無理だった。
…早く持ってきて、僕の所に。
「あ、うん。ごめんね手ぶらで」
早く…僕は会いたいんだ。
誰に?白玉?白玉loveなの?とそんな質問が出来ないくらい悲しい顔をする影葉君。
それから何を話し掛けても全く話さなくなってしまったので、乾燥室を出て言葉の意味を考える。
「会いたいって事は人なのか?」
「確かに、玉の文字が付いてるから物かと思ってたけど…」
かがみんとひろやんの言葉に対し、テッちゃんが
頭を横に振る。
「いえ、物で間違いないと思います。連れてきて、じゃなくて持ってきてって言っていました」
「黒子に同感だ。もしかすると、あの影葉って番人に白玉を渡せば誰かが現れるのかもしれない」
「非現実的な発想だけど、此処ではありえそうだもんねー」
俊ちゃんとコガも同意する。あたしも同感なので頷いていると、順ちゃんと目が合った。
「乾燥室に番人がいるっつー事はわかった。今からは二階に上がって男を探そうと思うんだが」
「それでいいよ、大丈夫」
鬼男が白玉を持っているかちゃんと調べないと。影葉君の悲しい顔が脳裏に焼き付いて離れず、早く持って行ってあげたいと気持ちが逸る気がした。
「ひいぃぃぃやあぁぁぁあああ!!」
所変わって二階。言った通り二階に上がりウロウロしてみようってなった時に三階から降りてきたのは、奇跡的にも探していた鬼男。何度も言うが、彼らからするとただの斧持った大きめの仮面男かもしれないが、あたしにはちびっちゃいそうな程強面の鬼にしか視えない。
そいつはマコマコに目を切り付けられたはずなのにその目は傷なんかなくてしっかりと開き、血走った目をしてあたしを捉えている。見ているだけならまだしも、鬼男はあたしに向かって斧を振り回す始末。
ヨクモオレ様ノ目ヲォォォォォ!!
「いやあたしじゃねえしぃぃぃ!!」
切り付けたのはマコマコだよ!
振り下ろされる斧を見て咄嗟に持っていたフライパンを両手で固く持ち、ブンッと大きく振り回せば斧と衝突し、ガイィィン!!と響く音を立てて斧を弾く事に成功した。鬼男はふらついて一歩下がった。
「あああああああああ」
しかしフライパンに伝わる振動がビィィィンとあたしの手から全身に伝わり、一人で震える声を出しながら震える体が収まるのを待っているとコガが大爆笑していた。
「ブッフゥ!!そらさんそれヤバいィィィ!!」
高い所から着地したら足がビーンてかジーンってするでしょ?あれね、結構辛いでしょ?今全身に体験中なの。コガ爆ぜろ。
「そらさん!!」
俊ちゃんの叫ぶ声が聞こえたが、気付くと目前に迫った斧。そうだ、振動に耐えてる暇なんてなかったじゃん。そう思ったけど既に遅し。
と思っていたら物凄い勢いで真横に弾き飛ばされる鬼男。え。
「Are you O.K.?そら」
「アレクさあぁぁぁぁん!!」
彼女の見事な飛び蹴りが横から顔面にめり込み飛ばされた様子。素敵過ぎる!
見惚れていると急に水戸さんに姫抱きされ鬼男から遠ざかる。うわ、恥ずかしい…!その合間にみんなは武器を持って起き上がる鬼男に向かっていった。
「そらさん!弱点は肩甲骨で間違いねえか!?」
「うん!黒い靄視えるよ!」
順ちゃんに聞かれもう一度視てみるが変わらず背中に黒い靄が掛かっていた。コガもこちらを振り返ると彼からも質問。
「ちなみに股間は!?」
「めっちゃ光ってる!」
「絶対めっちゃではないでしょう」
何故バレたし。水戸さんの隣にいつの間にかいたテッちゃんに冷たくツッコミを頂き、水戸さんに抱かれながらみんなを見守る。
水戸さんはあたしの護衛を任されたようでしっかり持っていてくれている。重たいだろうに、ごめんね。そう言うとふるふると首を横に振った。いい子。
鬼男の方を見るとみんな俊敏な動きで振り回される斧を避けており、コガとひろやんが鋏を足の健に突き刺し足の動きを止め、俊ちゃんが腰にナイフを刺してグンッと下へと引っ張り座り込ませる。この時点で見事な連携プレイだ。
「そらを怖がらせた分、返しておくよっ!」
アレクさんはショートパンツから見えるおみ足を惜しげもなく晒しながら回し蹴りを顔面に食らわせた。男…いや女前過ぎる!
そしてあろう事か光りを発している股間へも踵落としを食らわせる。
「ギャアアアアア!!」
何故かコガが叫ぶ。痛そうだと思ったのか。鬼男も叫んでるけどコガのが煩い。
「…うん。普通の男の股間だな。白玉はないみたいだぞ!」
「「それ確かめる為だったんかい!!」」
かがみんとあたしの声が揃う。クレイジー過ぎるぜ姉御。ってか前にも蹴った事あるの?
ちなみに股間の光りは変わらぬまま。でもこれで光りの元を調べる為にはもぎ取る手段ではない事がわかった。恐らく普通に倒せばいい。
そして順ちゃんがナイフを背中目掛けて投げ、同時にかがみんがバットをフルスイングする。
「うらあああぁぁぁぁあ!!」
ブッスリとナイフは刺さり更にバットの衝撃を弱点に受けた鬼男の体は耐え切れず、断末魔と共に金色の粒子を飛ばして消えていく。最後に残った下半身は股間が眩い光りを発して消えた。
そして、鬼男のいた床にはコロリとピンポン球くらいの大きさの白く綺麗な玉が転がっていた。恐らく、いや、紛れもなくあれが本物の白玉だ。何となくわかる。
「鬼男のキン◯マ…」
「白玉です。赤司君に怒られますよ」
だって股間にあった玉なんだもん。
何はともあれ無事に白玉をゲットしたあたし達は体育館に戻る事に。水戸さんに降ろしてもらい、お礼と謝罪を言うとまた首を緩く横に振って微笑んだ。コガ曰く「重くなかったです。気にしないで下さい」らしい。
白玉と言えど股間にあった物と認識しているのはあたしだけではなくみんなも同じで(あたしが股間股間煩いからと思われる)、汚くないんだろうけど気分的に拾い上げるのは躊躇われるようで、持って行く人をジャンケンで決めている1年の三人があたしには可哀想に見えた。順ちゃんが先輩の特権で1年に押し付けたのだ。
結局負けて白玉(鬼男のキン◯マ)を持つ事になったのは、期待を裏切らないかがみんだった。
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