INFINITY WORLDあたしが止まらない
第3Qが始まったが、ボールを持っているジュニアの雰囲気がガラリと変わった。背筋を凍らせる殺気にも似たオーラ。それに対しきー君は感じ取って最大の警戒を持って向き合う。
みんなが息を飲んで待ち構えていた中、ジュニアがパスを出したボールはきー君を横切って仲間の元へ渡る。全神経を集中させていたきー君が微塵も動く事なく通ったパスに一同驚愕した。
「何あれ…」
「…予備動作がないんです、ナッシュには」
違和感を感じて呟いた言葉に赤君が冷静な声色で答えた。
「予備動作がない…!?」
「人が速く動いたり大きな力を出したりしようとすれば、その直前必ず反動や勢いを付ける為の動きが入る。それが予備動作だ。ハイスピードスポーツの攻防は相手の動きを見てから反応するのでは遅い。僅かな予備動作を見逃さず、それに反応しなければ間に合わない。だがナッシュにはその予備動作が全くない。ベンチのオレ達からは辛うじて見えたが、マークしていた黄瀬からは勿論他の四人も全く見えていなかった筈だ」
成る程。要するにカメハメ波の「か〜め〜は〜め〜」の部分がないって事ね。え?ちょっと違うって?何となく伝わればいいよ。
「それって才能で何とかなるの?」
「無理だな。予備動作をなくす為にはセンスだけじゃ到底無理な話だ」
リコぴんパパに聞けば、緻密なフォームチェックをしながら基本動作の膨大な反復練習が必要で、考え方も派手なムーブを入れたがるストリートとは真逆らしい。小さい頃からクラブや部活で優れた指導者の下練習を重ねてきたバスケエリートのテクニックなんだって。
「ふーん…。だからかな」
「え?」
「ジュニアが日本のバスケに激おこしてたの。バスケの聖地でみっちり学んだエリートな自分を外国人より体格も小さくてセンスもないと思ってる日本人と比べちゃって、出しゃばんな的な感じで思ってんのかなって。まあだからって人種差別する事に納得してるわけでもないし同意してるわけではないけど…そんな気持ちなのかなって」
あたしがコート内をぼんやり眺めながら今までの暴言の数々を思い出す。さっちゃんが聞き返す中言葉を続ける。そんな人なら日本人がふざけてやってるように見えてしまう人もいるんだろう。だからと言って日本人だって本気でやってないわけじゃない。だからこうして汗水流して脳と体を働かせて戦ってる。
「…そうですね」
「珍しくそらさんが真面目な事言ってる…」
「珍しくは余計ですけど」
さっちゃんが頷いてくれたが、いい雰囲気をぶち壊すかのような順ちゃんの呟きに軽く殺意湧いたわ。
その間にも試合は進み意表を突くテッちゃんからのかがみんへのパス連携にジュニアが追い付きカウンターを仕掛けられる。ジュニアからのジェイソンへのパス、そして今までを上回るパワーでのジェイソンのダンク。その際にあっちゃんの頭に当たり額を軽く切った。
「紫原…!」
「ああああああああっちゃんんんんん!!」
「落ち着いてそらさん!」
滴る血を見てベンチから飛び出して行こうとするあたしを必死に抑えるさっちゃん。
レフェリータイムに入るが、その間にジェイソンとジュニアが話し始める。近くにいた翻訳人(真ちゃん)に翻訳してもらう。これからはもう逆転なんてあり得ない、あくまで前半は抑えてプレイしてやってた、ざまあ的な事を言ったらしい。
「まずはゴメンナサイだろーがああああ!!子どもでも言えるわああああ!!」
「落ち着いてそらさんんんんん!!」
更に暴れるあたしをリコぴんも加わって抑えられる。
〔煩えよ猿女〕
「誰が冴え渡るツッコミが素敵過ぎるねそらさんじゃあああああ!!」
「「だから言ってねえよ!!」」
〔(アイツマジで都合いい解釈するクレイジーな女だな…)〕
〔(わざとか?わざとなのか?)〕
ジュニアがあたしの方を見て猿女と言うので腹立つからこんな場面だけどボケてやったわ。どうだゴラァドヤァ。
ジャバのモブ達がどう思ってようが知りません。
「あっちゃんんんん…」
「あーもうこんくらいで泣かなくていいし〜」
簡単な手当てを受けているあっちゃんに涙目で近寄るとわしわしと頭を撫でられた。そして任せろというように微笑んだあっちゃんにいつもの可愛さが全く見えず胸のトキメキは止まりません。
そしてそれからもジャバの勢いは止まらず点差は開いていく。
42対61になったところでテッちゃんが赤君とチェンジ。あたしはよくわからないけど、メンバーチェンジのタイミングがもっと早くてもよかったんじゃないかって若ちゃんとタカ君が意見している。赤君が自分以外をゾーンに入れる事が出来るからって話かららしいけど、リコぴんパパからすればそれはそれでは最後まで持たないしジュニアが赤君の仲間をゾーンに入れるパスを封殺してるかららしい。
「え、それじゃあもう何も出来ないの?あり得なくない?」
「はい、まだ手はあります」
みんなみたいにハイスペック揃いがもう打つ手非ずなの?と赤君を見るとふわりと微笑まれた。
「監督がここまで耐えた今がギリギリでかつ唯一無二のチャンスだ」
みんなをゾーンに入れられないので差を詰める為にも赤君がジュニアについて、モブの6番と7番二人をあっちゃん一人で止めて、ジェイソンのマークは、
「頼むぞ。今シルバーに対抗出来るのはお前達二人しかいない」
真剣で、それでいて楽しそうな表情をした峰さんときー君だ。
試合が再開する。
「まさかオメーとダブルチームする日がくるとはよ」
「いやぁ…人生何が起きるかわかんないっスねぇ」
他愛ない話をするようで、しかし雰囲気が変わった二人にジェイソンが息を飲んだ。
「足引っ張んなよ」
「あいよっス」
峰さんはゾーンの強制開放、きー君は
完全無欠の模倣を発動。
「何もう勝った気でいんだ脳筋ヤロー。こっからだぜ本番はよ…!!」
カッコいい…!!頑張って二人共!ジェイソンにも伝わるように翻訳してやろう。
「ユーウィンイズノーブレインマッスルマン!!ナウスタートホンバン!!イェア!!」
「恥ずかしいのでやめて下さいそらさんマジで」
赤君がマジとか使うの初めて聞いたわ。
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