INFINITY WORLDあたしが誠凛潜入
「あたし決めました。ミーキャンで保育士の試験受けます!」
バイト中。コップを拭きながら拳を作り意気込むあたしに、マスターと常連のお客さんが笑った。
「やっと決断したんだね」
「結構時間掛かったな」
「いいじゃないか。人間は悩んで生きていくものだよ」
「流石マスター」
悩みはマスター達にも話していたのでやっと決意した事で微笑ましげに見られる。まるで親に見守られているようだ。
「あと全然関係ないんですけど、学校にこっそり潜入するのってどう思います?」
「「…は?」」
ポカンとした顔のマスターと常連さんを見てあたしはニヤッと笑った。
数日後。
「第一回!チキチキ!みんなの学校に潜入してみよう大作戦んんんん!!」
パフパフパフ!
はいどうも、そらです。時刻は7時、現在自宅、喫茶店の常連さんに頼んでビデオカメラを借り、三脚に設置してオープニングを撮っています。今着ている服は誠凛の女子生徒の制服、皆さんご存知の通り黄緑のラインが入った白のセーラー服です。紺のセーターとのマッチングがいいよね。そして緩い三つ編みに眼鏡装着中です。
そうです、マスター達に言ったように各学校に一日潜入してみようと思います。そしてその一部始終をビデオに収めたいと目論んでる次第です。
制服はどうしたって?常連さんにお願いして用意してもらいました。何でも出来るんですね〜。
フッ…ほのぼのはもう終わりだぜ。こっから戦争なんだぜ!!
あっ、此処二次元だからね!現実でやっちゃうと捕まる可能性大なので真似しないでね!
「それでは早速現場に行ってみたいと思います。第一回の目的地は〜…そう!誠凛でっす!!」
じゃじゃん!と制服が見えるようにカメラにポーズを決める。
…ちょっと恥ずかしい。けど、面白いの撮れたらみんなで見たいじゃん。結婚式とかで流したら面白いと思う。結婚出来ればの話だがな!
「そんじゃ、レッツ〜ゴー!!」
「着きました誠凛!生徒が続々登校してますね。カメラはバレないように鞄に忍ばせてるんで、そこからの映像をご覧下さいまし」
登校する生徒の波から外れて歩きながらカメラに音声を吹き込む。ちなみに学費を払っていないので授業中はどっかで息を潜める予定です。別に授業受けたいわけじゃないし。みんなの授業風景は気になるから廊下とか窓から撮るけどね。
さて此処で第一関門。校門前で先生が立って挨拶をしている。全生徒を把握していたら直ぐにバレる。
だがあたしは目立たないように、しかし堂々と歩いていく。あたしは誠凛の生徒。あたしは誠凛の生徒。
「おはようございます」
「はいおはよう。…ちょっと待て」
ギクッ
男性職員の隣を通り過ぎたかと思いきや呼び止められる。冷や汗を滲ませつつ笑顔で振り向く。
「何ですか?先生」
「服にゴミ付いてるぞ」
「あらら」
見てみると服に糸屑が幾つか付いていた。いつの間に付いたのやら。でもバレなくてよかった。一瞬焦ったわ、ヒヤッとしたもん。
何とかその場はクリア。イエーイ。
さてさて。始業開始まではまだある。果たしてバスケ部は朝練をしているのでしょうか。
「バスケ部を見に体育館に移動しまーす」
ルンルン気分で体育館の屋根が見える方向に歩み進める。新入生が入った今の時期は特に目立たなくて済む。最悪新入生と言えばいい。平均身長よりやや高いが、まあ見えなくもない。はず。だって18歳だし。
そして着いた体育館。一番大きな体育館を覗いてみるとそこには見知った面々がいた。
「やってますね。みんな朝からいい汗流してらっしゃる。あ、テッちゃん倒れそう」
カメラの仕込んである鞄も覗かせながら小声で実況をする。一人でプククと笑っていると、不意に水戸さんがこちらを振り向いた。
やべっと慌てて身を隠し念の為そこから少し離れる。
「どうした?水戸部」
「……」
「そ?よし、次オレらだ!行くぞ!」
問い掛けるコガに何でもないと返したのか何事もなかった。別にバレてもいいけど、バレない方がネタばらしした時に面白いじゃん?
