INFINITY WORLDあたしと宮地清志
【宮地side】
「宮地くぅーん!」
最近よく聞く甘ったるい声に溜め息が零れる。視線を向ければそこにはゴテゴテした化粧にクルクルした髪の毛の女。同じ大学の同じ学科で、オレにやたらと付き纏ってくる女だ。バッハ目指してんのか?っていつも思う。今日は休日だしサークルは違うが、それでも時間を合わせてくるらしい。
正直好きな人が別にいるし興味がないオレは靡く事も振り向く事もあり得ないのだが、どれだけ意中にないと表してもめげずに挑んでくる。その根性は認めるが、いい加減少し鬱陶しい。春日と別に帰ろうとして後悔した。一緒に帰ればよかった。
「…何」
「一緒にかーえろっ!」
そう言って腕を組もうとするそいつの手を擦り抜けてスタスタ歩いて行くと、唇を尖らせて「もーっ」と言いながらも駆け足でついてきた。
「あっ!そうだ!渡し忘れてる物があるのっ」
そう言ってオレの服を引いて立ち止まり仕方なく足を止めたオレは鞄をゴソゴソするそいつを見下ろす。その手にはラッピングされたチョコらしきもの。バレンタインだしな。
「手作りしたの!宮地君の為にっ」
はいと言って渡してくるそれを見下ろす。何か見た事あると思ったらこれ既製品じゃねえか。これと同じ物をもらってた料理下手な彼女がいるサークル仲間知ってんぞ。
何が手作りだよ。嘘吐かねえで言えばいいのに。そんなに外見も何もかも取り繕う事で忙しい奴はごめんだ。
だが好意を無下にするのも酷な気がして少し気が引けるなと思って受け取るか受け取らないか考えていると、不意にオレの後ろから手が伸びてそれをするりと掻っ攫う。
女と目を見開いていると、後ろから姿を現した人物に更に瞠目する。
「そらさん?」
「かっわいーねこれ。ラッピングも上手だし。はい清ちゃん」
ポンと手に乗せられたそれを呆然と見ていると、何故此処にいるかはわからないがそらさんは笑って女と向き直る。
「こんにちは」
「は?え、ああ…誰?」
「挨拶大事!こんにちは!」
「こ、んにちは…」
完全に気圧されている女とそらさんを交互に見ていると、そらさんは満足そうに頷いてからオレの手を引いて歩き出す。
「でもごめんね。清ちゃんはあたしと帰る約束してるから」
じゃ!と片手を上げたそらさんに呆然としていた女は慌てて腕を掴んで止めた。
「何!?急に来てアンタ宮地君の何なの!?」
そらさんは女に振り返ると少し勝ち誇ったような顔をして言った。
「清ちゃんに告白された事がある人」
まさかそらさんの口からそんな言葉が出るとは思わず、顔が熱くなるのがわかった。そして唖然としている女に追い打ちを掛けるようで悪いが中途半端は後々面倒になると思い口を開いた。
「悪い。気持ちには答えらんねえけど、これはもらっとくわ」
そう言ってから腕を引くそらさんの手を取って次はオレが引いて歩き出す。女は唖然としたまま立ち尽くしていた。
「つい意地悪しちゃった」
オレに引かれながらそう言って舌を出すそらさんに、何を今更と思わず吹き出す。
「あれ自分で言ってかなり恥ずかしいんだけど、清ちゃんの気持ちが変わってたらただの自惚れた馬鹿の発言だよね」
後々になって後悔しているっぽいそらさんを横目で見て相変わらず後先考えねえで馬鹿だなと思いながらも訂正する。
「変わってねえよ」
少し顔を俯かせていたそらさんが顔を上げたが、オレはそれを見ずに前を向いたまま言い直す。
「そらさんが好きなのは変わってねえ。勝手に変えんな、轢くぞ」
そう言うとそらさんは嬉しそうに笑って手を握るオレの手を握り返した。
自惚れんのはオレの方だっつーの。あんな言い方されたら、期待しちまうだろうが。
【そらside】
あれから停めてた車に乗り込み送って行くと言って乗せたものの、さっきの事があってやや気不味い。
清ちゃん迎えに行ったら何かベタベタする女の子がいてイラッときた。しかも厚化粧に髪盛り盛りで男受け悪そうな容姿。やり過ぎなキャバ嬢か。
それで気付いたら近くに忍び寄ってて受け取るか受け取らないかで悩んでるっぽい清ちゃんを見て、受け取らないで欲しいけどそれはそれで彼女が可哀想かなと思って、葛藤した結果あたしが勝手に清ちゃんに持たせるという方法を取った。
これなら清ちゃんの意ではなくあたしが持たせた事になるから、気持ちを受け取った事にはならないはず。ええ、嫉妬ですとも。
清ちゃんの何かって聞かれて、これ以上墓穴掘るような彼女を傷付けるような真似をする必要ないってわかってるけど、独占欲が勝って意地悪をしてしまった。ごめん女の子。
