SPIRIT WORLD
不可抗力の壁ドン

「壁ドンっていいよね」

「どうしたんですか?急に」

「疲れて現実逃避でも始まったか?」

「アレクさん…現実ではありえないって言い切る部分がやや辛辣」

 探索から帰ってきて休憩中。壁にもたれながらあたしがポツリと零した言葉にリコぴんとアレクさんが反応する。さっちゃんは遠い目をするあたしに苦笑した。ちょっとした女子会だ。

「壁ドン床ドン肘ドン股ドン足ドン肩ズン顎クイ耳ツブおでこコツン…うへへへへへへへへ」

「段々壁ドンから離れていってますよ」

「遂にそらがおかしくなった」

「壁ドンされたら壁ギュする」

「お願いそらさん戻ってきて」

 ニヤニヤし出して妄想に勤しむあたしにさっちゃんがツッコミを入れ、アレクさんが手遅れみたいに話すのを聞きながら壁ドンの仕返しに壁ギュやら壁グイやらをしてやるのにと零すと、最早重症と受け取ったリコぴんにゆっさゆっさ揺さぶられる。
 ぶっちゃけいつぞやの探索で俊ちゃんに床ドンされたけど。(連載番外編:護衛する森山宮地伊月参照)
 あたしはこの会話に耳を立てている人達がいる事など気付かなかった。










「フライパンの活躍が減ってきていると思うのでちゃんと使用しようと思います」

「何その宣言」

 あの後探索に出掛けた探索組。突然の宣言に隣のタカ君はケラケラと笑って、あたしの持つフライパンをスルリと取っていった。その会話を聞いてクスクスと笑うのはあたしの後ろを歩く赤君とたっちゃん。マコマコと真ちゃんは興味なさげに先頭を歩いている。

「確かに持っていくだけで使わない時多いもんなー」

「忘れちゃうんだよね。お世話になってるのにフライパンさんに申し訳ないわ」

「フライパンさんって」

 のほほんとそんな会話をしていると、ピタリと足を止めたマコマコと真ちゃん。自然と後ろを歩くあたし達の足も止まり、あたしはヒョイと前を覗く。

「どしたの?」

「…あれ」

 そう言ってマコマコの指差す先には狭く薄暗い廊下に佇む古い松の木。何故こんな所に?と怪訝に思いみんなで首を傾げているとそこからぼとりと大きな物が落ちてきた。

「何だありゃ。…ジブリに出てくる頭かしらみてー」

「ひっ…」

 タカ君は目を見張りながらも少しおかしそうにそう言った。だが案内人のあたしにはやっぱり違うように、正体が視えてしまう。
 あたしに視えるのはジブリに出てくるあんな可愛らしいものではなく、おじいさんのような頭に目は虚ろで片方の目だけが溢れ落ちそうな程開かれており耳まで避けた口元、そこから見える鋭い牙や長く白い髭には血がべっとりと付いていた。

 現場を見なくても何となくわかる。コイツは人喰いだ。

「つ、るべ、落とし…」

「釣瓶落とし…?」

 あたしの口から零れた名前を赤君は復唱し少しだけ目を見開く。その異様な様子を感じ取り、たっちゃんがあたしの前に立ちはだかる。赤君は知ってるみたいだ。
 以前休日に某ゲゲゲの妖怪アニメがやってて観た覚えがある釣瓶落とし。地方によって言い伝えは変わるらしいが、木から落ちた大きな生首が人を驚かしたり人を喰ったり木の上に人を引き上げ木から落とし殺したりするという妖怪、だったはず。何で今回はこんなに博識なんだってツッコミは受け付けませぇーん。

 その首は体という名の頭をズルズルと引きずってゆっくりこちらに近付いてくる。みんなが一歩後ずさった。

 久シイ人肉 女ガ一人 男ガ五人 誰カラ喰ロウテヤロウ

「た、食べられる…!生首怖い!」

「あれは人を食べるのか」

 女ァ 貴様カラジャァァァ!!

 あたしがフライパンやバットだけでは負けると直感して前にいるたっちゃんの服を引っ張り、食べるというワードに反応した真ちゃんは少し感心したように呟く。赤君は全体にひとまず引こうと言い掛けたが、急に勢いよく頭が飛んで突進してきた。大きな口からは涎が滴っている汚い。

「ぎゃああああああ!!」

「っ!」

 あたしは恐怖に慄き体が硬直し動けずだったが、たっちゃんがあたしを押してしゃがみ込んで避け、みんなもしゃがんで避けたのが視界の端に入った。ガクンと足の力が抜けて後ろに倒れるが、壁にぶつかると思いきやたっちゃんの手があたしの頭部に回されぶつかる事はなかった。しかし尻餅ついたあたしの視界は暗くなる。

「ッ!!?」

「Are you O.K.?」

「は、あ…ああああい!」

 目の前には綺麗なたっちゃんの顔。微笑を浮かべながらも心配そうな顔をして見下ろす彼は、片手であたしの頭部を支えながらも壁に背中をぶつけないようにと壁に手を付いて自分自身ととあたしの体を支えていた。

 もうおわかりですね。これが生壁ドンです。まさか本当にこんな美味しい展開があるなんて!!あざす!!たっちゃんんんんん!!

 けど恥ずかしい!変な返事になったし!

「してくれないの?」

「へ」

「壁ギュ、ってやつ」

 策士ィィィィィ!!でも許す!!っていうか話聞いてたんか。

「で、」

「?」

「出来ましぇん…」

 鼻血出そうなんで勘弁してもらってもいいッスか。偉そうに壁ドンされたら壁ギュするって言ってすみませんでした。

「氷室さんそらさん!」

 聞こえた赤君の声にハッとしたあたしが声の方を振り向くと、避けられた頭が再度突進してきていた。しゃがみ込んでいるあたし達に避ける術がない。気を抜いてすみませんこんな場でいい思いしてすみません殺さないで!

