SPIRIT WORLD
報告

 体育館に戻り、岩村少年が重い扉を開けると電気の明かりが漏れ安心感を覚える。順次入るとみんな駆け寄ってきた。

「お帰りなさい!」

「お疲れ様でした」

 さっちゃんはあたしに近寄りぎゅっと抱き着いてくる。普段あまり人とこういったスキンシップを多く取らないので少し戸惑うが、ぽんぽんと小さい背中を叩いてあげる。
 正邦と陽泉全体に労いの言葉を掛けた赤司少年はあたしにも微笑み掛けてくれたのでちょっと驚き。

 ぐるりと全体を見渡してみると海常と秀徳も既に戻ってきていた。

「みんな無事に戻ってきて何よりや。早速やけど整理しよか」

 そういってまた体育館の中心に円になって座る。人多いから本当この図何なの状態だよね。
 今回はあたしは陽泉の所。岡村少年の左隣に座っている。後ろに他陽泉の部員がいて、あたしの左隣はまたもや今吉少年と桐皇。何、あたしの事好きなの?なんつって。
 ちなみに順番は陽泉から時計回りに桐皇、海常、誠凛、秀徳、洛山、霧崎、正邦である。

「ではまず秀徳から」

「ああ。オレ達は校長室より先の別館への探索に向かった。別館にあったのは特別教室。技術室、準備室、物置が本館から歩いてきて突き当たりの右側。左側にはトイレと一番奥に乾燥室があった。怪物との遭遇はなく技術室でこの白い紙を一枚見付けた」

 秀徳代表の大坪少年から報告開始。
 そういや学校の設備がどんな感じになっているかも知らない。知らない事だらけでイマイチ話しされてもピンとこないわ。
 聞いた限りでは本館一階にあたしがいた校長室と多分その他教室があって、廊下をずんずん行った所に別館があってそこは特別教室棟…みたいな感じ?
マジでちゃんと色々聞かないと。

 大坪少年から赤司少年へと流れて渡される紙。受け取った赤司少年は今までに見付けた白黒の紙を管理しているようで、その一枚を合わせて見ている。

「あとこれゲット!ホラゲで言うアイテムってやつだと思うぜ」

「技術室横の準備室にあったのだよ」

 高尾少年が軽く掲げて見せたのは金属バット。説明の不足部分を緑間少年が付け足している。コンビネーションイイネ。

「何せ技術室ってだけあった物が多くてな。探索に手間取ったのもあって右側は見たけど左側まで手回せてねえから、次の探索で行って欲しい」

「あとトイレっつったら怪物普通にいそうだしな。他のトイレもそうだが無防備で行くより軽い作戦練ってからのがいいと思う」

「わかりました。ありがとうございます」

 宮地少年に続いて木村少年が補足すると赤司少年は頷き了承。次に海常へ促されて笠松少年が口を開く。

「オレ達は2年D組から探索を始めて、2年B組でこの紙を見付けた」

 次は黒の紙。それも赤司少年に渡り、赤司少年の隣の花宮少年が覗き込んでいる。美形揃うと本当怖い光景だわ眼福過ぎて。
 ってか紙の内容あたしも気になるんだけど。

「A組横の第二資料室って書かれてる所まで行ったんだが斧を持った怪物がいたから逃げてそのまま戻ってきた。中は見れてねえからまだ何かあるかもしれねえ」

「そうですか、わかりました。お疲れ様です。では続いて陽泉と正邦お願いします」

「ああ。三階はあまり手を付けていなかったからな、正邦と陽泉で分かれて探索した。最後は流れで陽泉と一緒になったが1年G組で白い紙、E組で黒い紙を見付けた」

「これな」

 岩村少年の説明後に春日少年が二枚の紙を流す。岩村少年が岡村少年に目配せをし、頷き合って岡村少年が代わって話し出す。

「1年AからD組までは何もなかった。じゃがワシらがD組から出て、F組から出た正邦と鉢合わせをした時に山口さんが怪物を見付けた」

 そこからやや歯切れ悪そうにする岡村少年にみんなが疑問に思いあたしを見てくる。おいヤメロその振り方だとあたしにまた疑念が!

「はっきりしろアゴリラ。うじうじ鬱陶しい」

「アル付けて!!何かいつもと言い方違うと冗談に聞こえないから!!」

「冗談じゃないアル」

「どんまーい」

「ワシの扱い…」

 劉ちゃんとあっちゃんが混ざったちょっとしたお茶目なやり取りに少しだけ気持ちが緩んだ気がしたが、赤司少年に促されてあたしが話す事に。まあみんなの前で話すとは言ったけどさ、こんな振り方ないよ岡村少年。

