SPIRIT WORLD
王子様のキスをするのは?

【福井side】

 現在オレ達陽泉は新館への道の探索をして廊下を歩いている。これまでにそらさんはノンストップで探索に繰り出しているので些か心配ではあるが、本人が大丈夫というので信じる事にする。

「ある〜貧血、森の〜な〜カンチョー、クマさ〜ん〜にんにく、出会〜ったんこぶ〜」

 まあルンルンで歌う分には元気なんだろう。つか森のクマさん替え歌すんなよ途中下品じゃねえか。
 その歌を聴いて突っ込むのはオレだけでなくみんなから突っ込まれた。

「また赤ちんに怒られるよ」

「それはヤダ」

 歌うのをやめたそらさんに氷室が笑っていたが、不意に廊下の先を見て口を噤む。不思議に思って視線の先を見ると、そこには紫のマントで全身を包んだ女。一見で思ったのは正に魔女だった。

「あれ?アイツ誠凛のみんなと探索した時の魔女?」

 ああ、報告にもあったノリノリ魔女か。(連載番外編:誠凛レギュラーを救う参照)
 じゃあそらさんには老婆に見えてんのか、オレらには若い女に見えるけど。

「でも倒したって言ってたアル」

「うん、ちゃんと倒したけど…」

「姉妹とかはあり得るんじゃろうか」

 するとそらさんは魔女をじっと見つめていた。何か喋ってんのか?そう思って聞くとこっちを向く。

「姉妹だって。よくも姉上をって怒ってる」

 至極面倒臭そうに言ったそらさん。姉妹なら見た目が似てるのも当然か、と納得した。つか怪物で姉妹とか何だよ。

「じゃあ面倒な相手になりそうだね」

「うん。仕掛けとか気を付けてね」

 誠凛は網に掛かったらしい。そう思いながら警戒していると魔女が動いた。
 そらさんに向かって何かを投げ付けてきたが、敦が簡単にキャッチし投げ返す。キャッチボールみたいになってるんだけど。それは林檎でまさか投げ返されるとは思わなかったのか頭に当たって怯んでいた。

「ありがとあっちゃん。右こめかみに靄が見える」

 それを聞き隙を突いて攻撃しようとナイフを持って駆け出すオレと劉。だが、周囲への警戒が甘かった。

「うおっ!?」

「床が…!?」

 走り出して直ぐに何かに足を取られて転ぶオレと劉。転んでからも起き上がれず、床を見ればトリモチのように透明な糊が張られていた。気付かなかった。

「福井さん!劉!」

「ちょ、二人共大丈夫!?」

「紫原ならあれ跨げるじゃろ!お前が行くんじゃ」

「え〜オレが行くの?」

 動けないオレ達の上を岡村から指示を受けた敦が軽々跳んでトリモチを跨ぎ、魔女の頭を掴みに掛かるが後ろに跳んで避けられた。
 それからも俊敏な動きで敦の攻撃を避けた魔女は、敦の目の前に飴を沢山投げる。

「あ!お菓子ー!!」

 今まで散々お菓子のオアズケを喰らっていた敦は目を輝かせてそれを全てキャッチした。全部ってすげえな。
 そして魔女は敦を思い切り押して尻餅ついた敦もトリモチに絡まった。

「あ。」

「あ。じゃねえよ!何やってんだお前!!」

「だって飴くれたんだもん」

「危ねえから食うなよ。つか疑えよ!」

 駄目だ、コイツ飴の事しか考えてねえ。

「このババア!卑怯者!」

 そう言って止める岡村と氷室を無視して走り出したそらさんは、トリモチを跳び越える為に油断していたオレの背中を踏んでいく。

「とうっ!」

「ぐえっ!!」

「福君ごめん!」

 いや謝るの遅いし。
 そらさんはフライパン片手に魔女へ近寄ると左にフライパンを振りかぶってこめかみを狙った。
 しかし魔女はそれを手で防ぐと動きの止まった一瞬にそらさんに足払いを仕掛ける。

「ふおっ!?」

「「そらさん!!」」

 岡村と氷室が叫び駆け寄ろうとするが二人へ二匹の烏を飛ばす。視界や行動を遮る烏に二人が足止めを喰らっている合間に魔女は後ろに転けたそらさんの上に跨ると、片手でそらさんの肩を押さえ込みマントの下から出した真っ赤に熟れた林檎を握り潰して口元に押し付けた。

