SPIRIT WORLD
邂逅

 所変わって理科室前。別館近くにある本校舎の階段で三階へと上がり、無事理科室へ到着した。
 怪物が大量発生した美術室が目の前にあるので一切の物音を立てるなと赤君に言われ、特に喋ると煩いあたしとコタはちーちゃんに喋るなと言われておりお口をミッフィー中です。
 永ちゃんが美術室や周りを警戒している中、赤君はなるべく音を立てずに例の鍵を理科室の鍵穴へ差し込む。カチリ、と小さな音を立てて開いた。

 みんなが顔を見合わせる。ビンゴだった。
 鍵を抜いて懐にしまいゆっくりとドアを開ける赤君は中の様子を窺い、怪物はいないのを確認して中に入るよう目で促す。
 全員が中に入り念の為中から鍵を掛けておく。理科室の中は薬品の匂いが埃臭さとともに残っており、作業台の机が縦三列と横二列に並んでいる。

 まだみんな一言も発していないが、入り口付近に立ったまま奥を見た赤君が何かに気付く。

「…ガラス?」

 そう言って奥に進むと入り口から一番遠い机の陰にそれはあった。

「ガラスの棺…?」

「しかもこれって、」

 まるで白雪姫が眠る棺のようなガラスケース。古びたこの空間に全く合わないその中に、人がいた。

「…女の子?」

 明るい茶髪の可愛い女の子。血色のない顔色で固く瞳を閉ざし、両手を腹部で組んで眠っていた。そして巫女の格好をしている。

「…誰?別嬪さんだけど」

 みんなに聞くが全員が知らないと首を横に振る。

「この人が影葉とかいう番人の主人?」

「そうかもしれないな。だが情報が少な過ぎる。一度教室内を探索しよう」

 赤君の指示に従い、各々が教室内を調べ始める。あたしは赤君と一緒に理科室の隣にある準備室の方を調べる。準備室もまた鍵は開いていないので、理科室が開いた鍵で開けられるか確かめるつもりだ。だがわざわざ廊下に出なくても理科室の方から準備室に続くドアがあるので、そこから行く事にする。

「…開いていますね」

「マジ?」

 廊下からの方は理科室に入る直前にさり気なくドアノブ捻って鍵が掛かってるか確認したけどちゃんと掛かっていた。内側方は掛けていないのか、と思いながらドアを開けて中に入る赤君に続く。
 準備室は少し狭めで棚がいくつもあり、棚にはホルマリン漬けや資料などが並べられている。気味が悪いと言えば勿論そうだが、今までの資料室より整理されている印象を受けた。

「!」

「わっ、どしたの?」

 棚を見上げたりホルマリン漬けを凝視していると赤君が急に立ち止まるので、吃驚しながら赤君の後ろから前を覗く。真ん中の開いたスペースに、人が二人床に転がっていた。
 薄暗い中で咄嗟に怪物かと身構えたが、赤君が呟く言葉を聞いて耳を疑った。

「虹村さん…灰崎…?」

 パードゥン?










 準備室で見付かったのは間違いなく、虹村修造と灰崎祥吾だった。怪物にも視えないので本物である。赤君は多少なりとも困惑していたようで、あたしを振り返って怪物か聞いてきた時の顔がちょっと焦ってて可愛かったと思っているのは此処だけの話にしておく。
 永ちゃんを呼んで理科室の方へと移動してもらい気絶しているのか寝ているのかわからないが床に寝かせる。

 起きない間に準備室の探索は済ませたが、二人がいた以外は何もなかった。
 そして他の子も探索を終え眠る三人の近くに集合する。

「赤司、こいつらファイルに載ってた人らだよな?」

 コタの問いに頷き肯定する赤君。今までいなかった二人の事はファイルを持ち帰ってみんなで見ていた時に軽く説明を聞いているので、誰かは全体が把握済みだ。

「そらさんが見ても普通の人間なら、間違いなく本人達だと思います」

「この状況どうするよ?」

 片や一人はガラスの棺の中で眠っており、片や二人は普通に眠ったまま。結局探索しても女の子の事は何もわからずだったので指示を赤君に仰ぐ。

「取りあえず、中から出してみる?」

 玲央きゅんの言葉に赤君は少し悩んでから頷いた。

「このまま此処にいても時間が過ぎるだけで勿体ない。やってみよう」

 永ちゃんが棺を開けようと蓋に手を掛ける。

「…ん?」

「どうしたのよ」

「あ、開かねえ…っ」

 鍵が掛かっているのか開かないとの事で永ちゃんが力を入れるがそれでも開かず。ぐぎぎぎぎと筋肉が盛り上がるまで力を込めてもビクともしなかった。

「割っちゃう?」

「駄目よ!中にいる子が怪我したらどうするの!」

 誰かはわからないが中にいるのは女の子なので危険な真似は出来ない。赤君が顎に手を添えてどうしたものかと考え、永ちゃんは少し疲れたのか脱力して床に座った。
 あたしも棺に近寄り様子を視てみるがただのガラスのようにしか視えない。その場にしゃがみ棺に左手を添えるようにして体を支えながらガラスの造りをよく見ようと覗き込む。

