SPIRIT WORLD
転回

※後半ちょっと如何わしい表現入ります。

【伊月side】

 無月の合図で床が底抜け暗闇に放り出されたかと思ったが、気付いた時には体を床に打ち付けてオレ達五人は体育館へ戻って来ていた。

「…ええっ!!?」

「ちょ、今何処から!?てか穴!?」

「何や急に、どっから出てくんねん」

 待機組は突然現れた探索組に当然吃驚し寄ってきた。オレ達は丁度体育館の中心に着いたようで、数人が上を見上げている辺り宙に穴が現れてそこから落ちてきたのかもしれない。

「大丈夫か伊月!」

「伊月君、そらさんは?」

 日向とカントクが近寄って来る。五人を見た後焦った顔色のカントクに指摘を受けたオレを始め、残りの四人の表情が変わり周りの奴らは何かを察したらしく顔色を変えた。

「ちょ、どういう事だよ!?」

「一緒に出てったろ!?一体何処に、」

「みんな落ち着きや。五人の顔見ればわかるやろ。…何があったか説明してくれるな」

 各々に詰め寄り始めた周りの奴らに若松や紫原辺りが煩いとキレそうな所で、今吉が周りを制し薄っすらと目を開けてこちらを見ながら説明を促す。
 花宮が一歩前に出ると探索での事をありのままに説明した。勿論そらさんが別世界から来た事やオレ達を知っていた事も余す事なく説明する。その中で一番吃驚したのは、花宮自身がそらさんや無月に向けて言った言葉も大まかにだが公表した事。それはまるで「騙した」など文句を言わせないように先手を打つかのようで、そらさんを守るように感じゲスくない花宮を初めて見た。凄い事だ。
 その甲斐あってか、騙されていたなど言い出す奴はいなかった。

「そらっちが…」

「最初から知ってたようには見えなかったねー」

 黄瀬が吃驚して戸惑ったように名前を呟いた近くで原が飄々としながら言う。

「オレはずっと何か隠してるようには見えてたよ。けどそれが何か知ってスッキリしたわ」

 眠そうな瀬戸は頭を掻きながら話すが特に怒ったとかの感情は見えない。花宮があの時言った通り、そらさんは状況を見て混乱を招かないように言わなかっただけで悪意があったわけではない。軽々しく言えるような内容でもないし。だから他の奴も怒りはないが困惑と戸惑いはまだ隠せないでいる様子。
 かく言うオレも最初こそは吃驚したけど意外にも花宮がそらさんをフォローした言葉に納得したし、今まで一番頑張ってきたのは彼女だと思うからそらさんを責める感情は一切なかった。

「でもこれで多分そらちんの隠し事はなくなったんでしょー?だったら結果オーライじゃん」

「つか人間誰でも隠し事なんてあんだろ。それよりオレはオレらが漫画になってる事に感動した」

「オレも、っす」

 残りの探索組の三人があっけらかんと話す。若松と火神の着眼点そこかよ。

「…そらさん二次元大好きだって言ってたよな。オレ達の事はキャラとしか見てなくて、この状況に喜んでたのかな」

「まあそれなりに喜んでたかもな。漫画の夢見たって言ってたときの興奮加減を思い返してみろ。納得すんだろ」

 コガが素朴な疑問を言うと近くにいた宮地が呆れた声色でそう話し、一部の人は「ああ…そうだった」というように少し遠い目をして納得していた。

「けど同時にこんな世界に連れてこられたっていう焦りや不安はあったよきっと。たまに辛そうな顔したり泣きそうな顔になっていたから」

 確かに氷室はよく彼女を見ていたしあいつがそう言うならそんな場面はあったんだろう。

「…目の前にいる人物が知っている本の中の人物だったとしても初対面には変わりありません。その初対面の人物を自分の身を危険に晒してまで命を張れるかと言えば、難しい事だと思います。そらさんがオレ達の身体能力の高さを知っていれば、頼り切る事も出来たはずです。でも彼女はそうしなかった。オレ達を此処まで導いてくれたのは紛れもなく彼女です。それが“登場人物を死なせたくない”などと思う彼女のエゴだとしても、オレ達は何度も彼女に助けられた事実は変わらない」

 赤司は落ち着いた様子で淡々と語り、戸惑いながらも真実を受け止め、事実を忘れないようにと言っているようにオレには聞こえた。

「小金井さん。そらさんは私達をただの登場人物じゃなくて一人の人間として見てくれていたと思います。それにそらさんからすれば私達は子どもだから、守ろうって思ってくれてたんじゃないでしょうか。私はそんなそらさんが何処の世界の人でも関係ない。山口そらさんっていう人が大好きです」

 床を見つめながら桃井さんが口を開いた。やっぱり彼女も非難する気は毛頭ない様子で本人は不在だが大好きだとまで言い切った。それに対し、コガは安堵したように破顔して頷いた。
 それはオレ達も同じだ。ただ非現実的な話がまた転がってきて戸惑っただけなんだ。

「まあ、オレらがオレらなのと一緒でそらはそらだしな。何処の世界でも何でもいいからよ、まず優先すべきなのはアイツを助ける事じゃねーの?」

 青峰が面倒臭そうな口調でこれから先どうするかと促す。各々戸惑いは隠せなかったがそらさんの今までの脱出の為の健気な言動行動を思い返し、段々気持ちに整理がついて落ち着いてきたのでそらさん奪還作戦を考える事になった。
 まだ何かある奴はそらさんを助けてから直接聞けばいい。彼女は逃げる事はないだろうから。ちゃんと向き合ってくれるだろう。

