SPIRIT WORLD教示
「これだけ探しても手掛りなし、か」
「お手上げやなァ」
現在体育館。各々が疲れ切った様子で床に座ったり壁にもたれたりしている。
新館の探索に何度も行くのだが一向にヒントすら掴めずこの有様だ。
「あの壁に絶対何かあると思うんだけど…」
「でも変わった様子ないんでしょー」
「うむ」
あたしもまた、疲れた体をぐてっと床に転がしている。その横では何故か一緒にあっちゃんも寝転がってゴロゴロしている。ゆるかわ。
ところで覚えているだろうか。初めて桐皇と探索に行った時にあった二階のL字の突き当たりが真っ白で、みんなには冷たくあたしには温かく感じた壁を。
みんなも当然そこを覚えていて、違和感だらけのそこが繋がる道ではと初めからそこに直行したのだが、あたし含めてみんなが優しく触ったり殴る蹴るの衝撃を与えたりしても何も変わらなかった。
水を掛けたり擦って温めたりしても変化なし。何か特別な道具がいるのかと探し回っても目ぼしい物は見付からず、無駄に怪物と戦った事で疲労が蓄積されるだけ。
また、ひのちゃんと影君が必要なのかと思い試しに連れて行ったが結果は変わらず。影君の武器である刀で斬り付けても無意味。
目的を少し変えて別の所から入る事も視野に入れ探索するが、それっぽい所もなし。完全にお手上げである。
「そういえばさー」
ふとコタが仰向けに寝転がり電気を見つめながら誰かに話し掛ける。
「影葉白玉斬ってたじゃん。あれって何の意味があったの?」
相手は影君で、本人はひのちゃんの隣にピッタリ引っ付きながら答える。
「僕、あの時鍵を落としていきましたよね。主人の封印を解く為の鍵が隠されていたんです」
「にしてはめっちゃ眩しかったよね」
「演出です」
「「いらねえよそんな演出」」
あたしと永ちゃんの声が重なる。思う所は同じか。
「…トイレ…」
「行きたいなら行ってこればー?体育館にあるでしょ。付いてってあげよっか」
「違うしいらないしセクハラだし」
無意味に呟いたわけではない。これまでの探索で女子トイレはアレクさんがいる時とかに勇気を出して探索もした。当然男子トイレは男子に任せた。しかし危惧していた花子さん的な怪物はおらずトイレのみ何処でも水は出る普通の場所だった。
だがあたしには少しだけ気になる事がある。探索中に都市伝説で有名なテケテケとか口裂け女とか色々出てきた中で、花子さんや赤い紙青い紙などトイレにまつわる怪異だけがない事が気に掛かっている。
トイレって神聖な場所?と思ったが雰囲気はよくないので神聖な場所には到底思えない。
トイレの怪異が全くないとなると、あれだけ嫌がっていたのに花子さんには何故か会いたくなってきた。花子さんなら話通じたりしないかな、なんて。
でも教えてあげる代わりに〜とか条件出してきそうで怖い。けど気になる。…よし。
「あたしトイレに行く」
「…いや、断言しなくていいし」
「結局行くんだー」
「さっさと行ってこいよ」
スクッと立ち上がり決意を固めた顔をしながらあたしが言い切ると全員の視線を集めた。そしてにじむーとあっちゃんと灰君に言われ、他の人にもしらっとした目を向けられた。うん、あたしの言い方のミスだわ。
「いや違うから。花子さん探しに行くって意味」
「…あんた嫌がってただろ」
ちーちゃんに頷き返しつつ、あたしが考えていた内容を伝えるとみんなに微妙な顔をされた。
「わざわざ怪物探さなくてもいいだろ」
「でも気になるもん。それにもしコンタクトとれる状況なら新館に行く方法聞けばいいし」
「…わかりました」
若ちゃんに最もな事を指摘されるが、確認したい気持ちは変わらず上手くいけば新館に行く方法もわかるかもしれないと引かない姿勢を見せると、赤君が溜め息を吐きつつも許可してくれた。
「ではお願いします」
「ああ、任せろ」
一緒に行くチームは秀徳+アレクさん。ツボちゃんの後に続いて武器を準備したあたし達は体育館を出発した。
「一番いそうなのは此処だよね」
「でも今までいなかったのにいるもんかね?」
現在本校舎三階の女子トイレ前。あたしとアレクさんがドアの前に立ち後ろには秀徳のみんながいるが、タカ君が疑問を投げ掛けてくる。
「アレ試してないし」
