SPIRIT WORLD遭遇
火神少年とアレクさんの言い合いも落ち着き、あたしに気を遣ってくれてそのまま女性陣で固まり他愛ない話をしていると手を叩く音が聞こえそちらに顔を向ける。
手を叩いて注目を集めたのは今吉少年。笑みを浮かべながら口を開いた。
「ほな今からまた探索に行ってもらうで。行くチームは陽泉、海常、正邦、秀徳や。んでもって山口さんは陽泉に混ざって行ってもらう」
立ち上がっていると呼ばれた自分の名前に僅かに目を見張る。陽泉と一緒?マジか。
「探索ではまだ集めきってない紙や手掛かりを探す事。怪物には気を付けて無理をしないように。特に三階に怪物の声や音を聞いたとの情報が多いので気を付けて下さい」
「今回も一時間程度で戻って来てや。陽泉と正邦は三階、海常二階、秀徳が一階見て回ってくれ」
赤司少年と今吉少年の言葉に頷く探索組。三階に怪物が多いかも…だと…そんな所に行かされるとは鬼畜なり。正邦は三人だからあたしらと同じ階の様子。人数多く行かせるのは怪物対処の為かしら。
あたしは陽泉の固まる場所へ行こうとしてさっちゃんに止められる。
「うん?どした?」
「…気を付けて下さい」
心配そうな顔をするさつきちゃん。リコぴんも同じで、アレクさんも表情がやや固い。
「大丈夫。ちゃんと帰ってくるよー」
よしよしと撫でてあげると目を細めて笑う。可愛い死ぬ。
「そら。髪が邪魔になるといけないからな、結んでやる」
そう言ったアレクさんに軽いポニーテールをしてもらう。うん、確かに邪魔じゃなくて動きやすい。丁度ゴムを借りようと思っていたところだったんだ。
「ありがとうございます、アレクさん」
「ああ。気を付けて」
どうやら周りの話を盗み聞きしたところ、女性陣は探索に行っていないらしい。そりゃそうか、怪我させたら大変だし。
でもあたしは行く。理由は言わなくてもわかる通り。まあ行かされる感覚はあんまりないよ、行くつもりだったし。何でもするっって言ったのはあたしだし。
疑われなくなったら女性の扱いしてくれるのかなーなんて思いながら陽泉の元へ。
「宜しく!」
にこやかな挨拶をする。各々反応を示してくれた。無視じゃなくてよかった切実に。
「ね〜、あんたさー」
「ん?何だい?」
「お菓子持ってないー?」
出た紫原少年のお菓子くれアピール。あるわけない。
「ないなー」
「えー」
「あったら食べてるしー」
「使えなーい」
「ごめーん」
緩い話し口調を真似て会話する。あたしはノリはいい方だと思う。合わせるの面白いよね。
「真似すんなしー」
「移るんだもんー」
「嘘だ〜」
「本当〜」
「もういいから」
この終わりのない会話に終止符を打ってくれたのは福井少年。ありがとう。
そうこうしているうちに準備が整い出発する事に。
ガラリと重い音を立てて開いたドアの向こう側は薄暗い。外が淀んだレインボーでも雰囲気は暗めだ。ちょっと怖くなってきた。お化け屋敷入る直前みたいな心境だ。
一つ深呼吸をして前を見据え、出発する。
「行ってきまーす」
振り向いて軽くそう言うと、複数の「行ってらっしゃい」が聞こえて嬉しくなった。背中にその言葉を浴びて足を踏み出す。
いざ出陣!
