SPIRIT WORLD
差異

「そらさんの血、ですか」

「あたしの鉄分が一滴減る」

「それは由々しき事態ですね」

「手握らなくていいから」

 帰還後、報告をして白い壁の所を抜ける方法を言うと一様に顔を顰めていた。多少なりとも血を使うっていう所が中々バイオレンスだよね。森りんが握ってくる手をペチッと叩いて離させる。

「それしか方法がないんなら、しゃーないけど」

「別にあたしはいいよ。そんな設定にした仕返しに由暗君に歯形付くくらい噛み付いてやろうと思ってるし」

「そっちの方がバイオレンスなんだけど」

 気にしてくれてるのかなと思いこちらは明るく気にしてないアピールの為、やられっぱなしではないと意気込むと健ちゃんに引き気味で突っ込まれた。否定出来ん。

「とまあ、これで新館に行けると思われるからここから先は今までの探索と違って由暗君探しになるわけだけど。何があるかわからないから嫌だよね」

「はい。一度メンバーをシャッフルして学校別ではなく能力別にチームを組もうと思います」

「ほーほー」

 頭いい組でずっと考えていたらしく、赤君は最初に行くメンバーを発表した。

「連続で悪いが高尾、青峰、氷室さん、虹村さん、そしてオレだ」

 なんという事でしょう。異色メンバー過ぎて吃驚です。会話出来んのかな?タカ君いるから大丈夫か。

 オレも行きたかったと嘆く数名を無視して赤君は全体に意識を向ける。

「そらさんの言う通り、新館は何があるかわかりません。創造者である無月が潜んでいる所なので怪物も増えたり強かったり、今までと違う事も増えるかもしれません。今ある武器で数が足りるか心配ですが、武器探しも兼ねて無月の捜索を行います」

「ただ無理はしたらあかんで。軽く見て回って構図だけでも把握するんも全然問題ない」

「はい、心得ています」

 メンバーと目的が定まり再度出発になる。あたしは言わなくてもわかってると思うけどフライパンとナイフを常備し、他のみんなも武器を持つ。バットは安定の峰さんが所持。

「じゃあいってきー」

 軽く挨拶すると数名からいってらーと軽く挨拶が返ってくるが、他は心配なのか声が暗かった。逆に恐怖を煽るので止めてもらってもいいですか、心配なのはわかるけども。










「これね」

 無事に二階のL字行き当たりの白い壁に到着。相変わらず真っ白で温かい。そっと壁に触れながら見つめていると背後からたっちゃんが心配げに声を掛ける。

「そらさん…」

「大丈夫だよ」

 ニッと笑ってみせると苦笑しながらも頷いた彼。そしてあたしはナイフを取り出し右手に持って左手を見つめる。
 一滴でいいんだよね。だったら指先でいいかな。病院でもちょびっと血液採取するだけだったら指先でしてるもんね。
 軽く深呼吸をして人差し指の先にナイフを宛てがう。普段意図的にしない分怖いわ、ビビリだし。アニメとかでよく指噛んで血出すとかしてるけど、アニメだから出来るとあたしは思ってる。チキンには怖いんです。

 目を背け視界に入る程度に見ながら少しだけナイフを引くと、プツリと皮膚が切れる感覚がわかり見てみれば滲み出る血液。出来た。

「んで、これを…」

 血が出る人差し指の指先を壁に擦り付けるように滑らせ小さくハートを描いた。

「何落書きしてんだよ」

「ついでだよ、ついで」

 峰さんに呆れられながらも満足いったあたしはペロッと指先の血を舐め取ると、口に鉄の味が広がった。傷は全然大した事ないのに結構血出るね。

「何かそれ、いいな」

「何考えてんだアホ峰」

 何を思ったのかこちらを見て真顔で呟いた峰さんに対しにじむーが頭を叩いていた。
 あとは念じるんだっけ。あたしはナイフをしまって右手を壁に当て目を閉じる。
 開け〜ゴマ!