「アレ?」
「色々やり方はあるみたいだけど、三番目のドアノックして呼び掛けるやつ」
「都市伝説でよくあるやつか」
村ちゃんは納得したように呟いた。今まで怪異を自ら呼び寄せるってことはした事がないのでドキドキする。そしてやはり怖い。
「大丈夫だ。私もいる」
アレクさんが安心させるように肩を叩いてくれた。一つ頷いてドアに手を掛ける。
「何かあったらあとは宜しく」
ふっと笑みを浮かべながらみんなを振り返りそう言葉を残すと、一様に顔を引き締めていた。
そしてドアを引いて中に入った。
「でね、その時そいつ何て言ったと思う?“そんな冷たい女だと思わなかった”だよ?いやいや、実家暮らしで何もしないって言うから自分の事は自分でしなよって言っただけなのにそれ可笑しくない?」
え〜!あり得な〜い!大人なのに親にやってもらってばっかなんでしょ?マジ意味不〜
「でしょ?なに他所の人様にも何でもやってもらおうとしてんだよって話だよ。亭主関白目指してんのか何なのか知らないけどさー。付き合ってすらなくてちょっと出掛けた時にそれ言われたから即ブッチしたよね」
それ正解〜!親の臑齧りとか男として恥ずかしいしぃ〜
「男はやっぱり肉食系男子だろ」
「あーね!今は草食系とか流行ってるけどそればっかじゃ面白くないよねー」
っていうか草食系男子を勘違いして弱々しいフリしてる人増えてるらしいけど〜、草食系と弱々しい全然違うし!って話だよね〜
「「それな〜!」」
「「何の話してんだよ!!」」
「“何かあったらあとは宜しく”って格好付けて言っていたのに何なのだよこの有様は!」
え?あ、みんないたんだった。ごめんごめん、話に夢中になってて忘れてたわ。清ちゃんと珍しく突っ込むタカ君、そして真ちゃんに言われてハッとした。
誰と話してるのかって?ええ、花子さんです。
何故こうなったかと言うと数分前。
「はーなこさーん、遊びましょー」
怪異である花子さんを呼び寄せる為、手前から三番目のドアを三回ノックし呼び掛けた。すると今まではなかった殺気というか悪寒というか、とにかく空気が変わった。
ハーイ
返事が返ってきた。そして閉まっていたドアが勝手に開き中から女の子が出てきた。
おかっぱ頭で白の服と赤のスカート、白の靴下に赤の靴といった正しく花子さんであろう怪物。そしてその顔は、アレクさんには普通の女の子に見えたがあたしには牙剥き出しの真っ赤な猫の目をした女の子に映る。
一緒二遊ビマショオオォォォ!!
そして何処から出したのか包丁を取り出すとあたしに向かって突き出した。が、攻撃は想定内だったのでアレクさんがその手を蹴り上げ包丁を落とさせる。床を転がる包丁を横目で見て、花子さんはあたしの首に手を掛けようとした。
「馬っ鹿もぉぉぉんんん!!!」
ブベラッ!!!
パーン!と頬を叩いたのはあたし。綺麗に手形が付いた頬を抑えて花子さんは床に座り込み、目に涙を溜めてあたしを見上げる。
「遊びでそんな事しちゃ駄目でしょうが!!遊ぼって言っていいよって許可したの自分だよね?何で包丁出して何で首しめようとするの?ええ?遊びでそんな事しちゃいけませんんんん!」
エエエエェェェ
何言ってんの?みたいな顔で見上げてくる花子さん。アレクさんも隣で腕を組んでウンウン頷いている。
秀徳一行は目が点になってるけど、取りあえず放置。
デモ アタシノ遊ビッテ言ッタラ襲ウ事ダシ
「別にその専売特許律儀に守らなくていいし!何?由暗君に作られてそんな役割与えられてんの?」
襲エトハ言ワレテル
「じゃあその由暗ご主人に何かしてもらった?役割遂行すんのに賃金的なのもらった?」
イヤ 何モ
「それ労働基準法に違反してるよ!何もしてくれない奴の言う事なんか聞かなくていいし!由暗君に作られたからって労働者を労わらない奴はほっとけ。だからあたしらと話しよーよ」
話?
「うちらの遊びっつったら…女子会だろ」
女子会!!
「だからその剥き出しの牙とか殺気とか悪意はもうしまって。普通に怖いし」
そこまで一方的に話し要件を伝えると、暫し考え込みスッと力を抜く。すると途端に殺気などもなくなり、恐らくアレクさん達に見えている通り普通の女の子に見えるようになった。
これでいい?
