INFINITY WORLDあたしが洛山潜入前編
「第三回。チキチキ。みんなの学校に潜入してみよう大作戦〜」
パフ…パフ…パフ…
おはようございます。現在早朝なので近所迷惑にならないように小声でビデオカメラに向かって話し掛けております。まるで寝起きドッキリでも仕掛けるかのようなテンションです楽しいな〜。
「大好評の学校潜入。あ、まだ映像を誰にも公開はしておりませんが。てへぺろ!…ゴホン。今から新幹線で京都に行って洛山に潜入しに行きたいと思います」
みんなとの勉強会があって以降、無事に何処の高校も中間テストは終えたとの事で、今では通常授業に戻っていると聞いている。それは他県も同じで、赤君やあっちゃんと電話した時にテストの話をして確認済みだ。
みんなのテスト結果は、まあ言わなくても皆さんわかるでしょう。なので省きます。
今日は金曜日。少し前に赤君と電話で会いに行くと話していたが、約束の観光案内してもらう日は明後日の日曜日。到着予定は観光の前日、明日土曜日の夜の予定で赤君には伝えているが、お察しの通りフライングビジットします!
宿泊先は赤君に配慮してもらって、赤君が住んでる別宅に泊まるように言ってもらった。京都の別宅から通ってるとか、流石赤君だよね。
ホテル代が浮いて嬉しいけど本当にいいのかと聞いたが、使用人もいて部屋もあるから是非と言ってくれたのでお言葉に甘える事にした。だが今日はフライングビジット。赤君ならいいよと言ってくれるのを信じて、今晩のホテルの予約はしていない。甘え過ぎ?湯豆腐いっぱい作って許してもらうつもりだ。
まあ最悪無理でも京都駅にある観光案内所で混雑してなけりゃホテル取れるらしいからそれに賭ける。
「流石に制服で新幹線に乗ると変に目立つ恐れがあるので、向こうに着いてから着替えます。他県なのに制服は準備出来たのかって?そこは常連さんの力ですよ」
いつもどんな経緯で入手しているかは知らないが、頼めば何でもやってくれる常連さん。こんなに至れり尽くせりでいいのかと思うが、何度か喫茶店で奢らせてもらっておりそれでいいと言ってくれるのでお言葉に甘えている。
「さあ、電車の時間もあるし出発しますか。それでは〜レッツゴー」
小声で拳を突き上げ、キャリーに詰めた大荷物を抱えながら出発した。カメラの出番は学校に着くまでないので大事にしまった。
二時間と少し。始発の新幹線で京都駅に着き、駅のトイレで制服に着替えてキャリーはコインロッカーへ預け、バスを乗り継ぎ洛山高校へ到着した。
時間は既に始業している時間だが、そこは致し方ない。
「到着!いや〜眠い!朝早かったから眠い!だけど今の時期はいい気温で過ごし易いね。あ、これ洛山の制服ね。クールに見える?賢そう?ありがとう」
どアップから撮影が始まり、カメラをその辺に置いて全身を写す。灰色ブレザーにそれより濃いシャツに黒ネクタイ。あたしは好きだよこんな感じの。
賢い学校だからね、制服に合わせて髪を緩く巻いてみました。んで眼鏡。お嬢様に見えなくもないだろう!フハハハハハハ!!
だが一つ。とってもヤバい事に気付いた。
「京都幽霊多い…」
そうなんです。幽霊の量が東京とは違いかなり多い。それもそうだ。京都と言えば昔から都があって栄えていて戦争もあったし暗殺の聖地でもあるし…赤君と話していた時は気にしていなかったけど、清水寺とかちょっとヤバいんじゃないかと思ってる。
「普通の霊だけじゃなくてさ。怨霊というか、霊とは違う何て言うんだろう…妖怪?みたいな…うん。気を付けます」
上をふよふよ浮いているカップルの霊を見ながらそう言い、気持ちを切り替えた。
「さぁて!潜入しますか!」
校門付近には誰もいない。ささっと素早く校舎へ忍び込んだ。洛山も大きな学校で幾つか科があると聞いている。ので、彼らの科がある下駄箱から侵入した。
入ってみると中は静かだが、授業中の為教師の声が所々から聞こえる。一階が三年って事は、二年は二階かな?現時点で誠凛でみとさん、秀徳でタカ君にバレているので慎重に行かねばならぬ。特に赤君とか視線とかに敏感そうなので気を付けたいところだ。
早々に見付かるのを危惧し、三年から見る事に。一番最初に覗いた教室では早速ビンゴ、玲央きゅんがいた。真面目に受けている。偉いぞ。
横顔も麗しい。覗くとバレると思いカメラだけをこっそり覗かせて撮影。うん、オッケー。
次に見た所では永ちゃんとコタがいて、意外にも二人ともちゃんと聞いていた。だが永ちゃんよ。パン食べてるけど直ぐバレるから止めた方がいいよ。しかもそのパン、焼きそばパンじゃん。匂いするやつじゃん。
