INFINITY WORLD
あたしが洛山潜入後編

「ねえ赤君」

「何ですか?」

「これはまずいんじゃなかろうか」

 現在昼休み。あれから二限目の時間帯は赤君にいじられて過ごし、以降は図書室であったり中庭や屋上であったり適当に過ごした。怪異には遭遇していない。
 さて。何がまずいかと言うと、現在あたしは赤君に連れられて二人共お弁当がないから食堂に来ています。食堂です。洛山の。昼休みに。言いたい事伝わりますか。

 人の視線に殺されそうです。

「そうですか?」

「いやいや。めっちゃ視線集めてんだけど」

 赤君は生徒会長でバスケ部の主将。成績は常に首席で容姿端麗、正に文武両道のHSのイケメン男子なのである。
 そんな彼の隣にだよ?特に秀でたところがない女生徒(に扮したあたし)がいたらそりゃ視線は集めるよ。「誰?あの子」「赤司様の隣に立つなんて!」みたいな事言われていても可笑しくない。

 しかもいくら広い学校と言えどみんなが今日まで見た事ない女だよ?混乱を招くのも当然だ。まあ、赤君に話し掛ける程仲良かったり指摘出来る程の神経を持ち合わせたりする人はいないみたいだから突っ込まれる事はないけど。

 だが油断するな。バスケ部部員は話し掛けてくるはず。
 ちなみにカメラは持っている鞄から覗かせて撮影中です。

「何にしますか?」

「ちょい待ち。何で普通に出来るの?」

「下手に気にし過ぎると墓穴掘りますよ」

 赤君はそう言って微笑むと再度何にするか聞いてきた。成る程、言われてみればそうかも。

「…じゃあ鯖の味噌煮定食にする」

「わかりました」

 そして何故か奢ってくれる。流石に年下に奢らせるわけには、と止めるが赤君はナイススマイルで聞かなかった。別の機会にお礼しよう。
 赤君はチキン南蛮定食にしたようで、二人で取りに行く。

「あ、あの!」

「え」

 話し掛けてきた勇者現る!聞こえた声に二人で振り返るとそこには赤君と同じクラスでニヤニヤと惚れ惚れしていたあの子。

「赤司君!ここここの人は誰ですか!」

 前の赤君なら多分「君には関係ない」とか言って一蹴したんだろうけど、今の赤君は社交的ではあるのでちゃんと答えた。

「オレの大事な人だよ。今日は学校見学で特別に来ているんだ」

 あ、そういう設定?ここの制服着ちゃってるけど赤君なら一日の為と言えど用意したと言っても(お金持ちだから)違和感薄いし、確かにそれなら怪しまれる事は少ないかも。それに大事な人って言葉もどうとでも取れる。例えば恋人もそうだけど親族とか。ただこの場合は恋人とは受け取らないでしょ。わざわざ恋人を特別に学校見学させるかって話だ。

「こっ恋人ですか!?」

 何故そうなる。君ね、もうちょっとよく考えよう?
 あたしが呆れていると、赤君はクスッと笑って女生徒から顔を前に戻した。

「さあ…?」

 意味深長な言葉にあたしは唖然。周りはザワッと一気にざわめいた。ナンテコッタ。

「赤君…」

「…ふっ。すみません」

 あたしが面倒な事をとじと目向けるが彼は笑ってはぐらかした。まあ、あたしは今日一日だしいいんだけどね。
 そんな会話をしている間に食事が提供されそれを持って二人で空いている席に座った。向かい合って座った後も視線は途切れない。落ち着いて食べられないでしょうが。こっち見んな。

「「頂きます」」

 二人で手を合わせて食べ始める。うわ!この鯖の味噌煮うっまい!!それが顔に出ていたのか赤君はまた小さく笑った。

「あら、征ちゃんこんな所にいたの」

 デデーン!山口、アウト。
 現れた玲央きゅんとコタ、永ちゃんに脳内でそれが再生された。来ちゃったか来ちゃったのかァァァァ!!

「あら?その子は?」

「初めまして。川口りくです」

 赤君が言う前にあたしは上品さを振る舞い偽名を名乗った。もしまた大事な人とでも言われれば彼らなら容赦なく突っ込んでくるからだ。今は髪巻いてるし眼鏡だし、あたしは東京に住んでるって彼らの脳内にインプットされているから簡単にあたしとは気付かないと思いたい。墓穴さえ掘らなければ。

「征十郎君の知人です。今日は学校見学に来たんです」

「へー!赤司んな事一言も言ってなかったじゃん!」

「言う必要はないと思ってね」

「折角だからご一緒してもいいかしら?」

「ああ、いいよ」

 おいコラ赤君!そこあたしが許可出すとこじゃないの!赤君は微笑んでいて明らかにこの状況を楽しんでいた。クッ!!

