INFINITY WORLD
あたしと呪い

 有白家。
 ひのちゃんママが用意してくれていたようで、あたしは拝殿に通されそこに敷かれた座布団に座る。三枚程敷いてあり辛かったら寝転がっても大丈夫と言われたが今の所大丈夫なので座ったままにする。
 ついでにひのちゃんママに生理である事を伝えると彼女は笑みを浮かべて頷いた。それとなく袴に着替えに行ったひのちゃんパパに伝えてくれると思われる。

 そして早々に準備は整いお祓いが始まる。ひのちゃんママはあたしの横に座って背中から腰に掛けてゆっくり摩ってくれていて心地いい。あたしは部屋着にカーディガンという格好でお腹を温めるように押さえて座っているだけだ。

 黒い石はひのちゃんパパの前に置かれている。ひのちゃんパパは印を結び祝詞を唱え始めた。
 すると暫くして石がカタカタと揺れ始め、あたしでもわかるくらいに黒い靄を出し徐々にそれが大きくなっていく。祝詞が終わるとそれは空いているスペースに流れ塊へと変貌していく。その光景をひのちゃんパパママは睨んで視ており、あたしは呆然と視ているしか出来ない。

「ひっ、い、おおおおおおにィィィィイイ!!?」

 形を変えたそれは、あっちゃんよりも大きい真っ黒な鬼の姿。まるであの世界で見た斧を持った鬼男のようだった。だが今回は金棒を持っている。鬼に金棒持たせる必要ある?危ないよ?銃刀法違反にならないの?
 あたしは“鬼此処に再来”とばかりに涙目で叫ぶ。これがあたしには視えてなかっただけでひのちゃんパパには視えていた鬼、コイツがあたしの部屋にいてあたしが苦しむのを見て嘲笑っていたと考えるとゾッとした。

 祝詞であたしにも視やすく実体化されているのだとひのちゃんママは言う。そしてその場から動かずこちらに手を出さないのは、出さないのではなく結界が張ってあり出せないらしい。結界とかいつの間に…結界スゲェ。

 血ガ 欲シイ

 間違いない、コイツの声だ。地を這うような低い嗄れた声で、血が欲しい血が欲しいとばかり言う。
 どんだけ血不足だよ。輸血してもらえ。あたしは生理で貧血気味なんだよアンタに分けられる程余っちゃねーんだよ。
 何度も血が欲しいと言うソイツに心の中で悪態吐く。口に出さないのは決して怖いからとかではなく、喋る気力がないからである。う、嘘じゃねえし本当だし怖くねえんだし!

 血ガ欲シイィィィィイイ!!

「ひいいいいいいっ!!」

 痺れを切らせたように叫んだ黒鬼に肩をビクつかせたあたしは隣にいるひのちゃんママに抱き着いた。嘘ですごめんなさい本当は超怖いです許して下さいあたし何もしてないけど。
 ってそうじゃん。あたし何もしてませんけどォォォ!!

「何でこの子の血が欲しいのかな?」

 血ガ必要 我 実体化スルニハ 高イ霊能力ノ血ガ必要

「ならこの子に執着する必要はないな。僕達にでも取り憑けるものなら取り憑いてみるといい」

 出来ナイ 力負ケル 負ケルクライナラ 弱イ者喰ラウ

 ひのちゃんパパと黒鬼の話を聞いてあたしは眉根を寄せる。
 要はあれか。黒鬼は完全な妖怪じゃないから完全な妖怪になる為に血が必要で、あたしの血が欲しいと。
 ひのちゃんパパママでは到底太刀打ち出来ないとわかっているので、あたしを狙い続けると。潔いなオイ。

「生憎、彼女を渡す訳にはいかない。大事な娘の恩人、僕達のもう一人の娘のようなものなんだ。お前は古来に生まれし妖怪ではなくて造られた妖怪。血を得た所で本物にはなれない」

 煩イ ヤラネバワカラヌ

「させない。消えてもらおう」

 ひのちゃんパパの言葉に胸がホッコリしていると、柔らかい話し方から一変し鋭く棘のある言い方でピシャリと言い放ち黒鬼と向き合い印を結んで念を唱える。一方あたしの隣でもひのちゃんママが同じように印を結んで念を唱えており、あたしには二人から何か神聖なる光のようなものが滲み出ているように視えた。
 重かった空気が晴れて澄んでいく感覚がわかる。黒鬼は唸り声を上げて体をくねらせ、苦しみから逃れるように叫ぶ。

 本格的なお祓いはこれが初めてだ。普段は幽霊ばっかりで言ったらチョチョイとされるだけだけど、妖怪ともなれば造られたモノだとしてもこれ程壮大なお祓いになるのかと学習した。そして感動。凄いカッコイイ!

