INFINITY WORLDみんなで赤君邸
翌日。目覚ましの音で意識が浮上し煩いそれを止める為に音の鳴る携帯の方へ手を伸ばす。ピタリと止んだ音に安堵しいつもの癖でまた二度寝をしそうになったがあたしの正面であたし以外の誰かが身動ぎ、はて、と思考が止まる。目を開けるとそこには端正な顔があり、暫し見つめて見惚れていると状況を思い出し動かない脳で理解して冷や汗がダラダラ出てきた。
そうだった。此処赤君宅であたし赤君に抱き枕にされて寝たんだったわ。
一先ず落ち着こうと一度目を閉じて冷静になり、再度開いて正面の彼を見つめる。赤君は起きていないようで静かに寝息を立てて寝ている。しかし本当に綺麗な顔だ。鼻筋が通っていて睫毛は長いし薄っすら開いた唇が色っぽい…って違う違う。
また一度目を閉じて気持ちを鎮めてから目を開け、携帯に手を伸ばしスヌーズ機能でまた鳴らないように操作する。
そして時間を確認し朝食を作る為にまずは身支度をと、ゆっくり振動をあまり与えないように細心の注意を払いながら彼の腕から抜け出す。何とか上半身は起こせたので彼のいる方とは逆から降りようとクルリと反転すると、体が動かなくなった。
え、もしかしてここにきて霊障!?と一瞬思ったが腰辺りに何かが巻き付いているのに気付き見下ろすと、そこには先程まで抱き締められていた赤君の腕。
振り返れば座るあたしに後ろから腕を回して抱き着いている。顔も腰に埋めていて、これは、寝惚けているのか?赤君が?
「…赤君?」
「……ん、」
寝起きで思ったより声が掠れていたが、彼も同様寝起き特有の掠れた声で返事がある。色っぽい…じゃなくて。起きてたのか、てか起こしちゃったなコレ。
「ごめんね、起こしちゃったね。まだ寝てていいよ。ご飯出来たら起こしてあげる」
「…まだいて下さい」
ズキューン!!
かんわいいいいいいい!!昨日に続き甘えたさんのデレ赤君ですかああああああ!!
寝起きなのにオーバーヒートしそうな頭を一瞬抱えたが、また気持ちを落ち着かせて腰に顔を埋める彼の赤い髪の毛を梳くように撫でる。
「だーめ。朝ご飯作って食べてかないと今日の部活で倒れちゃうよ」
「……」
無言の彼に思わず苦笑しポンポンと頭を撫でてゆっくり腕を解くと、反抗はなくされるがままに腕を離された赤君は少し顔を上げてあたしを見つめた。
「まだ起きるには早いから寝てて」
あたしはベッドから降りてそっと彼の瞼の上に手を翳してそう言うと、赤君の部屋を後にした。手を離す直前目を閉じていたので素直に聞いてくれるだろうと思いながら、着替えや歯磨きなど身支度を整えた。
そして広いキッチンで朝食作りを開始した。
【赤司side】
そらさんが出て行く音を聞きながら、目を閉じたまま寝起きで働きにくい脳で昨日から今に掛けての事を思い出す。
潜入と言って一日早く突然京都に来たのには驚いた。だがその後彼女と過ごせた事は嬉しかったし、世間一般では所謂コスプレと言われてしまうだろうが制服も似合っていてその点に関しては正直よかったと思う。
オレには視えないが霊に襲われた事で心配したし無鉄砲な旅と言える彼女の行動には些か呆れもしたが、アポなしと言えど一日早く会えたのは想定外でありつつも嬉しかったのには変わりない。
顔を見合わせて食事や会話をするだけで心が温かくなる。彼女はいつも周りをよく見ていて、外見年齢はオレ達と差はなくなったが中身は立派な成人女性という事もあってしっかりしているし、世話を焼いたり周りを引っ張ってくれたりする素敵な女性だと思っている。些か下品な部分はあるが。
そんなそらさんは触れると緊張した様子や俺の言葉に照れる様子が度々見られ、そんな彼女が可愛らしくてついからかってしまう時もあるが随分とオレ自身がそらさんに懐いたものだと少し笑えた。
入浴後そらさんを呼びに行くが返事がなく部屋の中を覗くと、ベッドでスヤスヤ気持ちよさそうに寝ていた時は流石に無防備だと自然と眉根に皺が寄った。その時は使用人は帰宅していてそらさんとこの家に二人だったし、オレが青峰や灰崎のような愚行を働く気はないものの男と一つ屋根の下だと言うのに警戒心の欠片もない彼女に呆れた。同時に些か怒りもあったかもしれない。
