INFINITY WORLDあたしと洛山
翌日。朝食を作り終えてから赤君を起こしに行くと既に起きていて着替えまで済ませていたので、赤君以外を叩き起こしに部屋を回る。普通に起こしました。大丈夫、飛び込んでません。
五人で朝食後、使用人さんが出勤してきてあたしを呼んだ。
「え。あたし何かした?」
「大丈夫です。行ってきて下さい」
赤君に言われて使用人さんに連れられ別室に移動する。
そして用件を終えてみんなの元に戻ると四人で片付けまでしてくれていたようで、気付いた玲央きゅんが目を見開く。
「あら!そらさん可愛い!」
「おお〜!!本当だ着物じゃん!!」
「よくお似合いです」
「えへ。ありがと」
そうなのです。使用人さんに着物を着付けてもらっちゃいました。何でも赤君からの指示でサプライズだそうです。前に着物で京都歩いてみたいって言ったの覚えててくれたみたいだ。クソイケメン。
白地に紫と紺で菖蒲が彩られた着物に薄めの青の帯。六月に入って梅雨もあるが気温も上昇してくるであろう今の時期は単衣と言って、裏地のない着物を着るらしい。柄の菖蒲も六月に丁度合うそうな。
この着物は使用人さんが若かりし頃に着ていた物との事で、着付け中もノリノリだった。ちなみに今日は晴れているので、単衣で丁度いいくらいと言われた。
「その髪もしてもらったのか?」
「うん。使用人さん凄いよね」
髪も綺麗に結い上げてもらっており、髪留めで留めてある。勿論化粧もいつものようにしている。永ちゃんはへえ、と相槌打つと呟いた。
「こういうの馬子にも衣装ってんだろ」
「ど突いてやろうか」
素直に綺麗と言いなさい。似合っていると言いなさい。
しかし永ちゃんの顔は冗談ではなく本気で言っているような顔なので、意味を履き違えて使っているのか、はたまた本当にそう思って使っているのかがわからず軽いショックを受けた。
「永吉、あんたねえ…。大丈夫よそらさん。あいつはほっといて行きましょ」
「は?おいコラ!」
頭を押さえた玲央きゅんがあたしを慰めてくれる。うん、大丈夫。赤君だって褒めてくれたんだ。いいんだ大丈夫。ぐすん。
みんなも支度をしていざ観光に出発!
「で、何処から行くの!?清水寺!?」
「清水寺は霊が多いと聞きますので避けます」
流石赤君わかってらっしゃる。前の世界で行った事あるし今日は行かなくていいと思ってたところ。
「新選組の跡地は以前に巡った事があると聞いたので今回は外し、主に洛西エリア内を巡ろうと思います。まずは華厳寺…鈴虫寺ですね」
「あたし鈴虫寺のお守り欲しかったんだ!」
鈴虫寺と言えば鈴虫が一年中いるので有名な場所だ。そしてそこのお地蔵さんが草鞋を履いていて福を運んでくれるとかなんとか。お守りも効くと耳にする。
近くのバス停からバスに乗り、いざ鈴虫寺へ。京都は一日乗車券があるから安いし便利よね。
そして鈴虫寺に着き、日曜ではあるが朝一という事もあってそこまで混んでいない。
「休日だと日中は駐車場まで列が続くそうです」
「うげぇ」
「無理絶対待てないわ」
緩い階段を上りながら赤君の言葉にコタと顔を歪める。夏場とか絶対死ぬな。
そうこうしている内に中に入り、住職さんから鈴虫寺の由来であったりお願い事の仕方であったりお地蔵さんの説明であったりを聞く。
「話し上手だね」
「そうね。聞いていて面白いわ」
お茶も頂きあたしはお守りを購入。庭を歩き景色を眺めてからお地蔵さんにお願い事をした。
「何お願いしたの?」
「内緒〜」
コタに聞かれたが教えると叶わない気がしてやめた。そっぽ向くとコタがしつこく問い掛けてくる。
「コタも買えばよかったんじゃん」
「オレ直ぐなくすから!」
胸張って言える事じゃねえよ。
そして早々に移動をし、次は嵐山方面へ。
「「お腹空いた」」
「二人共朝ご飯いっぱい食べてたでしょ!?」
バスの中で玲央きゅんに突っ込まれながらも永ちゃんと二人で何が食べたいかを話し合う。食べ歩きいいよねー。
「此処からは徒歩で行きます。足大丈夫ですか?」
「バッチリ。ちゃんと鼻緒で擦らないように防御してきたから」
