SPIRIT WORLD
救済

「あ、えっと…ごめん、戻ってきた」

 予想通り体育館に戻ってこれた。あたしは由暗君を押し退けて立ち上がりみんなを見渡すと、急に現れて吃驚していたり唖然としていたり反応が様々だった。
 みんなの反応は怖いけど何よりみんなに会えた事があたしは嬉しくて、笑いながらそう言うと一つの影が突進してきた。

「ぐっふう!?」

 この中で一番でかい彼、あっちゃんが抱き着いてきた。抱き着くというより抱き締められるが正しいけども。
 ぎゅうううと容赦なく抱き締められ息が苦しい。

「あ、あっちゃん苦しいいぃぃ」

「そらちんよかった…心配したし」

「さっきまで普通だったくせに…」

 そう紡がれた言葉に目を見張る。心配してくれてたのか…そっか、うん、嬉しい。
 あっちゃんの後方で福君が呆れたように言うのを聞いて、あっちゃん素直じゃないから気にしない風を装っていたんだろうなと一人で納得した。

「怪我ない?何もされてない?」

「あー大丈夫大丈夫」

 ぐっと肩を掴まれ顔を覗き込まれながら確認されるが、襲われ掛けた事は言う必要ないだろう。話ややこしくさせるだけだし、現に未遂で終わってるしね。寧ろあたしが鳴かせてやった…ゲフンゲフン。失敬。

「そらさん!!」

 そしてドンッと勢いよくあっちゃんを押し退けたさっちゃんが次にあたしを抱き締める。あっちゃんを押し退けるってどんな力してるんだこの子。

「よかったです、無事で本当に…!!」

 体を少し離してあたしを見つめながら言うさっちゃんは泣いていた。ポロポロと綺麗な涙が頬を伝っている。

「ん。ごめんね心配掛けて。ありがとう」

 よしよしと頭を撫でてやると更に泣いてしまった。困ってみんなに目配せすると、一様に苦笑したり呆れたように笑ったりしているだけ。怒ったり距離を置いたりなどの態度ではなく少し安心した。

「ぐっ…ぅああああ!!」

 突然呻き声を上げ始めた由暗君。あたしは振り返りながら距離を置くようにさっちゃんと共に後ずさる。

「ぐ…っ、此処は、体育館…!?いつの間に僕は…っ」

 混乱していたから今の今まで気付かなかった様子の由暗君は頭を抱えながら周りを見渡し、あたしを見た。

「あなたですか…そうか、両親の力が…」

 何やら一人で納得している由暗君。そうか、あの穴はご両親が最後の力振り絞ってあたしをみんなに会わせる為に作ってくれたのかもしれない。面倒なのでそういう事にしちゃおう。

「両親?」

「死んだはずじゃ…」

 ちらほらと疑問の声が上がるので、簡単にさっきあった事を話すと納得された。

「何で由暗君苦しんでるの?」

「ハァ…ハァ…此処が神聖な場所だからですよ…陽葉あいつの力の所為でね…っ」

 体育館に怪物は入れない事になっているが、創造者と言えど悪意のある者だからこの空間は苦しいのかもしれない。
 納得したあたしが眠っているひのちゃんの方へ顔を向けると、先程の叫び声で起きたのか顔色悪いままで上半身を起こし、アレクさんに支えられた彼女が目を見開いていた。

「由暗!!」

「…陽葉」

 息が荒いままひのちゃんの存在に気付いた由暗君は自嘲するように笑うとゆっくりと立ち上がる。呼吸を整えるように一度深呼吸をして彼は目を閉じた。
 同時にみんなが武器を構えてあたしやひのちゃんを庇うように立ち塞がった。さっちゃんもあたしの腕を引いて後ろに隠してくれる。

「フッ…居心地悪い空間ではありますが、元帝光の方々が集まっているなら丁度いい。手っ取り早く此処で奪いましょうか」

「さっきまで僕が間違ってるのとか自問自答してたのに…やっぱり諦めないの?」

「両親の考えが違った事には意表を突かれましたが…でもやはり僕は僕の望みを叶えたい」

 目を開けた由暗君は先程あたしに術を掛けた時同様に赤い目をしていた。だがあの時のように目が合っても耳鳴りなどはない。

「儀式するつもり?でも準備してた札や道具は此処にないけど」

「あれがあれば儀式を行い易いだけの話。なくてもやろうと思えばやれる」

 由暗君がそう言うと手で印を組んだ。

「由暗!もう止めてよ!誰も傷付けないで…由暗ももう、傷付いて欲しくないよ…っ!」

「っ…お前は何もわかってない。黙っていろ」

「わかってないのは由暗だよ!!あたし…あたしはただ…っ」

 ひのちゃんが涙を流し嗚咽しながら止めようとする。由暗君は涙を見ると一瞬動揺した。やはり彼女の存在は、生前絶縁したとは言え大切な物には変わりないはず。

「無月。お前怖いんだろ」

「…何?」

 そんな時、落ち着いた声色で言葉を発したのはにじむー。腕組みをしながら由暗君を見据えた彼は、言葉を続けた。

「自分の親が自分の考えと違った事を知って、本当はそこで目ェ覚めたんじゃねえのか。でも此処で儀式やら目的やらを放棄すれば今まで自分が創り上げてきた物はなくなるし、もう死んでるお前にはこれからの未来もないから、何もかも消えてなくなるのが怖いんだろ」

「…煩い」

「消えてなくなるなら人から奪ってでも生きようとするお前は、この場で一番生に執着がある。後悔しても取り返しの付かない事をしたお前は、最初から最後まで自分だけを守るつもりか」