「扉開け〜て〜」

「それ有名な曲のサビ!」

「ああ、あの大々的に有名になった映画の挿入歌だったか」

 思ってる事と言ってる事違ったけど開けって念じてるのには違いないからいいでしょう。タカ君は笑っておりたっちゃんも聞き覚えがあると笑った。
 すると、すうっと手から伝わる温かい壁の感触が薄らいでいくのに気付き、目を開け一歩下がると白い壁が段々と消えていく。そして視界が開けた。

「おお!」

「成功だな」

「ありがとうございます、そらさん」

 にじむーと赤君は安堵したような声色でそう言い、壁の突破が出来た事にあたしも安心した。

「よし、無事に開いた事だし進むべ!」

「ちょっと待った」

 歩き出そうとしたあたしの左手を掴むたっちゃん。何事?と振り返ると指先の怪我を指した。

「あ、まだ出てた」

「指先は神経が集まってるからね」

 見ると血がまだ止まっていないようだったのでまた舐め取る。服に付くの嫌だし。
 するとたっちゃんはポケットから絆創膏を出してあたしの指先に巻き付けた。

「準備いいね、ありがとう」

「血が必要ってわかってたし当然傷が出来ると思ってね。来る前に救急箱から持ってきた」

「でもオレらも持ってこようとは思ってたんだぜ?」

「タツヤが取りに行くのが早かっただけだ」

 どうやら皆さん準備してくれようとはしてたみたいです。よく気が付くね、いい子達だよ本当に。

「オレはそんな事考えてなかったわ」

 大丈夫です、そこは想定内です。だって峰さんだし。いや馬鹿にしてないよ全然、うん。
 たっちゃんは処置が終わるとあたしの左手を持ち上げ、ちゅ、とリップ音を立てて絆創膏が貼ってある人差し指口付けた。

「!!?」

「もう無駄な怪我はしてほしくない。あと早く治るようにおまじない、ってね」

 あたしは肩を飛び上がらせ赤面した。キザだ、キザ過ぎるけど様になってて狡い。周りから見たら茹でタコかもなこりゃ。
 ぽけっとしていると彼はクスリと笑って手を離した。

「うわっ、そらさん大丈夫!?」

「氷室さん、やり過ぎかと」

「つい、ね」

 ぷしゅう、と頭から湯気が出た気がする。心配そうに声を掛けるタカ君にコクコク頷き返しながら顔を押さえて熱を下げようとする。年下にときめき過ぎだろあたし。え?死ぬの?今日が寿命?

「…行くぞ」

 ひと段落つくとにじむーの言葉にみんな頷き、先頭に赤君とにじむー、次にあたしとたっちゃん、後ろに峰さんとタカ君で開けた新館へ進む事になった。

 新館へは壁があった場所から真っ直ぐ進むだけで、右手に階段、その奥に3年E組、3年D組、男女トイレと並んでいるだけで、奥行きは少ない。そして新館というだけあって綺麗だった。あの白い壁と同じくらいに。

「THE・新館って感じだね」

「にしても教室数少ねえな」

 あたしと峰さんが廊下で辺りを見ながら言うと、赤君は暫し考えて話し出す。

「もしかすると、新館は四階まであるかもしれない」

「どうして?」

「今此処にある教室は3年DとE組。これだけの短い奥行きで、二階の時点でDとE組がある事と1、2年共に教室がG組まである事を考えると、恐らく一階にFとG組があり三階にはBとC組、残りのA組ともう一つ何かの教室は必然的に四階に位置する事になります。地下がなければの話ですが」

 あったまいい〜!今さっき来たばっかりで此処見ただけでそこまで推測出来るとか流石だ。

「地下があったらどうなるんだよ」

「逆の配置になるね。FとG組が三階に、一階にBとC組、そして地下にA組ともう一つの教室、という事になるかな」

 峰さんにもわかりやすく説明したのであたしもよくわかった。地下でも四階でもどっちでもいいけどさ、これ本校舎に行く為の通路が二階にしかないかもっていう方があたしにとっては大問題なんだけど。

