SPIRIT WORLD
襲撃

 ゾワッと一気に鳥肌が立った。頭の中で警告が鳴る。
 途端、走り出したミイラ男は真っ直ぐこちらに向かって来た。

「うわっ来たぞ!!」

「逃げる?」

「あれくらいなら問題ないと思うよ」

 福井少年と春日少年の言葉に不敵な笑みを浮かべて皆の前に出た氷室少年。迎え撃つ気だろうか。
 確か彼はエレヤンと呼ばれるやんちゃ坊やだったな。じゃなくて!

「馬鹿!逃げるよ!!」

 そう言ってみんなの背中を押し出し階段に向かって走らせる。急な事だったが流石運動部。詰められた距離を一気に離す。あたしも必死にみんなについていくが、みんなの背中を強引に押した事もあり最後尾。ちらりと見たミイラ男との距離はおよそ5m程。
 しかし可笑しい。もう着いてもいいはずなのに一向に階段へ辿り着かない。

「全然階段に着かないアル」

「無限ループ的なのかね〜」

「落ち着き過ぎだろお前ら!!」

 劉少年と春日少年と福井少年のやり取りを聞きながら、異空間である此処で何が起こっても可笑しくないから納得。
 無限ループ。アイツに追い掛けられている限り続くのだろうか。
 みんなより持久力のないあたしの息が上がる。走りっぱなしなんてごめんだ。どうするか。

「やっぱりアイツを殺った方がいいと思うけど」

「室ちんに賛成ー」

「は…っ、駄目!アイツ、変な事言ってたじゃん」

「変な事じゃと?」

「捕まったらどうなるか…っ!?」

 出来ればそうしたいが近付きたくないし彼らを近付かせたくない。何されるか単純に怖いのだ。あたしらの体が欲しいなら特に。
 怪訝な岡村少年の声に反応出来ずどうするか考えあぐねていると、右足に何かが絡まり縺れてこけた。

「は!?」

「山口さん!!」

 見ると足には血まみれの包帯が括られている。先を辿ると立ち止まり包帯を持っているミイラ男がいた。状況として巻いていた包帯を外してあたしの足に絡めたと思われる。
 どんな能力者だ貴様。
 氷室少年が手を差し伸べてくれて掴もうとする前に一気に引きずられた。

「に゛ゃああああ!?」

「なっ!?」

 イ〜ト〜巻キ巻キ イ〜ト〜巻キ巻キ

「無邪気か!!」

 楽しそうに歌いながら包帯を巻き取るミイラ男に怒号を浴びせるが、引きずる速さがハンパない。某小力芸人の如くグルグルと手繰り寄せられ、ミイラ男の元に来ると体の上に跨られた。所謂馬乗りというやつですが、いかんせん相手がグロテスクなミイラ男なのでトキメキもクソもありません。寧ろ嫌悪と恐怖しかありません。

 ソノ目 羨マシイ チョウダイ

「あっ…」

 顔を近付けられ口から今にも滴り落ちそうな血。涎も混ざっているのか透明な液も見える。汚い。
 爛れた手があたしの顔に伸びた。

「うおおおおお!!!」

 誰かが雄叫びを上げて駆け寄ってくる。声から察するに津川少年と思われる。が、あたしはそれどころではなかった。

「ぎゃあああああ!!!」

 ガンッ!!と肛門を蹴り上げた。

「うおお!?」

 そのまま勢いでせいやぁっと後ろへ放り投げると津川少年の方へ行ったようで、驚いた声の後殴り飛ばし壁に激突する音が聞こえた。
 直ぐさま起き上がって服や顔を触って確認するが、何とか血があたしに滴る事はなかったようで安堵する。

 え?そうです汚いのが付くのが嫌だったんです。恐怖もあるけど、何より気持ち悪かったよね。

 確認してからやっとみんなの方へ振り返ると氷室少年と紫原少年が駆け寄ってきており、その向こう側では正邦の三人が中心になってミイラ男を囲んでいる。古武術だっけ、習ってるからきっとバスケ以外でも強いんだろうな。

「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫」

 氷室少年に肩を抱えられながら頭を潰してトドメを刺そうとしている津川少年が目に入る。その時ミイラ男の首元に何か黒い…靄?が掛かっているのが見えた。もしかして、と直感で声を上げる。

「違う!頭じゃない!」

「山口さん?」

「首!!首を狙え!!」

 氷室少年の不思議そうな声を無視して指示を出す。同様に不思議そうな顔をしたみんなだが、言われた通りに岩村少年は何処から持ってきたのか箒の柄をミイラ男の首にぶっ刺した。
 嗄れた声で絶叫したミイラ男はやがて金の粒子を飛ばして消えていった。辺りにあった血や包帯も程なくして消えていく。

 やっと消えた怪物に一気に肩の力が抜けて氷室少年もたれ掛かった。だって肩支えてくれているし。この機を逃すまいて。ぐふふ。
 イケメンに肩抱かれるなんて中々ないよ!