「おい、コラ根武谷!いっつもいっつも言うが授業中に食うな!」
「うっす」
「うっすじゃなくて食・う・な!!」
「うっす」
「ねえ聞いて?」
若い先生可哀想なんだけど。いつもの光景なのこれ。周りの子一切動じてないんだけど。唯一コタだけが笑っていた。
「次二年に行っくよ〜」
カメラに吹き込み二年のクラスを覗く。幾つか進んでやっと赤君を発見。赤髪目立つな〜。あれ、斜め後ろの席の子ずっと赤君見てニヤニヤしてる。好きなのかな?モテるな赤君。流石だ。
「じゃあ次を…赤司。読み上げてみろ」
「はい」
今は英語らしく、英文を流暢な英語でスラスラ読み上げていく。す、凄い。こんなハイスペックを撮る為じゃなくて面白映像が欲しかったんだけど。
まあ、赤君にそれを求めても無駄っていうのはわかってんだけどね。
あ、さっきの子惚れ惚れしてる。フフン、どうようちの赤君。すっげえだろ。そう自慢してしまうのは親心故か。何か友達褒められると嬉しい感じだ。
そうこうしている内に一限目が終わりのチャイムが鳴り、慌ててその場から退散した。
来た所は資料室と書かれた所。中は薄暗く埃被っていて使用された感があんまりない。潜伏するには絶好の穴場ではなかろうか。
だが油断大敵。こーゆー所にいるんだから。
アレェ スッゴクイイ匂イノ子ガ来タ
聞こえた声にギギギと壊れたブリキのおもちゃの如く顔を上げると、首がへし曲がり首の皮一枚で繋ぎ止めている男の人があたしの頭上でニタリと笑っていた。
「にゃああああああ!!!」
慌てて資料室を飛び出すが後ろから追い掛けて来る。カメラは回しながら壊れるとマズイので鞄にしまい全力疾走で廊下を駆ける。
休憩で廊下に出ている生徒は何事だと目を白黒させているがそれどころではない。
待ッテ 僕ノオヤツゥゥゥウウゥゥウ!!
「誰がおやつじゃああああああ!!」
廊下を駆け抜け向かった先は体育館への渡り廊下。幸いな事にこの前後で体育の授業があるクラスはないようで人がいない。そのまま上履きで外に出て校舎裏へ行くと、ソイツは此処まで追い掛けて来た。あたしは立ち止まりクルリと向きを変えて霊と対峙する。
モウ 逃サナイヨ
「…逃げません!!」
致し方あるまい。最終奥義だ!!
あたしが鞄から出したのはお札。但し前回秀徳で使った物とは違い、白い紙に対してこれは灰色だ。
「えっとえっと…落ち着けあたし!!えー…臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前!悪霊退散んんんん!!」
札を指で挟み九字切りをして向かってくるソイツに札を投げ付ける。すると霊の体に当たった瞬間霊が眩しい光りに包まれて絶叫した。
遠い所からでは有白家に送還出来ない為遠出した時はこれを使い九字切りするように言われていた最終手段である。これを受けた霊はなんと、
あ、すみません失礼しました
何の害もなさそうな無の顔になり悪意も全て取り払うとの事。よく出来たお札です事。
幽霊さんはくるっと向きを変えて元いた資料室へと帰って行った。何であそこに拘るんだろう。まあいいや、深追いはしない。
「ふぅあ〜…怖かったぁ…」
あたしは力が抜けてその場にぺたんと座り込む。急に走って霊と向き合ったから今更ながらどっと疲れが出てきた。
「大丈夫ですか?」
「ひぃっ!?あ、はい大丈…」
急に背後から声を掛けられてビクゥッと肩を飛び上がらせた後、人間の声な気がして気持ちを落ち着かせ振り向くとそこにいたのは、
「…夫じゃないかもー」
「そうですよね」
ニッコリと微笑んだ赤君でした。
あんなに気を付けろって自分に言い聞かせていたのに何やってんだあたし!!阿呆か!!
いや待てよ?あたしの今の格好的にバレてないんじゃないか?ただ単に心配してくれただけかも?
「ああ、えっと…ゴホン。ごめんなさい、やっぱり大丈夫です。お気になさらず」
その場から立ち上がると何処かの令嬢をイメージしてにこやかに微笑む。
「みっともない姿を見せてすみませんでした。では、私はこれで…」
鞄を持ってぺこりと頭を下げ、何でもないような顔をしてその場を去ろうとしたが、鞄を持たない左手首を掴まれ進めなくなった。
「何処に行くんですか?」
「何処って教室にですわよ?オホホホホ」
振り向けない。怖くて振り向けない。冷や汗ダラダラでそう前を向きながら言うがグイッと後ろに引かれてバランスを崩す。トンと背中に当たるのは恐らく赤君の胸板。お、おお。
「あなたが行く教室はないはずですが?そらさん」
やっぱバレてた!