「他の階もそうかは知らないけど、三階の奥がL字になってたのね。教室に入る前に見た時は何もいなくて、次に見たら怪物がいたんだけど…」

「けど?」

 今吉少年がやんわり急かす。言いにくいなあ、非常に。

「多分、あたしが見てた怪物とみんなが見てた怪物の姿が違ったんだよね」

 そう言うと花宮少年が小さく鼻で笑った気がした。

「どういう事ですか?」

「あたしもその時混乱してたから上手く言えないけど、みんな怪物見た時に包帯が顔にグルグル巻きにしてあるとか、ミイラ男みたいなのにグロくないとか言ってた、よね?」

「うん。だって汚いってだけで全然怖くなかったし」

「でもあたしには…」

 後ろのあっちゃんに同意を得て、そう続けようとして思わず言葉が詰まる。あの時の光景から音や臭いまで鮮明に蘇ってきた。別にグロいのが特別苦手ではないけど、普通に気持ち悪かったアレ。
 目を閉じてどう表現しようか考えているとちょっとだけ頭痛がした。慣れない事があって早くも疲れたのかも。手を額に添えて軽く息を吐いた。

「大丈夫?」

「あ、大丈夫。ごめんね」

 斜め後ろにいたたっちゃんに気を遣ってもらい、お礼を言うと心配そうに見つめられる。そっとあたし背中を撫でたその手が温かくて酷く安心した。
 思い出し記憶を絞り出すように、額を押さえ目を閉じながら話をする。しっかりみんなに伝える事で、あたしも気付かなかった事に気付いてもらえるかもしれないからだ。

「…包帯は確かに巻かれてたけど、殆ど意味ないくらいに解けてたし血が染み付いてた。皮膚は爛れてたり腐敗してたり…血や皮膚が床に落ちてたのも見えた。腐敗臭とか血の臭いも漂ってて、骨が見えている部分もあった。一番酷かったのは顔面…目と鼻がなくて、みんなには聞えなかったらしい声も聞こえた。急に何か、五感が冴えた感覚だったよ」

 そこまで話して目を開けみんなを見てみると、複数が顔を青ざめさせて顔色悪くなっていた。ごめんね、苦手な人もいるだろうけど情報はシェアしなきゃだから。許せ。

「何を言っていた?」

 花宮少年に初めて話し掛けられた!今まで見てたり鼻で笑ってたりしただけなのに。
 そちらに視線を向けると真剣な顔をしている。案外真面目なのね。

「凄く嗄れた声で“我求む”、“その万能な身体”って言ってた。それを言って直ぐにそれまでゆっくり歩いて来る感じだったのが走ってきて、みんなで逃げたんだけどループするように階段に中々辿り着かなかったり包帯に捕まったり…」

「え…!?」

「あ、大丈夫。怪我はないよ。あと引っ張られた時に糸巻きの歌を歌ってたのと、捕まった時に“その目羨ましい、ちょうだい”って言ってた」

「…あの時のツッコミはそういう事だったのか」

 さっちゃんが心配そうな声を上げたので落ち着かせる。福井少年が納得したように言ったのは、恐らくあたしがツッコミを入れた時を何に対してのツッコミかって疑問に思ってたからだと思う。

「あの状況でキレのあるいいツッコミだったよね」

「蹴りからの投げ技も中々よかったアル」

「オレあんまり必要なかったもんな!」

「ちょっと掘り返さないで」

 たっちゃんと劉ちゃん、ともっきーが感心したように言うけど見てない聞いてない人何の話か知らないからやめて。

「あれがあたしに対しての言葉と攻撃なのか、みんなに対してなのかはわからない。今回あたしが捕まったのはただ単に鈍臭かっただけって考えられるけど…。実は今まで言えなかったけど自分もみんなと違うように見えたよーって人いない?」

 自分だけが五感で化け物を感じ取った意味。何となく答えが見えてしまっているが、あたしは簡単には認めたくなくて、仲間はいないかと辺りを見渡すが反応示さず。
 チーンと落ち込んでいると後ろからあっちゃんに頭をよしよしされた。あたしのが年上なのにね。

「…あの時首を狙えって言ったのは何でなん?」

「あ!そうそう!オレが頭潰そうと思ったら山口さんが止めたんだよ。首にしろって」

 春日少年とともっきーがミイラ男を殺る直前にあたしが指示した事で疑問を投げ掛ける。思い出したようにあたしも顔を上げて春日少年を見つめた。

「黒い靄が見えたから。一瞬当てちゃ駄目な所かなって思ったんだけど、ほぼ直感」

「…成る程」

 そこまで黙って聞いていた赤司少年は顎に手を添えながら、床を見つめて思案しているのか呟く。某名探偵のようですね。

「その後は残りのE組も見て、時間になったから戻って来たんじゃ」

 岡村少年が報告を終えると赤司少年は顔を上げた。

「ありがとうございました。山口さんの事でいくつか疑問は残りますが、一度集まった紙の整理をしましょう。山口さん、大丈夫ですか?」

「平気だよ」

 確かに気分がいいわけではないけど、言う程不調ではない。やや心配そうにこちらを見つめている赤司少年は、少しでもあたしの見方を変えてくれたのだろうか。だったら嬉しい。目一杯愛でたい。早く皆と仲良くなりたいなと心中でニヤニヤしておく。
 おいコラそこ、変態言うな。

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