校舎に入った探索組はそれぞれの階で分かれて探索開始。あたしらは正邦と同じ三階で、ぼちぼち会話しながら階段を進む。あたしは口開いてないがな。話題ないし、何より急に何が来ても反応出来るように神経尖らせています。無意味ですが。
校舎内は薄暗いが全く見えないわけではない。でも懐中電灯があればいいなと思う。見付かりますように。あと脱出の手掛かりも。忘れてないよ大丈夫。
「三階の此処からあの突き当たりまでは探索がまだじゃったな。正邦は手前から探索頼む。ワシらは突き当たりから探してみるわい」
「りょ〜か〜い」
紫原少年同様緩〜い話し方の春日少年。緩過ぎてちょっとズッコケそうになった。吉本的なノリで。
登ってきた階段から近くの教室、1年G組に入る正邦を一瞥してあたし達も奥へ進む。並び順は前方に岡村少年(とは言えない)と福井少年、真ん中にあたしと氷室少年、後方に紫原少年と劉少年だ。囚われた、というより囲まれた宇宙人の意味がよくわかる図ですね。
「よし。此処から入るぞ」
辿り着いた突き当たり。L字になって左へと廊下は続いているが、取りあえずという事で目の前の教室1年A組から調べる事に。
岡村少年が警戒しながらそっとドアをスライドするが、中には何もなくただの教室の様子。ゾロゾロと中に入り調査開始。
あたしは念の為天井なども見渡して本当に何もいないか確認。フラグ立てるつもりなんて毛頭ございませんから。
「普通の教室だね」
「何もないな、この教室は」
「次にいくアル」
六人で虱潰しに探してみたが何事もなく次にいく事に。
そうこうしているとあっという間に四つの教室を調べ終えた。収穫は一切なし。
1年D組の教室から出ると一つ教室を挟んだ教室から出て来た正邦の三人。手に何か持ってる…見付けたんだ。そうなると残りはこの一つの教室。他を見るなら先程のL字の突き当たりを左に進むしかない。左に進んだ先は何だろう、特別教室とかかな。
まだ時間はあるので、残り一つは正邦に任せて奥に行くのだろうかと思いながら、岡村少年の指示を待つ。ふと顔をその突き当たりの方へ向けるとギクリとした。誰か立ってる。
「う、へえ」
「何ー?間抜けな声出して」
喫驚して情けない声が出てしまい、それを拾った紫原少年が問い掛けてくる。
ざっとみんなを見渡すが三階に来た全員揃っている。という事は、第三者であるという事。
「誰かいるんだけど…」
「え?」
あたしが見つめる先を見た氷室少年。続いてみんなも顔を向けて一同目を見張る。
薄暗い先に見えるぼんやりとした影。少しずつゆっくり近付くそれの姿が段々鮮明になると、あたしは小さく息を飲んだ。
「何じゃあ、ありゃ」
「ミイラ男?」
「包帯汚いねー」
「すっげえグルグル巻き!顔見えてないんだけど!」
え?
岡村少年、福井少年、紫原少年、津川少年が次々に口を開く。特に怖がっていない声色にあたしは眩暈がした。
何言ってんの、この子ら。
「血は出てるみたいだね」
「でもそこまでグロくはないな」
着実に近付く怪物に対し未だ焦った様子のない氷室少年と岩村少年(とは言えない)の言葉を聞きながら、怪物から目を離せない。
だって、ただのミイラ男じゃないんだもん。
全身を赤黒く染め上げた包帯は、緩く巻かれているだけで爛れた皮膚を隠しきれていない。包帯の下は焼け爛れたような皮膚、所々皮膚が剥がれ落ちて骨が見え隠れしており、歩く度に血液と思われる赤黒い液と共に腐敗した皮膚がずり落ちる。
びちゃり、と床に落ちる音も鼻を突く腐敗臭も漂うそれは、絵本などで見る包帯をグルグル巻いている可愛いミイラ男ではない。会話からみんなにはそう見えているようだが、何故だろう。
俯き気味の顔が上がった。殆ど抜け落ちた髪の毛、血だらけの顔面、削がれた鼻、顔にも緩くしか巻かれていない包帯の下で目があるはずのそこは空洞。黒い闇が広がった気がした。
我 求ム
くちゃっ…と音を立てて開かれた口は、皮膚があまりなく骨と歯が見えた。
まだ距離があるはずなのに、鮮明に見えて聞こえて嗅ぎ取って。聞こえた声は酷く嗄れているのに、耳元で囁かれているようにはっきり聞こえた。
ソノ 万能ナ 身体
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