INFINITY WORLD
あたしの心配

 翌日。昨日の夜から今朝にかけて、何人かから昨日の出来事を聞いて安否の連絡が入った。それに一つひとつ応えながら今日は問題なく一日が始まる。
 …いや。問題というわけではないが、朝から登校前にあたしの安否を確認する為さっちゃんと峰さんが来たので、普通の一日の始まりとは言えないかもしれない。

 今日もバイトが入っているのできちんと出勤し、昨日の謝罪をするとマスターは快く許してくれる。此処で働いててよかったと心の底から思った。

 そして勤務中。昼に差し掛かりマスターと二人でランチの時間帯になるので準備をしていると、ドアのベルが鳴りお客さんが来た。

「いらっしゃいませ…あ、翔ちゃんとスーさん」

「よお、元気にやっとるか」

「こんにちは」

「こんにちは。見ての通り」

 やってきたのは元桐皇の二人。軽く手を挙げる翔ちゃんと丁寧に挨拶をするスーさん。今日は元気だと拳を握って見せると二人は笑った。席へ通してお冷やを提供し注文を聞く。えっと、昔ながらのナポリタン大盛りと海老ピラフ大盛りとハムサンド一つずつ…っと。

「昨日は大変だったみたいだな」

「まあね。ご心配お掛けしました」

「顔色はええみたいやけど体調はどうや?」

「もう大丈夫だよ。ありがと」

 二人はあたしを心配してわざわざ見に来てくれたらしい。講義は午後からのみだそうで、昼食後学校に行くそう。
 マスターへ注文を通し、あたしも調理補助で中へ入る。

 出来た物を提供しに行くと早速二人は食べ始めながらあたしを観察する。

「?」

「いや。ちょっと痩せたように見えただけや」

「え。一日じゃ流石にわかる程痩せないよ」

「そうじゃなくて、最近頑張り過ぎていないか?」

 いえ全く。寧ろ学校潜入とかしちゃって遊びまくってますが。まだネタバレしちゃいけないので言わないが。

「普通だよ、本当に。無理してないもん。無理だったら無理って言うし」

「ならええけど…言えば何でもするんやで周り頼んなや?」

「うん。ありがとう」

 そこからはお客さんが入って来たので会話という会話は出来なかったが、元気に動き回っているのを見て安心したと言う二人は学校の為食事を終えると帰って行った。

 そして夕方16時半頃。学校や会社帰りの人が立ち寄る時間帯に現れたのがコボちゃんと岩ちゃん、清ちゃんとスガだった。彼らもあたしの様子を見に来てくれたらしく、途中でバッタリ会ったとの事。部活はどの大学も今日は休みらしい。ただコボちゃんと同じ大学のゆっきーは用事で今は来られなかったそう。
 席に通して注文を聞き、ドリンクだけとの事で素早く提供する。他のお客さんはいないのでその付近で少し立ち話をする。

「何か異色の面子だね」

「それはオレらが一番思ってるよ」

「ぷぷっ!マスター、一瞬携帯触ってもいですか?」

「いいよー」

「ありがとうございます!」

 一瞬と言いながらカメラを起動させてこの異色過ぎる四人の光景を撮る。そしてLINKにて共有。

「オイコラ勝手に送ってんじゃねえ。焼くぞ」

「焼くとか怖〜い。焼いても美味しくありませんよ〜」

「うっぜ!」

 顔を顰める清ちゃんを見て心中可愛いなと思いムフフと笑う。それを見てスガが呆れながら笑い、あたしに声を掛けてきた。

「そらさん何時上がり〜?」

「今日は17時だね」

「今日夜ご飯食べに行ってもいーい?」

「いいよー」

「「じゃあオレも」」

「いいよ。岩ちゃんは?」

「悪いがこの後親戚で集まりがある。また次の機会に行かせてもらう」

「そっか。じゃあまた今度ね」

「笠松も誘っていいか?夜なら合流出来ると思うし」

「勿論」

 スガに聞かれ便乗するコボちゃんと清ちゃん。残念ながら岩ちゃんは不参加だが、まあ近いしいつでも来れるし。ゆっきーは途中参加らしい。

 残り三十分程をしっかり勤務し、時間になるとマスターが上がっていいと声を掛けてくれて着替えと支度を終えるとみんなと一緒に店を出た。
 岩ちゃんとはそこで別れて、食材で足りない物を買いにこのまま買い物へ行く。

「今日はオレらが食いに行くから…っと」

「ん?誰に連絡してんの?」

「高校生共にだよ」

 清ちゃんがブツブツ言いながら携帯をタップしているのを見て、あたしが疑問に思い声を掛けると説明される。
 何でも、あたしの知らない所であたしの事をみんながLINKで情報交換をしているとの事。例えばタイムリーな話なら、今朝さっちゃんと峰さんが顔を見に来た事を周知する事で他の人とダブらずあたしに朝から迷惑掛けないようにしたり、今回のように夕食を食べに来る時はどの学校が、或いは誰が何人行くから他は来るなとか伝えて、あたしの家に一気に人が押し寄せないようにしたりしているとの事。

