SPIRIT WORLD
声涙

【黒子side】

 目が覚めるとそこは誠凛の使い慣れた体育館だった。体を起こすと他の方も寝ていて、近くにいた火神君を起こす。

「火神君。火神君起きて下さい」

「ん…黒子…?」

「はい。皆さんを起こすのを手伝って下さい」

 寝ぼけている彼と一緒に先輩達を起こす。先程までの事は勿論覚えている。先輩達も同様に。
 そして僕はまず赤司君に電話をした。

「もしもし、赤司君ですか」

『ああ、黒子。みんな一緒かい?』

「はい。さっき体育館で起きたばかりです。洛山の皆さんは?」

『一緒だよ。洛山の体育館で目が覚めた。他の学校にも今実渕達が連絡を取っているが、どこも皆無事に戻ってきたようだよ』

 そこまで聞いて安堵した。短いようで長かったあの時間。不意に壁に取り付けられている時計を見上げると、僕達が最後に覚えている放課後の部活前の時間から一時間程度しか経っていない。
 聞けば赤司君達もそうだと言う。

「…そらさんは、無事に戻れたでしょうか」

『…わからない。けどきっと、戻っているはずだよ』

「…そうですね」

『あと最後に約束を取り付けてきた。また会えるようにってね。だから信じよう』

「はい」

 無月君と有白さんの事で少し会話した後に電話を終える。内容をみんなに伝えると同様に安心していた。

「あと無月君と有白さんの事ですが、どうなったか調べて欲しいと言われたので僕が調べます」

「オレも手伝うぜ」

「オレも!」

 京都にいる赤司君でも出来なくはないらしいが、他にもそらさんの事で調べてみたい事があると言うので僕が受け持つ事になった。
 火神君や降旗君達も手伝ってくれるというのでお言葉に甘える。部活後に調べるという事に決め、気持ちを切り替えて残りの時間を基礎練習に宛てる事になった。

 あの空間であの時間だけしか過ごしていないが、そらさんの存在は僕達にとって大きく掛け替えのない物になっていたようで、胸が苦しかった。
 そらさんがいないこの世界で、僕達は練習に打ち込む事で少しでも気持ちを紛らわせようと思った。

 影葉君は失う物はないと言っていたが、僕達にとってそらさんを失った事が大きく感じていた。

 彼女は一人で泣いていないでしょうか。










【そらside】

「久しぶり、おばあちゃん」

「よく来たねぇ。さ、上がって上がって」

 あたしはあれから暫く泣いて少しスッキリした後、他県の田舎にある母方のおばあちゃん家に来ていた。春に向けて寒さが和らいでいるとは言え田舎は一層冷え込む。野山に囲まれた此処へは自家用車で来たが、暖かい車内とは違い外は寒い。

 優しく迎え入れてくれたおばあちゃんに挨拶をして家に上がらせてもらう。室内は暖房が効いていて暖かい。

「大きくなったなぁ」

「おじいちゃん、あたし先月も来た時に同じ事言われたけど。ってかもう24歳だからこれ以上は大きくならないと思うけど」

「大きくなったなぁ」

「聞けよ」

 のほほんとするおじいちゃんと、その後ろで笑うおばあちゃん。この親にしてあの母親ありか。母親の天然さは親譲りだと再確認出来た。

 二人のいる居間から出て違う部屋へ移動する。そこは仏間で、先代のひいおばあちゃん達の写真が立て掛けてある。
 そこにはあたしの両親もいた。

「久しぶり。お母さん、お父さん」

 高校卒業後、旅行先で事故に遭い亡くなったあたしの両親。事故で亡くしたのは、あの時言う必要なかったら言わなかったけど実は由暗君と同じだ。
 でもあたしは前を向いて生きてこれたからね。由暗君とはちょっと違うよ。

 仏壇の前に正座して座り、お線香を焚いて両手を合わせる。あたしは月一程度でお参りに来ていた。
 母方の祖父母宅に父親もいる理由だが、詳しくは知らないが父親は孤児らしく、今後も母親と一緒にいさせてあげたいとの事で遺骨など祖父母が引き取ったらしい。よくわからないけど。
 まあ、そのお影であたしは先代含めてお祈り出来るんだけどね。