「むぐっ!!?」

「なっ」

 グリグリと無遠慮に押し込む魔女。そらさんの後ろ姿からはちゃんと見えねえけど頑なに食べようとしなかったのか、肩を押さえていた片手で腹を殴られた。

「ぅぐ!!っ、…んぐ」

 ゴクッと飲み下す音が聞こえた。その瞬間にそらさんは力をなくして床に倒れ、動かなくなった。

「そらちん!!」

 敦が飴を放り投げる程に焦り動き出すがトリモチが引っ付いて離れず、オレ達もいくら動いても取れなかった。するとオレらの上を跳び越えて魔女に蹴りを食らわせたのは氷室。
 瞳孔が開き明らかにキレている。魔女は蹴り飛ばされ廊下に転がるが笑っていた。

「この野郎、そらさんに何をした!!」

 しかし魔女は人差し指を口元に立てるだけで答えず逃げようとする。喋っていてもそらさんしか聞こえないから意味はないんだけど。
 だが氷室は逃さずナイフを足に投げて転ばせた後こめかみに重い蹴りを食らわせた。その一撃で金の粒子を飛ばして消えていく。
 それと同時にトリモチや烏や飴も消え、氷室に抱き起こされているそらさんに駆け寄る。

「そらさん!しっかりするんじゃ!!」

「おい!そらさん!」

「…脈はある。呼吸もしてるけど全く起きない」

 氷室が林檎の果汁で汚れた口元を拭ってやりながら脈や呼吸を確認する。生きている事を聞いて少し安心したが、ぐったりと横たわるそらさんに不安は募る。

「何にしてもまずは体育館に戻るぞ」

 岡村の促しで敦がそらさんを抱き上げて急いで体育館に戻った。










「そらさん…」

 あれから体育館に戻り事情を説明した。一様に焦ったり泣きそうになったりしている辺り、みんな随分と懐いたなと思った。
 そらさんを寝かせて服に付いた林檎の破片からベタ付く肌を拭いている桐皇マネが心配したように呟く。
 オレらはその近くに集まってどうするか話し合っている。

「食べさせられたのは林檎。今寝ているだけだとしたら、」

「…白雪姫、とか言うんじゃねーだろうな」

 氷室の言葉にオレがまさかと返す。しかし魔女、林檎、眠るのワードでみんな思い浮かぶのは白雪姫だった。

「何しても起きないならそう考えるのが妥当よね」

 実渕がそう呟いた後に衝撃的な発言をする。

「じゃあ…そらさんが起きる為にはキスが必要なのかしら」

 その一言で戦争が始まった。

「ならとっとと代表決めてやるしかねえんじゃね」

「もし違っても他の方法考える必要あんだから、時間が勿体ねえ」

 そう言ったのは灰崎と虹村とかいう奴。それを聞いて反応を示す複数。桐皇マネと誠凛監督はマジかよと言うように赤面している。

「だっ駄目よ!そらさんだって子どもではないけど女よ!?好きな人以外としたくないに決まってるじゃない!」

「そうですよ!そんなのそらさんが可哀想です!あとテツ君は駄目!」

「え?」

「じゃあこのまま目ェ覚めなくてもいいってのか?」

「「うっ」」

 途中余計な一言入って黒子も吃驚してるが灰崎の最もな事に言葉に詰まる二人。知らない人ではないとは言え確かに申し訳ないよな。

「なら私がするか?」

「「アレックスはもうしてるだろ」」

 そう声を揃えたのは火神と氷室。だが火神はハッとして赤面しながら弁解する。

「あっいや!オレがしたいとかじゃなくて!!」

「オレはそらさんならしたいと思うよ」

 火神はまだしも、氷室の発言で全員が硬直した。

「え〜室ちん正直過ぎじゃん」

「でもこの場にいる全員がキスをしろって言われたらすると思うけど?それくらいそらさんに懐いてるよね、オレ達」

 とんでもない爆弾発言だぞオイ。爽やかな笑みを浮かべて言う事じゃねえだろ。

「ただ今回の事は彼女を弄ぶつもりで言ってないよ。オレはそらさんを助けたいからキスをするって言ったんだ」

「そんなんならオレだってそうだし」

 今回はって何。気になったけど名乗りを上げた高尾に気取られて聞き逃した。ちゃっかりしてんなコイツ。

「ねえ女性陣のお三方。ここは男性陣に任せてみたらどうかしら?そらさんも誰が相手でも助けてくれたなら文句は絶対ないはずよ。人工呼吸と一緒で」

 ここで実渕が女三人に耳打ちする。オレは近くにいたので聞こえ言ってる意味はわかるが、説得したはいいものの女性陣に混ざって傍観決め込んでるの可笑しくね?お前男だろうが。
 一方話はまとまらずみんなで揉めている。

