SPIRIT WORLD
暴露

 視聴覚室のドアの施錠は解除した。あっちゃんに代わりマコマコがそっとドアを開けて中を確認するが、懐中電灯で当てても何もないとの事で全員が中に入る。中はカーテンが閉まっており電気も点いていないので暗い。すると突然パッと電気が点いた。校舎内で電気が点いたのは初めてだ。
 同時に、開けっ放しだったドアも閉まった。

「「!」」

 あたしはビビって肩を飛び上がらせた。が、それを見てマコマコが鼻で笑ったのでムカついて脇腹を指で突き刺した。

「何すんだこのアマ」

「うっせー平安時代。少◯時代みたくデビューさせたろかああん?」

「おい、こんな所で喧嘩するなよ」

 お互いに胸倉掴んでメンチ切っていると俊ちゃんに止められる。
 すると、何処からかパチパチと緩い拍手の音が聞こえた。視聴覚室の後ろの方から聞こえ、前にいるあたし達が後ろへ顔を向けると一番後ろの席の机にいつの間にか男の子が座っていた。

「早い段階でよく此処まで来れましたね。優秀優秀」

 ストレートな黒髪に血色悪い顔色、垂れ目がちで物静かそうな第一印象の彼は、きっと無月由暗君だ。彼は微笑んで拍手をしていた手を止めると、腕組みをして足も組みながら随分優雅に振る舞う。

「テメェが無月か」

「そうだよ。そういう君は誠凛の火神君だったね。後は若松さん、花宮さん、伊月さん、そしてキセキの世代紫原君。あとは…」

 そう区切るとあたしを見てにんまりと笑う。顔立ちは悪くないが嫌な雰囲気を纏っているのがわかる。

「あなたが陽葉に選ばれた案内人の山口そらさんですか。普通の人ですね」

「煩いよ。てか君に言われたくないんですけど」

 普通が一番だよ。失礼な。
 そう反論すると肩を竦めて笑う由暗君。

「そうですね。僕も昔は普通だった。特に秀でた才能もなくセンスもなく…」

 そう語り出す由暗君。だがそれを若ちゃんが遮った。

「テメェの過去は聞いた。だが今んな事どうでもいい。オレらをこっから出せ、脱出方法を教えろ」

 用件だけ全て言う若ちゃん。流石キャプテン、しっかりしてるね。
 由暗君はクスクス笑うとその場に浮かび上がった。

「簡単には教えませんよ、教える気もありませんけど。僕の望みはね、帝光の彼らの力を手に入れる事だ。そしてずっと恋い焦がれていた桃井さん。彼女も僕のモノにする」

「んな事させるかっつんだよ!その為に此処にきたんだろーが!!」

「無理矢理好きな女の子を自分のモノにしたとしても心はそうはならないぞ。どうやってするつもりだ」

 かがみんと俊ちゃんが睨みながら言うと由暗くんはふよふよ浮遊しながら楽しそうに話す。

「帝光の彼らの力が手に入れば彼らは用済みだけど、ちゃんと全員元の世界に帰してあげるよ。但し戻った後はバスケは出来なくなってるだろうけどね、色んな意味で。ご心配なく、桃井さんは心も体も僕のモノになる。元の世界に帰ったら僕から離れられないようになってるよ。ああ、今は僕も死んでるけど誰かの体をもらえばいい」

 両手を広げ想像しているのか恍惚とした表情で語った後その表情をなくすとこちらを見据えた。

「君達は罪人だ。その能力の使い方を間違えた。だから僕が正しく使う。桃井さんを泣かせて謝りもしない君達に彼女も任せられない」

「テメェの方がよっぽど罪人だろうが。関係ねえオレらまで巻き込んでおいて、自分勝手な野郎だ」

「君達は無冠の五将と言うらしいね。だけど君達の能力はいらない、帝光の彼らのだけで充分戦えるからね。此処に引き込まれたのは、中途半端に力がある所為だよ」

 五人共ピキッと青筋を立てている。あたしは黙って聞いていたが、気になる事を投げ掛けた。

「ひのちゃんはどうなんの?」

「陽葉?ああ…彼女は馬鹿だよ、僕を助けようとして死ぬなんて。まあそのお陰で、僕が武器やお助けキャラを設定しなくても彼女がしてくれたから助かった。幼馴染としていい働きをしてくれた。だけど彼女は僕と違って契約なしに死んでしまっているから、元の世界には帰れないね。僕が望みを叶えたらこの世界は消えてなくなるから、陽葉も消えるかな」

