SPIRIT WORLD
もしも某ホラー映画の彼女らが出てきたら

 現在探索中。あたしは秀徳と共に薄暗い廊下を歩いています。
 何度も探索を繰り返しているお陰で大分みんな度胸というかそんなものが最初より随分ついてきた気がする。まあ言う程ビビっちゃいなかったけど。
 ちなみにそんなあたしは他の子と見え方が違うのでそんな度胸なんてものはついておりやせんぜ。仕方ないよね。

「そらさん大丈夫?」

「うん。周りがちょっと気になるだけ」

「いつ出てくるかわかんねえしな」

 常に周りを気にしているあたしに隣のタカ君が声を掛けてくれた。あたしの返事を聞いて前の清ちゃんは同意する。あたしが怪物に怯えているのはみんな理解しているので、こうしてたまに声を掛けてくれる。みんな気遣い出来過ぎ涙ちょちょぎれそう。

「やはり何も手掛かりがないな。他の階に行くか」

 今は一階で怪物と出会う事なく進めていた。何も得た物もないが。上の階に上がると言うツボちゃんの言葉にみんなが頷く。
 そして別館側にある階段へ差し掛かると、一階と二階の間の踊り場に誰かがいる事に気付く。誰かなんて野暮な言い方だったね。探索はあたしと一緒にじゃないとみんな行かないし、待機組の誰かが此処にいるわけがない。他に誰かが迷い込まない限り。

 佇む人影を見てみんなの足が止まる。その人影は白く汚れた長袖ワンピースの服で髪はかなり長く顔を覆っている。どう見てもかの有名な貞子だった。仮に貞子っぽいのと呼ぼう。
 タカ君が頬を引き攣らせたのがわかる。あたしも出来るならこのまま顔を拝まずにやっつけるか撤退したいと思い、冷や汗を滲ませながらその貞子っぽいのを見つめ黒い靄を探す。が、見えなかった。

「…嘘でしょ。モヤモヤがない」

「「え」」

 あたしの呟きを聞いてみんなが停止した。すると一瞬にして貞子っぽいのが先頭のツボちゃんと清ちゃんの目の前に移動した。

「「っ!?」」

「だああああああ!!」

 ガンッ!!

 息を飲んで硬直した二人に手を伸ばそうとした貞子っぽいのに向かってあたしはほぼ無意識でフライパンを振り下ろす。ツボちゃんと清ちゃんの間を割いて振り下ろされたそれは頭頂部に当たり、貞子っぽいのは呻く事なく衝撃を受けて頭が下がる。

「逃げろぉぉぉぉおおお!!!」

「いつになく速いな!!」

 その隙にと回れ右をして真ちゃんと村ちゃんと隣のタカ君を押しツボちゃんと清ちゃんの服を引っ張り叫ぶ。声に反応して反射的に走り出したみんなに余裕でついて行けるくらいにあたしは今回足が速かった。寧ろちょっと真ちゃんと村ちゃん抜かしたから村ちゃん吃驚してた。
 だって直感が言うんだもん。靄が見えなけりゃ勝てないって。もしあれがモノホンの貞子だったらあの世に連れてかれるかもしれなじゃん。

 後ろを向いてみると両手を伸ばして走ってきている貞子っぽいの。みんな必死の形相で逃げる事数秒、あっという間に渡り廊下に繋がるドアの前に来れたがあたしは気付いてしまった。

「ひぎゃあああああああ!?」

「「うおぉああああああ!?」」

 あたしが見た先を見て清ちゃんとタカ君も叫ぶ。体育館側の階段を這い蹲ってゆっくり降りてきているのは、これまたかの有名な茅子。こちらも仮に茅子っぽいのと呼ぶ。
 髪の毛が長くこちらは白く汚れたタンクトップ型のワンピースの服で、長くボサボサな髪に血だらけの口を開いて目をひん剥きながらこちらを見て降りてくる。