 道理で食べに来る時は個別であったり学校毎であったり、色んな高校が一気に押し掛けて来る事がないわけだ。みんな気遣いありがとう。
 ちなみにだが、前のテスト勉強に関してはあたしの家を利用しようと考える人が多く被らなかっただけの話なので、情報共有はしていないらしい。

「…森山がどうしても来たいって言ってるそうだ。森山もいいか?」

「いいよ。昨日リコぴんに野菜お裾分けしてもらったからいっぱいあるし、傷まない内に消費出来るからあたしとしては勿体なくなくてありがたい」

 郊外の大学に進んだ森りんはみんなが夜ご飯をあたしの家で食べると聞き付けた様子。コボちゃんに申し訳なさそうに聞かれ本人が来たいならと了承する。
 ゆっきーと森りん二人は合流して一緒に来るそうで、少し遅くなるようだが作っている内に来るだろうと思い、夕食を三人に相談しながら買い物をする。

 余談だが買い物中、同じく買い物に来ている奥様方から熱い視線を集めた原因はあたしを囲むこの三人にあるわけで。今更だがイケメンに囲まれててあたしいつか刺されないだろうか心配になった。










 ピンポーン

『こんばんは!そらさん着きました!』

「はーい。上がってきてー」

『はい!今会いに行きます!!』

『うっせえよ!さっさと行け!!』

 森りんがゆっきーにゲシッと蹴られる姿が画面越しに見えちょっと吹いた。相変わらず過ぎるこの二人。

 現在あたしはスガとキッチンに立っていて夕食を作っています。コボちゃんと清ちゃんにはサラダとか簡単な物を手伝ってもらい、器用なスガには色々面倒な料理を手伝ってもらっている。
 する事がなくなった二人はテレビとか漫画とか見ていればいいのに、カウンター越しにあたしやスガの調理姿を眺めている。見ていて面白いそうな。可愛い。

 インターホンに出た後、次は玄関のチャイムが鳴るので代わりに出て欲しいとコボちゃんにお願いする。間もない内にチャイムが鳴ってコボちゃんが出に行った。
 その間に清ちゃんは食器をリビングへ運び、あたし達は夕食の仕上げをする。

「そらさんこんばんは!って小堀かよ!何でそらさんじゃないんだ!?オレはそらさんに“お帰り森りん!ご飯にする?お風呂にする?それともあたし?”って言って欲しかったのに!!」

「馬鹿かお前は」

「阿呆な事言ってないでさっさと入れ」

 玄関からドア越しに聞こえる会話にこっちにいるあたしら三人が吹いた。森りんあんたそれアウトだよ。一番面白いのが呆れ果ててツッコミがシンプルかつ素っ気ない感じになったゆっきーとコボちゃんの発言だ。森りんの扱い雑過ぎる草生える。

「こんばんはそらさん!会いに来ました!!」

「今包丁使ってるから近寄んないで危ないから」

「そんな…!再会のハグをしようとしたのに!」

「いやこないだ君喫茶店に来たよね?その時顔合わせてるから再会っていう再会じゃないと思うけど」

 実際包丁使ってるので抱き着かれたら衝撃で手切っちゃうかもだから止めて正解だったが、本気で抱き着こうとしていたようで森りんはショックを隠せない様子で落ち込んでいた。それを見てまた清ちゃんとスガは笑う。

「お疲れゆっきー」

「お、おう」

「ふふ、まだ慣れないのかね君は」

「っ!ほ、ほっとけ!!」

 呆れた目をしていたゆっきーに声を掛けるといつものようにオドオドした感じに変わる。相変わらずでいいんだが、もうそろそろ少しは慣れてくれていいと思うんだけど。まあ普通に話せる時もあるしいいけどさ。

「そらさん!オレには!?」

「はいはい。お疲れ様森りん」

「はい!今日も頑張ってきました!!」

「手洗いうがいしておいで」

「はい!」

 てててっと洗面所に向かう森りんと後を追うゆっきーを一瞥し、素直で可愛いなぁと癒されながら出来た料理をリビングに運び準備する。

 ちなみに森りんは見ての通り未だ敬語。気付いていると思うがこっちの世界に来て年齢が近くなった事で、呼び名は変わらずとも話し方は敬語からタメ語に変わった人が殆どだ。その中で彼はテッちゃんみたく敬語キャラじゃないのに敬語を使い続けてくれているので、慕ってくれている感が凄く伝わりみんなよりちょっとからかい過ぎたりいじり過ぎたりしてしまう傾向にある。っていう余談。

