INFINITY WORLD
あたしの涙

「…ハッ!?」

 パチッと目を覚ますと白い簡易テントが一番に目に入る。少し離れた所から聞き慣れた声援、興奮した声や実況の放送が聞こえる。喧騒から離れた場所にいるって感覚だ。
 あれ?と体を起こすと額に乗っていたらしい氷水の袋とタオルが落ち、軽く目眩がした。頭を押さえてポカンとしていると知らないおじさんが声を掛けてきた。

「ああ、起きたかい。君ねぇ、軽い熱中症だよ。水分ちゃんと摂ってた?」

「え。あー…そういえば」

 みんなに飲ませ食わせ休ませしてばっかりで自分の水分補給してなかったわ。今もまだ日差しが強い時期なので、帽子を被っていようが水飲まず汗かいて日に当てられ興奮してりゃそりゃ熱中症になるわ。

「吃驚したよ〜。選手じゃなくてマネージャーの女の子が運ばれて来るんだもん」

「すみません…お恥ずかしい限りでやんす」

「やんす?」

「いやぁ、ご迷惑お掛けしました」

「いいんだよ。ちょっと診せてね」

 診察をされて、元々ほんの軽い熱中症なので問題ないと診断されたあたしは試合会場に戻る事になった。

 走らないように言われたけど差し出されたスポーツ飲料がぶ飲みして復活を遂げたので軽く駆け足で戻ると、試合は大分進んでいて71対78の場面だった。コート内では赤君が尻餅をついているところにあっちゃんが手を差し伸べて起こしていて、どんな状況?と疑問符が浮かびながらもベンチに戻る。

「勝つしかねーんだったら、死んでも勝つだけだし」

「え!?死なないでよ!?」

「!? そらさん!」

 リコぴんかさっちゃんにゴムを借りたらしい髪を結んだあっちゃんの言葉に思わず声を上げるとみんながあたしに気付いた。

「そらちゃん!大丈夫か?」

「急に倒れたから吃驚しましたよ!熱中症って事ですけど大丈夫ですか!?」

「あ、大丈夫です。平気!ごめんなさい倒れちゃって」

「本当だよマジで吃驚したから!」

「ごめんね若ちゃん。運んでくれたらしいね?ありがとう!それより今の状況ってどんな感じ?」

「それよりって…」

 リコぴんパパとリコぴんに声を掛けられてみんなに深々と頭を下げる。若ちゃんの言葉にも謝罪し、さっきのおじさんに運んでくれた子の特徴聞いたら若ちゃんだったのでお礼も伝えた後、話を変えるとやや訝しい顔をされた。いや、もう倒れたとか本当ごめんなさいだしあたしの話で貴重な時間を割くわけにはいきませんので。

 聞けば真ちゃんの3Pで一度3点差に詰めたらしいけど、ジュニアの魔王の眼ベリアルアイとかいう赤君の天帝の眼エンペラーアイ の上をいく、コート内全員の未来が読み取れる最強の眼を持ってる事が判明したらしく。

 ジュニアの勢いが止まらない状況で、次はあっちゃんが一人でジェイソンを相手するらしい。勿論ジュニアは赤君が負けるわけがないとの信頼から任せておく上でとの事。何それ、いい友情だなオイコラ喧嘩売ってませんよ勘違いしないでね。

 ワンスローを決められ8点差になる。あっちゃんは今までにないくらいの勢いとパワーでジェイソンに向かっていく。点はジワジワと開いていくが、コート内であっちゃんは笑った。

 断念や挫折といった感情は一切なく、強い相手に対する楽しみや高揚感を抱いているみたいだ。
 そしてあっちゃんの執念は通じ、ジェイソンの速い動きやパワーについていきボールを弾いた。それに留まらず、あっちゃんに回ったボールはジェイソンを押し退けてゴールに叩き込まれた。

「すっごい…!!凄いよあっちゃんんんん!!」

「ムッくーん!!」

 さっちゃんと手を取り合って喜びを露わにしていると、きー君曰くあっちゃんは今まで全力を出せていなかったというより相手を傷付けないように自然とセーブしていたかもしれない、それが自分より格上の相手が出てきた事で全開で全力を出せる喜びを持っているのではないかとの事。納得だ。漫画で見た感じだと本当に力が湧いて仕方ないって感じだったし。