 あ゛ あ゛ぁ゛あ゛ あ゛

「あああああああああ!!」

「緑間早く開けろ!!」

「っ!!」

 真似したわけではないが叫びまくるあたしの声にハッとして茅子っぽいのを見ていたツボちゃんが声を張り上げる。真ちゃんも硬直していたが直ぐにドアを開き全員が雪崩れ込むように渡り廊下へ移り、真ちゃんとタカ君がドアを閉めるとバンッ!!とドアにぶつかってきた貞子っぽいの。
 しかしこれ以上は来れないのは同じなようで恨めしそうにカリカリとドアを掻いて踵を返していく。茅子っぽいのもまたドアまで来るが開かないドアに八つ当たりするようにバンッと叩いてから踵を返していった。

 あたしは今までとは違う怪物で自分が思っていた以上に怖かったのかガクガクと武者震いのように体を震わせ座り込む。腰が抜けたとも言う。
 すると音に気付いた待機組の何人かが出てきて、あたし達の様子を見て何かあったと察し腰の抜けたあたしを永ちゃんが担いでぞろぞろと中に入った。

 そしてツボちゃんから何があったかの説明をし、今までとは違う点について話し合う。体育館に入ってみんなの顔を見たら震えは収まったので今はもう普通だ。

「あたしが見たのは正しくホラー映画で有名な貞子と茅子!って感じの怪物。特にグロさとかはなかった。映画で見た通りの二人だったよ」

「オレ達にもそう見えていたのだよ」

「あと声も聞こえたぜ!あ゛あ゛あ゛って」

「ちょ、マジでやめてそれ」

 ホラーが苦手なひろやんが茅子っぽいのの真似をしたタカ君の声を聞いて耳を塞いだ。可愛いな。

「ならそらさんと同じように見えるし聞こえる怪物っちゅーわけか」

「あと靄がないのは死活問題」

「倒せねえって事か?」

「あたしはそう直感した」

 翔ちゃんと若ちゃんが小難しそうな顔をして言うのを聞き赤君がひのちゃんに視線を向ける。

「有白さん。君はどう考える?」

「そうですね…由暗が作った怪物ではない可能性が高いです。その二つは元々は作り話ですが、人の恐怖が染み込んだ想像上のキャラクターに何らかの力が働いて魂が吹き込み、この世界に迷い込んだと思われます。だから靄も見えない。この説が一番説明付きます」

 話を振られたひのちゃんは顎に手を添えながら考え込むようにして見解を話す。可愛い子は何をしても様になるな。抱き締めていいですか。

「ちゃんと話を聞け」

「いてっ」

 マコマコにデコピンされた。何故わかったし。
 
「映画とかで倒す方法なかったし…最悪映画みたいに死後の世界に引き込まれたりって事もあるんじゃない?」

「可能性としてはなくはないですね」

 かずやんもあたしと考える事は一緒のようで、その言葉をひのちゃんは肯定した。
 うそーん。じゃあ下手に行動出来ないじゃん。あたしあんな二人いる中で他の子連れて探索行けないよ。自分一人ならまだしも。まあ一人でも行けないけどな!

「ど、どうすればいいの?」

「なんとか消滅させるしかありません…そらさん」

「ギクゥッ」

「口で言うなよ」

 いいよ、いいツッコミだよゆっきー。その調子で頑張れ。
 さっちゃんの問いにひのちゃんはあたしを呼び力強い目で見つめる。やめて。そんな目で見ないで穴空いちゃう。

「そらさんにあたしの力が入っているので、その力で撃退して下さい!」

「いやそんなガッツだぜ!みたいに拳握って応援されても」

 具体的に教えて下さい。

「じゃあ今から準備するのでコレを使って下さい」

 そう言ってひのちゃんはメモ書きに使っていた白紙の紙とボールペンを使って何かを作り始める。そしてそれが出来るとあたしに手渡した。あたしじゃないと駄目なんですかね。

「そらさんにしか出来ません。案内人なので…すみません」

 そんな悲しそうな顔をされたら断れないじゃんんんんん!可愛過ぎか!!

「やったろぉやないかァァァァアア!!」

「泣きながら気合い入れる人初めて見ました」

 お前も道連れにしてやろうかテッちゃんよぉおおおお!!