心配してくれる赤君に親指を立てて返事をすると可笑しそうに笑われた。どっちが年下かわかったもんじゃないな。
嵐山ではその辺の寺を覗いたり小物店を覗いたりして歩く。小物店では髪飾りや装飾品を玲央きゅんと品定めして盛り上がる。女子か。
竹林の小径と呼ばれる竹がそびえ立つ道に来ると、聞いた事はあるが実際に見た事なかったあたしは感動のあまり口がポカーンだ。
「夜だと此処ライトアップされててもっと綺麗なのよ」
「へぇー!凄いね大きいね!」
自然に囲まれていると自然と深呼吸をしたくなるもので、肺いっぱいに空気を吸い込む。
「夜に此処で告白なんてされたらイチコロだなぁ」
「そらには一生ないような話だな」
「ちょっと今日永ちゃん喧嘩売り過ぎじゃね?買うよ?買ってやろうかええ?」
「そらさん落ち着いて」
殴り掛かりそうなあたしを止める赤君と玲央きゅん。永ちゃんは笑っており冗談だとはわかるがたまに酷い。隙狙ってカンチョーしたろか。
「そらさん?」
「なななナンデモナイヨ」
赤君は何かを察したのかあたしにニッコリ微笑み掛けてきてびビビった。エスパーですね。
そこから有名な天龍寺も寄って、嵐山渡月橋方面に向かって歩いているといい匂いがしてきて食べ物屋さんが増えてきた。
「あたしあれ食べたい」
「あー!オレもー!」
「オレあれ」
あたしとコタと永ちゃんが自由気ままにあれが食べたいこれが食べたいと言うのを精神的に大人組の赤君と玲央きゅんが見守りながらついてくる。あれ、あたし立場違うくね?今更気付いても遅かった。
そこでたんと食べて渡月橋に着く。橋の上を渡りながら涼しげに流れる川をみんなで見下ろす。
「綺麗ねー」
「キラキラしてんな!」
そんな言葉を耳にしながらふと気付く。川の中に人がいる。溺れているのか!?と思ったが違った。
「クロール…」
そう。溺れているわけではなくて悠々と泳ぐ人は幽霊さんでした。こんな所にまで…そして何故クロール…と呆れたように見つめてしまっていると赤君に後ろから目元を隠された。
「気にしない。そう言われているでしょう」
「あい」
そうでした。幽霊は見ても見ぬフリをと有白家に言われているのでした。
そこでも大体の観光を終えると次は太秦の方に向かう。時間は15時過ぎ。映画村へ入るとあたしのテンションが上がった。
「うっひゃひゃ!凄いよこのセット!写真撮って撮って!!」
「笑い方可笑しいぞ」
「凄いはしゃいでんだけど」
あたしは着物を着ているのでこの世界観には合っているだろう。こっちの世界にある好きなアニメの看板が出てたりテレビで見た事あるセットがあったりしてテンションが上がった。
またチャンバラ劇などの簡易イベントもあって凄く楽しかった。チャンバラに関してはコタと興奮して叫んだ事はお察しの通りだ。
「あの、写真いいですか?」
「ワタシモオネガイシマース」
「へ?あ、あたし?」
そして此処に来て着物を着ているからかより一層写真を求められる。着物は着たいけど動きにくいからと着ない人もいるので、そんな人達や外国人の方にお願いされる。
赤君達も特に女子から写真を求められていて、やっぱりモテるからかと思っていると外国人の方にまた声を掛けられた。
「オッケーオッケー」
「イキマース!」
白人の男性に肩を抱かれカメラを構える黒人男性に向かってピース。すると、頬にむにっとした感覚が。
あ、キスされた。
「Thank you!」
「あ、オーイエーグッドラック」
突然の事に一瞬惚けた為ここで使う言葉ではない英語を使うと笑われた。そして手を振り去って行く。やっぱ外国人は違うわ。そういやアレクさん元気かな。ヨッシーもにじむーも元気かな。こっちに戻ってきたのは知ってるはずだけど。
するといつの間にか赤君がいて、無表情にあたしを見下ろす。え、何怖い。
赤君はハンカチを取り出すと無言であたしの頬を拭き出した。え、何怖い。
「消毒よ消毒!そらさん好き勝手させてちゃ駄目なんだから!」
「避けろ!スマートにシュッて!!」
「アレックスとかいうあの女とは違うんだぜ」
三人に説教され、さっきのキスの事かと理解した。何かすみません。
「もう少し見知らぬ男には警戒心を持って下さい」
