INFINITY WORLD
あたしと春日隆平

【春日side】

 サークルでの集まりを終えて帰路に着く。通り掛かったコンビニでちょっと立ち読みしようと雑誌を読んでいると、暫くして視界に何かが入り顔を上げればそらさんが窓に貼り付いて見ていた。

「!!?」

 吃驚し過ぎて声にならない声を上げているとヘラヘラ笑ったそらさんが笑顔のまま親指をクイッと自分の方に引く。出て来いってか?にしてもそのやり方、今から焼き入れんぞ的な感じで宮地を連想させるからやめて欲しい。

 約一ヶ月ぶりに見たそらさんは相変わらずそらさんで、外に出ると冷たい風が身を包みぶるりと震えた。

「どしたん?そらさん」

 こんなとこで、と続けるとグイグイ引っ張られるのでそれについて行く。

「お持ち帰りしに来た」

「…は?」

 いくらオレでもそういう反応になる。え?意味わかって言ってんの?
 目を点にしているとそらさんはオレをこの前LINKで自慢していた新車に押し込み、そのままそらさんの家に連行された。誘拐じゃん。










 家に着いて机の前に座らせられる事数分。そらさんはオレに動くなと言ってキッチンに引っ込んでしまっているので何が何だかわかってない。

 テレビを点けてくれたのでそれをボーッと眺めていると、カフェオレを作ってくれらしく目の前に置かれ、一緒に持ってきたであろう物を見て目を丸くさせる。

「それ何なん?」

「クロカンブッシュだよ」

 ミニシュークリームが積み重ねられ飾りに色鮮やかな金平糖が散りばめられている。見た目にも可愛らしいそれは、よくテレビとかで見る洒落たお菓子。パーティーに持ってこいのお菓子だった。

「食べていいん?」

「スガの為にシュークリームも作ったからね」

 フフンと鼻高々に言われて目の前のそれを見ながらそらさんの何気ない言葉に胸がじわりとあったかくなった。オレの為にって。上手い事言うようになったね〜。

「ありがとー。いただきまーす」

 一番上のをちょいと摘み好物の金平糖付きのそれを咀嚼する。あまい味が口いっぱいに広がった。

「んまいよ」

「よかったー」

 そらさんは安堵したように息を零して自分のカフェオレを飲む。オレはもう一つ摘みながら疑問を投げ掛けた。

「これってバレンタイン関係あるん?」

 今日バスケをしている時に同じ学部の女子から友チョコをもらったが、そらさんもバレンタインに関連してくれたのか聞くと、ピシッと動きが止まってからぎこちなく頷かれる。

「へー。義理?本命?」

 一人ひとりを招待してこんな風に振る舞うとか考えらんないし、聞かなくても何となく察したが直接聞きたくてそう質問を投げ掛けると視線を宙に向けながら頬を掻いたそらさんが、目を合わせる事なく答える。

「…う、うん。まあ」

 何とも煮え切らない返事でもうちょいハッキリ言って欲しいなと思い、指に着いたチョコシロップを舐めてそらさんの隣に移動する。

 スススと少しズレて距離を置くそらさんを逃すまいと腰に手を回して止めた。お持ち帰りしたくせに何で逃げるかね。自分が言ったんだかんな〜。

「意味がちゃんと伝わんないんだけど」

「…ふむ」

「ふむじゃないっしょー」

「むっ」

 素直にならないそらさんに痺れを切らせて片手で顔を摘むと唇がぷにっと突き出されて変な顔になる。面白い。

「ちゃんと言ってみ?」

「言わなうておわあってうでよ」

 んん?よく聞こえんけど、言わなくてもわかってるでしょって言ってるっぽい…よくわかったなオレ。そりゃわかり易いからわかるけど、ちゃんと言わないと。
 手を解放すると頬を摩りながらそらさんは視線を落とした後、近くにいるオレを見上げて照れながらも言った。

「…好きっす」

「ちゃーんと言って」

「…好き」

 羞恥に耐えられないらしく、顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。けどちゃんと言葉で好意が聞けて、オレは満足したように笑って頭をポンポンと撫でた。