 ある限りの武器を持って出陣したあたしと秀徳+正邦一行。他の学校に変わるかと思いきや、あまり探索という探索も出来ていないし一回見たから耐性付いている自分達が行った方が、落ち着いてあたしのサポートが出来るだろうというお考えで秀徳陣はついてきてくれました。
 本当にもう、そんなおまいらが大好きでい。

 正邦は武術に長けているので武術でも対抗出来るように一応ついてきてもらった。赤君の案です。

 そして一行はさっきと同じように一階を歩く。いつ何処で出てくるかわからないので、視野の広いタカ君が真ちゃんと最後尾で後は適当に二列で並んでぞろぞろ歩く。ちなみにあたしは先頭から二番目に一人で歩いてますよ。

「…いないっすねー」

「静かにしろ」

「だって全然出てくる気配ないんスよ?」

 ともっきーが無言を割くように声を出すと岩ちゃんに怒られていた。やめてくれよともっきー。そう言ったら出てくるのがありがちな流れでしょ。まあ出てきてもらわないと困るんだけど。

「…そう言っているうちにホレ、お出ましだ」

 スガが前方を見て言うのを聞いてあたしは息を飲みぐっと全身に力を入れながら前を見据える。一階廊下のL字型の突き当たりに貞子っぽいのが佇んでおり、その雰囲気だけで恐怖だ。もう、そういうのはお化け屋敷でやって下さい。

「後ろからも来ましたよ」

 タカ君の声に後ろにも視線を向けるとあの独特な唸り声でズルズル体を引きずってゆっくり来る茅子っぽいの。ずっと思ってたけどその声必要?

「どっちから先にやる?」

「じゃあ貞子っぽいのからで」

「その間はオレが後ろの相手をしていよう」

「岩ちゃんカッコいい結婚して」

「この状況でそれ言うなよ挽肉にすんぞ」

 あたしは豚ではございませんけど。
 後ろの茅子っぽいのは岩ちゃんとともっきーと秀徳一年組が、貞子っぽいのはスガと秀徳三年組が対峙した。
 レディー…ファイッ!!

「オラァァァ!!」

 気合いを入れて清ちゃんがバットを振り上げて貞子っぽいのに向かっていくと、それをスルリと避ける貞子っぽいの。それを見越してスガが上段飛び蹴りを仕掛けると顔面に当たりふらついて後退した。カッケェ。
 あたしはその隙に距離を詰めて貞子っぽいのに手を伸ばす。その手にはひのちゃんお手製のお札がある。そうですね、あの時もらった物です。

 達筆に読めない字で色々書かれたお札一枚を対象に貼り付けて、教えてもらった印を組んで消えろと思うだけでいいらしい。
 あたしは顔を押さえて立ち止まった貞子っぽいのの頭に貼り付けようとした。

 あ゛あああ゛ぁ゛ああああああ゛ああ゛!!

「ぎゃああああああああ!!ごめんなさいぃぃぃ!!」

 すると急に貞子っぽいのの周りだけ風が吹いて髪の毛が舞い上がった。その下からは悍ましい青白い顔で大口を開けて叫び明らかにビビらせようとした顔の貞子っぽいの。
 間近でそれを目にしたあたしは当然半泣きで叫び一歩後ずさった。

「この…っ!!」

 村ちゃんはその顔に同じようにビビリながらも歯を食いしばってその顔を横からあたし愛用のフライパンで殴り付けた。殴れらる瞬間の顔ヤバい。ちょっと笑えたから思わず吹いた。

「そらさん!」

 それでもあたしに手を伸ばす貞子っぽいのに気付いたツボちゃんがその腕を掴み、あたしに札を貼るよう促す。あたしは直ぐにペチンッと頭にお札を貼り付けると素早く印を組んだ。

 消えろ!!チリになってな!!

 うあ゛ああぁ゛ぁ゛ああ゛ああああ!!

 厨二っぽく思いながら念じたら断末魔を上げながら本当にチリになって消えちゃったよ。なんかごめん貞子っぽいの。安らかに眠れ。

「そらさんんんん!!」

「はいいい!!」

 よかったと安堵したがまだ茅子っぽいのが残っていた事をタカ君に呼ばれて思い出す。あたしが慌てて振り返ると茅子っぽいのに腰に抱き着かれている真ちゃんが目に入った。だがその光景にあたしは思考が一時停止した。