「高尾、お前には下心がありそうなのだよ。任せられん」

「とか言って真ちゃん抜け駆けしようとしてない?そらさん何だかんだお気に入りっしょ?」

「ううううう煩いのだよ!出鱈目を言うな!」

 いやどもり過ぎだろ緑間。

「ならオレが!そらさんの王子様になって目覚めさせる!」

「お前が一番下心ありそうだよ!!」

 そう言って笠松に蹴られる森山。アホか。

「そんならワシも喜んでキスするで。そらさん起きてからの反応が楽しみやなァ」

「アンタはそれが本音だろ。下心よりタチ悪ィ」

 と言い合う今吉と花宮。

「じゃあオレがちゃちゃっとしてきてやんよ〜」

「待て」

 と岩村に肩を掴まれ止められる春日。

「じゃあオレは誠凛代表で名乗りを上げる」

「「いや勝手に代表になってんじゃねえよ!!」」

 誠凛全員から突っ込まれている伊月。本当仲良いなお前ら。

 そんなこんなでわーわー言い合う。各校で言い合う所もあれば他校に喧嘩を吹っ掛けに行く奴もいて、凄く騒がしいし収拾がつかない。
 オレもそらさん助ける為なら普通に出来るけど、絶対劉辺りにムッツリ言われるからちょっと言いにくい。だから此処だけの話にしといてくれ。

 そらさんの方へチラッと目を移すと相変わらずスヤスヤ眠っている。もし眠ったままだったら此処から脱出出来る可能性がグンと低くなる。
 そらさんが如何に必要か今回の事でよくわかった。まあこの間に少しでも休めているんだとすれば、動きっぱなしだったから丁度いいとは思うが…でもやっぱり起きてくれてた方が安心すんな。あの笑顔とか見てると元気出るし。
 つかこれでキスで目覚めなかったらマジでどうするよ。

「皆さん落ち着いて下さい」

 凛とした声が響きみんなが静かになる。鶴の一声って奴?相変わらずすげえな、赤司。

「そらさんには悪いですが、情報が少ない中で解決策を見出すには手当たり次第出来る事をしていくしかありません。ですがこれでは進めようにも一向に決まらないので、ここは女性陣に意見を仰いだ方がいいのではないでしょうか」

「けどさっき反対だって」

「そらさんを助ける為ならと既に理解してくれているはずです。そうだろう、桃井」

「う、うん!」

「それと、必ず男がしなければならない確証はない。可能性として同性でも効果はあるかもしれないから、まず三人の中で誰かそらさんへのキスお願い出来ませんか」

「「えっ」」

「Of course!」

 そっち?まあ確かに女でもよかったら揉めなくて済むしな。だがみんなの落胆加減が半端ない件。

「じゃ、じゃあアレックスさんお願いします…私恥ずかしい…」

「わ、私も嫌じゃないんですけど、心に決めている人がいるのと恥ずかしいので…」

 二人共顔を赤くしているが、桐皇マネはちょっと照れている意味が違う気がする。コイツも違う意味で不純な気持ちあるんじゃね。
 アレックスさんは喜んで!と至極嬉しそうに胸を叩くと嬉々としてそらさんに近寄った。
 そして慣れたように熱いキスをかました。流石欧米…二回目だけど見てるとやっぱ恥ずい。