 アアアアァァァア!! 寄越セェェェェェ!!

 もう直ぐ消えるかと思われた矢先、あたしに手を伸ばしてくるが守るように張られた結界に弾かれ、黒鬼は黒い塵を飛ばし指先から消えていく。

 それでも消えまいと力を振り絞るように踏ん張り消滅しない黒鬼に、二人は念を唱え続けるが額に汗が滲んでいた。
 このまま長期戦に持ち込むのは何だか直感的に駄目な気がして、あたしは鬼に向かって叫んだ。

「あたしの物はあたしの物だから絶対にあげない!!一昨日来やがれバーカバーカ!!」

 子どもじみた言い方だが本心である。
 黒鬼はあたしにも拒絶の言葉を吐かれ、断末魔を上げて風を起こし全身塵となり消滅した。
 消滅後、風は止み静寂が戻る。

「…ふぅ。これで大丈夫。そらちゃんありがとう、最後のよかったよ」

「言い方可愛かったわねぇ」

 二人は汗を拭いあたしに最後の拒絶は言葉は何であれ消滅を促す事になったと褒めてくれた。あんなんでよかったのか。
 来た時より随分体が楽になっていて、言ったらいつもの生理痛の感じだ。生理痛は残念ながらまだある。薬吐いちゃったし。
 取り敢えず状況を整理しようと言われ、拝殿から別室の居間に通された。










「これは簡単に言えば呪いの石。霊能力者によって、ただの石にその人が造ったであろう妖怪や怨念が込められた物だ」

 ひのちゃんパパは半分にパッカーンと割れた黒い石を机の上に置く。あたしはひのちゃんママ特製の生理痛に効く漢方を処方してもらい、それを飲み終えてから石をまじまじと見つめる。ひのちゃんママ漢方調合出来るとかハイスペック。

 ひのちゃんパパの見解はこうだ。誰かが妖怪の卵を造って(或いは念じて)黒石に込め、たまたま通り掛かったあたしが霊感あるけど弱いと察したその人はあたしの鞄に黒石を忍ばせたと。お試しあれ、みたいな。あたしからすれば試作品押し付けられたようなもんだ。

「そらちゃん女の子の日なんだってね。恐らく体調が極端に優れなかったのは取り憑かれたっていうだけじゃなくて、血を欲しがるあの鬼が血を余計に排出させて弱らせてから喰べようとしたんだと思うよ」

「た、喰べる?」

「魂を喰らって肉体から血を啜る、って事」

 血が欲しいってそういう意味?生理だから血は出るし間接的に血をどんどん排出させてウッホホーイって喜んでただけだと思ってた。けどその先に衰弱したあたしの魂を喰って血を啜るっていう生々しい流れがあったなんて…鬼怖ぇぇぇぇ。

「京都の本物の妖怪じゃなかっただけまだマシだったわね。お守りが効いたみたいね」

「肌身離さず着けております」

 首に掛かっているお守りを引っ張り出す。ネックレスのチェーンが付けられた小さく真っ白な勾玉タイプのお守り。これがお札と一緒にもらったお守りにございます。定期的に清めてもらっているのもあってか効果抜群だ。

「ただ今回はタイミングが悪かったみたいだね。京都で活躍していたからお守りの効果が薄れ始めて、そのタイミングで呪いが発動し月経が重なってしまったんだろう。可哀想に」

「本当あたし可哀想。なんちゃって」

 そうは言うが京都で慎ましくあたしを守ってくれていたお守りに恨みなどない。寧ろありがとう。鬼にもっと衰弱させられててもよかったのにそれがなかったのは君のお陰だよ勾玉ちゃん。