でもよくよく考えれば中々痛い発言したなと思う。これ数時間後には黒歴史になってると思う。いや既にそうなり掛けてる。
悶々と考えていると清ちゃんに声を掛けられた。
「なあ、そらさん。寄って欲しい所あんだけど」
「ん?あ、いいよ」
指示されるままに進んでいくと何処かの展望台みたいな所だった。何故にこんな所に?と思いながら車を降りてついて行くと、景色が一望出来る所に来た。
丁度夕暮れで陽が沈む瞬間。もう少しすれば夜景になる所で、言わずもがな綺麗だった。
「うわー!!キレー!!」
「こないだ穴場だって友達に教えてもらったんだよ」
隣に立った清ちゃんの話を聞きながら夕暮れの町並みを見下ろす。凄いな。此処見付けた人天才。そして清ちゃん見せてくれてありがとう。
にしても何で見せてくれたんだろう。
そう思っているとぐっと肩を掴まれ振り向かされる。清ちゃんはあたしと向き合うように立ちながら、少し頬を染めて意を決したように口を開く。
「さっきの聞いて勝手にチャンスかもって思って言うけど」
冷たい風が吹き抜けて清ちゃんの綺麗な髪が風に靡く。
「そらさんがやっぱり好きだ。付き合って欲しい」
真剣に熱っぽい視線を向けながら言う清ちゃんの言葉が嬉しかった。前にも内藤さんがいた時に言われた事だが、改めて思いを告げられると気持ちが変わらないでいてくれたんだと胸が熱くなる。
あたしは鞄の中からさっきの女の子が渡していたのよりよっぽど下手なラッピングの小箱を取り出すと清ちゃんに渡す。
「ああああたしも清ちゃんが好きです…あたしでよければ、お願いします!」
ぎゅっと目を閉じながら言い切る。胸がバクバクと煩い。両想いってわかってるのに煩い心臓を抑えようと息を止めていると清ちゃんはチョコを受け取り、そのまま腕を引いてすっぽりと抱き締めた。
「き、清ちゃん」
「…すっげえ嬉しい。ありがとな」
胸板に顔を埋める形で目を瞬かせていると、清ちゃんは囁くようにお礼を言う。熱い吐息を感じてぞくりとした。
「あたしも、嬉しい…っ」
背中に手を回しぎゅうううと抱き着いていると苦しいと言って頭を叩かれた。
あたしの情けない真剣に聞いて気付かせてくれた清ちゃんには本当に感謝してる。だからこそ落ち着いて状況読めたし、自分の事も周りの事も見つめられた。
口はあたし以上に悪いけど、自分が不利になるとしてもあたしの幸せを願って助言してくれるような優しい心を持った清ちゃんが好き。文武両道の清ちゃんは努力家で、自分を奢る事なく何事にも真摯に向き合う所に惹かれた。
口ではこれ以上恥ずかしくて言えないが、少しでも気持ちが伝わればいいと思って怒られても気にせずきつく抱き着く。同時にちょっとずつでも好きっていう気持ちを言葉で伝えられたらいいなと思った。
「そらさん」
「はい」
「キスしたい」
「え」
ハッキリ面と向かって言われた言葉に頭から湯気が出る。そそそそんな事言わないでよ!急にされたらされたで吃驚するけど、言われたら言われたで心臓に悪い!
あたしが硬直していると少し体を離した清ちゃんがあたしの顎に手を添えて顔を上げさせる。やめてよ顎クイなんてキュン死する。
「前は彼女でもねえしってやめたけど、今はもう違うだろ」
「あわわわ…」
「何だそりゃ」
恐らく顔が真っ赤になりながらパニックを起こしているあたしに清ちゃんが吹き出して笑うと、ちゅっとほっぺにキスをされた。
あれ?口じゃないの?とポカンとした時にまた影が落ちてきて唇を塞がれた。
丁度夕日が沈んでいく所で、赤い夕日に照らされた影は静かに重なる。何度も啄むような甘いキスを送られ、離れた時には日が沈んでいて日の光がなくなった今一層寒さが身に染みる。
「…寒いな」
「…寒いね」
「でも、もうちょっとこのままがいい」
そう言って甘えるように擦り寄り抱き締めてくれる清ちゃんに応えるよう、背中に手を回し手袋をしてなくて寒いのでフードの下に手を滑り込ませた。あったかい。
一つの恋を終わらせて自分の恋を実らせたあたしは恨まれても仕方ないと思った。生き霊なんか来たらどうしよう。
でも清ちゃんの言葉を借りるなら何処の馬の骨か知らない人に渡したくないし、何より見た目とか気にしてばっかっぽい子に負けたくない。だから戦うぜ、札で。
でも清ちゃんにこれ以上変な迷惑掛けないように自重しようと思った。嫉妬って怖いね。
Kiyoshi Miyaji END.
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