「!う、わっ!?」

「!?溶けた!!」

 するとあたしが触れた所からじゅわっと音を立ててガラスが溶け出したのだ。コタは目を輝かせているが、あたしは体のバランス取ってたからちょっと体勢は崩すし吃驚して仰け反った瞬間に尻餅つくし、軽くパニックになる。近くにいたちーちゃんが何やってんだと起こしてくれた。優しい。

「そらさん大丈夫!?」

「手は?」

「え、あ、何ともないけど」

 棺に触れていた手を確認するが何ともなく、熱いとかもなくてただ本当に溶けただけだ。

「熱かったり冷たかったりもしてないの!?」

「コタ落ち着いて。全然何もなかったよ」

 そう言いながら溶けた部分を見る。溶けているがそれが中にいる女の子に垂れるなどはなく、消えてなくなっている感じだ。
 触れた所のみしか溶けていないので、あたしは冷静に分析している様子の赤君を見上げて話し掛ける。

「あたしが触って溶けたって事は案内人だからって事だよねきっと」

「十中八九そうですね」

「じゃあこの子に害はない可能性が?」

「高まったかと」

 案内人は道や怪異の正体がわかるから、あたしが害を感じずこの棺を開けられるなら“開ける必要がある物”って解釈になる。

「じゃあ全部このまま溶かしちゃってもOK?」

「お願いします」

 許可を得たのでレッツパーリー!!と心の中で叫びベタベタと棺に触れていく。
 そう、まるで子どもがケーキ屋さんのガラスのショーケースや車のガラスに触れるかの如く、もう無遠慮にベタベタと。手形を付ける勢いでベタベタと。今なら「痕が残るからやめなさい!!」って怒られないもの。

「何でそれだけの行動で無邪気になれるんだよ…」

 呆れたちーちゃんの声が聞こえたが無視だ。お楽しみ中なんだよ、邪魔しないでくれ。
 そうしている間にもガラスは溶けていき、蓋部分が全て取り払われた。これで女の子を出す事が出来る。

 あたしは女の子の柔らかそうな頬に手を伸ばす。すると後ろからちーちゃんに手首を掴まれて止められた。

「安易に触るな」

「大丈夫だって」

 腐臭も何も感じないからと言うと渋々手を離された。心配してくれたのかね、ツンデレかな。

 いざリベンジ、と頬を突くと柔らかい感触。ピチピチのお肌ですね、でもちょっと体温が低いかな。しかしガラス越しに見るよりやや顔色がよくなったように窺える。
 いくら突いても起きない女の子。口元に手を翳すと呼吸しているのがわかる。

「体育館に連れて帰ろう。もし怪物の類だったとしても入れないはずだから体育館に行けば確定する」

 赤君は結論を出し、体育館に女の子も連れて行く事になった。

「ただこの二人に関しては担いで戻るには多少リスクが上がるので此処で起こしていきます」

 確かにでかい男子二人も担いで行くとなると、六人中三人が担ぐ事になりもし怪物と遭遇した時に対処しにくい。
 起こす事に決まったので、赤君と玲央きゅんが起こそうとしゃがみ込む。しかしいくら揺すって声を掛けても起きない。

「困ったねー」

 コタがそう言うのを聞いてあたしは二人にしゃがむ二人に声を掛けた。

「二人ともちょっと離れて」

 疑問符を浮かべながらも少し離れた二人を確認し、あたしはその場で踏み込みジャンプするとまるでベッドにダイブするかのように重力に従い並んで眠る二人の腹部へと着地した。

「起ーきてー!」

「「ぐっほおぉぉおお!!!」」

 鳩尾に入ったのか苦しそうな声を上げて二人とも目を覚ました。二人が縦に並んで寝ているならあたしはその上に横に寝る図である。伝わった?

「おはよー」

「ゴホッ…な、何だ!?」

「いってぇ…何だテメェ!!」

 咳き込む二人の上から退いて挨拶すると、虹村少年は状況が飲み込めず目を見開いており、灰崎少年は青筋浮かべて激おこだった。

「そら最高!!」

 呆れた四人と違いコタは腹を抱えて爆笑していた。この起こし方テレビのドッキリで見た事あって、面白そうだからってよく友達にして怒られたんだよね。
 でも面白いでしょ。やって悔いはない。どやあ。

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