 三人は昼食を買いに行く為その場から立ち去る。あたしは赤君をちょっと睨んでおいたが、彼は気にする事なく口を開く。

「さっきの」

「…何?」

「もう一度呼んで下さい。名前」

 じっと赤君が見つめてそう言うが、あたしは瞬時に意地悪な思考に辿り着きフフンと笑う。

「やーだよ」

「………」

「さっきのは特別だもん」

 不満げな赤君の視線に優越感を覚えつつ味噌汁を飲んだ。

「あー美味し」

「………」

 尚も無言は続く。段々居心地が悪くなってきた。まさかとは思うけど拗ねてないよね?

「………」

 あっ拗ねてる。

 そう思っていると三人が戻ってきてあたしの隣に玲央きゅんとコタ。赤君の隣に永ちゃんが座った。

「どうしたの?喧嘩?」

「いえ。何でもありません」

 玲央きゅんに微笑み返すと彼は拗ねている赤君を見て目を瞬かせた。こんな赤君見た事ないよね。あたしもだよ。

「なあなあ!」

「はい?」

「川口さんって何年生!?」

 おっとこれは難儀な質問だ。うーんと少し考えて口を開く。

「学年は二年生ですね」

「赤司と同じか!今は何処の学校!?」

「実は今まで留学していまして。最近こっちに帰ってきて編入の為色んな学校を見学させてもらっているんです」

「じゃあ帰国子女!?英語喋れんの!?」

 グイグイくるね、コタ君。そしてその場凌ぎの設定が段々ヤバい事になってきた。やり過ぎたわ。年サバ読み過ぎでしょあたし。

「そうですね」

「じゃあ何か喋ってよ!」

「いい加減あんたは食べなさい!」

 ナイス玲央きゅん!コタはちえっといじけて食べ始めた。さっきの間に永ちゃんに唐揚げ一つ奪われていた事に彼は気付かない。

 あたしが苦笑していると玲央きゅんはあたしをじっと見る。あたしが首を傾げると赤君を見て言った。

「彼女、そらさんに似てるわね」

 ギックゥ!!
 あたしは心臓が口から飛び出そうになった。赤君はあたしを一瞥してそうだねと相槌を打つ。

「確かに!赤司ってこんな感じの顔の人好きなの?」

 こんな感じって何だよコタ。失礼!

「別にそういうわけではないよ」

「赤司のタイプって品がある奴だろ?コイツはそうでもねぇけどそらは品はねーだろ」

 オイコラ永ちゃん。事実だけど失礼だから!

「だから顔だって!可もなく不可もない顔が好きなのかって聞いてんの!」

「小太郎!失礼でしょ!」

 怒っていいの?コレ怒っていい?玲央きゅんの言う通りコタは失礼だって!いつものあたしならキレてるけど、ここでキレたらバレる。だから我慢我慢。

「オレは外見で好みを決めないよ。振る舞いなど全く気にしないわけではないが、中身で好き嫌いの判別をする」

 赤君は淡々と言った後、あたしを見て微笑みながら言った。

「彼女もそらさんも、オレにとって大切な人だよ」

 さっきの仕返しとしか思えなかった。またしてやられたと思い赤くなる顔を味噌汁を飲んで誤魔化した。

「「「(照れ屋な所まで似てる…)」」」

 耳まで赤くしたあたしを見て三人はそう思いつつ、最後まであたしと気付かなかったようだ。
 ここまでの記録はほぼ音声のみでカメラに収まっている事でしょう。










 放課後。部活風景は体育館のギャラリーから撮影した。みんな頑張ってる姿とか時折こっちに手を振る姿とかくらいしか取れなかった。あ!面白映像として永ちゃんの長〜い放屁なら撮れたよ。汚ねえ。
 最早目立ち過ぎてしょうがないあたし。学校潜入はコソコソするもんだと思ってたけど、オープン潜入もありかなと思った一日でした。

 帰りは赤君と一緒に帰る。赤君が二人で帰りたいと玲央きゅん達に言って別れたのだが、その言葉にもドキドキさせられたあたしには余程余裕がない。まあ意味合いとしては京都駅に送って行くからっていう意味なんだけどね。その言葉にドキドキしたって話。

 バスで京都駅まで行き預けた荷物を持って、赤君の使用人さんが車で迎えに来てくれたのでそれに乗って赤君が住む別宅に移動する。
 今晩の泊まる所を聞かれてわざとしなかった事をテヘペロ付きで伝えた所、苦笑しつつも快くOKをもらえた。ただ何処にも泊まれないという最悪の状況を想定していなかった事については説教され、軽くデコピンされた。可愛い。

 そして別宅に着く。予想以上に大きい。お金持ちって怖いね。
 今はもう日は沈み辺りは暗い。ここからの夜は長く、京都三日間在住の旅も長いものとなる。

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