「さっさと探索しようぜ。で、無月見付けんだろ」

「はい。ではまず構図を把握しておきたいので、歩き回ってみましょう」

 にじむーに続いて赤君が頷くと、まず一階に降りる事となった。
 新館に一つだけある階段を降りていくと、階段は終わりで左手には壁、右手にはやはり教室が二つ並んでいて3年FとG組のプレートが掛かっている。一番奥はトイレだ。赤君の言う通りだった。

 そして早々に階段を上がっていき三階に出る。此処も左手は壁、右手に教室二つとトイレが並んでいた。3年BとC組だ。

「赤司君の言う通りだったな」

「すげーな」

 たっちゃんとタカ君が感心して言う。ばっちり当たってるもんね。
 そして四階説だが、

「階段、あるねぇ」

 三階より上があった。それも登っていくと、やはり此処で階段は終わっており左手は壁だったが右手には教室。3年A組と、

「…視聴覚室?」

 プレートにそう書いてあった。勝手な解釈だがあたしの中で視聴覚室といえば特別教室で他の教室より広いイメージがあった。しかしこれは普通教室と同じ広さなのでイメージとは少し違った。

「そういえば本校舎にはなかったな」

「此処だけ特別教室って事は、普通に此処にいたりして」

 たっちゃんとタカ君の言葉に同感の声を上げようとして口を開くと、こちらを見た赤君が声を上げた。

「そらさん!」

 あたしがキョトンとしているとにじむーがあたしを峰さんの方に突き飛ばした。吃驚しているとトイレ側の壁から細長い皺々の腕が伸びてきていて、それに体を掴まれたにじむーが壁に引き寄せられていた。

「にじむー!?」

「シュウ!!」

「階段から何か来てんぞ!」

 たっちゃんが駆け寄ろうとした時、タカ君が鷹の目で影を捉え言ったと同時に階段の方からキョンシーと思われる怪物がぴょんぴょん登ってきてこちらに突進してきた。
 勿論顔は皮膚が腐って剥がれ落ちており、不揃いの歯が開いた口から視えて気持ち悪い。

「青峰!」

「おう!!」

 峰さんがバットで殴り階段側の壁まで飛ばすが程なくして起き上がり、また跳ねて突進してくる。
 にじむーの方は掴まりながらももがいて抵抗しており、たっちゃんが腕を蹴って助太刀している。攻撃しても消えない怪物をあたしはよく視て弱点を探す。

「み、視えない…」

「え?」

「靄がない!」

 黒い靄が視えなかった。いつもなら直ぐに視えなくても目を凝らせば視えたのに、怪物には何もない。
 あたしを守るように前後にいるタカ君と赤君が息を飲んだ。

「どうしよ…!」

「落ち着いてそらさん。青峰、起き上がれなくなるまで至る所を攻撃するしかない」

「へっ!任せろ!!」

「氷室さんは何とか虹村さんから手を離させて、」

「やってるけど、力が強い…!」

 見ていられない程に滅多打ちにしていく峰さん。あたしには腐敗した肉片が飛んだり血が吹き出して視えるのでパッと目を逸らした。
 にじむーの方も壁際まで引っ張られており、二人で引き離そうとしている。見兼ねたタカ君がナイフで腕を切り付けるが直ぐに再生した。

 どうすれば、と思っていると床に紙が落ちていた。“廊下は走らない”と絵付きで印刷されている紙で、四隅にテープが留まっている。壁に貼っていて落ちたと推測出来るが、何で人の住まないこの世界にこんな貼り紙が?と思った。するとまた近くに赤のチョークの破片が落ちているのが視界に入りパッと閃いた。

「そらさん?」

 赤君の呼び掛けに返事する間もなくあたしは紙を破いてチョークを走らせる。
 一体の怪物には効くかも、と思い書き上げたそれを持ってキョンシーの方にいる峰さんの所へ走った。

