SPIRIT WORLD
見解�A

【相田side】

 この世界に来てから次々に色んな事が起こっている。起きたら知らない教室。確か2年B組だったわ。
 日向君と伊月君、降旗君と福田君が一緒だったからよかったものの、教室を出ればいたのは包丁を持った子ども。笑顔で振り回していてただただ恐怖だった。

 必死に逃げて、鉄平含めて他の誠凛や他校のバスケ部と合流して色々あって体育館で一息つく。アレックスさんまでいたのには吃驚した。

 一度体育館に来た後は女性陣は外に出ていないけど、何度かの探索で此処が異空間であるとの結論に達したり、白黒の紙が見付かったり…女性が発見された。

 高校生ではなさそうだけど、20歳前後かしら?
 遠目だから顔はよく見えない。ステージに寝かされる様子を見て私も見に行こうとしたけど日向君に止められた。誰も面識がないので今は近付かない方がいいって。

 確かに化け物に追い掛けられた後では恐怖に敏感になっているし、警戒心も張り詰めている。だから私もそれに従って様子を見守った。

 何故私達が此処にいるかがわからない。この女性が何者なのかもわからない。不安だけが募る中で、女性が目を覚ました。

 そして女性を交えての話し合いで様子を見ていると、見た感じでは普通の人。夢の話を聞く限りではちょっと変わっているかもしれないけど、話し易い印象を受けた。

 その話の中で山口さんが見付かった経緯を話していると、山口さんはそっと袖を捲って手首を確認した。斜めの位置に座っている私達からは見えたそこは、手錠の締め付けで赤くなっていた。
 壁に貼り付けられていたらしいので、体重を支えた事で赤くなったのは見ればわかる。恐らく足もそうなっているだろうけど手よりはマシかしら。

「ちょっと行ってくる」

「ちょ、カントク!」

 話し合いが終わって一人皆から離れる山口さんを見て、私は保健室で見付けられた救急箱を片手に近寄る。呼び止める日向君を無視して近寄ると、私の登場に目を見張る彼女。
 殆どの日本人特有の黒髪に大きなブラウンの目の彼女は、可愛い部類だと思う。実年齢24歳なんて、アレックスさんもそうだけど詐欺もいいところよ。

「手首さっき赤いのが見えたから、湿布貼った方がいいと思って」

 そう言うと変わったあだ名で呼ばれたのでちょっと反応に困った。その後に湿布とテープだけくれればいい、近付かない方がいいと遠回しに言う彼女。
 視線は一瞬こちらを様子見ている誠凛に向いていたので、周りや私に気遣っての言葉だと容易に理解出来た。

 笑いながら言う山口さんは、少し寂しそうで悲しそうに見えた。それもそうだ。彼女の知り合いが一人もいない中で、自分に向けられる視線の殆どが疑念のもの。一番気が張っているのは彼女かもしれない。

 先程の話し合いでの様子を見ていて中々肝が据わっている人だと思った。洞察力のある赤司君や今吉さん、花宮君の注目を集めて、更に周りは自分より大きい人達ばかりなのにあまり動揺が見られなかった。
 精神が強い人だと感じていたが、この表情を見てそうでもないかもしれないと感じた。

 山口さんも女性。いくら強がっても傷付き易い。
 こんな人が実は化け物…なんて私は考えられない。可能性がないわけではないけど、同性の直感というものがある。

 自分の唇を尖らせて大っぴらに不満ですと表し有無を言わさずに山口さんの手を取り袖を捲って湿布で処置する。
 視たところ骨に異常はない。湿布だけで大丈夫だろうと処置を進めていると困惑したような声。

「私が好きでする事ですから。山口さんも女性なんだから、体は大事にしないと」

 そう言うと目を瞬かせてから僅かに顔を歪め、一瞬だけ泣きそうな顔をした。
 ああ、いっその事泣けばいいのに。と思うが、彼女はきっと今の立場で泣き言を言ったり泣きベソかいたりしないんだろうなあと何となく思った。
 もっと彼女の潔白が証明されてから、いっぱいいっぱい甘やかして安心して泣かせてあげたい、なんて思ってしまうのも、彼女にいいように操られている所為なのかな。なんて。

