SPIRIT WORLD
強行

 混乱している虹村少年と灰崎少年に起床後、赤君よりあたしの事や簡潔に現状を伝えられると非現実的な話ばかりで怪訝な顔をし、信じられない様子だった。実際に様々な現象を見ていないのだから当然だ。

「まあ、お前がそんな嘘吐くとは思えねえけど…」

 窓の外から見える淀んだ虹色を見て頭をガシガシと荒く掻く。灰崎少年は赤君を若干睨んでいるだけで口数は少ない。

「まあ、一歩外に出ればわかるからさ、後は体で感じて。レッツフィーリング」

「はあ…」

 何だこの人。みたいな目で虹村少年に見られてるけど気にしないよ。灰崎少年も疑いの目を向けてくる。和解するには時間が掛かりそうだ。

「時間が迫っています。他の人が探しに来る前に戻りましょう」

 二人も起きた事なので早速移動をする。この二人はやんちゃらしいので武器は不要かと思ったけど、一応あたしのナイフを虹村少年に、赤君のナイフを灰崎少年に持たせた。
 女の子は永ちゃんが背負い理科室を出る。赤君と玲央きゅんの後ろに虹村少年と灰崎少年を配置、永ちゃんがあたしの隣に来てあとは最初の順番で歩く。
 美術室の曇りガラスには何も映っていないが油断は出来ない。出来ればゾンビに会いたくないから、みんな一言も発さないように静かに別館を出た。
 そして別館近くの階段から一階に降りて一階の廊下を渡り帰る事になった。三階はまだ怪物が多いかもしれないからね。
 階段に差し掛かり静かな足音を立てながら降り始め、二階と三階の踊り場に来たら辺で三階を抜けたのでちょっと安心した。

「何も変わってなさそうに見えるわね」

 玲央きゅんが呟いて赤君と会話している。あたしもキョロキョロ見渡して変わった部分がない事を確認した。

 するとポツリ、と自分の頬に水滴が垂れてきた。

「ん?」

 雨?いや室内だから雨漏り?と思いながら右頬に着いた液体を指先で確認すると、その指先が赤く染まった。

 え、と思い上を見上げると踊り場の真上、つまり三階の高い位置にある天井にビッシリ詰まってへばり付くゾンビの大群。体から滲む血液が落ちてきたのだ。

「ギャアアアアア!!?」

「!?」

「どうしたの!?」

「えっ…うわ!!?」

 ゾゾゾッと鳥肌が一気に立ち目が離せないが見上げて絶叫するとみんながこちらを見て視線の先を追う。見た瞬間にみんなも吃驚して声を上げた。

「何であんな所にマネキン!?」

「マネキンって事は…そらさん視ちゃ駄目よ!!」

 虹村少年がマネキンと言うのでこの大群は間違いなく美術室の怪物。玲央きゅんに視るなと言われるが、その恐ろしい光景から目が離せなかった。

 見付カッチャッタ 見付カッチャッタ

 イイナ イイナ 健康ナ体

 邪魔者 見付ケチャ駄目ジャナイカ

「邪魔者…?」

 もしかして、女の子の事?そう思っていると後ろにいたちーちゃんに背中を押され走らされる。みんなも走り出し階段を一気に降りた。
 後ろで着地するというより落ちてベチャベチャという音が聞こえる。追ってきている。
 振り返ったコタが焦って声を上げた。

「何かあいつら速いんだけど!!」

 最初に会った時は遅かったはず。余裕で逃げ切れた程だったが、今はその腐った肉体では想像出来ない身軽な動きで付いてくる。チラリと振り返ってみると距離は中々に近く開く事もない。
 あたしの息は簡単に上がり全速力のみんなに付いて行くのがやっとだ。
 しかしあたしを一瞥した虹村少年は何かを考え全体に声を掛ける。

「赤司の言ってた意味はよくわかった。だがこのまま逃げてもまた此処に来た時に鉢合わせるだろ、だから今殺る。灰崎もちゃんとやれよ」

「へいへい」

「え!?殺ってもいいの!?」

 何ですと?

 ちょっと数見て言ってよ。二十体以上はいるよ?無理だよこんな狭い廊下で!コタは喜んでいるけど!しかも笑顔で殺る言わないで怖い!!