「…煩い」

 赤君もわざと追い討ちを掛けるように厳しい言葉を紡いだ。でもそうなんだと思う。そうでなけりゃ、由暗君はあんな泣きそうな顔をしない。

「目の前で自分の事を想ってくれる女の子がいるのに、守ろうとしないわけ?あなた、男の子でしょう」

「煩い…煩い!!」

「そうやっていつまでも逃げんのか」

 玲央きゅんに言われ、ちーちゃんに言われ、由暗君は叫ぶように声を張り上げると風が起こった。

「逃げてなんかいない!!」

「だったら目の前の事にちゃんと目ェ向けろよ!!」

「そんなんだから筋肉付かねえんだよ!!」

 コタはいいけど永ちゃん、それ関係ないから。

「僕は欲しい!!力が!!」

「大事な物まで捨ててやる事じゃねえって何回言わせんだコラァ!!」

「ええ加減に目ェ覚ましいや」

「これ以上大事な物なくそうとするな」

「め、目の前に手を差し伸べてくれる人はいるじゃないですか!すいません!」

「お前アイツにまで謝る必要ねぇだろ」

 力一杯叫ぶ彼に桐皇の彼らが説得するように言う。峰さん関係ない事突っ込んでるけど。

「君らはいいよ!!才能やセンスがあるから僕みたいな苦労なんて!!」

「力や才能がなくても、他に自分のよさはあるだろ」

「自分を見つめ直せば何か見付かったはずだぜ」

「それを過去も現在もしようとしねえから、自分を見失うんだろ。ちゃんと考えろ、轢くぞ」

「お前才能がどうとかって決め付けてっけど、オレら全員お前の知らない所で努力してっからな」

「この高尾でさえもな」

「真ちゃん一言余計!」

 ツボちゃん、村ちゃん、清ちゃん、タカ君、真ちゃんも由暗君を落ち着かせるように、でも現実と向き合わせるように話す。

「何で僕だけ…!!」

「だけって、被害妄想だろ」

「世の中お前以上に苦しんでる奴なんかいっぱいいるって」

「悲劇の主人公気取ってるからこうなるんだろ」

「弱虫だなー」

「頭悪いね」

 対して毒舌放つ霧崎。もうちょっと優しくしてあげなさい。特に最後のかずやんと健ちゃん無駄に煽ってどうする。

「僕は充分苦しんだ!!だから次は自分にとっていい事を、」

「堂々巡りじゃな」

「コイツ話聞いてるアルか?」

「混乱してんだろ」

「話が中々進まないね」

「マジ捻り潰したいわ〜」

 陽泉組よ、説得する気ないね。

「男として恥ずかしくないんスか!」

「ずっとグチグチ目の前の問題から目逸らしやがって」

「目の前で可愛い女の子を泣かせて謝りもしないなんて、男の風上に置けないな」

「有白を変な目で見るなよ森山」

「ダセェぞお前!!」

 おお、ハヤヤの発言ら行なかったお陰で聞き取り易かった。ってあたしも意識逸れちゃ駄目じゃん。

「ぼ、僕は…」

「今の自分の弱さを今でいいから認めろ」

「弱い事がカッコ悪いんじゃなくて、弱い事を隠してそうやって強がるからカッコ悪いんよ、お前」

「つかお前もっと飯食えよ!!」

 いい事言った岩ちゃんとスガの後に全く関係ない事ぶっこむともっきー流石だよ。

「僕は…弱い…」

「弱くてもいいんだよ。それを周りに支えられて生きてくんだろ」

「私生活もバスケも何でもそうだ。一人では人間は生きていけないんだよ」

「オレ達だって、一人じゃここまで来られなかったんだぞ?」

「後悔は消えない。けどこれからどうするかで、これからが変わっていきます」

「もし今までの事後悔してんならここで諦めるんじゃなくて何か打開策を考えりゃいいだろ!」

「火神…打開策なんて言葉知ってたんだな」

「奇跡だ」

 順ちゃん、俊ちゃん、ヨッシー、テッちゃん、かがみんが優しく語り掛けた。
 だからそれ今関係ないからね、ひろやんと河ちゃん。

「火神の言う通り、一人じゃ無理なら今はオレ達がいるじゃん!」

「そーそ。お前が一人でどうすればいいかわかんねえって悩むんなら手貸してやるからさ」

「ここで会ったのも何かの縁だし」

「水戸部も考え直すなら手を貸してやりたいってさ」

 フリ、コガ、つっちーとコガに代弁された水戸さん達も優しい言葉を掛けた。
 由暗君は印を組んだ手を解いて頭を抱える。もう少しでいける?これいけちゃう?

「人の物程よく見えるのはわかるぜ。けどオレとお前の違いは自分ってもんを持ってるか持ってないかだ。そこは間違えんなよ」

 灰君まともな事を言った。一緒にされたくないんだろうな。でも今の流れでその話ぶっこむのは違うと思う。もっと前だったよ…。

「辛いなら頼ればいいのよ」

「無月君には陽葉ちゃんがいるし、今は私達もいるから」

「一緒に方法を探してやる」

 女性陣がそう言うと、由暗君は伏せていた目を開け、あたしと目が合った。

「自分で蒔いた種は自分で何とかしろって言いたいところだけど、ひのちゃんと約束したからね。…あたしが、いや、あたし達が助けてあげる。だから由暗君も言って」

 一歩ずつあたしは歩み寄り、由暗君に手を差し伸べる。

「助けてって言っていいんだよ」

 由暗君の頬に一筋涙が流れた。

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