 しかしそらさんは起きなかった。

「起きねえじゃん」

 青峰が言ったと同時にガッツポーズする森山。あからさま過ぎて本当清々するなコイツ。

「…では仕方ありません。男でも試す必要があります。三人は誰が適任だと思いますか?」

 成る程、平等に決める為に女に任せる感じか。これなら揉め合う必要はねえな。
 一部の人がドキドキしながら女性陣三人に注目する。

「えっと…適任者はやっぱりしっかりして下心がなさそうな人よね」

「大事なそらを任せられると思える奴がいいよな」

「状況が状況ですけどそらさんのキスカウント一つに加算される事ですもんね」

 三人がブツブツと呟きながら顔を寄せて話し合っている。各々適任者を言っていく事に決まったらしい。

「赤司君」

「タツヤ」

「ミドリン」

「「………」」

 バラバラじゃねえか。

「じゃあその三人でジャンケンしたらよくね」

「ここは本人達じゃなくて選抜した三人にしてもらったらどうっスか?」

 そのやり取りが面倒臭くなったであろう虹村がそう言い、ちょっと楽しんでる感が否めない黄瀬が言うと、女三人がジャンケンをする。

「いやいや真ちゃん絶対下心あるって」

「チッ…」

「花宮が不機嫌や。外れてショックが隠せんのか」

「うるっせぇよ!!」

 納得のいかない数名がぶつくさ言っている間に決まったようだ。

「赤司君、お願いしてもいいかな」

 赤司様でした。

「わかりました」

 淡々とした様子で頷いたのを見て、女三人が選んで正解だと言い合っている。だがその瞬間オレと複数の男は見てしまった。
 僅かに口角を上げている事に。

「異議ありー!!」

「今赤司笑っていたのだよ!!」

「お前演技だろ、それ演技だろ!」

「上手いな、赤司君は」

 高尾緑間花宮氷室の順で口々に抗議するが、赤司はそらさんに歩み寄る途中振り返る。

「何の事ですか?」

「「(コイツ…!!!)」」

 微笑する赤司に奴らは今にもギリィ…と歯軋りが聞こえそうなツラだ。
 赤司はそらさんの隣に腰を下ろすと上半身を抱き上げる。(その際にさり気なく唇を親指で拭いアレックスさんの痕跡を消したのをオレはちゃんと見てた。)
 そしてそっと空いている手で頬を優しく撫で、すみません、と呟いてからゆっくり唇を重ねた。

 男のオレが言うのもなんだが、その動作が正に“王子様”って言葉がピッタリだった。数秒唇を重ねる姿を、オレ達は目が離せないでいた。まるで映画やドラマのワンシーンのようだと、そう思った。
 誠凛監督と桐皇マネに関してはきゃーと言いながら赤面して見守っている。女子か。あ、女子だ。

 数秒後、ゆっくりと唇を離した赤司。間近で見つめていると、そらさんの瞼がピクリと動く。

「…そらさん」

 ゆっくりと開いた瞼。そらさんは虚ろな目で目の前の赤司を見つめる。

「……何か近くない?」

「すみません」

 状況が理解出来ないのかじわじわ頬を染めたそらさんは、冷静を努めながらそう呟く。赤司はふっと笑うと謝って身を少し離した。

「そらさん!」

「起きてよかったー!!」

「ん?え?あれ?あたし何で体育館にいるの?」

 抱き着く誠凛監督と桐皇マネにキョトンとしているそらさん。今までの経緯を説明されると、フリーズした後ワナワナ震え出した。

「ごっ」

「「ご?」」

「ごめんなさいぃぃぃぃ!!赤君本当ごめん!!あたしみたいなゴミクズが迷惑掛けて貴重なキスまでさせてごめんんんんん!!」

 ゴミクズって。何処かの謝りキノコ並みに謝り倒している。

「特にファーストキスだったらどうしていいか…」

「はい、初めてです」

「ウッソォォォォォ!!?どどどどうしよう!!責任取った方がいいのかな!?親御さんに何て説明したらいいのか…!!」

「「いや大袈裟だから」」

 周りに突っ込まれても動揺を隠せず青ざめている。赤司はからかっているのか本当に事実を言ったのかわからない顔で微笑んでいる。

「オレはそらさんが助かってよかったと思います。救助に貢献出来たと思えば問題ありません」

「そ、そう?(遠回しに救助目的以外ならしてないって言われてる気が…いいんだけどね…)」

「はい。ああ、でも」

 そこまで言って赤司は耳元に口を寄せると周りに聞こえないように囁いた。

「そらさんとのキス自体が嫌ではなく、寧ろ逆にいいチャンスだと思いましたけど」

「!!?」

「「そらさんんんんん!!?」」

 何を囁いたかは知らないが、そらさんの頭が爆発した。恐るべし、赤司。












江里様、お待たせしました!
各校代表の中から私の独断で赤司にしましたが、この流れでも問題ないでしょうか。複数からも考えたんですがストーリーが練りにくく、この形にさせて頂きました。気に入ってもらえると嬉しいです。
素敵なリクエストありがとうございました!

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