SPIRIT WORLD
決戦

 不意に、生温い風が手を差し伸べるあたしの頬を撫でた。そして由暗君の体が脈打つような音が聞こえたかと思えば、まるで衝撃波に当たったようにあたしだけがその場から吹っ飛ばされた。

「わっ!?」

「そらさん!!」

 宙に投げ出されたあたしは後方に飛び重力に従って床へと落ち激突する直前、誰かに受け止められるように体に衝撃が走った。

「っ、大丈夫?」

「た、たっちゃんんん!!」

 声が聞こえて閉じていた目を開けるとそこには微笑を浮かべたたっちゃん。走って追い掛けてキャッチしてくれたらしい。凄いな。

「ごめん、怪我ない?」

「大丈夫。そらさんは?」

「あたしも。ありがと」

 たっちゃんに降ろしてもらい、由暗君の方を見るとそこには禍々しいって言葉がピッタリな程真っ黒な靄に包まれた由暗君。それを見て思わず震えるとたっちゃんに肩を支えられた。

「ぼ、僕は…弱い…欲しい、力が…ァァアアアアァアア!!」

 耳を劈くような声を上げて由暗君は宙に浮かぶと一層強い風を起こす。
 周りにいたみんなも後方へ下がり様子を見ていたが、各々があるだけの武器を構える。

「桃井と相田さんは下がって!銃を持っている人は攻撃して止めて下さい!」

「ワシと宮地と黄瀬君やな」

「っス!」

「仕方ねえな」

 三人が吹き荒れる風の中銃を構えて前に一歩出る。するときー君目掛けて一本の黒い靄を纏った触手のような物が伸びてきて、彼の足に巻き付くと持ち上げた。

「うぉわぁっ!?」

「黄瀬!!」

「そうや、狙いは帝光の連中!こん中では黄瀬君だけや!」

 翔ちゃんの言葉を聞いて元帝光の八人は後方へ下がり、持ち上げられた拍子に銃を落としたきー君は半泣きで宙ぶらりん状態。
 触手は由暗君の中に飲み込まれるようにズルズル引いていき、自ずときー君も引き込まれていく。直感で引き込まれたら駄目だと思った。

「止めて!!みんなで帝光の子達守って!!」

 そう言った途端に数人が走り出し永ちゃんがその場から飛躍するときー君に突っ込んで行った。

「マッスルゥ〜パンチ!!」

 ダサい!けど威力絶大!
 触手に拳を減り込ませ一瞬緩んだ隙にきー君を救出し、後退させる。

「助かったっス〜!あざっす!!」

「次は余所見すんじゃねえぞ!!」

 一方落ちていた銃を拾ったのは森りん。標準を合わせて翔ちゃんと清ちゃんと共に由暗君に打ち込む。

 アアアアアァァァアア!!

 苦しそうな声を上げる由暗君。容姿は変わらないが黒い靄は増すばかり。

 何でこうなったか考えよう。あたしの憶測だが、由暗君の命と両親の骨の一部、そして元帝光の彼ら九人の記憶(但し記憶は目標達成後の支払い)を代償にこの世界が作られたのは由暗君が言ってた。元帝光の力を奪いさっちゃんを得た時は目標達成としてこの世界はひのちゃん共々消滅し、由暗君は自由を手に入れてみんなは世界に帰れるけどバスケが出来なくなるとも言ってた。
 でも逆にみんなが脱出して目標達成出来なかったら、きっと由暗君はひのちゃんと消滅する。また、この世界を創造者本人、由暗君が終わらせると決めた場合は目標達成失敗ではなく契約破棄と見做し、今みたいに暴走しちゃうんじゃないだろうか。
 うむ、結構しっくりくる。怪物の姿は見えないので、魔の取引をした怪物が由暗君を操作しているとかも考えたけど、それはなさそうだ。

 あたしはたっちゃんの方を向いた。

「たっちゃんもみんなの所に行って」

「けどそらさんは?」

「あたしは今みんなが気を引いてる隙にひのちゃんに話に行ってくる。みんなを守って」

「…わかった」

 そう言うとたっちゃんは少し考える顔をしてからあたしにデコチューをかまして走って行った。何で今した?やめろよ空気変わるから!
 あたしはハッとしてステージ付近にアレクさんと一緒にいるひのちゃんに近付いた。
 ひのちゃんは泣きながら由暗君を見つめている。

「ひのちゃん!」

「う…っ、そらさん…!」

「大丈夫、落ち着いて。お願いがあるの。影君出せない?」

「影葉…?」

 涙を流す彼女の頭を撫でながら、あたしが尋ねると少し考えて気持ちを切り替えたようき頷いた。

「出来ます」

「ごめんね、まだ回復してないだろうけど。これで最後だから、お願い」

「はい…!」

 アレクさんの支えから体を起こしたひのちゃんは印を組む。そして何かを唱え始めた。

「きゃあああ!!」

「桃井さん!!」

 不意にさっちゃんの叫び声が聞こえて見ると靄の触手に体を持ち上げられているさっちゃん。その近くでリコぴんが降ろそうと足を引っ張っていた。さっちゃんのスカートの下にあたしのズボン履いてるからパンツは見えてない。ごめん、どうでもいいよね。
 隣で動く気配を感じ見上げるとアレクさんが立ち上がっており、あたしに笑い掛ける。

