SPIRIT WORLD
進歩

「相変わらず気味悪い色してんなー!」

「ちょっと小太郎、静かにしなさいよ!」

 校舎に入り一階を進むあたしと洛山一行。窓から外の淀んだ虹色を見ながら嬉々としてはしゃぐ葉山少年を実渕少年が抑える。
 先頭に赤君と実渕少年、二番目にあたしとちーちゃん、最後に葉山少年と根武谷少年で列を作って進む。

「怪物寄ってきたら嫌だから静かにしようねワンコ」

「ワンコ!?俺ワンコじゃねーし!葉山小太郎って名前って言ったよね!?」

「まーまーそう怒りなさんなコタよ」

「俺にもあだ名!」

 ほら、そういう所が犬じゃん。尻尾振ってるように見えるもん。無邪気な子だね。さっきまで怒ってたのにもう笑ってるよ。

「そういえば山口さん征ちゃんもあだ名で呼んでいたわよね。私とも仲良くしてくれるかしら?」

 やり取りを聞いていた実渕少年が振り返ってウインクした。うん、あたしより女子だ。

「勿論。玲央きゅん」

「あら、可愛いあだ名。じゃあ私もそらさんって呼ばせてもらうわね」

 お気に召したようで微笑まれたのでこれでいこう。

「ちなみに、永ちゃんなら何て呼ぶ?根武谷永吉!」

「筋肉マン」

「おい!いや筋肉はいいけどよ」

 根武谷少年の肩に手を置いて尋ねるコタに即答すると本人からツッコミを頂いた。中々才能ある感じのツッコミだった。

「永ちゃんでいいんだけどね、永ちゃんって聞くとどうしてもワイルドなあの歌手が出てくるからさ」

 ハーハン!な人です、わかるかな。世代は違うけど有名だからさ、いつもあの歌が流れてくるのよ。

「まあ、永ちゃんでいいよ」

「上から目線かよ!!」

 承諾は頂けたのでよしとしよう。やり取りを楽しんでいるとあたしの前にいる赤君がクスクス笑い出した。何?取り憑かれた?

「山口さんは直ぐに人と仲良くなれますね」

「そうかな?此処にいるみんながいい子達だからだと思うよ」

 実際いい子達だからあたしとも距離を縮めてくれるわけだし。

「惹かれる理由がわかる気がします」

「ん?何て?」

 小声で上手く聞き取れなかったので聞き返す。悪口なら絶対聞こえてただろうから悪口ではないのかも。
 隣の玲央きゅんは聞こえていたのか面白そうに微笑んでいる。

「いえ、何でも。オレもそらさんってお呼びしようかと」

「ファッ!?」

 まさかの赤君が名前呼び!?俺司だからないと思ってたけど!段々ナチュラルに名前呼ばれるの慣れてきてたけど!赤君に呼ばれるとレアだし破壊力半端ないですありがとうございます!!!

「やだ、そらさん顔真っ赤よ」

「林檎みたいだな」

「ううううるさい!大人をからかうもんじゃないよ!!」

「「「えっ…あ、年上だったっけ」」」

「泣いてもいい?」

 声を揃えて言うちーちゃんとコタと永ちゃん。打ち合わせしてたの?
 そんなやり取りを聞いて前の二人は上品にクスクス笑っていた。










「此処にいるんだな」

「うむ」

 一階の別館、乾燥室へ到着する。此処に来るまでに怪物に鉢合わせる事はなかったので一安心だが、此処からがまた不安になる。

「そらさんの話にしか反応がないならお任せする事になるんですが…」

「いいよ、わかってる。悪意は感じなかったから大丈夫だと思う」

「念の為オレが隣にいますので」

 赤君に頷き返し、みんなと一度顔を合わせてからあたしがドアを開けて入る。中には変わらぬ位置に影葉君が座っていて微動だにしない。
 真ん中にいる彼に歩み寄り正面へ立つ。隣には赤君と、あたし達の横や後ろに他のみんなが佇み様子を窺う。

 あたしは影葉君と目を合わせるように少し屈んで話し掛ける。

「影葉君、こんにちは」

 …こんにちは。

 焦点が合っていなかった目と目が合う。ちゃんと反応が返ってきたことに安堵し、話を続けた。

「影葉君。白玉持ってきたよ」

 …本当…?