変装状態で色んな人にアクション掛けようと思ってるから、素の反応が見れるように最後まではバレるのを避けたい。
場所を変えてから少し撮影と見学をした後、あたしはその場を離れて校舎に入った。
取りあえず授業中潜伏する教室を模索しよう。そう思いあまり使われてなさそうな教室のある方向へ歩き出す。
見付けたのは準備室。準備室と書かれただけの準備室。何のだよ。
鍵は掛かっておらずゆっくりスライドして中を覗くと、そこのは先客がいた。
…おはようございます?
幽霊の。
何で此処に来てまでいるかな…と項垂れると幽霊さんは首を傾げた。
つか誠凛って二年前の新設校なんでしょ?例が集まりやすい程念が篭った校舎とは思えないし、地縛霊の可能性は低い。
「はぁ…あの、何で此処にいるの?」
…僕、浮遊霊なんですけど、此処気に入っちゃって。日当たりはいいし本は沢山だし。今まで誰にも挨拶しても気付かれなかったので、初めて話せて嬉しいです。
儚い系男子の幽霊さん。微笑を浮かべた彼に悪意はなく、普通の姿をしている。他に手頃な教室もざっと見た感じなかったので此処にしよう。一日使うだけだし、いざとなった時とか協力してくれそう。
「そうなんだー。じゃあそんな君だから正直に言うけど、あたし今潜入ごっこ中なんだ」
…え?
そんな反応になりますよね。あ、カメラ回ったままだった。幽霊さん映ってるかな。
「って事で、これで撮影中なの」
へぇ…中々大胆な事をしますね。
「まあね」
事情を説明するとわかってもらえたみたいで、出来る事は協力しますと言ってくれた。いい奴だな。
「名前は?あたしそら」
カケルです。
「カケちゃん。やって欲しいのは此処に誰か入ってきた時に匿って欲しいのと、カメラ持って授業風景撮る手伝いなんだけど」
いいですよ。
思わぬ所で協力者を得た。
そこで始業開始のチャイムが鳴り、一限目開始から作戦決行する事になった為、それまで作戦会議をする。
そして一限目が始まりまずは三年生から決行。端からひょっこり覗いてみると、まずは順ちゃん。
「レッツゴーカケちゃん」
カメラをカケちゃんに持たせて教室内の撮影をしてもらうが、特に面白いものは撮れず。その後も三年の教室を回ってみるが何もなかった。朝練があったとはいえ、まだ朝なので疲れていないのか居眠りなどがない。つまらぬ。
「次二年いこー」
二年生の階に移り同じように端から撮影するが、みんな真面目にやっていて何もなかった。
「つまらぬ。まっことにつまらぬ!!」
いや、あの光景が普通だし褒めるべきところじゃ…
「あたしは眠気と戦ったり早弁したりするところが見たかったのに」
準備室に戻ってきたあたし達。作戦変更、授業風景は午前中はなしだ。居眠りを狙うなら昼食食べて満腹の午後からだ。今日は天気もいいし居眠り日和だぞ。
って事で、午前中はする事がないのでカケちゃんと話をした。成仏出来ないのは楽しい思い出がなかったからなのだそう。楽しい思い出を残せれば成仏出来ると言う。あたしは視えて聞こえて触れて感じるだけで何も出来ないので、思い出作れるといいねとだけ言っておいた。
そしてあっという間に昼休み。
カケちゃんは準備室に残して鞄にカメラを仕込んで廊下を歩いていると、前方から順ちゃんと俊ちゃんが現れた。アクション仕掛けます。
「あっあの!日向先輩と伊月先輩!」
「「!?」」
「あのっ、私、WC観てファンになりました!それで誠凛も受けたんです!こっこれからも応援してるので頑張って下さい!」
裏声でアニメ声を出しながら演技付きでファンアピールをする。わざわざ出て行く辺りワイルドだろ〜?三つ編みに眼鏡で二人は吃驚しつつも気付いていない様子。
「ありがとう」
「さんきゅーな」
「はい!では失礼します!」
シュピッと敬礼して二人を通り過ぎる。背後から視線を感じたがそのまま曲がり角を曲がってフェードアウト。
「ファンだってよ」
「日向嬉しそうだな」
若干照れながら去って行く二人を見て笑いを堪える。嬉しそうだ、凄く。あの調子だと部活の時に自慢するだろうから放課後も見に行かないと。
そう思って振り返るとそこには大きな影が。
「(み…水戸さんんんんん)」
水戸さんがあたしを見下ろしていました。
