INFINITY WORLD
あたしが失踪

 円堂勝負とやらの事がわかって以降、今日あたしはある事に悩まされていた。

「(うーん。やっぱりついてきてるよなぁ)」

 現在バイト帰り。今日は遅番で帰りが遅く夜道を一人で歩いて帰宅中だ。人通りの多い明るい道を通っている為周りに人がいるが、誰かがずっとついてきている気がするのだ。

「(エンドウ豆、かな?)」

 適度な距離を保ってついてきているようで姿は確認出来ない。気の所為って事も考えられるけど、念には念を入れたい。こういう時ってオドオドしちゃうと恐怖に怯えきった瞬間とか付け込まれる可能性あるから平常心を保ち、姿を探す素振りは見せずに淡々と歩いていく。相手が誰にしろこのまま家に帰ると自宅を特定されかねないので、何処かのお店に入ろう。

 そう思いその辺のコンビニに入り適当に食べ物を買い込む。一人分ではないように見せて、一人暮らしじゃないですよアピールをする。それとなく外に視線を向けるが姿は確認出来ず。やだなぁ、面倒じゃんか。

 見えない恐怖にちょっと苛立ちながら暫くコンビニで時間を潰し、店を出て再度歩き出す。家の方向から少しズレて歩いていくと、少し人通りの減った道へ出てしまった。

 携帯を手に持ちながら周りを少し警戒して歩く。後ろでは微かに足音が聞こえずっとあたしの後をついてきている。よし、こうなったらやるしかねぇべ。

 あたしは鼻歌を歌いながら曲がり角を曲がった。少しした所で陰を見付けそこに身を隠すとついてきていた足音も曲がり角を曲がってきた。しかしあたしの姿がない事に気付いて少し小走りになる。やっぱりストーカーされてた!あたしの隠れる場所までソイツが来た時、持っていた買ったばかりのアイスコーヒー(ミルクと砂糖たっぷり)を投げ付けた。

「ぶふっ!?」

「成敗ィィィ!!」

「いだァァァアア!!」

 見事顔面に当たり怯んだ一瞬の隙を突き弁慶の泣き所を強く蹴った。叫んだソイツは足を押さえて地面に転がり、もしこれで知り合いだったらヤバいなと心の中で思った。

 携帯のライトで顔を照らすがその人は20代男性で顔は見た事がなく知り合いではない。自然に眉根が寄る中であたしはソイツを見下ろす。

「あんた誰?何であたしをつけてきたの?」

 あたしが問い掛けるが涙目で見上げるだけで何も答えない。

「ちゃんと答えなよ。あんたがまさかエンドウ豆?あ、間違えた。円堂勝負?」

 そう問い掛けるとその男はフッと小さく笑った。

「違ェよ」

「あん?あんた自分の立場わかってんの?」

 口の利き方にイラッとしてついこちらも口が悪くなるが不可抗力である。

「お前こそ自分の立場わかっとるんか?」

 背後から聞こえた低い声に振り返ると腹に衝撃が走る。み、鳩尾殴られたぁ…!
 ズルッと体が落ちるが男と思われる手で受け止められ、そのまま抱きかかえられる。二人もいるなんて聞いてないよ。
 力を振り絞りソイツに蹴りでもかましてやろうとしたが、次は首にビシッと衝撃が走りその瞬間意識が飛ぶ。

「手間掛けさせんなや。霊能力者のなれ損ないが」










【花宮side】

「…あー。忘れてた」

 風呂上がり。今日の部活で明日そらの家に部活帰りに寄るって話が挙がり、いつも急に行って怒られるのでオレに連絡しとけって原から言われた事を思い出した。つか何でオレなんだよ。自分でしろっつーの、言い出しっぺはアイツなんだからよ。

 そう悪態吐きつつも携帯でそらに電話をするが繋がらない。寝てんのか?とも思ったがまだ21時前。風呂にでも入ってんのかと思い直し後で掛け直してくるかまた時間を置いて掛けるか、と考え携帯をベッドに置いた。

 オレがリビングに水を飲みに行くと、リビングでは母親がニュースを観ながら何やら一人でボヤいていた。

「あらぁ、ストーカー殺人の犯人捕まったのね。最近色々と物騒ね、本当」

 ストーカー殺人と言えば最近ニュースになっていた話。速報でその犯人が捕まったと流れており、オレはそれを他人事のように聞いていた。

 しかしふと、先日LINKで回っていた情報が頭を過る。
 “呪いの石を勝手に鞄へ入れられた”、“その所為でそらは怪異に悩まされ体調を崩した”、“その犯人は円堂勝負。東京にいるかもしれない”。
 頭の中を次々に流れていく情報にオレは胸騒ぎを覚え、急ぎ足で自室へと戻り再度電話を掛ける。しかし結果は変わらず、言い知れぬ不安にオレはある人物にLINKを通じて電話を掛けた。

『え、あ、も、もしもし。花宮さん?』

「ああ。そらの今日の予定はわかるか?」

 桐皇マネージャーの桃井。コイツはそらの予定をしっかり把握しているので、他の奴もそらに聞く前にコイツに聞いている事もあるのを知っていて電話を掛けた。

『え?そらさん…は、えっと、今日は11時から20時までバイトです』

「なら今は家に帰ってるはずだな」

『はい、恐らくは…そらさんに何かあったんですか!?』

「まだわからねぇ。悪かったな」

『え?あ、あの!』

 返事を聞く前に電話を切り、オレは少し出掛ける事を母親に伝えて家を飛び出した。公共交通機関を使いそらの家まで行くとインターホンを鳴らす。しかし何も反応はなく舌打ちが漏れた。
 すると自動ドアが開き中から見た事のある女が出て来た。