 今まで寂しいとか悲しいとかの表情しかなかった影葉君の表情に変化があった。少しだけ目を見開き瞳に光が少し戻った。

「本当。多分本物だと思う。確かめてくれる?」

 そう言うと玲央きゅんに目配せして、彼から持っていた白玉を渡してもらう。ちゃんと受け取っている事から、話をするのも本当は出来るんだろうけどしていないだけなのではないかと思った。

 …うん、本物だ。

影葉君ははっきりとそう言い、顔を上げた。あたしは姿勢を戻して彼を見つめる。

 僕は番人。これで僕は役割を果たす。

 そう言ったかと思えばその場に浮遊し教室の真ん中へと音もなく移動する。赤君が庇うようにあたしの前に立って様子を窺っていると、影葉君は空中に佇み右手に白玉を持ちながら左手を前に突き出す。するとそこに刀が現れそれをしっかり握り、白玉を宙に浮かせた。

 瞬間、一瞬にして抜刀し白玉を十文字じゅうもんじに斬った。子どものする身のこなしの度を超えている程の抜刀術。一同がそれに瞠目していると、途端に斬られた白玉が眩い光を発し室内を光で覆った。

「うわ…っ!」

「まぶ…っ!」

 あまりの眩しさに手で目元を覆う。
 だが光りは長くは続かず、直ぐに落ち着くとあたしはそっと目を開けて周りを確認した。
 しかし最初と何ら変わりなく、影葉君も宙に浮いて佇んだまま。だが白玉は消えていた。

「何をした?」

 赤君がややピリッとした雰囲気を纏い警戒しながら聞くがゆるゆると首を横に振るだけで答えない。

「何が起こったの…」

 玲央きゅんが呟くと同時、影葉君はゆっくりこちらに近付いてきた。守るように立ってくれる赤君越しに影葉君を見つめれば先程より薄くなっている気がした。
 悪意は感じられないので、赤君の肩に手を置いて少し下がらせ影葉君と向き合う。

 案内人のお姉さん。

「何かな?」

 僕の主人あるじを助けて下さい…お願いします…

 影葉君は切ないような悲しいような顔をして静かに涙を一筋だけ流すと、薄れていく姿がスッと完全に消えた。
 カツン、と金属が落ちる音が聞こえて影葉君が座っていた机を見ると、一つの鍵がそこにあった。影葉君が落としていったのだろう。

 それを拾って赤君を見上げる。手を差し出すのでその手に置いて見てもらう。

「さっきの子消えちゃったけど、何処行ったのかな」

「成仏とか?」

「でも幽霊だったかなんてわからないし…」

 2年生三人が話しているのを聞いて、あたしは影葉君がいた所を見つめる。

「成仏ではない気がする」

「え…?」

「だって何か、悲しい顔してたし泣いてたから」

 あたしに託した言葉と表情が頭から離れない。最初に会いたいって言っていた人はきっと“主人”の事。自分の力では会えないから何とかして欲しいという意味だろうか。
 何にしても何とかしてあげたいって気持ちがいっぱいになって、あたしは赤君を見上げた。

「その鍵、どう思う?」

「…オレ達が知っている所で鍵が必要な場所、唯一開かない教室があります。まず思い付くのはそこの物かと」

 思い浮かぶのは理科室。あたしも同じ事を考えていたので頷くと、赤君は顔を上げてみんなに次の目的を告げる。

「時間に余裕はあるからこのまま理科室へ行く。ただ三階の理科室の向かいには問題の美術室がある。武器は手に持って気を抜かないように行くぞ。そらさんもいいですか?」

「勿論。影葉君に頼まれちゃったし早く解決したい」

 行かないなんて選択肢はなくしっかり頷くと頷き返され、あたし達は乾燥室を後にした。

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