オレ以外の男とでもこの有り様だったら、手を出されても可笑しくはないからだ。
オレも男だ。全く意識されていないとは思わないが、そらさんにとって男という以前に弟のように思われているからこんなにも無防備なのかとも考え、嬉しいような複雑なような心に靄が掛かった気持ちで、少し気持ちが悪い。
そんな事を考えているうちに自然と体が動いて、髪から雫が滴ってしまうのも構わず彼女の上に少し乗り掛かり見下ろすように見つめる。顔立ちは特別端正というわけではないが、オレからすれば充分可愛く時に美しいとも思う。
心地好さそうに眠る彼女に目を細める。愚行を働く気はないと言ったが、こうして目の前にいる彼女を見つめていると男の性というべきか触れたい衝動に駆られる。
彼女への気持ちが恋愛としての好意かどうかはまだハッキリしない。だが他の女性とは違うように感じている自覚はある。
少しだけ、と心の中で謝罪しそらさんの額へ軽く唇を落とす。
離れる際に雫が頬に落ちた事で目を覚ました彼女と目が合い、赤面して慌てる彼女に最初こそ説教の一つでもしようと思ったがやめた。額へのキスでも手を出した事には変わりないので、オレに説教する資格はない。
その後の想定外の展開で髪を乾かしてもらいながら彼女に甘えてもいいのだと諭され、こういう所が花宮さんなど一部にはお節介と言われてしまうだろうが、彼女の魅力なんだろうと思いながら甘える事にした。
ただそこに付け入るように理由付けて接触を増やした事は自覚ある上での行為で、彼女を戸惑わせているとわかっていながらやめないオレは性格が歪んでいるらしい。
目覚ましの音で目が覚め、目を閉じながらもぞもぞと動きつつすっぽり腕に収まっている彼女はお人好しなのか鈍感なのか何も考えていないのかたまにわからなくなるが、そんな彼女に翻弄されながらオレも翻弄するかのように今朝も甘える。
先程まであった腕の中の温もりが消えた事で、ずっと此処にいればいいのにとぼんやりと思った。それは今オレがいる京都にか、あるいはこの腕の中にか。
そこまで考えるのは何だか億劫で、誤魔化すよう身支度を整える為に体を起こした。
【そらside】
「「頂きます」」
あれから冷蔵庫にある食材で和食を作り、赤君を起こしに行くがずっと起きていたようで既に身支度が終わっていた。眠りの妨げになってしまった事を再度詫びるがやっぱり赤君は許してくれる。
二人揃って朝食を摂る。焼き鮭に豆腐の味噌汁、胡瓜の酢の物にだし巻き玉子と白米といった献立であるが、どれも美味しいと言ってくれた。いいお嫁さんになるだなんてそんな照れちゃう。あれ?言ってない?
「今日は9時から一日練習だったよね」
「はい。終了時間は18時の予定です」
「おっけ。あたし元々今日の18時頃に京都駅に着く予定だったよね。みんなもそのつもりでいるだろうから、ビデオの事も潜入の事も全部他の学校が終わるまで内緒にしてね」
「ええ。わかっています」
「先に赤君家に来たって事にするから合わせてね。あ、使用人さんにも昨日からいるって内緒にしてもらわないと」
明日の観光は赤君だけではなく三年組三人も一緒に行く事になっている。だから今日は三人も赤君宅に泊まる予定なのだ。
あたしもう来ちゃってるけど、来てる事バレたら何でってなってビデオの事とかもバレちゃうから内密にしなければ。玲央きゅんは兎も角コタと永ちゃんは他に情報を漏らす可能性があるので、それは阻止せねばなるまい。
今日の予定を立てて嬉々と話していると、赤君家はクスクスと笑った。何故。
「何笑ってるの?」
「随分楽しそうだなと思って。すみません」
子どもみたいってか。いいもん、子どもでいいもーん。
「夕食はあたしが作るからね。何でもいい?」
「はい。根武谷はよく食べるので量は多くしてあげて下さい」
「永ちゃんだけ食費請求しないとね」
二人でクスクス笑いながら今日の打ち合わせをして朝食を終える。赤君は部活の支度をしていて、その間にあたしは片付けをする。