 目を伏せて淡々と言い切った由暗君。かがみんが一歩踏み出した時、あたしはあっちゃんが持っていたフライパンを横取り投げ付けた。

「!」

 ヒョイと避ける由暗君だが、避けられるのは予想済みだったので投げ付けた直ぐに走り出したあたしは机の上を走って渡り由暗君の元へ向かい、こっちを見た彼の服を引っ張る。

「自分勝手な考えであんたの事想ってくれてる女泣かせてんじゃねえええええ!!!」

 浮いていた体が少し近寄った瞬間にあたしはグーパンをかました。
 壁際に吹っ飛んだ由暗君は宙で身を翻し体勢を立て直した。五人は後ろで唖然としているが、あたしは我慢ならなかった。

「あんたに何がわかるんだよ!!この子らだってねえ、自分の力が大きくて悩んで抑えきれなくて苦しんでたんだよ!あんたが泣きべそかいて落ち込んでる間もこの子らは練習頑張ってたんだ!血反吐吐きそうな鬼の練習こなしてたんだよ!あんただって三軍だったんでしょ!?だったらきつさがわかんでしょうが!!」

 殴られた左頬を押さえている由暗君はポカンとしているが、あたしは止まらず勝手に口が動く。

「それを無視して間違い犯した事揚げ足とって関係ないあんたが力をもらう?ハァ!?努力を途中で投げ出した奴に強さを求める資格も、人の横取って強くなる資格もない!!あんたには一切、ない!!」

 自然に涙が込み上げてくる。泣いちゃ駄目だって、脱出してないじゃん自分。終わってないから泣くな。そう思いながら拳をきつく握り締めた。

「ひのちゃんだってあんたが心配でずっと近くで支えてきたんだよ!それを無視して利用して最終的に死んじゃって…あの子を殺したのはあんたじゃん!!」

 その言葉で由暗君の顔が強張った。

「でもあんたも心の何処かでひのちゃんに対する想いは消えてなかったはず、だから霊体を此処に取り込んだんでしょ?さっき消えるって言ったけど何とかしようって気持ちが全くないわけじゃないんでしょ!?」

 由暗君は俯いてしまった。あたしは震える声を抑える。

「慈悲なんかじゃなくて、魂まで殺したくなかったから此処に留めてるんじゃん!力尽きたあの子を封印したのもあの子の力じゃなくて本当はあんたの力でしょ!あんた殴った瞬間にわかったけどひのちゃんが寝ていたガラスの棺と同じ感覚がするもん、何かわかんないけど同じ成分的な!!」

「成分的なって…」

 あっちゃんが何それと呟いたがいいんだよ、伝わればいいんだよ。ちょっと涙引っ込んじゃったじゃん。結果オーライだけど。

「さっちゃん泣かせて許せないっていうなら自分はどうなんだよ!ひのちゃん泣いてたよ!!」

 そこでトドメとばかりに大きく息を吸い込んで叫んだ。

「ひのちゃんに謝れこの童貞ムッツリゲス野郎!!!」

 そこまで大声で言い切ると、由暗君があたしに手の平を向けた。瞬間、何かに吹き飛ばされるように黒板のある前の壁に飛ばされ激突する。

「そらさん!!」

 しかし体が落ちる事なく、何か見えない大きな圧で押さえ付けられたように動かない体。若ちゃんが降ろそうとしてくれるがビクともしない。

「煩い…煩い煩い煩い煩い煩い!!お前に何がわかるんだよ!!人生で闇しか追えない僕の気持ちが!!」

「ぐっ…闇しか追えないんじゃなくて闇を自分が追ってんでしょうが!!抜け出す機会なんてひのちゃんが幾らでも与えてただろうが!!」

「黙れえええ!!所詮お前は違う世界の人間だ!!お前にはわからない!!!」

 オイコラ今なんつった?

「え…違う世界の人間?」

「ど、どういう事だよ!?」

 言っちゃったあああああ!?此処で言っちゃった!?マジかよ勘弁してくれよ由暗君んんんん!!