「私も参戦してくる。そらは何かするつもりなんだろ?任せたぞ。その代わり、あいつらを守るのは任せておけ」

 ウインクしてアレクさんが飛び出して行き、さっちゃんを拘束する触手を引っ張り無理矢理引き剥がしていた。す、すげえええ。

 他のみんなも元帝光の九人を守りながら銃で触手を撃ち抜いたり、バットで殴ったり、フライパンを振り回したり、ナイフや鋏で切り付けたりして対応している。何だかんだフライパン愛用してんじゃん、ザキよ。
 身体能力の高い彼らだからこそ大きな怪我はないが、由暗君の暴走は激しさを増していきみんなの顔に疲労が見え始めた。
 早く、何とかしないと。

「お呼びでしょうか」

「影君。出てきてくれてありがとう」

 声が聞こえて振り向くとそこには実体化しているがややぼやけた影君。ひのちゃんの力がまだ回復してない所為だろう。ひのちゃんは疲れた顔をしているので、少しでも力が戻るように彼女の手を握る。

「影君、刀貸してくれない?」

「僕の、ですか?」

「うん。ひのちゃんの式神の影君が扱う刀なら、由暗君には効くんじゃないかと思って。銃みたいに」

「でもこれは本物の刀と同じような造りなので素人は扱えないと思います。彼にトドメを刺すというなら、僕がやります」

「ううん、駄目だよ。あたしがしなきゃ」

 影君があたしを気遣ってくれているのは充分わかる。けどあたしが案内人として道を切り開く為にもしなくちゃいけないと思った。
 影君が暫し無言であたしを見つめていたが、納得したのかしっかり頷いた。

「わかりました。そらさんに託します」

「ありがとう」

 影君は刀を取り出すとあたしに差し出した。受け取ったそれはズシリと重い。

「しっかり両手で握って下さい。持ち方は例えば鍔迫り合いの時に親指の力だけで支える事にならないように、こうです」

 軽く扱い方を聞いてあたしは頷き、鞘から刀を抜くと鞘を影君に託し由暗君の元に走った。
 
「そらさん!」

 触手を切り落とした赤君に呼び止められるが無視をして由暗君に突っ込む。

 邪魔ヲスルナァァァ!!

 あたしを見た由暗君が赤くギラつく目を向けてあたしに先端の尖った触手を向けてくる。あたしは両手に持つ刀を振り回して切り落とすと、刀を持ち上げ袈裟に斬るように振り下ろす。

 アアアアアァァ!!

 間近で聞こえる絶叫にビリビリと体が痺れる感覚が伝う。血は出ず斬られた部分から黒い靄が溢れた。振り回された腕を避ける為に後退したあたしは由暗君から目を離す事なく声を上げた。

「そらさん!」

「翔ちゃん清ちゃん森りん!あたしが由暗君の心臓ら辺突き刺すから、飛び交ってる触手撃ち落として!あと振り回してる手足も何とかして!」

「何とかって…」

「我が儘な姉さんやで」

「仰せのままに!!」

 困惑しつつも銃を構えた二人と、敬礼した後構える森りんを信じる。破裂音を響かせながら撃ち込まれた球は外しもするが触手の動きを止めるように当たった。
 手足は、と思っていると触手に臆する事なく横から左腕を押さえ込むマコマコの姿。反対側は特に危険だっていうのににじむーが押さえ込んでいた。

 尚も飛び交う触手は出現する度に撃ち落とされ、先程より隙が出来た。

「そら!」

 マコマコの声にグッと両手に力を入れて刀を構える。きつく握り過ぎて手の平が痛い。
 殺す事と同じ動作をするわけだから、少し、いや凄く怖い。震える手先に更に力を込めた時、横からそっと両手を添えられた。

「あたしにも、背負わせて下さい」

 ひのちゃんは柔らかく微笑むと。あたしと一緒に刀を握った。
 あたしは吃驚したけど、一緒に終わらせたいと強い意思を持つひのちゃんの目に応えるように頷く。

 離セェェェェ!!僕ハ 僕ハァァアア!!

 暴れ続ける由暗君の触手がマコマコとにじむーの体を切り付けている。あたしは深呼吸をすると、ひのちゃんに目配せをして踏み込んだ。
 みんなも同じように戦っている。あたしもちゃんと戦わないと、案内人として任務を全うしないと。
 みんなを帰らせないと。

「「はああああぁぁぁ!!」」

 ひのちゃんと一緒に勢いを付けて由暗君の懐へと突っ込んだ。
 霊体なのに、肉を突き抜ける感覚が刀越しに伝わり、血は出なかったがそこから眩い光が溢れ出した。

 うわぁぁぁあああ!!

 由暗君の絶叫と共に目が開けられないくらいの光りがあたし達の視界を覆った。

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