そっと見上げると間近で赤君は可笑しそうに笑った。
「成る程。それで今日来たんですね」
「左様にございます」
赤君から説明を請われ、校舎裏で人目に付かない所へ腰掛け一から十まで簡単に説明すると納得はしてもらえた。だが赤君は先程まで笑っていたのに今は怒ってる感じだ。お、怒られる?
「潜入は構いませんが、もう少しそらさんは自分の身を案じるべきです」
「う」
「先程見ていた限りでは霊にでも襲われていたんでしょう?此処は京都。霊が多い事はオレも耳にした事があります。だからこそ明日そらさんが着いたら変な事件に巻き込まれないように迎えに行こうとしたり案内を買って出たりしたんですが」
「うう」
「オレの提案を全て無下にするつもりですか?」
「ううう」
「何か言う事は?」
「申し訳ございませんでした…」
だったら最初からそういう意図があるって説明して欲しかった…。そしたら少しは潜入方法も改めたのに。いや、こんな事言えば反省していないと思われて説教が続くから言わないけど。
でもあたしの事を配慮してくれていたのが嬉しかった。心がポカポカします。
「あ、赤君授業は?」
急にハッとしたが、次は二限目の授業。休み時間は短いはずで赤君もう戻らないといけないのではないだろうか。彼がサボるはずないし。そう思って即座に聞くと、ああ、と何でもないような顔で答えた。
「次は急遽自習になったんです。だからといって普通は休むわけにはいきませんが、そらさんがいますので」
「いやいやいや、あたしの事はお気になさらず。その辺にいるから」
「でもさっき襲われたばかりですよね。オレが傍にいます」
きゅん。
赤君優しいお言葉と表情にやられて何も言えなくなった。このイケメンめ。その時丁度チャイムが鳴った。
照れるあたしを見て赤君は問い掛ける。
「それで、潜入は続けたいんですか?」
「続けたい!だってまだ居眠りとか見てないし」
「居眠り…他に撮る事ないんですか?」
「あと部活風景!見たいなー」
嬉々とするあたしの答えを聞くと赤君は少し視線をズラして考え、あたしに視線を戻して微笑んだ。
「わかりました。放課後の部活見に来ていいですよ」
「本当?ありがとう!あ、でもこの事は…」
「内密に、ですね。わかっています」
流石赤君。話が早い。
「但し。勝手な行動をした代わりに今日からオレと一緒に過ごしてもらいます」
「え」
「授業中は無理ですが、それ以外…例えば昼休みとか。ご一緒しませんか」
きっとあたしがまた変な事に巻き込まれないか心配してくれての言葉だろう。その言葉にあたしは嬉しくなってしっかりと頷いた。
「うん!お願いします」
「こちらこそ」
ふとあたしは気になっていた事を聞いた。
「そういえば、何であたしってわかったの?」
「叫びながら廊下走っていましたよね。丁度職員室に用事があって戻る際に見掛けたんですが、その時の声に聞き覚えがあって追い掛けたら…」
「ああ…」
あのおやつがどうのってやつか。クソ、アイツさえいなけりゃ!叫ぶあたしも悪いけど。
「あの世界で逃げ回っていた時の事を想起させるような感じでしたね」
「直ぐ叫ぶ癖どうにかしよう…」
両手で顔を覆いながら反省していると、その間に距離を詰めていた赤君に両手を退けられる。
はて、と固まっていると眼鏡をスッと取られた。あれ、前にもこんな感じの事あったぞ。
「…どちらも似合いますね」
何で急にそういう事言うかなァァァ!!
カァッと頬が熱くなるのがわかり少し俯く。
「今日は巻いているんですね。自分で?」
「そりゃ、まあ…」
「制服まで用意して眼鏡と髪型で変装…そこまでするのかと少し呆れましたが。よくよく考えるとこんな格好のそらさんを見られるのは貴重ですね」
眼鏡をあたしのブレザーのポケットに差し込み、赤君は緩く巻いた髪に触れて指先で弄ぶ。緊張から固まって動けないあたしに赤君はふっと微笑を零すと、髪を一房梳いて唇を落とす。ひぃぃぃぃ!王子様ぁぁぁ!!
「他の奴に見せるのは勿体ないな」
どうやら赤君はあたしを殺したいらしい。
そんな事を言われてしまえば頭が爆発するのも仕方ない事だと思う。賛成の人挙手!!
真っ赤になって何も言わなくなったあたしを、赤君は上品にクスクス笑ってからかい続けた。ドSかよ。
後半へ〜続く!
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