「ハッ…君達は知らなかったんだね。この人は僕達が住んでいた世界とも此処の世界とも違う世界から陽葉に選ばれて来たんだよ。しかも吃驚な事に、僕と陽葉以外のみんなをこの人は最初から知っていた!君達が登場人物の漫画があるらしいよ、実際さっきも知らないはずの君達の苦悩を言っていただろ?今までこの人は君達に本当の事は言わずに騙してた。騙されてたんだよ君達は!」

 オイこのクレイジー野郎。
 もう自暴自棄になってるとしか思えないテンションで全て暴露されてしまった。五人の視線が痛かった。

「今それは関係な、」

「関係ない?そうかな?彼らは嘘偽りのないあなたを信用していたはずだ。どんな内容でも騙されて裏切られた気持ちはあるはず!だって今まで漫画のキャラが目の前にいて嬉しいくせに全員知ってて知らないフリしてたんでしょ?大した演技だ、あなた自体存在が嘘で塗り固められている」

 多分何言っても揚げ足取られるから何も言えなかった。

「んな事知ってんだよ。今それは関係ねえだろ」

 妙な雰囲気を切り裂くように発した言葉にあたしは顔を上げた。発言者はマコマコで、ポケットに手を突っ込みながらあたしを見つめて、ふはっと独特な笑い方で吹き出す。

「知ってんのは赤司とか今吉サンくらいだけどな。知ってるっつーか気付いたっつった方が正しいが、有白の話を聞いてそれで何となく察した。漫画の話は予想外だったが道理で名前間違わずに覚えてるわけだ」

 マコマコはあたしから由暗君に視線を移すと馬鹿にしたような笑いで話を続ける。

「確かにコイツは言わなかった。だが会った初めに言われてオレ達が信じるわけねえし、自分達の事知ってるってだけでコイツは肩身狭い思いしたはずだぜ。コイツなりに混乱を避けたり自分の身を守ろうとしただけだ。人間ってのは自分を守るもんだろ?テメェも自分守ってっから周りの事何も考えてねえのと一緒じゃねえか」

 確かに、と納得する他の四人。あたしは理解してくれた事と、ゲスいで有名なマコマコにここまで言ってもらえた事が嬉しくて目の前が滲んだ。

「今コイツに懐いてる奴は結構いる。その中で事実を知りゃ“最初から自分の事一歩的に知られていた”ってキモがる奴もいるだろうが」

「ちょっと」

「けどコイツは例えオレらが漫画のキャラでも体張って助けたり率先して脱出の糸口探そうとしたり懸命に動いてた。まあ邪魔だったし役に立たねえ事も山程あったけどな。そこを周りは評価して懐いてんだろ」

 マコマコがそこまで言うと由暗君に見下したような視線を向ける。

「ふはっ、残念だったな。混乱させたりコイツを一人にさせようとしたり目論んでたんだろ。コイツは脱出まで絶対に必要な奴だからここで切るわけにはいかねえんだよ。あと違う世界の人間でも人の気持ちは察する事出来るだろ普通に。バァカ」

 由暗君はふるふる肩を震わせると俯かせていた顔を上げて笑った。

「ハハハハハ!!!そうか、なら残念だ…折角仲間割れ起こせそうだったのに」

 ふう、と息を吐き出すと由暗君はニッコリと笑った。

「じゃあ脱出に必要だっていう案内人がいなくなったら、君達はどうするか見てみようかな?…僕を馬鹿にした罰だ」

 パチン、と指を鳴らした由暗君。その瞬間五人の足元にあるはずの床が消え、五人は暗い穴に落ちていく。

「みんな!!」

 あたし以外のみんなが消えると床は再度現れた。あたしは由暗君の方を睨み付ける。

「あんたねえ…!」

「心配しなくても、彼らを体育館へ送っただけだよ。これから僕は能力を譲り受ける為の儀式の準備をする。あなたは言えば人質。助けに来るが早いか、僕が儀式を取り始める方が早いか…あ、いい事を思い付いた」

 由暗君は微笑んでゆっくりあたしに近付くと、縛り付けている何かを少し降ろさせ目を合わせる。

「どうせ彼らは直ぐには来れない。そこで大事にされているというあなたを手篭めにした場合、どんな反応をするか。その時間を入れてもどちらが早いか実験してみましょうか」

 にたり、と笑った由暗君の指があたしの顎を這う。

「童貞だと決め付けるなら、ご教授頂けますよね?お姉さん」

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