「あらあら!そらちゃんのお友達よね!こんばんはー」

「ああ、どうも。こんばんは」

 このマンションの管理人だった。そらがいる時に何度か顔を合わせており、確か高橋とかいう名前だったはず。

「そらちゃんならまだ帰ってきてないみたいよ?昼前にバイトに行ってくるって出掛けて、私ずっと管理人室にいたけど姿見てないもの」

 指差された先には管理人室と書かれた一室。オレは笑みを浮かべると丁寧に頭を下げた。

「そうですか。ありがとうございます。忘れ物を思い出して急に来てしまったんですが、また日を改めます」

「そうしてあげて!じゃ、早く家に帰るのよ〜おやすみ」

「おやすみなさい」

 管理人はフロント付近の掃除を軽くして中に入って行った。オレは急いで踵を返すと走りながらそらのバイト先に電話を入れる。確か店が店長の家と繋がっていて、営業時間外でも電話は繋がるって話を喫茶店で聞いた気がする。
 数コールの後、聞き慣れた声が聞こえた。

『もしもし、齋藤ですが』

「夜分遅くにすみません。そちらで働いている山口そらさんの友人の花宮と申します」

『ああ!マコマコ君かい?こんばんは』

「(マコマコ君言うな!)こんばんは。すみませんが、そらさんはもうそちらを出られましたか?」

『そらちゃん?彼女なら20時上がりだからとっくの前に帰ってるねぇ。どうかした?』

「いえ、行き違いになっただけのようなので大丈夫です。ありがとうございました」

 オレは電話を切り続いて原に連絡をする。

『はいはーい。何?』

「オイ、そらと電話が繋がらねェ。バイトも20時に上がってるみてえだし、家にも帰ってねえ。何かあった可能性があるから情報回せ」

『え、マジ?わかったよん。LINKで連絡回したらオレも探すよん』

「ああ」

 オレはバイト先の喫茶店に向かって走る。いつも徒歩で通っているので何かあったとすれば帰り道の途中。何か情報が落ちているかもしれないと思い辺りに注意を配りながら探すが、特に何も見付からない。
 そらの家から喫茶店までの通勤路は人通りが多く何かあれば直ぐに騒ぎになるはずだ。だがこれといった騒動もない様子なので、何かが起こった場所は通勤路ではない可能性も考える。

 暫く走った所で不意にコンビニが目に入り、そこに駆け込む。

「いらっしゃいませー」

「すみません。少しお聞きしたいんですけど」

 上がる息を整えながら若い男の店員に携帯の画像を見せる。前にそらの家で原が撮ったオレらの写真にそらも写っている。アップにした顔を見せて問い掛けた。

「この女性、今日このコンビニに寄っていたかわかりませんか?20時以降で」

「あー来ましたよ。20時15分くらいに袋いっぱいにお菓子とかコーヒーとか買って行きましたけど」

「その様子で可笑しかった所は?」

「ええ?特にありませんでしたよ。普通です普通」

 興味なさげな顔で淡々と語るソイツに礼を告げ外に出る。
 此処までアイツは来たって事だな。だったら此処から家までの間で、となるが此処に来るまでで異変は何も見付けられなかった。ただ見過ごしていた可能性もあるのでもう一度見てみるかと踵を返そうとするが、ふと視界にこの大通りから外れた道が目に入る。

 普通に帰る為にわざわざあそこには行かないだろうな。普段から一人で出歩く時は人通りの多い道に行けって周りから散々言われているだろうし。
 だが普通の状況じゃなかった場合を考えると、行く可能性はある。コンビニで袋いっぱいに買い物した理由も気になる。
 オレはその道に入り、電灯が減り暗がりになった辺りを照らす為に携帯のライトを点ける。

 少し歩いて行くと電話が鳴り、その場に立ち止まって出れば相手は古橋。

『花宮。今何処だ』

「そらの家と喫茶店の中間くらいにあるコンビニ近くの細道」

『何でそんな所に…』

「勘だ、勘。そっちこそ何かわかった事はねえのかよ」

『取りあえず今は山崎とそらさんの家に向かっている』

『早く見付けねえとオレら補導されんぞ』

「呑気に補導の心配してんじゃねえぞ、ヤマ」

 そう言って周りに目を配らせていた時、オレの真横に続く道に何かが見えた。視界に入ったそれに焦点を合わせるが暗くてよく見えない。近付いて確認すると、そこには地面に無造作に置かれたコンビニの袋。中にはお菓子やデザート類のケーキなどが入っているようで、中身が崩れて容器ごと地面に放り出されている。
 他にもその近くの地面に濡れた跡や氷のような物も見受けられ、空のプラスチック容器が転がっている。

「あー来ましたよ。20時15分くらいに袋いっぱいにお菓子とかコーヒーとか買って行きましたけど」

 店員の言葉が頭を過り、オレは舌打ちをした。

「おい、今からオレが言う所に来い。そらがいなくなった場所を見付けたかもしれねえ」

 嫌な予感が当たってしまった。そう自覚し落ち着こうと息を吐き出すが胸の靄は消えず気持ち悪かった。

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