「わかりました」

 え、わかっちゃうの?
 赤君がそう言うとみんなが立ち止まった。当然あたしも止まり困惑していると腕を引かれて赤君の方に引き寄せられる。

「うらあァァァ!!」

 バットを振り回しバキッと音を立てて倒すコタ、蹴りをお見舞いするちーちゃん、女の子を背負ったままでマッスルキックをする永ちゃん、えげつない音を立てて殴る蹴る(の暴行)を加える虹村少年と灰崎少年。
 怖気る事なくマネキンゾンビに突っ込んでいくみんなを見て呆然としていると、あたしの腕を引いていた赤君があたしを玲央きゅんの方に行くよう促した。

「実渕、そらさんを頼む」

「わかったわ」

「そらさん、弱点は?」

「え、と…全部後頭部っぽい」

「わかりました」

 玲央きゅんに後ろから肩を支えられ、赤君はそう言うや否や同じように突っ込んでいく。
 あっという間に数が減る様子を見てあたしは頬が引き攣る。これから何が起こっても問題ないと思えるくらいみんながチートに見えた。つかチートだろ。

「みんなカッコイイわね。特にあの虹村君素敵ね」

「え、そこ?」

 見上げると右手を頬に添えてうっとりしている玲央きゅんに突っ込む。着眼点そこなのね、安定の玲央きゅんですこと。

「あたしは何より永ちゃんのマッスル何とかってのが気になるけど」

「いつもああよ」

 存じてます。マッスルいらんくね?ネーミングセンスないよ永ちゃん…。
 そう思っていると片付いたようで、グロテスクな奴らは全員消えていた。その場に残るのは消えゆく僅かな金の粒子のみ。

「お疲れ様」

「あー、いい運動した!」

「案外簡単に倒れるんだな」

 戻ってきた彼らに玲央きゅんが声を掛けるとコタとちーちゃんがあっけらかんと言う。あたしは未だ頬が引き攣っている。

「てかあんたね、女の子背負ってるのに暴れるんじゃないわよ」

「オレだって動きてーんだよ」

 女の子は未だ眠り続けており被害もなさそうだ。あたしは女の子を覗き込んで安堵の息を漏らす。

「吃驚させてしまってすみませんでした」

「あ、いや。早い内に手を打つのは当然だしね。ありがとう、お疲れ」

 赤君に声を掛けられて応える。ふと視線を感じ見てみるとそこには灰崎少年がじっとこちらを見ていた。首を傾げると不敵な笑みを浮かべた。何だ挑発か?喧嘩売ってんのか?受けてやるよ嘘ですごめんなさい。

 虹村少年があたしの前まで来ると彼もまた驚かせてすみませんと謝罪してきた。みんな気遣い出来るいい子だね本当。

「大丈夫、ちょっとテンパっただけだよ。怪我もないし、ありがとね」

 そう言って安心させるように笑い掛けると微笑まれた。うっ…カッコイイ。クソぅ。
 ついでに向き合ったままでいたら服の袖で右頬の血をぐしぐしと拭われた。ちゃんと取れたようで笑い掛けられ、更にときめいたのは言うまでもない。

「やだ。そらさん羨ましい」

 この状況でもそういう解釈なんですね。
 落ち着いた所で体育館へと再度足を進め、無事に到着した。探索予定時間の一分前で、体育館に入ると出発の準備をしている秀徳が扉の近くにいて吃驚しており、その他は戻ってきて安堵していた。

「おい、灰崎いんじゃねーか」

「虹村さんも!?」

 そして新たなメンバー二人を見て、二人を知っている者は驚いたり怪訝な顔をしたり、色々と反応が面白かった。
 そして永ちゃんの背負う女の子の存在にも当然気付き、あたしが最初してもらったように数人のジャージの上着を敷いたり掛けたりしてステージ近くへ寝かせる。
 難なく体育館に入れたという事で、彼女に害がない可能性がまた上がって安心した。

 ちなみにあたしも女の子に上着を掛けてあげたので、今は半袖だけど特に寒くないので問題なし。だがさっちゃんは少し肌寒いのか足をさすっている。リコぴんもだけどスカートだもんね。しかも体育館冷えやすいし。

「さっちゃん、これお履きよ。あたし下にハーパンとタイツ履いてるから。スカートの下にズボンでちょっと田舎スタイルになるけど」

「え?でも…」

「いいから」

 リコぴんとショーパンのアレクさんは平気そうなので寒くないなら我慢してもらおう。何なら女の子起きたらジャージ腰巻にさせたらいいし。
 さっちゃんに下のジャージを貸してあげると喜んで履いてくれた。うむ、可愛い。

「そらさんのズボンあったかい…」

 頬を染める姿は可愛いけど、ちょっと変態臭いよ。

「そらさん」

「ん?何かな森りん」

 不意に背後から声を掛けられて振り返ると真剣な顔をした森りん。何だとさっちゃんと疑問符を浮かべていると、真顔で一言放った。

「素敵なおみ足、触らせてもらってもいいですか」

「いいわけねえだろ」

 口が悪くなったのは不可抗力というやつです。コイツは本物の変態だった。

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