「えっと…あの…?す、すみません、邪魔でしたよね」
そう言ってそろーりと横にずれて退散しようとすると、スッと眼鏡を奪われた。
「あっ!?」
「……」
水戸さんはあたしを見てにこっと笑った。ば、バレてた。
「もしかして朝練の時から気付いてた?」
コクリと頷く。
「あたしだって直ぐわかった?」
首を横に振ってから眼鏡を少し掲げた。ああ、確信はなかったけど眼鏡外してわかったって事ね。
「あはは…バレちゃったらしょうがない」
そこで水戸さんにも事情を話すとみんなには黙っていてくれるとの事で一安心。
またコガが同じクラスなので、午後からいつも決まって居眠りするコガは自分が撮っておくと言ってくれたのでお願いする。喋ってはなかったけど。
取りあえず続行可能なので、午後からも頑張りたいと思います!ちなみに昼食は持参したお弁当を水戸さんと一緒に食べた。ついでに購買の一番美味しい揚げパンも買ってきてくれたので、もうこの人の所に嫁いでもいいなと思った。優しいイケメンさんだ。
お礼に自家製の玉子焼きをあーんしてあげると、照れながらも食べてくれた。これが青春ってやつですな。勿論カメラは回ってますよ。
本当は光と影コンビの所にも行きたかったけど、テッちゃんは驚異の観察眼があるのでバレる可能性が高く断念。
そして放課後。午後の授業はカケちゃんに再度手伝ってもらって三年と二年の授業風景を撮影。そして見事!かがみんの半目居眠りと、順ちゃんの眼鏡ズレて涎垂れた居眠りと、リコぴんが急にニヤニヤし出した場面などが撮れた。しかしリコぴんどうした。あとは水戸さんが撮ってくれたコガの首がカクカクなってる居眠りも、ちゃんとカメラに収められたのでミッション成功。
また体育の風景も撮れて青春に汗を流す少年達を見てニヤニヤしたのは言うまでもない。
一方、放課後のバスケ部。
「今日の昼休みな、オレと伊月にファンだって一年の女子が声掛けてきたんだぜ」
「何でもWC観てファンになったからわざわざ誠凛に入ったらしいよ」
「マジかよ!うっそだー」
「本当だって」
言ってる言ってる。本当に自慢してるよ、鼻高々話してるよ!やばい草生えそう。吹き出しそう。「気付いてませんねお馬鹿さんですね〜」とカメラに吹き込んでおく。
「でも何処かで見た事ある気がするんだよな…」
「WCを観に来ていたならその時に視界に入っていた人とかじゃないですか?」
俊ちゃんの言葉に小さく吹き出しながら、次は「それはあたしだからですよ。気付かないとはまだまだですね、水戸さんを見習いましょう」と吹き込んでおく。
「っていうか、じゃあ何でマネージャーに誘わないのよ!ファンだって言うならスカウトされれば喜んで入ってくれたかもしれないのに!今年もマネージャーいないし…」
「確かに。次会った時に声掛けてみれば?」
「残念ですが次がないんです。だってあたし誠凛の一年生じゃないからブフッ」と最後に吹き込んで、少し落ち込んだリコぴんと宥めるみんなと未だ嬉しそうな顔をしている順ちゃんと俊ちゃんの姿をカメラに収めて、あたしはその場を後にした。退散する直前、水戸さんが振り向きピースをしていたのでちゃんとそれも収め、ピースを返した。
一日撮ったビデオをカケちゃんと一緒に確認して居眠りの様子とかで笑いながら楽しい時間を過ごしていると、
今日一日楽しかったです。こんな体験中々出来ませんから、思い出に残りました。
そう言って綺麗に微笑むと成仏なさった。え、こんなんでよかったの?と思いながらも協力のお礼を告げて、成仏を見送る。
そんなこんなで誠凛を後にし、校門を出た所で、
「ミッションコンプリート!!」
とあたしのドヤ顔で撮影を終了した。
自宅に帰って確認すると、あの時は気付かなかったけどやっぱりカケちゃん映ってたわ。声も何となく入っていて、心霊映像になった。全く怖くないやつだけど。
ネタばらしは全校分撮り終わってからするつもりです。データは常連さんに編集してもらう徹底ぶりです。出来上がりが楽しみだ。
さて。次は何処の学校にしましょう。次回に乞うご期待!!
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