SPIRIT WORLD誓約
「それから直ぐの事です。由暗の両親が事故で亡くなりました。込み入った事情で由暗には頼れる身内がいない事、あたしの両親が彼の両親と昔からの友人という事もあって由暗を引き取り、一緒に暮らす事になりました。でも由暗はショックから引き篭もりがちになってしまい、何もかも上手くいかない中で才能に溢れるあなた達が楽しそうに過ごしバスケでも活躍する様子を見て…本当に勝手な話ですが、妬むようになりました」
言いにくそうに目を伏せて話す陽葉ちゃん。みんなを見てみると複雑そうな顔をしていた。
「そして…あなた達に何があったかは知りませんが、試合の様子が変わった時期がありますよね?」
「…ああ」
恐らくキセキが崩壊した時期の話だ。赤君が一つ頷けば、陽葉ちゃんは目を閉じた。
「3年生の時の全中を由暗と一緒に観に行きました。その時の試合を見て由暗は怒りました。“才能があるのに何であんな酷い試合をするんだ”“狡い、羨ましい、僕にあんな能力があればあんな試合はしない”…そう言っていました。灰崎君も恵まれた才能があるのに途中退部、素行もよくないと聞いていたので、それに対しても怒りを抱いているようでした」
あたしがキセキのみんなに視線を移すと何人かは目を逸らす。いや、責めるつもり全くないんだけど。
「チッ!何で知らねー奴にキレられなくちゃなんねーんだよ」
「まあ落ち着け。素行悪かったんは事実だろ」
苛々する灰君に対しにじむーに宥められ渋々口を閉じる。
「それから恨みに変わり始めたんだと思います。本格的に部屋に引き篭もってしまい全く出てこなくなりましたが、あたしは気になって何度もしつこく話し掛けました。けどそれが煩わしかったようで…時も間もなく、絶縁を言い渡されてしまいました」
「はぁあ?」
雲行きが怪しくなってきたところで最後の言葉に思わず怪訝な声が漏れた。可愛い陽葉ちゃんに何て事を…!と思ったらついつい。陽葉ちゃんが吃驚して目を丸くさせている。
「ごめんつい。続きをどうぞ」
「あ、はい…。その頃からだと思います。恐らく呪詛…呪いを由暗は掛け始めました。此処からはあたしの憶測を含みますが、由暗は創造者となり呪詛の代償として命と引き換えにこの廃校、この世界を創り上げました。そして霊体になり、目当ての人達をこの世界に引き込む準備を始めました。あたしがその事に気付いたのはこの世界が出来てすぐ…丁度高1の夏頃です。そしてあたしは反復呪詛を掛けました」
「反復呪詛?」
「呪いを跳ね返す方法です」
マコマコに頷き返す陽葉ちゃん。すげえな、そんな事出来るの?あたしの疑問を汲み取った陽葉ちゃんは少し微笑んで頷いた。
「あたし所謂霊能力者と呼ばれるもので、霊感があるんです。神社を営んでいる家系の関係で生まれた時からある能力です。ただ由暗も似たような家系なので、世界を創る強力な呪詛を使う事が出来たんだと思います」
何だか壮絶な話になってきた。黒バス界で何してんの。バスケ以外も壮絶過ぎでしょ。
「あたしは反復呪詛を掛けて反発する由暗と戦う事になりました。
僕、式神と言われる者を作り出し応戦しました」
「式神…もしかして影葉君?」
「はい」
式神と聞き、ふと主人を助けてと言ったあの子の顔が浮かぶ。陽葉ちゃんがその主人である可能性があった為、名前も似ているので試しに聞いてみると肯定された。
やっぱり影葉君が助けて欲しい主人っていうのは陽葉ちゃんの事だったんだね。
「そして応戦したもののあたしは負けてしまい、呪詛に取り込まれ命を落としました。今あるこの体は本来は霊体ですが、この世界では霊体でも実在するように触れます。存在としては怪異達…怪物と同じようなものです。しかしあたしに悪意はないので、案内人のそらさんにも怪物のようには見えないんです」