赤君にも説教されて頷くしか出来なかった。
そしてあっという間に夕食の時間になってそこから祇園へ移動し、赤君行きつけのお店で夕食。何でも父親の知り合いのお店らしく、京野菜の天婦羅や豆腐料理などの京料理が美味しいらしい。
座敷へ通され歩き疲れた足を摩りながら一日を振り返る。ちなみにあたしが頼んだのは赤君と同じ湯葉御膳だ。
「この写真コタ半目なんだけどウケる」
「これそらが躓いた瞬間」
「ちょ、消してよ」
「そら消してくんねーから消さねーもん」
「このそらさん一段と可愛く撮れたわ」
「…まるで母親だな」
「コイツ親馬鹿になりそうだよな」
みんなでやいのやいの言い合っていると食事が運ばれてきて、談笑しながら食べたり、食べ物をトレードしたりして最後まで有意義な時間を過ごした。
長いようで短かった三日間(三人は二日間だけど)。アクシデントもありつつ赤君のデレは見られたしみんなといっぱい話しが出来てよかったと思う。幽霊との接触も少なくてよかった。ふよふよ浮いてたり突っ立ってたりすんのは言わなかっただけで多かったけど。
赤君邸へ戻り着物から着替え、整理しておいた荷物を持って使用人さんに送ってもらいみんなで京都駅に向かう。着いてから使用人さんにお礼の抱擁をして改札口へ行く。
「みんなありがとー。四人に久しぶりに会えて嬉しかったよ!話もいっぱい出来たし」
「こちらこそ。またいつでも来て下さい。歓迎します」
「ミーキャンで保育士頑張れよ!」
「色々と無理しちゃ駄目よ?周りに使える奴いっぱいいるんだから頼ればいいのよ」
「ちゃんと食ってちゃんと休めよ」
「お母さん?」
玲央きゅんと永ちゃんに関してはお母さんのような言葉を頂きました。照れ臭くなって笑った後、この三日間が充実していてやっぱり寂しくてちょっと泣きそうになった。
「筋肉の付け過ぎには気を付けてね」
「おう。けどこんなもんまだまだだぜ!」
「玲央きゅんこそ受験勉強とか無理しないでね」
「ええ。ありがとう」
「風邪引かないように気を付けるんだよ」
「オレ数年引いてないから大丈夫だよ!」
「また連絡するから連絡してね」
「はい。必ず」
永ちゃんから玲央きゅん、コタ、赤君に抱擁して名残惜しく別れを告げるとみんなちゃんと抱き締め返してくれたので嬉しかった。
手を振って見送られ、あたしも振り返しながらホームへと向かう。人混みに紛れて姿が見えなくなると鼻の奥がツンとした。
「みんなも東京にいたらいいのになー」
そんな事をぼやきながら新幹線で二時間かけて東京へ帰る。
時間は既に22時過ぎで、最寄駅に着くとキャリーを引いて改札口を出る。此処から一人で歩きかー、寂しいなーと思っていると改札を出た所で待ち人発見。
「あれ?ちーちゃん?」
「遅い」
何故かちーちゃんがいた。そして怒られた。
「何でいるの?」
「…赤司にそらの帰りが遅くなるから迎えに行ってやってくれと頼まれた」
マジかよ。赤君本当優し過ぎて胸が苦しい。泊まらせてもらって色々世話してもらったのに、あたしなんてちょっとご飯作ってお菓子持ってっただけしかしてないのに。
今度何かお礼の品を送ろう。そう思った。
「うわー、マジかあ。ありがとう!丁度一人じゃ心細いと思ってたんだよ」
「だろうな。赤司はわかっててオレを来させたんだろうぜ」
ちーちゃんはキャリーを奪うとそのまま家の方向に向かって歩き出す。あたしは慌てて駆け寄り隣を歩いた。
「夜道は乙女には危ないもんね」
「は?乙女?」
「その真顔とマジの口調で突っ込むのはやめて」
そう言うとちーちゃんは小さく笑った。チッ、イケメン。
「みんなにお土産買ってきたよ。てかちーちゃん会うの久しぶりな気がする」
「あっそ。大学で色々と忙しかったからな」
「そっかそっか。てかお土産に対しての反応薄くない?」
そんな他愛ない事を話しながら帰宅すると、あっという間に着いて心細かった気持ちもなくなった。ありがとちーちゃん。そして京都組。
以上、そらの京都の旅でした。学校潜入のビデオの出来上がりが楽しみです。
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