「てぇーい!!」

 峰さんの横を通り過ぎ、峰さんに飛び掛かろうとしていたキョンシーの額にペーン!とその紙を貼り付けた。腐敗している皮膚に紙はよく引っ付く。
 途端にぴたりと動きを止めたキョンシー。成功だ。

「…“封印”?」

 峰さんが不思議そうに呟いた。あたしの中でキョンシーは札が貼ってあれば大人しく札が剥がれると凶暴になるという印象があり、このキョンシーに札がなかったので凶暴なのかと思って先程の紙で不恰好な札を即興で作りこの作戦に至った。そしてそれは見事成功し、同時に視えなかった物も視えた。

「あ、視えた!」

 あたしは持っていたフライパンを振り下ろすと額に直撃させる。悲鳴を上げる事なく粒子になって消えていくキョンシーにやっと倒せたと安堵した。

「オレの仕事盗んなよ」

「めんご」

「シュウ!!」

 峰さんと会話しているとたっちゃんの焦る声を聞こえ振り向けば、体半分入り掛けたにじむー。たっちゃんとタカ君が必死で引っ張っているがみるみる飲み込まれていく体にあたし達は青ざめた。
 たっちゃんが必死に壁を蹴ったり腕に力を込めたりするが効かない。もしかして壁妖怪?でもキョンシーみたいに靄以外の弱点知らないし、と思ってふと思い付く。

「く、擽ってみたら!?」

「は!?」

「壁!攻撃じゃなくて擽んの!!」

 タカ君焦った声色で聞き返すがあたしは至って本気です。一瞬そんな馬鹿な、という顔をしたがちゃんと実行してくれた。

「こーちょこちょこちょ」

 壁を擽るというシュールな絵だが、壁から出る腕の動きが止まってプルプル震え出した。

 ヒッ ヒャハハハハハ!!

 壁の上部から男の顔がニュッと出てきて目がなく歯もない皺々の顔をしているが、ない所から出ていいものかわからないが涙が出る程に笑っており、力が抜けているのがわかる。
 今だとたっちゃんがにじむーを引っ張るとスポンッと抜けた。

 ヨッ ヨクモォォォ!!

 タカ君も手を離して三人共壁から離れるとまた手を伸ばしてくるが、それよりあたしは例の物が視えていたので赤君に叫ぶ。

「男の顔!!」

 赤君はナイフを男の顔に向かって投げた。見事命中し絶叫と共に粒子になって消えていった。
 やっとの事で倒し、辺りに静寂が戻ったが油断は出来ない。

「大丈夫ですか?」

「ああ、問題ねえ」

 赤君がにじむーに尋ねると笑って答えた。あたしも近寄るとにじむーを見上げて謝る。

「ごめん、あたしがぼけっとしてたから…」

「そらさんの所為じゃねえよ。それより怪我ねえか?」

「うん」

 ならいい、と笑ったにじむー男前。

「一旦戻って整理しましょう。此処は危険です」

 赤君の促しにみんな頷き、二階しか通路がないので急いで戻る事になった。

「にゃああああああ!!?」

 二階まで来てあとは本校舎を戻るだけという所で、3年D組から五体のゾンビが出てきた。美術室から出たのと同じマネキンゾンビだ。
 モロに見たあたしは絶叫し赤君の逃げるぞとの声でみんなでダッシュすると、峰さんがいつかの時の如くバットをタカ君に預けあたしを脇に抱えてて走ってくれた。
 すみません遅くて。

 二体の面倒な怪物を相手にして此処でも構っている余裕はないとの事で逃げているが、あのマネキンゾンビも最初より面倒な事になってるのかな、と思いながら体育館まで連れてってもらいました。

 また峰さんに抱えられているあたしを見て、コアラの次は米になったのかと弄られイラッとした。最初にこれで来た時心配してくれたじゃん!何で今その扱いなの!そして誰が米俵のように丸々じゃい!え?そこまで言ってない?

32/45
←|→

BACK/TOP
ALICE+