「何はともあれ、大事にならなくてよかったよ」

「リコちゃんが来てくれたお陰ね」

「はい。リコぴんにはまたお礼しなきゃ。ひのちゃんパパとママ、急だったのにありがとうございました」

 深々と頭を下げたあたしに二人は微笑んでくれた。ひのちゃんママに促されお守りを外して渡すとその場で清められる。此処で出来るんだね。

「にしても。今回のような事がまた起こると面倒だね」

「お守りはこれが一番強い物だし…」

 困ったように話す二人。あたしも確かに面倒だと思い、一つ提案してみた。

「あたしがもしちょっとでもお祓い出来るように修行するとしたら…どうなります?」

 その質問に二人は目を丸くさせる。

「出来るけど、かなり大変だと思うよ?」

「そらちゃん夏にミーキャン受けるんでしょ?私達は構わないけど、勉強とバイトとの両立は大変よ」

 それを聞いてあたしはうーんと悩むが、もしこの先ひのちゃんパパとママが駆け付けられない状況になった場合が怖かった。

「…でも出来た方がいいですよね。あたし、頑張ります」

 意を決したあたしを見て、じゃあ計画的にあまり負担にならないようにしようと言ってもらえてまた深々と頭を下げた。










「っていう話」

「妖怪擬き怖ェな」

 あの後、ひのちゃんパパからリコぴんに連絡を入れてもらいあたしは少し休み漢方が効き回復した頃に家に送ってもらった。バイトは行けたが、今日は何度も嘔吐して体力を消費しているので安静にと言われ、休みを頂く連絡をマスターに入れた。ああ、お祓い代はきちんお支払いしましたよ。

 その夜。リコぴんから話を聞いた誠凛みんなが家に寄ってくれた。かがみんはご飯を作ってくれており、あたしはリビングでみんなにリコぴんと一緒に今朝からの事を説明する。
 順ちゃんは顔を青ざめさせて同情してくれる。本当怖かったあの鬼。またあの鬼見る羽目になるなんて誰が予想したよ。

「っていうかさ、そらさんの鞄に石を入れた犯人突き止めないと気が済まないんだけど!」

 コガは少しプリプリ怒っている。他のみんなも表情は固く誰かわからない犯人に怒ってくれていた。自分の事じゃないのに、本当いい子達だね。

「赤司君に言いましょう」

 テッちゃんはそう言うと早々に携帯を取り出し電話し始めた。え、今?そんな直ぐに?ってか何で赤君に言うの?出るかなあ、忙しいんじゃないかな。

「あ、赤司君ですか。こんばんは」

『ああ、黒子。こんばんは。どうしたんだい?』

 出るんかい。
 あたしを他所に簡潔に今日の事を伝えたテッちゃん。暫く話をしてあたしに携帯が差し出された。ええ…。

「もしもし、赤君?」

『大変だったそうですね。大丈夫ですか?』

「うん、もう大丈夫。ありがと」

『オレ達と一緒にいた時に入れられたんだとしたら、絶対に誰かが不審な行動をする奴に気付きます。ですので、恐らくそらさんとオレ達が別れた後、つまり京都駅の改札を通った以降に入れられたと考えられます』

 どっからくるんだその自信。でも筋は通ってる気がする。ふんふんと話を聞いていると、電話口の向こうで赤君が笑った気がした。

『犯人はオレ達が探します。そらさんは何も心配しなくて大丈夫なので、ゆっくり休んで下さい』

「ん、ありがとう。忙しいだろうから無理しなくて大丈夫だからね」

『はい。ありがとうございます』

 テッちゃんと代わり一言二言話して電話は切れた。テッちゃんはあたしを見ると無表情のまま言い切った。

「赤司財閥が全総力を上げて探し出すそうです」

 赤君ヤバい。オレ達って玲央きゅんとかだけじゃなかったのね。

「あとこれからは誰か必ず家に寄ってそらさんの安否を目で確認するようにとの事です」

「過保護の親か!」

 心配されるのは嬉しいけども!SPみたいなボディーガードはいらないよ!

「それなら大丈夫だ。既にLINKで共有している」

「嘘でしょ」

 俊ちゃんの言葉にあたしは唖然とした。他校の子らにも話はいっているらしい。あたしがしっかりしていないばっかりにこんな事に…ごめんねみんな。

「あたし強くなるから!」

「程々で大丈夫ですよ。オレ達がそらさんの護衛をしますから」

 キリッとした顔で言うツッチーにお前それは彼女に言ってやれと思った。

「そらさん出来ましたー」

 かがみんと共にリビングに来たフリと水戸さん。今日もらった野菜で色々作ってくれたようでいい香りが鼻腔を擽る。

「これオレが作ったんっすよ!」

「これはオレが盛り付けた!」

「えー、凄いじゃん!ありがとねー」

 ひろやんと河ちゃんがスープとサラダをそれぞれ指差しながらアピールするので可愛いなと思って頭を撫でてあげた。

「プロテイン入れた?」

「入れなくて宜しい」

 料理を見てプロテインを取り出すリコぴんにチョップを食らわす。イテッと言ったリコぴんマジ天使。

「(カントクにチョップ出来んのってそらくらいだよなー)」

 かがみんはあたしを見ながら遠い目をする。首を傾げたが何でもないと言われた。

 こうして楽しく夕食を食べて、朝は大変だったけど楽しい気分で就寝する事が出来ました。

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