 その後は桃井さんとアレックスさんも混ざってきた。途中のキスには吃驚したし、同情もした。私も被害者だしね…。
 でも楽しそうに笑うそらさんを見てこっちまで気持ちが軽くなった気がする。

 そして探索の時間。そらさんも行く事になったのは予想範囲内の事だ。でも心配は心配だし、予想内であるとは言え無理をして欲しくないので行かせたくないのが本音。
 でもこの場にいるみんなの賛同は得られないのも目に見えている。だから結果は変えられない。

 私に出来るのはそらさんもみんなも無事に戻ってくるようにと祈る事。あと怪我して戻って来たり疲れたりした時は私がケアしてあげるくらいしか出来ないけれど。そして一刻も早くこんな世界から脱出して、いつもの生活に戻りたい。

 元の世界に戻れたら、またそらさんと会えるだろうか。なんて、考えるくらいには彼女に惹かれてしまっているみたいね。

 元気に挨拶をして出発する彼女の小さな背中を見つめながら、私もはっきり送り出す言葉を投げ掛けた。
 っていうか、今気付いたけどそらさん足長…ジャージでよく見えないけど細そう…。

「カントク」

「…先に言っておくけど、私はそらさんを信じるわ」

 探索組出発後、日向君達が寄ってきた。何か言いたげな顔を見てみんなに向き合いながらキッパリ言い切った私にみんなが目を丸くさせる。

「確かに普通にいい人そうだけどさ、会って間もない人だよ?此処変な所だしさ、何があるかわかんねーよ」

「もう少し警戒はした方が…」

 小金井君と河原君は困ったような顔をしている。勿論その言葉は私の身を案じての言葉であるのはわかる。

「見ての通り普通の人よ。でも笑顔は今まで見てきた中で一番裏表を感じなかったし、喜怒哀楽もある。見える部分しか視てないけど、身体能力も人と変わらないわ。まあ、あの人を疑わないのはもう一つ理由があるけど」

「女の勘…ってやつですか?」

「わかってるじゃない」

 黒子君にニヤリと笑ってみせると、黒子君も微笑んでみんなに向き直る。

「僕も一言二言しか関わっていませんが、カントクに賛同します。ただ、少し普通の人ではないと思いますが」

「普通の人じゃなかったら、普通じゃないんだろ?」

「でもその“普通じゃない人”が、この場にも沢山いますよね」

 福田君の疑問に小さく笑っている黒子君は、体育館全体に視線を向ける。いまいち言う意味がわかっていないみんなに黒子君はまた口を開く。

「僕が声を掛けた時、直ぐに僕の存在に気付きました。今までそんな事があったのは赤司君と高尾君くらいです」

「…あ、」

「成る程ね」

 つまり、普通じゃないという意味は“特別な能力がある”という事で。確かにこの場はそういう人の集まりになっている。

「でも人間じゃなくてもそーゆー能力みたいなのがあって黒子を認識したって考えられるんじゃ…」

「そう思うなら一度話でもしてみなさいよ。関わりもしないであーだこーだ言うなんて肝っ玉小さいわよ!いい加減にしなさい!!」

 後ろ向き発言ばかりのみんなにイラッときた。降旗君の発言を皮切りに仁王立ちして雷を落とすと、一様にビクッと体を飛び上がらせ縮こまり口を噤んだ。全く、何も知らないで言いたい放題言って…。

 怒った所為で体育館内でいくつかの視線を集めてしまった。少し恥ずかしくなってコホン、と一つ咳払いをすると黒子君が真っ直ぐにみんなを見つめる。

「あの人が来た意味が何かある気がします。だから僕達と同じ連れて来られた側だと思いました。僕の勘ですが」

「I think so too.私は人を見る目があると自負しているからな。自分の直感を信じるよ。お前達も何か言う前にそらと話してみるといい。面白いぞ!」

 いつの間にかいたアレックスさんが私の肩に手を回して大らかに笑いながら言うと、みんなは少し複雑そうに、でも私達の言う意味を理解しようとしてくれているのか各々頷いた。

「わかった。リコ達がそんなに言うなら俺は信じるぞ!」

 終始笑顔でニコニコしながら呑気に聞いている鉄平以外を除いて。いつ見ても締まりのない笑顔ね…。

8/45
←|→

BACK/TOP
ALICE+