 ふとジェイソンを見れば、あっちゃんを見て眼を見開いていた。あれは一瞬でもあっちゃんにビビったな。
 次もあっちゃんはジェイソンを止め、みんながノッてきて会場に笑顔が増え始めた。

 あっちゃんがゴールにボールを叩き込むその瞬間、ジェイソンの顔を見て思わず叫んだ。

「あっちゃん!」

 声を上げたと同時、ジェイソンは腕を横に振ってあっちゃんを弾いた。体勢を崩したあっちゃんが手を着いて体を支えるが、表情と手首への圧を見て息が詰まった。

「あ゛っぐっ…!!う゛ぅ゛〜〜〜…っ!!」

「紫原君!!」

 レフェリーストップが掛けられる。駆け寄ったリコぴんパパが見て、手首に全体重が掛かってやはり折れているとの事。みんなが駆け寄り、怒りを吐き出す。

〔ざけんな!わざとやりやがったな!!〕

〔ああ…?何騒いでんのか知んねーが事故だ事故。これぐらいの衝突ゴール下じゃよくあるだろーが。不運としか言いようがねえなぁ!だが、勝負ってのは結局最後まで立ってたモン勝ちなんだよ!!〕

「テメェ…!!」

「クズめ…」

 みんなの反応を見る限り、というか見ないでもわかる。謝罪なんてものは当然ないし寧ろ挑発しているんだろう。
 ただ純粋にバスケが好きで、馬鹿にされた自分達のバスケを証明したくて、勝ちたくてやってるだけなのに何でこの子らがこんなに馬鹿にされなくちゃならんのよ。何でこんな理不尽な怪我までさせられなくちゃならないんだよ。何で謝ってくれないんだよ。

「…っ」

 わかってるんだけど、あたしなんかよりみんなが辛くてムカついて怒ってて悲しいのはわかってるんだけど、もう無理だ。我慢出来ない。

「…ふ、ッ」

 あたしの堪えられなかった涙は、手の隙間を通って地面に複数の点を作った。

「! …どいてよ」

「お、おい無茶だ!」

「知るか。あのカス…捻り潰してやる」

 リコぴんが背中に手を添えてくれる。一人だけ泣いてるのが恥ずかしくて顔を上げられないので、声であっちゃんが試合に出続けようとしているのを察した。
 すると、そんなあっちゃんに向けられた落ち着いた声。

「無茶は駄目です紫原君。交代して下さい」

「だからオレがやるって言っ…」

「大丈夫。キレてるのは僕も一緒です。絶対に勝ちますから」

 隣のリコぴんが息を飲んだ。声色からして怒りを孕んでいて、テッちゃんが怒っているのがわかり思わず顔を上げると青筋を浮かべたテッちゃんが見えた。










【紫原side】

 野郎に腹が立ってる中でそらちんまで遂に泣いちゃって、オレが怪我したから泣いたんだと思うと不甲斐なさを若干感じたし怪我させた張本人がヘラヘラしてんの見て一気に頭に血が上ったけど、黒ちんのお陰で何とか引いた。

「………わーかったよ。じゃ、後は任すわ〜」

 オレは立ち上がりベンチに向かって歩いて行く。

「そんかわし〜…マジであいつらボコボコにしといてよねー?」

「はい…!!」

 オレがそう言うと黒ちんはしっかり頷いてコートに入って行った。痛む手首を押さえながらベンチに行くと、監督やリコちんが手当てを始めてくれるけどそれより気になるのはそらちん。
 ゴシゴシ目を擦っているので、動く右手でその細い腕を掴み止めさせた。

 泣いたのと擦ったので目が赤くなってる。顔色も少し悪い気がする。まあさっき熱中症で倒れてたくらいだもんね。か弱いそらちんが直ぐに元気になるわけないし〜。

 まだ潤んでいる目で見上げてくるそらちんを見つめ返して、ポンポンと頭を撫でた。柔らかい髪に指を通す。

「泣いてくれてあんがと〜ね」

「…ごめんね。泣くつもりなかったんだけど…恥ずかしいわ本当」

「んーん」

 その手を下ろして、目尻に溜まった涙を掬うように親指を這わせる。

「オレ達の為に、っていうかオレの為に本気で怒って笑って泣いてくれるそらちんがオレは大好きだよ〜」

「はへ」

「何〜その間抜けなの。でも大丈夫だからもう泣かないでいいかんね」

 そう言って柔らかいほっぺたをふにふに摘んでいると、そらちんはふにゃって笑った。うーわぁ…マジ天使…。

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