 タカ君とともっきーが離すまいとして真ちゃんの腕や胴を掴み、岩ちゃんが茅子っぽいのの頭を幾度も蹴ったり後ろから首に腕を掛けて絞め上げたりして、真ちゃんも蹴ったり身を捩ったりする。しかし苦しそうに呻き血だらけになるだけで離れず、そんなのどうやって開いたのって思うくらい真っ黒な空間を作って闇に引きずり込もうとする茅子っぽいの。
 三人が必死に阻止しているが、力が強いのか徐々に引き込まれていく真ちゃんを見て血の気が引いた。
 真ちゃんが連れて行かれちゃう。

「っ緑間!!!」

 清ちゃんの声が後押ししたかのように同時に駆け出したあたしは今までにないくらいの速さで茅子っぽいのに近付きひん剥いている目を目掛けて爪先で蹴った。
 メリィとめり込だ蹴りを間近で見た岩ちゃんは、咄嗟に首を絞めていた腕を離しそこから離れる。後ろの支えがなくなった茅子っぽいのは顔を仰け反らせた。

「真ちゃんを…離せこのドブス!!お前にうちの息子はやらん!!」

 クワッと怒りを表すように叫んだあたしは茅子っぽいのの額に札を貼る。

「消えろ!!!」

 あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!!

 あたしが印を組んで声を大にして言うと茅子っぽいのは蒸発するようにその場から消え、真ちゃんを引っ張っていたタカ君とともっきーは引っ張る力が急になくなったのでバランスを崩して倒れ込む。

「「うおっ!?」」

「っ!!」

 真っ黒な空間はなくなっていて、その場に静寂が訪れた。

「…あの、そらさん?」

 恐る恐るといった感じで話し掛けるツボちゃんの声にあたしは俯いていた顔を上げた。
 さっきは真ちゃんが連れて行かれるって思ってテンパって何も考えずに行動したけど、怒りで我を忘れるとは。

「…怖かったぁ!」

 あたしが指を口元に当ててちょっと甘えた声で言うと全員がズルッとこけた。

「ヨシモトかよ!」

「さっきまで般若みたいな顔だったのに!」

「いやぁ、真ちゃん連れて行かれると思って焦ったらあんな事に。いやでもよかった!結果オーライ!」

 清ちゃんと村ちゃんのツッコミを聞きながら苦笑して頭を掻いた。みんな呆れているけど、無事に消滅出来たので安堵の息を漏らした。

「はああああ〜…とにかくこれで一安心ッスねー」

「真ちゃん大丈夫?」

「ああ、問題ないのだよ。助かったのだよ、ありがとう」

 タカ君が床に座り込んで長い溜め息を吐く。あたしは真ちゃんに近寄って声を掛けると落ち着いた口調で返された。よかった。

「あと息子ではないのだよ」

「寧ろお婿に行きたい感じ?」

「黙れ高尾!!」

 さっきの発言に対してもちゃんと突っ込んでくる辺りしっかりしてるわ。タカ君がからかうと当然怒るが、あたしとしては真ちゃんがお婿でも大歓迎!寧ろ嫁に来い!

「嫁はないっしょ」

「何でみんなして心の中を読むの?」

 スガにマコマコみたく読心術を使われた。みんな何かの能力者なの?

「そらさん」

「何?岩ちゃん」

「本格的に武術を習う事を勧める」

「いやあたし格闘家目指してねえし」

 見事な蹴りだったと褒めてくれる岩ちゃん。ちょっとこの子まさか天然入ってんの。

 そんなこんなで、無事に例の二人を消滅出来ました。もう勝手に出てきちゃ駄目だよ。
 今度映画見る事あったら今回の事思い出して「あたしこの子らに勝ったんだぜ!」って強気で見られるのかな。
 …いや、寧ろ貞子っぽいののあの顔が忘れられなくて見れなくなるかも。

 あたしはあの顔を思い出してぶるりと震え、体育館に帰ってから恐怖を和らげようと貞子なんて屁でもないぜ!っぽいアレクさんに抱き着こうと思った。











柚子様、お待たせしました!
無駄に長くなっちゃいましたが、いかがでしょうか。秀徳寄りに仕上げましたがスガに飛び蹴りさせたくて正邦も入れちゃいました。
こんな話でも気に入って頂けたら嬉しいです!
素敵なリクエストありがとうございました!

6/10
←|→

BACK/TOP
ALICE+