SPIRIT WORLD
真相

 約二ヶ月前。
 あたしは仕事から帰宅後、コンビニにアイスを買いに出掛けた。どうしてもアイスが食べたくなったのだ。
 その帰り道、アイスを食べながら歩いていると、コンビニと家の間の公園に差し掛かった。そこに彼女はいた。

 夕方に仕事を終えてからの外出の為、冬場である今の時期は当然暗い。し、寒い。
 ふと公園に視線を向けると電灯に照らされつつも暗がりのベンチに寝ている人を見付けた。幽霊かとギクッとしたが、恐る恐る近付くと何処かの制服を着た女の子で随分顔色が悪かった。

「ちょ、大丈夫…!?」

 誰かに襲われた後か、体調不良で倒れているのか、まさか殺人事件!?と思いながらアイスをかき込むように早急に食べ、体を揺すって反応を窺うとうっすらと目を開く女の子。

「は、い…大丈夫です…」

「いや、顔色悪いよ。どうしたの?話せる?」

「少し…疲れただけです…」

 そう言って暗がりの中弱々しく笑う。救急車を呼ぶか聞くが断られたので、欲しい物はあるか聞くがそれも否定される。女の子はゆっくり起き上がりベンチに座ったので、それを支えながら薄着の彼女にマフラーとして巻いていたストールを肩に掛けてあげる。

「お腹空いたとかもないの?」

「はい…」

「じゃあココア飲みなよ、はい」

 手首に下げていたコンビニの袋から温かいココアの缶を取り出すと、それを女の子の手に押し付けた。女の子は返す素振りを見せるが、あたしがぐいぐい押していると向こうが折れて受け取った。

「ありがとう…ございます…」

 ふわりと微笑んだ女の子。まだ温かいそれを開けてココアを飲むと、顔色が悪い彼女の頬に紅が差し少しだけ回復したように見える。

「名前なんて言うの?あたしは山口そら」

「有白陽葉です」

「高校生?」

「…はい」

 少しの間が気になったが会話をいくつか続け、彼女が回復するのを待つ。休む為に家が近いので来るか聞いたが、自分の家も近いから大丈夫と言う。
 腰に貼っていたカイロを彼女に貼ってあげたり冷えた背中を摩ってあげたりしている内に、最初よりは多少なりとも元気になった様子。もう大丈夫だと言われ少し安堵した。

「そらさんは優しいですね」

「普通でしょ」

「いえ…何だかとても温かい人だと思いました。保育士さんとか向いていそうですね」

「あ、あたしそのまさかの保育園で働いてるよ」

 柔らかく笑う陽葉ちゃんに自分を指差して言うと彼女は瞠目する。

「え!じゃあ20歳以上…?」

「24歳になったねー。あたし短大出て就職したから、一応中堅に差し掛かろうとしてるくらいかな。え?老けて見えた?」

「まさか!その20歳くらいかと…」

「本当?イエーイ!って喜ぶべきなのか」

 まさか子どもっぽいって意味じゃなかろうな。身長はある方だからそれはないと信じたい。
 貶してないですとパタパタと手を振る可愛い陽葉ちゃんに、のほほんと可愛いなあと思いながらお礼を言っておく。

 陽葉ちゃんは立ち上がるとストールをあたしに返す。あたしも立ち上がって持ってっていいよと言ったが首を横に振られた。

「そらさん。本当にありがとうございました」

「いいえ。お大事にね、無理しちゃ駄目だよ」

「…はい。ありがとうございます」

 そう言って去っていく彼女を見送り、あたしも踵を返した。もう倒れないといいんだけど、まあ近所の子ならまた会うだろうから会った時はまた声を掛けよう。そう思いながら家路に着く。





「あの人なら…きっと、」

 去り行く後ろ姿を見ながら悲痛の表情を浮かべた彼女がそう呟く。彼女は力尽きるようにその場に崩れ落ちるとすっと音もなく消えた。











「…って事があって、一回この子に会ってるのを今思い出した」

 過去の話を掻い摘んで話すとみんな納得はしてくれたが、マコマコ呆れたようにこちらを見てくる。

「普通二ヶ月前の事なら覚えてるだろ」

「だってあの時暗がりだったし、顔とか髪色曖昧で今シンクロしたんだから仕方ないじゃん」

 ムスッとして反論するとかずやんに頬を指で刺された。やめんかい。頬を膨らませているわけじゃないから普通に痛いわ。

「でもあの時の子かー。そっかそっか、陽葉ちゃんだよね、久しぶり。元気?」

「今挨拶かよ…」

 順ちゃんからそんな細やかなツッコミを頂きつつ陽葉ちゃんに話し掛けると苦笑されながら元気だと言う。
 そこでふと彼女が此処にいるって事はあたし同様巻き込まれた立場か、違う世界から来たって自覚はあるのか、など疑問が浮かび目の前の彼女に問い掛けようとする。
 しかし陽葉ちゃんは泣いていた。