 そう思ってぎゅっと目を閉じるとヒョイと抱き上げられる感覚がした。目を開ければマコマコの顔が近くにあって、マコマコに助けられたんだとわかった。しかも姫抱き。マコマコが姫抱き。おったまげ。
 それと同時にガッ!!と鈍い音が廊下に響く。音の方を見るとたっちゃんは逃げずにその場で迎え撃ち、目を拳で殴り付け弾き飛ばしていた。エレヤンたっちゃんパネェッス。

「ナーイス氷室さん!赤司真ちゃん来い!!」

「ああ。いくよ」

「フン」

 次いでタカ君の陽気な声が響いたかと思えば彼はやる気満々の顔でフライパンを構えており、返事をした赤君は目を殴られ悶絶する転がった頭をいつの間にか持っていたバットで思いっ切り殴り飛ばした。それはもう容赦なく。妖怪じゃなくてよかったと心から思います。

「オイ、靄は」

「え、あ、おでこ…」

「高尾。額だ」

 マコマコはあたしを見下ろすとそう問い掛け答えると聞いていたタカ君が了解と返事をした。
 殴り飛ばされた頭を器用にキャッチした真ちゃんは目を回す頭を持ち上げ、シュートするようにタカ君の方に投げた。と言っても天井があるので低くぶつからないように床と平行にだが。悍ましい顔が視えないからこそ出来る事だと思います。

「バッター高尾ー打ちまーっす!!」

 そして狙いを定めたタカ君はフライパンを振りかぶり見事額を強く打った。断末魔を上げて消えていく怪物に自然と安堵の息が漏れる。

「ふぎゃ!!」

「重い」

「進んで助けてくれたくせに辛辣!」

 同時に重力に従って落ちるあたしの体。着地なんて出来るはずもなく、お尻から着地したあたしは変な声が出る。マコマコ酷過ぎケツが四つに割れたらどうすんだ。

「オレが撫でてやんよー」

「心の中を読まないで下さいそしてセクハラです」

 フライパンを肩にトントンと当てながらニッと笑うタカ君にイケメンと言えどそれはタブーであると冷静に突っ込んだ。この空気に流されると思うなよ。

「で、氷室さんだけ壁ドンとかズルいっしょ」

「え」

「オレもしていい?んで壁ギュして」

 語尾にハートが付きそうな調子で言うタカ君。悪ふざけが過ぎるぜ…。っていうか君も聞いてたのね。
 その肩を掴んで止めるいい笑顔のたっちゃん。

「オレもしてもらってないのにそれは許せないな」

「氷室さんばっかりいい思いさせらんないッスよー」

「高尾。こんな場で不謹慎なのだよ」

「そんな事言っちゃって。自分は恥ずかしくて壁ドン出来ないから僻んでんっしょ」

「何だと…?僻んでいないのだよ!」

 何やら三人の間に火花が見える気が…。そう思っていると隣に立った赤君は苦笑をして探索を続けようと促した。啀み合い(主に真ちゃん)ながらも並んで行こうとしたところで赤君は声を漏らす。

「あ、」

「ん?」

「そらさん、付いてますよ」

 不意に聞こえた声に歩みを進めようとした足を止めると赤君はあたしの顔に手を伸ばす。何が?と疑問符を浮かべながらも付いた何かを取ってくれようとしているので動きを止めるが、顎に手を添えられクイッと軽く上に上げられる。

「っ!?」

「「「「!?」」」」

 あ、顎クイ…だと…!?
 あたしが硬直すると周りも吃驚して息を飲むのがわかった。赤君は真顔だったが悪戯に微笑を浮かべると手を離した。

「顎クイってこれで合ってましたか?」

「…あ…合ってました…」

 え。赤君も聞いてたの。
 そんなにみんな聞いてたのかと思い残りの真ちゃんとマコマコに目配せすると、真ちゃんは少し赤面して肩を震わせていてマコマコはやや呆れた目をしていた。真ちゃんはこの場面を見て赤面してるだけで聞いてなかった可能性もあるな。

「な、何で」

「…そらさんの話を聞いて興味があっただけです」

 そう言って笑った赤君にあたしの脳は機能を停止した。そんな無邪気な好奇心とかあったのね。いや、無邪気っていうのかこれは。

「おでこコツンってやつもやってやろうか」

「そのワードがマコマコから聞けただけで充分です」

 絶対面白がって言ってるでしょマコマコ。おでこコツンって言い方違う人が言うだけでこんなにも破壊力あるんですねわかります。
 でももうゲップしか出ません。(訳:満腹です。)あ、お食事中の方汚くてすみません。

「じゃあ残りの真ちゃんは耳ツブで」

「…?耳つぶって何なのだよ」

 タカ君の揶揄に真ちゃんは疑問符を浮かべていたのであたしとタカ君は目を丸くさせた後おかしくなってクスクス笑った。話の流れで壁ドン的なのとはわからなかったみたいだ。
 やっぱり真ちゃんは純粋なのね。少なくともこの中で一番真っさらだと改めて感じました。

 あと不用意にアレされたいコレされたい言うのも自分の首を絞めるって事を改めて理解出来た美味しい出来事でした。











江里様、大変お待たせしました!
二つ目のリクエストです。
ご要望のキャラ全員に壁ドンをさせる事は出来ませんでしたが、お姫様抱っこと顎クイも勝手に織り交ぜさせてもらっちゃいました。てへぺろです。
書いていてスラスラ楽しく書けました(笑)
素敵なリクエストありがとうございました!

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