喋り方も普通になった。何だ、やれば出来るじゃん花子よ。
「そらさんのスペックパネェ事になってんだけど!!」
呆然としていたがいつもの調子に戻ったタカ君が腹を抱えて草生やす。
あとはお察しの通り女子会という名の駄弁り場を作り上げたというわけですね、はい。女子にありがちな花子さんの喋り方が個人的にツボ過ぎてヤバイ。変わり過ぎだろ花子さん。
あたしら三人はトイレの壁やドアにもたれながら話しており開けっ放しのドアの向こうで秀徳五人が見守っているが、時間が経つのは早く探索開始から既に三十分以上は経っている。
「そらさん、そろそろ大分時間が経ったと思います」
遠慮がちに声を掛けるツボちゃんに、あたしはもうそんな時間?と顔を上げた。
「そらさん目的を忘れているのだよ」
「目的…ああ」
話に夢中で忘れてた。真ちゃんの発言で主旨を思い出したあたしは花子さんに聞く。
「ねえ花子さん。あたしら新館に行きたいんだけど、行き方知らない?」
新館?ああ、あの人がいる所ね。二階にある白い壁から行けるよ〜
「やっぱりあそこか!でも何しても行けないんだよね」
簡単に行けないように錯乱の為に仕掛けがあるからね〜。一度通れればあとは自由に行き来出来ると思うけど。
「行き方教えてくれない?」
いいよ〜
なんともあっさり。ニッコリ笑った花子さんは人差し指を立てて簡潔に説明する。
案内人の血を一滴でも付ければいいんだよ。つまりそらお姉さんの血ね〜
「血?」
そう。で、あとは壁がなくなる事念じるだけ〜。此処の怪異は行き来出来るけど、生身の人間とかそっちにいるらしい女の人と男の子はあの人の敵だから壁を消さないと無理なんだよね〜
成る程、血か。その考えはなかったわ。
「聞いておいて何だが、教えてもよかったのか?」
駄目だろうね〜
「軽いんだけどこの子」
まあ攻略法言わせたのはあたしですがね。
だって賃金もらってないって気付いたら腹立ってきちゃって〜仕返し、みたいな?
「簡単に手の平返すんだな…」
ドアの向こうでは清ちゃんがやや呆れた声色で呟く。それに頷く数名とタカ君は腹抱えて以下略。
この事がバレて今消されてもその今が楽しいからそれでいいかなって思って。それがなくてもみんなが此処脱出したらどうせ消えちゃうだろうし〜
この子は怪異で怪物の一人、強制的に普通に戻らせ仲良くなったが助けてあげられない事実を突き付けられ心苦しくなった。
「何か、ごめん花子さん。あたしも何もしてあげらんないや」
いいんだって〜お話し出来て楽しかったし〜
へらっと笑う花子さんはあたしに向き直ると真剣な面持ちになる。
襲う為に生み出された怪異だけど殺さなくてよかったなって思えるのはそらお姉さんとアレクお姉さんのお陰だよ、ありがとう。楽しかった!色々思う事あるだろうけど、脱出してくれればそれでいいから頑張ってね〜
「ん、わかった。こちらこそ色々ありがとね。あと叩いてごめん」
うん、あれは本気で痛かった。
「スマン」
そう言うと花子さんは可笑しそうに笑ってもう行くように促してくる。トイレから出ると花子さんはドアの前まで見送りに来て、ヒラヒラと手を振ってドアを閉めた。
流されるままに出たあたし達は情報は得たので帰る事にした。
あたしは階段を下りながら振り返り、祭りの後のような寂しい気持ちを溜め息で吐き出す。
「何か…凄くいい子だったね」
「ああ。話のわかる怪物でよかったな」
「普通に仲良くなってたもんねー」
「…ある意味それは凄い事だと思うのだよ」
アレクさんに続いて秀徳コンビがそう言い、真ちゃんは情報を引き出した事を褒めてくれているのか少し恥ずかしげに眼鏡を押し上げた。
「まあ、情報掴めてよかったな」
「お疲れ様でした」
清ちゃんと村ちゃんにも声を掛けられ少し気持ちを持ち直したが、花子さんにも寂しい思いさせちゃうだろうなと思った。
その考えを汲み取ってくれたのかとツボちゃんはポンと肩を叩いてくれた。男前。
そして階段を下り終え、目の前に見えている渡り廊下に続くドアに行こうと歩みを進めた時。
ト見セ掛ケテ 吃驚ダケハサセトクネ
一応怪物だから、と続けた花子さんは天井からぶら下がり渡り廊下に続くドアの前、つまりあたし達の目の前に姿を現した。急にだ。
しかもご丁寧に花子さん愛用と思われる懐中電灯で顔を照らしている。顔は最初に戻っており、ニタァと笑った。
「ギャアアアアアア!!?」
悍ましい顔はあたししか視えていないのであたしよりは多少リアクション薄めだが、全員が驚き後ずさったのを見て花子さんはケタケタと笑い消えていった。
あたしは恐怖のあまり近くにいたタカ君に抱き着き、コアラのようにひしっとしがみ付いていた。それに驚きつつも楽しそうに笑って直ぐそこが体育館だからと言いそのまま連れてってもらえたので、タカ君株急上昇中である。
ただそれを見たみんながビビりとかコアラとか馬鹿にしてきてちょっとムカついた。降りればよかった。
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