「えっ!?」

「ど、どうしたの!?」

 急な事に吃驚してテンパるあたしといつの間にか隣にいたさっちゃん。陽葉ちゃんは袖で涙を拭うが、次々に涙は溢れ止まらない様子。

「あたし!?あたしか!?元気って聞いたのがいけなかったの!?元気じゃなかったの!?ごめんね気付かなくて!!痛い所とかある!?」

「そらさん落ち着いて下さい」

 後ろからツボちゃんに声を掛けられるがどうしていいかわからず慌てる。取りあえず手を伸ばして茶髪の頭を撫でてあげると少しだけ落ち着いた彼女が話し始める。

「ごめんなさい…っ!あたし…あたしの所為なんです!そらさんが此処にいるのは…っ」

「え、え?どゆこと?」

「あたしっ…そらさんなら助けてくれるって思って…!」

 困惑した。彼女が原因ってどういう事だと。その困惑が伝わったのか、さっちゃんが心配そうに陽葉ちゃんとあたしを見比べている。

「落ち着いて、全部知っとる事話してくれんか?」

 なるべく優しく声を掛けた翔ちゃんに、陽葉ちゃんは頷いて涙をぐしっと拭って話し始める。

「…あたしには無月由暗むつきゆあんという幼馴染みの男の子がいます。結論から言うと、無月由暗が皆さんを此処に連れてきました」

 新事実発覚!第三者の存在が明らかになりました〜。犯人は無月由暗、無月由暗です!
 って誰やねん。

「そして、あたしと由暗は帝光中学校出身、キセキの世代のあなた達と同い年です」

「え…!?」

 知らなかったのか帝光出身のみんなが瞠目する。さっちゃんや赤君ですら知らないようだ。
 てか待って。陽葉ちゃん黒バス界の住人?じゃあ何であたしの世界にいたの?もしかしてあたしも実は黒バス界の住人…なわけないな。漫画あるし。

「マンモス校で人が多いから、知らなくても当然です。それにあたしも由暗もあなた達みたいに目立つような存在ではなかったから」

「でも僕、無月君の事は知ってます。バスケ部でしたよね?」

「はい。入学後、由暗はバスケ部に入りました。でも実力が伴わずずっと三軍でした」

 成る程、同じ三軍だったテッちゃんなら知っているのも納得だ。

「自分には才能がないと言っていましたが、それでも1年生で一軍入りした四人に憧れを抱いて頑張っていました…けどそれも続かず、憧れは憧れのままだと言って才能が開花する事なく練習にも付いていけずに約三ヶ月で退部しました」

 陽葉ちゃんが若干俯き加減で話しており、手元は膝上でギュッ固く握っている。

「退部後、元気をなくした由暗は人との関わりを避けました。でもあたしと話した時にはバスケの事が忘れられない事から、虹村主将と灰崎君含めたキセキの世代の五人、一軍に上り詰めた黒子君、そして急速な成長を遂げる黄瀬君への憧憬の想いを語っていて、諦め切れていないように感じていました」

 それと、と言葉を続ける陽葉ちゃんはさっちゃんを見る。

「あたしから言うのは違うと思うんですけど…由暗は桃井さんに好意を寄せていました」

「え?わ、私?」

「関わった事はないけど、敏腕マネージャーで誰にでも優しい桃井さんに…一目惚れだそうです」

 流石さっちゃん。モテモテなんだね、罪な女の子だ…なんてね。ふざける空気じゃないから心の中で留めておく。
 だがそこまで話すとまた涙が込み上げてきたようで辛そうにする。あたしは隣に移動し、ポンポンと背中を叩きながら宥める。
 陽葉ちゃんは微笑むとゆっくり語った。

「でも2年生の時の全中優勝後、由暗の様子が可笑しくなり始めました。表情は一層暗くなって学校に来ない日も段々と増えていき、心配になったあたしは度々話しをしに行きましたが…次第に拒絶するようになりました」

 そう語る彼女の肩は小刻みに震えていた。

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