 無月が潜伏する場所を変えていなければ視聴覚室に行けば問題ないが、場所が変わっている可能性や怪物の弱点がわかるそらさんが今いない問題があるので、どうやって怪物に対処するかなどオレ達は早急に話し合いを始めた。










【そらside】

「んっ…は、ぁ…う」

 視聴覚室に厭らしい声が木霊する。

「正直に言って、気持ちいでしょ?」

「ち、が…んっ!」

 荒い息遣いも静かな室内ではよく聞こえる。ただ勘違いしないでもらいたい。喘いでいるのはあたしではなく、由暗君である。

「あっ!そ、そこ…!」

「此処?」

「あ、あーっ!き、気持ちい…っ」

「はい気持ちいいって言ったー。由暗君の負けー」

「い、言ってない!気持ち悪いって言ったんです!」

「はいはいはーい」

 あともう一つ勘違いしないでもらいたい。あたし達は決して如何わしい事をしていない。あたしが攻めで由暗君が受けのように聞こえたと思うが、違う。あたしは手を出してなどいません。

「だから言ったじゃん。あたしマッサージ得意だって。マッサージ馬鹿にした癖に随分善がってたよね」

 ある意味手は出したかもしれないけど、肩をマッサージしていただけです。あたしが未成年に手出したら犯罪になるから。冗談抜きでヤバイから。
 何故こんな事をしているかというと、事は由暗君にちょっかいを掛けられた所から始まる。










「童貞だと決め付けるなら、ご教授頂けますよね?お姉さん」

 そう言いながら顎に指を這わせた由暗君はまた指でパチンと合図を出す。するとあたしの体を縛り付けていた透明な何かがなくなりストンと急に落ち床に尻餅ついた。

「いた!!っ、う…!?」

 その隙を逃さず由暗君があたしを床へ押し倒し片手であたしの両手をまとめ上げ、あたしの足の間に体を割り込ませて身動きを取れなくする。
 童貞だと認めた割には手際がいいので童貞じゃないのかとか、勉強したのかとか、本能かとか思考が一気に巡った。
 そして由暗君が不敵な笑みを浮かべて顔を近付ける。

「桃井さんを抱く事になった時にワタワタしていたら格好が付きません。いい練習台になって下さいね」

 そう囁き唇を奪おうとしてくるが、あたしは思い切り頭を振ると頭突きを彼の鼻にかました。

「ふん!!」

「うっ…!!」

 前にテレビで見た痴漢撃退術が役に立った瞬間。鼻は人の弱点なので頭突きするだけで怯むらしく、痛そうに声を漏らしていた悪役の人と同じ反応をしている由暗君。相当痛いんだろうね。
 怯んだ隙にあたしは腕を振り解いて由暗君を力任せに押し退けた。後ろに倒れ込んだ彼をうつ伏せに寝かせあたしは腰の上に乗り動きを固めさせる。

 鼻血は出ていない由暗君だが鼻が赤くなっている。彼は後ろのあたしを睨んで見上げた。

「っ、離せ!こんな事してただじゃ済みませんよ!?」

「こちらこそー。あんな事してただじゃ済みませんよー?大人をからかうもんじゃない。あと勝手に練習台にすんな」

 後手に両手を組ませて押さえ上に乗っているのでジタバタしても拘束が取れない由暗君。

「元バスケ部とは言え、君ヒッキーだったんでしょ?体動かしてなかったんでしょ?体細っこいし顔色は霊体ってのもあるだろうけど悪いし、明らかに弱そうなんだよね、君」

「うっ煩い!!僕だって男だ!!」

「知ってるよ。だから盛ったんでしょ。でもあたし君にならちょっとだけ力勝ってる気がする。現に押さえられてるしね」

 プッスーと馬鹿にしたように笑ってやると由暗君は顔を真っ赤にして怒っていた。いやー愉快愉快。可愛いよ由暗君。

「そんな体調の悪い由暗君に特別にそら式マッサージをしてやろう。ただあたしは度素人なので適当だし保証もしません」

「いいいいいらないっ!怖い!離せ!!」

 勝手にマッサージをされると聞き赤面から青ざめた由暗君は必死に抵抗するが、あたしは聞く気がないから無視。

「でも絶対気持ちいいよ。友達からも好評なんだよ?」

「絶対ない!」

「じゃあ気持ちいいって言ったら負けね。今から五分するから、五分以内に気持ちいいって言ったら由暗君の負け。言わなかったらあたしの負けでいいよ」

「はっ、そんな約束していいんですか?僕が勝ったら練習台になってもらいますよ」

「いいよー」

 負ける気がしねえ。
 そしてマッサージを始め五分以内に喘ぎと共に気持ちいいと言ったのであたしの勝ちになった。という事です。

「てか由暗君喘ぎ過ぎだし肩凝り過ぎ。霊体でこんなに肩凝りとかどんだけ。姿勢が悪いからそうなるんだよ、筋肉もあまり付いてないから弱く見えるんだよ、全く」

「お母さん?」

「誰がお母さんだ」

 あんたのお母さんじゃねえわ。

「取りあえずあたしのマッサージの上手さは伝わったでしょ。あたしが勝ったからお願い十個聞いてもらえるんだよね」

「いつ言った!?そんな事いつ僕が言いましたか!?」

「あたしが「いいよー」って言った後に言ってたらいいのになー」

「願望ですか!!」

 おお、中々いいツッコミをされる。ちょっと最初とキャラがズレてきているけど、本来はこういう性格なのかもしれないな。
 まあこんな感じで、あたしの貞操は守れましたのでご心配なく。

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