 手洗いから戻って来た二人を入れて、六人で食卓を囲む。挨拶をして各々が食べ始めた。

「そらさん。体はもう大丈夫なんですか?」

「うん大丈夫。昼間翔ちゃんとスーさんも来てくれて二人にも心配してもらったよ」

 隣に座っている森りんに問い掛けられ、今まで答えてきた通り問題ないと答える。みんなの優しさがちょっと過保護だなと思うと同時に、まるで母親だと思って少しむず痒い。

「赤司なら直ぐに犯人見付けてきそうだよな」

「確かに」

「赤司財閥が全総力を挙げて探してんだろ」

「その表現色んな意味で怖いからもうやめよ」

 コボちゃん、スガ、清ちゃんの話を聞いて赤君の凄さは伝わるがテッちゃんも言ってた“全総力を挙げて”っていう響きが、あたし如きの為に申し訳ないって気持ちとか色々交差して恐怖さえある。

「ああ…心配だ。そらさんが心配過ぎて夜も寝られません」

「大袈裟だよ」

「いや本当にコイツは寝てねえと思う」

 溜め息混じりのゆっきーの言葉にマジかよと思い、隣にいる森りんの方を向いて見つめる。

「…えっ」

「………」

「え、と…あの、そらさん…」

「………」

 本当だ薄っすら隈ある。本当に昨日寝てなかったのこの子。森りんはあたしに見つめられしどろもどろとし、少し頬を赤らめて照れていた。何この反応。可愛い面白い。

「なになに?森りんってば照れてんの?」

「え!?」

「いつも恥ずかしい台詞よく言ってるくせにこういうのに慣れてないんだから〜ウブね〜」

「え!?」

 あたしがニヤニヤと笑いながらツンツンと肘で小突くと森りんはオドオドした後、ピタリと急に動きを止めてあたしを見つめた。どうした急に。

「うっウブな男は嫌いですか!!」

「え?」

「お、オレ!今はまだ経験とかないからウブな感じが出ちゃいますけど、いつかそらさんをリード出来るような、寧ろ押せ押せになってそらさんをウブに出来るような男になりますから安心して下さい!!」

「何言ってんのこの子」

 変なスイッチが入ったのかやや鼻息荒くあたしの手を握りズイズイ近付く森りんに素でツッコミを入れる。周りも呆れを通り越し唖然だった。

「話全く違う方向に逸れてるから戻すけど。取りあえずあたしはもう大丈夫だし、心配もしなくていいからちゃんと寝なさいね」

「はい!そらさんの夢が見られるようにちゃんと寝ます!」

「いや見なくていいから。ってか意図的に夢なんて見られんの?」

「コイツなら見れそ〜」

「「「確かに…」」」

 スガが野菜炒めを皿に盛りながら言うと他三人が納得し、それを聞いてあたしも納得してしまった。

 その後森りんを落ち着かせ普通に夕食を食べ終えた。みんな残さず食べてくれるので嬉しい。

「デザートにアイスかゼリー選んで食べていいよー」

 満腹だと満足する五人を一瞥しそう知らせながらあたしは食器を片付ける。逸早く冷蔵庫に向かって行ったスガを微笑ましく見送っていると、片付けを手伝ってくれるゆっきー。

「あ、ありがと。デザート食べてていいよ?」

「…ならそらさんが食べてりゃいい。オレがやる」

 チラッとこちらを見たゆっきーの耳は少し赤い。そのご厚意に甘えようと頷くと同時に森りんもやると立ち上がり、二人で食器洗いをしてくれる。

「みんなお手伝いありがとうね。いいお婿さんになりそうだねぇ」

 清ちゃんに持ってきてもらったゼリーをソファーに座って食べながらしみじみ言うと、おばさん臭いと言うスガの一方で森りんが急にこちらを振り返った。

「オレは大学出て仕事して落ち着くまで暫く無理ですが、その後ならいつでも婿になれるので!!」

「「聞いてねえよ」」

 あたしと清ちゃんの言葉が重なった。森りんはそれでもめげずキラキラした目を向けた後、泡の付いた手でサムズアップする。何その合図。何の意味があるの?何がグッドなの?

 コボちゃんはアイスを食べながらあたしと同じ心境なのか苦笑しており、スガはアイスを食べ終えて満腹でやる気がなくなったかのように隣のあたしにぐてっともたれ掛かってきた。これはスガのデレだろうか。
 そんなスガを見た清ちゃんが引き離そうとグイグイスガの腕を引っ張っているのを眺めながら、仲良いなと微笑ましく思いゼリー口に運んだ。

 洗い物が終わり片付けにひと段落ついた二人がリビングの様子を見て、森りんはスガに近いと怒りあたしとの間に割り入ってきて、それを騒がしいと止めるゆっきーは本当苦労人だなと思った火曜日の夜。

16/73
←|→

BACK/TOP
ALICE+