「大丈夫ー?」

「うん。たっちゃんもありがとう。あー吃驚した」

「いえ(たっちゃん?)」

 紫原少年に尋ねられて返事を返すと、「ん」と手を差し伸べられたのでお言葉に甘えて掴まり立ち上がる。氷室少年改めたっちゃんは支えていた手をゆっくり離した。

「…山口さん。詳しい話聞かせてもらえるじゃろうか?」

 近付いてきた岡村少年がさっきの事を指しているのは容易にわかる。だって会話食い違ってたし、あたしが何か別の物が見えていた事は全員が思っているはず。

「うん、わかってる。けどその前にあと一つの教室を見てからにしよう。体育館に戻ってから…みんなの前で話すよ」

 脳裏から離れないミイラ男の容姿に頭を抱えたくなった。今更だが恐怖が脳内を占めて情けない事に体が震えてきた。
 頷いた岡村少年は正邦三人と福井少年に声を掛けて近くにあった1年E組に向かう。あれだけ走ったのにE組の前から殆ど離れてないとかどんだけええええ。

「劉とお前達二人は山口さんについて此処におれ。直ぐに見て戻る。油断したらいかんぞ」

「仕方ないアル」

「はーい」

 入る直前に残りの陽泉三人にそう言い残すと教室へと足を踏み入れた。劉少年と紫原少年は軽い返事を返し、氷室少年は頷く。
 岡村少年は震えているあたしに気を遣ってくれたみたい。男前だ。

「ところで山口さん」

「何?」

「オレもそらさんと呼ばせてもらっても?」

「呼んで呼んで!改めて宜しく、たっちゃん」

 意外や意外。勝手にあだ名で呼んだのに警戒心が強いと思ってた彼からそう言ってくれるとは思わず、ちょっと呆気に取られたが同時に嬉しかった。

「じゃあオレはー?」

「むらっきー。もしくはあっちゃん」

「えー。んー、あっちゃんがいい〜」

「オレは何アル?」

「…劉ちゃん?」

 紫原少年と劉少年もノッてくれる。何この子らいい子!調子に乗って呼ぶけど満更なさそう。可愛い。
 いつの間にか震えも収まっている。まさか震えを止める為にこの話題を…なんて自惚れも大概だな。

 そこから少し楽しく会話しているうちに探索を終えた岡村少年達が戻って来た。あっちゃんと劉ちゃんも名前で呼んでくれる程には仲良くなりました。
 それが上辺でも、この場だけでもあたしにはありがたい温かみなので充分です。

「あ、ともっきー!さっき助けてくれてありがとね」

「ともっきー!?えっと、どーいたしまして?」

 先程助けようとしてくれた津川少年に駆け寄り、まだ言ってなかったお礼を言うとあだ名に喫驚しつつ疑問で返された。あれか、実質助けようとしてあたしが奇跡的に反撃してたから助けたか微妙みたいな心境か。

「何か見付かりましたか?」

「G組で白い紙が一枚と、E組で黒い紙が一枚な〜」

「じゃあ少し早いかもしれんが体育館に戻るぞ」

 たっちゃんの質問に春日少年が答え、岩村少年の促しで一同戻る事になる。先程襲われたのもあり、あたしはまた真ん中。横にはあっちゃんがいて、後ろにたっちゃんと劉ちゃん、最後尾に岡村福井コンビ。岩村少年筆頭で春日少年とともっきーが前方を固めている。
 コレすっげえ安心感。みんな背中広いなかっけえよ。

 戻りながらふと考える。紙が発見されたって赤司少年も言ってたけど、そういや詳細を全く聞いてなかった。みんなは白と黒の紙があるって事を周知している様子。そりゃそうか、探索毎に話し合ってたとすれば頷ける。
 紙以外でもあまり此処の詳細な情報(例えば構造や今までの探索結果など)聞いてなかったな。まあ信用出来ない相手にホイホイ情報流すかって言えば悩みどころだけど、何も知らないって結構危険だな。
 戻ったらちゃんと説明を請わねば。

 帰りは特に何も遭遇せずに戻れた。取りあえず一安心。三階怪物多いかもって言ってたけどうじゃうじゃいなくてよかった。

6/45
←|→

BACK/TOP
ALICE+