「そらさん。そろそろ行ってきます」
「うん。あ、待って待って!」
丁度食器などの片付けが終わった頃に赤君が顔を出しに来る。ジャージ姿でエナメルバッグを肩に掛けた赤君は正に部活に勤しむ学生って感じでとても新鮮だった。
出て行く赤君を呼び止め駆け寄りある物を差し出した。赤君はそれを受け取り目を瞬かせる。
「弁当、ですか」
「うん。使用人さんに弁当箱とかあるか昨日聞いて用意してもらったんだ。お昼に食べて!」
ちょっとしたサプライズである。赤君は巾着に入った弁当を見つめた後、あたしを見て嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。頂きます」
「今日も一日頑張ってね」
「はい」
玄関まで見送りに行き、靴を履いた赤君は振り返る。
「行ってらっしゃい!道中気を付けてね」
「行ってきます」
少しむず痒そうに微笑んだ赤君は元気に出発していった。いいねえ、こういうの。
あたしはググッと伸びをして、暇になってしまったので少し掃除でもしようかと思った。あまり家主のいない人の家を歩き回るのは気が引けたが、赤君は自由に過ごしていいと言ってくれたのでお言葉に甘えよう。
まずはお風呂掃除だ!と意気込み風呂場へと向かう。
風呂掃除を終えた頃に使用人さんが来て掃除していた事でお客様なのにとあわあわしていたが、一緒に色々手伝わせて欲しい事を伝えるとそこまで言うならと了承してくれた。
そこからは一緒にのんびり作業をする中で互いの話をして仲を深めた。勿論昨日からいる事を内緒にして欲しい事もお願い済みだ。
買い物まで一緒に連れて行ってもらい、夕食の献立も考えてくれたし量が多いならと手伝ってくれるとの事でそれもまたお言葉に甘える事にした。素敵過ぎるこの使用人さん。
「「「お邪魔しまーす」」」
使用人さんと夕食の仕上げをしていると玄関から賑やかな声が聞こえた。帰って来たようで、使用人さんに声を掛けてから玄関へ向かうと昨日ぶりの三人がいた。
「お帰りー。お疲れ様」
「そらさん、ただいま」
「わー!!そらだー!!」
「久しぶりコタやーん」
「お久しぶり、そらさん。元気そうね」
「元気元気ー。玲央きゅんも元気?」
「ええ」
「いい匂いすんな」
「丁度ご飯出来たとこ!」
向こうはあたしと久しぶりな感じで話し掛けてくるのでそれに合わせてボロが出ないように気を付けないと。
ちなみに今は19時前。夜着予定のあたしがこっちに着いて早々ご飯を短時間で作った設定には無理があると思って、予めLINKで夕方に着いたから先に赤君邸に行く事を赤君入れた四人に知らせていたので、アリバイ工作はバッチリだ。
三人は客室に一人一部屋通されて荷物を置きに行く。一人一部屋って、この家本当ヤバイな色んな意味で。
階段を上っていく三人を見送りキッチンに戻ろうとした時、赤君に呼び止められる。
「弁当美味しかったです。ありがとうございました」
「はーい。お粗末様」
空っぽの弁当箱を返され嬉しくなって破顔していると赤君はポンポンと頭を撫でて三人の後を追うように二階へ上がっていった。何で撫でたんだろ。
キッチンに戻ってリビングに食事を運び夕食の準備を整える。終わったところで丁度四人が来て食事を見て目を輝かせた。
「うわー!!スッゲー美味そー!!」
「手洗いうがいちゃんとした?」
「した!!」
「じゃあ座って宜しい」
「お母さん?」
コタは早速座っていて他の三人も座る。後は私に任せてと使用人さんに促されあたしも座り、みんなで夕食を食べる。
「「「頂きます」」」
「「頂きます!!」」
コタと永ちゃんは凄い勢いで食べ始めた。永ちゃんがいるのを考慮して唐揚げとエビフライ、ミニハンバーグに麻婆茄子にサラダやスープ、赤君好物の湯豆腐など種類と量共に豊富に揃えて正解だと思った。
食事をしながら他愛ない近況報告をしたり、今日の出来事を話したりする。
「昨日ね、征ちゃんの知り合いでそらさんに似てる人が学校に来ていたのよ」
「あたし?へー。世の中には三人似てる人がいるって言うしね」
きた、昨日の話。やっぱり来るよなと思っていたので、あたしは相槌打ちながら玲央きゅんを見る。