「これお土産。今日はね、すずめ饅頭だよ。可愛いでしょ」

 お供え物を置き、大きな仏壇を見上げた。

「あたしね、此処に来る前変な世界で壮絶な戦いをしてきたんだよ。覚えてるかな、高校の時にお母さんが頭からぶっ掛けた粉。あれのお陰かあれの所為か、変な能力付いちゃってね。色々大変だったんだからね」

 目を閉じると思い出すのはみんなの顔。笑った顔や馬鹿にした顔、怒った顔や泣いている顔。色んなみんなが脳内を巡った。

「でもいい出会いがあった。最終的に別れになっちゃったんだけど、凄くいい思いさせてもらったと思う。うへへ」

 一人でニヤニヤするあたしはさぞ気持ち悪い事でしょう。

「あたしなんかが、あんな体験出来た事奇跡だわ。本当。…これも、二人があたし産んでくれたからだよね。ありがとね」

 可笑しいな。あれだけ散々泣いたのにまた涙が溢れてきた。

「っ、あたしこそ親不孝者だわ…由暗君によく言えたよあたし。この世界にはちゃんとあたしの帰る所があるのに、みんなに会いたくて…みんなの世界に行けたらって思っちゃって…ごめんね、お母さんお父さんごめんね…っ」

 両手で顔を覆い泣きじゃくる。あたしは欲張りだ。貪欲で、由暗君を怒れたもんじゃない。最低だ。
 でも会いたくて会いたくて震えるんだよ。冗談に聞こえるだろうけど、本当に震えて止まらない。息が苦しい。

 会いた〜くて〜会い〜たくて〜震〜える〜

 …ん?あたし声に出して歌ってた?

 みんな思〜う〜ほ〜ど〜辛くなって〜

 この音痴加減には聞き覚えがあるよ。
 両手から顔を上げると、そこには仏壇に座る両親の姿。半透明な、お母さんとお父さん。

「っはあああああぁぁぁああ!?」

 あら?見えてるの?

 初めて視てもらえたな!

「おおおおおお母さん!?お父さん!?」

 ママですよ〜

 パパですよ〜

 ズザザザーッと後ろに後ずさった。にこやかにヒラヒラ手を振るのは間違いなくあたしの両親。何で見えてんの?え?あたし視えてんの?霊的な?

「おっおばあちゃんんんん!!」

 おじいちゃんとおばあちゃんは視えないわよ〜

 飛び出しそうになったあたしを引き止めたお母さん。再度正座させられてあたしは二人を見上げた。

 この世界にいる感じしなかったけど、まさか本当に違う世界に行ってたとはね〜

 流石我が娘。不思議な能力を身に付けたか。

 顎に手を添えてウンウン頷くお父さん。自分の実の父だけど、うざい。

「だからあれお母さんの所為だって」

 結果オーライ!じゃない!

「ムカつくその親指へし折っていい?」

 ぐっと親指立てられてイラッとしたが、少し落ち着くと笑えてきた。

「はは、何で今のタイミングで出てくるかな」

 ふふ。ママ達ずっとそらちゃん見守ってたのよ。

 今までよく頑張ってきたな。偉かったよ。ごめんな、パパ達早々に死んじゃって、寂しい思いさせたね。

 ふわりとあたしの前に降り立ったお父さんに頭を撫でられる。あ、触れるんだ。感触伝わってきた。
 またあたしの目には涙が溜まった。涙腺弱いなぁ。

 大切な人達が出来たならいい事じゃない。素敵な事よ。それが世界を跨ぐ事になっても、何処にいてもそらちゃんはママとパパの子よ。心は離れないでしょ?

「ふ、ふふ…くっさい台詞…」

 そら。自由に生きていいんだよ。そらの幸せがパパ達の幸せだ。本当だよ。

 お母さんに抱き締められて、お母さんの匂いとか温もりとか一切感じないけど、何でかぽかぽか暖かくなった。

「ありがと。でも、あたし…みんなの所に行けない」

 そんな事はありませんよ、そらさん。

 聞き覚えのある声に振り向くと、そこには半透明なひのちゃんの姿があった。

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