「オレも好きだよ、そらさん」

 そう言ってスリスリと顔を寄せると擽ったそうにしながらも避ける事なく、大人しくされるがままになっていた。

「何処が好き?」

「なっ…スガがデレデレだ」

「だって好きな子に告白されて嬉しくないわけないっしょー。他の奴から勝ち取ったんよ?」

「そして恥ずかしげもなくサラッと言う」

 モゴモゴと言い淀むそらさんに先を促す。そらさんは誤魔化すようにシュークリームを一つ摘むと食べた。それオレの。作ったのそらさんだけどそれオレの。

「…色々緩いところが癒される」

「他は?」

「ちょっと意地悪だけど優しいしたまにイケメン」

「いつもイケメンっしょ。他は?」

 ぐぬぬと赤面しながら口を噤むそらさんを面白く眺めていると、そらさんは近付けたオレの顔を押して離す。

「んぶ!」

「も、もう!これから一緒にいたいのは誰かって考えたらスガの顔が浮かぶから!」

 シュボボボと湯気を出しながら言うそらさんは精一杯自分の気持ちを伝えているように見えた。もっと聞きたいのに。

「じゃあお礼にオレも言ってあげよっか?あんなー、そらさんは誰でも甘えさせてあげてるけど逆にオレが甘えさせたいなって思った事あるし、いつも笑顔だから元気もらえるし面白いし料理上手だし」

「ももももういいよ!」

 そう言ってまた口を手で塞がれた。からペロッとその手を舐めると吃驚して手を引っ込めた。

「ふぎゃ!舐めるな!」

「じゃあ口塞がなきゃいいじゃん」

「だってスガいつになくよく喋るから」

「じゃあ口で塞げばいいじゃん。こうやって」

 行動を察したのか身を引いて何か言おうとしたが、腰に回した腕を引き寄せて口を塞いでやる。あったかくて柔らかい感触に背中がぞくりとしながら、リップ音を立てて離れる。そらさんは口を手で覆い耳も真っ赤だった。

「…甘い」

「甘いの食べたしなー」

 へらっと笑うとそらさんは少し悔しそうに睨んだが、ふっと笑みを零すとオレの肩に額を寄せて呟く。

「…そうやってあたしの事よく見てくれてるスガが好きだよ。あたしも、みんなが知らないスガの姿をあたしだけに見せて欲しいって思う」

 急にしおらしくなって呟くそらさんに心臓がドキドキと鼓動を鳴らして体もじんわり熱くなった。最初からそう言えばよかったのに。

 オレはそらさんをひょいと持ち上げると自分の膝の上に乗せて、急な事にトギマギしながらも収まるそらさんを見つめてまたキスを送る。
 直ぐに唇を離すが額を合わせて目を閉じた。するとそらさんがオレの髪に両手を伸ばしそっと梳くように撫でる。その心地よさに胸がポカポカする。

「前は断ったから行けなかったけど」

「うん」

「これからはいっぱいデートしようね」

 たまらずそらさんを抱き締めたオレは悪くない。それが潰されそうな蛙みたいに変な声が出ていたとしても。
 武術で力付いてるからつい力込めると骨折れ兼ねねえから気を付けよっと。










【そらside】

 夏祭りの時のスガがデコチューしたのは、その場の雰囲気というか冗談だと勝手に思ってた。変な期待しちゃ駄目だと思ってそう思うようにしてた。
 けど冬合宿に行くかスガとデートに行くかの選択を迫られた時に、何も思ってない人に迫ったりしないと言ったスガに当たり前の事なのに納得した。少なくともスガはたまに意地悪だけど人を弄ぶような真似はしない人だ。

 結局二人っきりになって流されてしまいそうになるのが怖くて、先に約束したっていうのもあったけど合宿を選んだ時に少し寂しそうな顔をした。あたしなんかの為にそんな顔をしないで欲しいって思った。スガにはいつもみたいに笑っていて欲しいって思った。

 だから色々ずっと考えて、これからもスガには笑顔でいて欲しいからあたしで笑顔に出来るなら傍にいたいなって単純にそう思ったからスガを選んだ。
 それにスガの緩い雰囲気は、気持ちが急いていてもそれにストップ掛けるような癒しのパワーが秘められてるって勝手に思ってる。職業柄子どもに癒されるが逆にストレスを感じてしまう事もあるので、スガの癒しパワーはあたしにとって必要だ。

 限定のケーキをもらった時に真っ先にあたしと食べようと思ってくれるし、たまに一緒のようにふざけて、何か間違いがあれば違うよって教えてくれて、暴走し易いあたしを止めてくれる存在だと思ってる。
 甘えちゃう事がこれから殆どかもしれないけど、でも逆にスガが疲れてる時は甘えさせて出来る事は尽くして癒してあげたいって思った。










Ryuhei Kasuga END.

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