「詳細聞いても全く教えてくれないのよ〜」
「そら捨てられるんじゃね?」
「何だよ捨てられるって」
赤君に捨てられるって意味か?ふざけんなコタ。しかしそれはあたしだからノープロブレム。ネタバレする日が楽しみだ。
「じゃああたしに似て美人だったんだろうねー」
「「「えっ…」」」
「ヤメロそのリアルな反応!!」
三年組が揃って言葉を失うのでイラッときた。わざとだってわかってるけどイラッときた。その反応にコタはケラケラ笑っていて、玲央きゅんはあたしを宥めるように撫でて、永ちゃんはバクバク食べ進めていて、赤君は微笑みながら見守っていた。
年下に見守られるあたしらってどうなのよ。
夕食後はデザートのゼリーも食べて雑談しながらみんなでお片付け。使用人さんも勿論やってくれているので、あっという間に終わった。
「お風呂沸いていますから順番にどうぞ」
「そらさん、どうぞ」
「いやいや。みんな汗かいたでしょ?先に入っておいで」
使用人さんに続き赤君に促された。断るとまたか、という目で赤君に見られるが気にしない。
「じゃあオレ入ってくるー!さっき見たらスッゲェ広かったから早く入りたかった!」
「じゃあ次オレな」
だが昨日とは違い言い方を悪くすれば図々しい、よくすれば素直なコタと永ちゃんが順番に早速入りに行った。
「もう、あいつらデリカシーないわね。普通私達女子を先に入らせるでしょ。ねえそらさん」
「あははっ、だね。……うん?」
「ん?」
「え?」
私達?女子?反応が遅れてしまったのでツッコミ辛くなった。玲央きゅんわざと?ねえわざとなの?
赤君は二人して目を瞬かせているのを見て可笑しそうに小さく笑っていた。いや、笑ってないで突っ込んで。
その後結局あたしは三番目に入らせてもらい、入浴後はリビングでみんなで駄弁る。使用人さんは時間になると帰って行った。
「明日楽しみね」
「そら何処に行きたい?」
「あんまり霊がいないとこ」
ウケを狙って言ったのだが四人の顔が哀れむような顔に変わった。冗談だって、だからやめてその顔。
「でも行き先は赤君が殆ど決めてくれてるから。赤君ナビにお任せする。きっと素敵なプランを立ててくれてるから。ね、赤君」
「無駄にハードル上げやがったコイツ」
無茶振りのようなフリで赤君に話し掛けるあたしを見て永ちゃんがじと目で見てくる。何とでも言え。
「そらさんの好きそうな場所とお勧めの場所を巡ります」
簡潔に予定を言った赤君。残りは明日の楽しみにしておいて、今夜はレッツパーリー!とばかりにコタが持ってきたトランプでゲームを始める。
「ババ抜きしよババ抜き。負けたら罰ゲームな」
「そういうのって言い出しっぺが負けるんだぜ」
「じゃあ負けはそらさんかしら」
「こら決め付けんな」
ちょっと馬鹿にした感じで笑ってくる永ちゃんと玲央きゅんに睨みを利かせ五人で始めるが、やっぱり言い出しっぺが負けるのは鉄則なようであたしが罰ゲームを受ける事に。
「そらって本当期待裏切らないよな!」
「裏切りは僕の名前を知っているようで知らないのを僕は知っている」
「何か複雑になってるわね」
某ギャグ漫画の一部のネタを引用しました。
罰ゲームは一番に上がった赤君(ここも期待を裏切らない)に決められた。
「根武谷に握手をしてもらって下さい」
「え?そんなんでいいの?」
そう言ってナメたのが間違いだった。
「いだだだだだだだだ!!!いったいいいいいい!!」
「マッスル握手!」
「一々マッスル付けんでいいっつーの!!いだああああああ!!」
永ちゃんは軽く握手をしてくれたらしいけど、握力半端ない彼の握手は手の骨が粉砕されるかと思いました。
その後すみませんと罰ゲームを指定した赤君が謝ってあたしの右手を労わるように撫でてくれた。
しかしそれ以降も手をよく触ってくるので、もしやこれも甘えの一種でこうなる事は彼の戦略の内だったのでは、と思うと赤君パネェ…の感想しかなかった。
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