あたしが案内人とは言っていないが知っているという事は、この世界を知っているからこそ。成る程、と納得すると陽葉ちゃんは続ける。
「あたしは死に、霊体になりましたがまだ力は尽きていませんでした。能力が尽きる前にこれからこの世界へ引き込まれるであろう皆さんの為に、脱出の手掛かりとして白黒の暗号の紙を散りばめました。同時に案内人の存在を作り、案内人適合者を探す為に力を振り絞って世界を跨ぎ、そらさんと会いました」
隣のあたしに顔を向ける彼女。世界を跨ぎ、と言った為みんなにバレてしまう、と心臓が落ち着かなかった。
「世界を跨いだってどういう意味や?」
流石翔ちゃん。聞き逃さずにしっかり聞く辺り流石だけど出来れば聞かないで欲しいんですが。
「あたしはこの世界に取り込まれたので、此処から世界を移動する事は世界を跨ぐ、という意味です」
ふーんと言う翔ちゃん。視線があたしの方へ向き、薄っすら開いた翔ちゃんの目と合う。赤君もマコマコも、多分何か察している様子。頭いいからなぁ。
「そらさんと会ったのはたまたまです。でも助けてくれそうな、力がある人の所へ行けるように念じました。だからそらさんにはきっと何か力があるあるんです、不思議な力が。会って話して確信しました。そらさんならきっと皆さんを…助けてくれると」
皆さんを、の後に間があり気になった。間で思い出したけどあたしが初めて会った時に陽葉ちゃんに高校生か聞いて反応が遅かった事を思い出し、既に死亡しているから頷き難かったんだなと勝手に納得した。
「そしてあたしはこの世界に封印されました。ですが力尽きる前にあたしの封印を解く為、影葉を番人として配置し封印を解く為の鍵として白玉を作って隠し、そこで白黒の紙も追加しました。完全に消滅しなかったのは多分…由暗の僅かな慈悲なのではと思います。その後は準備が整いキセキの世代の赤司君、紫原君、青峰君、緑間君、黄瀬君、幻の
六人目の黒子君、キセキの世代同格の灰崎君、そしてキセキの世代をまとめ上げていた虹村さんの能力を奪う為に、この世界へ引き込んだと思われます。桃井さんは…単純に考えれば不純な思いからかな、と」
ああ…さっちゃんが欲しい的なね。死んだとは言え思春期だしね。
「他の皆さんはバスケ部関連で巻き込まれた、と言えばいいでしょうか。ただ巻き込まれただけではなく、個々に能力が高いですよね?だから引き寄せられた可能性があります」
じゃあ帝光以外のみんなはただ巻き込まれただけじゃないって事ね。複雑だろうけど、真相がわかってよかったと思う。
「引き込まれてからは、皆さんが此処で体験した通りです」
「じゃあ、にじむー…虹村君と灰崎君がみんなと違う場所、陽葉ちゃんの近くにいたのは何で?」
「…恐らく引き込まれるルートが何らかの衝撃でずれたんだと思います。この世界は強力と言えど、全てが都合よくいくような完璧な世界ではありません。能力があったとしても一人間が完璧な世界なんて創れませんし…多分皆さんも来た時にバラバラでしたよね?」
「ああ、そうだ」
「じゃああたしは?何か校長室で縛り付けられていたみたいなんだけど」
「憶測ですが、由暗はあたしのした事を全て知っています。邪魔をしようと合流を阻止する為かと…」
一同が納得したような顔をして、頭いい子は話の内容を整理しているようで考え込んでいる。全く考えてなさそうな子が数人いるが、もう突っ込むまい。
「ちなみに、何で案内人だけは怪物の正体がわかるの?」
「由暗は皆さんを襲わせる怪物を作り出しました。弱点などが直ぐにわかってしまえば身体能力の高い皆さんなら難なく倒す事を見越して、真の姿や弱点を隠せる特殊な敵を作っています。一人だけでも正体が見破れる人、皆さんを導いてくれる人が必要だと思い、先程も言ったようにあたしが能力を設定しました。体育館を安全区域にしたのもあたしが設定した事です」
すると一つ欠伸をした健ちゃんが陽葉ちゃんを見据えて言葉を発する。
「よくそこまで出来たな」
「負けたとは言えあたしも霊能力者の一人です。神のご加護を皆さんを助け守る為の能力に変換しました」
陽葉ちゃんは話し終えると一息つく。疲れただろうなと思って話してくれてありがとねと伝えると、陽葉ちゃんは再びぶわっと大粒の涙を流し頭を下げる。
「ごめんなさい!由暗の勝手で皆さんを巻き込んで!しかもそらさんはあたしが勝手に巻き込んで、怖い思いまでさせて…本当に、ごめんなさい…!!」
泣き崩れる彼女を見て胸が痛んだ。この子は何も悪くない。寧ろ幼馴染みもみんなも助けようとして、命を落としてまで体を張っている彼女を誰も責めるはずがなかった。
「あんたが悪いわけじゃねえだろ。そらは違ェけどオレらには謝んなよ」
「寧ろ脱出の為によく色々してくれた事がわかったし、お礼を言いたいくらいだよ」
峰さんとたっちゃんの言葉を聞き、陽葉ちゃんは泣きながら何度もお礼を言う。
あたしは陽葉ちゃんの肩に触れ、顔を覗き込む。
「あたし全然怒ってないよ。そりゃ誰だよこんな所に連れてきた奴とか思ってたけど、理由がそういう事なら全然問題なし!っていうかあたしなんかを助けを請う対象として見てくれた事の方が嬉しいよ」
泣きじゃくる彼女の顔を両手で包み上げさせる。涙で顔は濡れ、目が真っ赤だ。伝わる体温は相変わらず低い。
「ね。あたしを案内人に選んだ理由、みんなを助ける為だよね?でも実はそれだけじゃないでしょ」
「…っ、」
「言って?陽葉ちゃん、実は好きなんでしょ?だから言いたい事あるでしょ。大丈夫、あたしが受け止める!だから…言っていいんだよ」
「…う…っ、そら、さん…!」
鼻水まで垂れちゃって、でも普通に可愛いから狡いわこの子。じっと見つめながら安心させるように、暗い空気なんか弾き飛ばしてやるぜ!くらいにあたしは笑った。
「ゆぅ…っ、ゆ、…由暗を、由暗を助けて下さい…!あたしのだい、大事な人なんです…!この世界を…終わらせて欲しい…っ」
ボロボロと泣く姿はとても弱々しい。けどしっかり言葉に出した勇気あるこの子をあたしは助けてあげたいと思った。
本当ならこんな世界を作った奴を救えだなんて言いにくいはずだけど、あたしが言わせた。言わせたからには、やる。案内人に何処まで出来るかわからないけど、やるったらやる。
「うん、わかった。みんなも影葉君も陽葉ちゃんも、由暗君も助ける。だから今、心がしんどい分いっぱい泣いたらもう泣かないで?泣く事は悪い事じゃないけど、陽葉ちゃんは笑顔の方が可愛いし、泣くなら嬉し泣きの方がいいじゃん!」
泣きじゃくる彼女を堪らず正面からぎゅうっと抱き締める。華奢な体で色んな事を背負ったこの子がとても小さく思え、壊さないように、包み込むように抱き締めた。
「「「「そらざん゛ん゛ん゛!!」」」」
もらい泣きか何なのか、後ろでリコぴんとさっちゃんと森りんときー君が大号泣している声が聞こえた。そっちまではあやせないから自分で何とかしてね。
由暗君が命以外にどんな代償払ったかは不明だけど、取りあえずわかったのは予想以上にこの世界は強力な呪い(例えば世界を創る、生身の人間を引き込む、怪物を作るetc)で出来ている事。だがその分不完全な部分(陽葉ちゃんのする事を阻止し切れないetc)も大いにあるって事。
そんな事を考えていると、ピンポンパンポーン、と軽快な放送が鳴った。
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