INFINITY WORLDあたしの救世主
「フッ…よく此処がわかったな」
「そらさんの携帯にGPS付いてるからな。それを辿ったんだよ」
「んふふふ(マジかよ)」
「本人知らんかったんかい!!」
カッコいい感じに言いながらあたしから離れた円堂に対しザキがそう答えるがあたしは知らなかった事実なのでキョトンとしたが、円堂は目をひん剥いて驚いていた。チョイチョイいい反応すんなコイツ。
「やっぱ荷物は道中捨てとくべきやったわ。でも携帯の入った鞄はこの付近には置いてなかったはずやけど?」
「だからこの辺の建物一帯虱潰しに見てきたんだろうが」
「ああ、だから息切らせてはったんかい」
マコマコは流れる汗を手の甲で拭うと物凄い剣幕でこちらに詰め寄るが、それを円堂は制した。
「おっと、そっから先に進んだらそらちゃんの身の安全の保証はせぇへんで」
「ああ?」
「お前らには見えてないやろうけど此処に妖怪の卵、餓鬼がおる。今徐々にそらちゃんの生気を吸い始めとるけど、その勢いはこっちで変えられんねんで。言いたい事わかるな?」
指差すのはあたしの頭上。マコマコは足を止め見えないソレを一瞥した。
「…チッ」
「賢い子は嫌いやないで」
「お守りはどうした?」
「それなら此処や」
康ちゃんが静かに問うと円堂は床に投げ捨てたそれを拾い上げる。
「本当は壊したい所やけど、壊すと更に効力が増す物もあるさかい。面倒な事避ける為には何もせんのが一番や。そらちゃんには触れさせやんって事以外の話な」
チェーンに指を通しひゅんひゅん振り回す。やっぱり自称一流の霊能力者ってだけあってわかってたか。実は円堂が言ったようにこのお守りが破壊されるような事があった場合、効力は増しこの状況が一転する。壊れて絶望的ではなく寧ろ立場が逆転するくらい。
そのまま指からお守りが離れて壊れてくれたらラッキーなんだけどと思いながら見つめていると、気持ちを汲み取ったのか円堂は振り回すのをやめて自分の首に掛けた。
「そらを返せ」
「無理な相談やな」
「コイツをこれ以上巻き込む必要ねえだろうが」
「それがあるんやなぁ。ええ感じのレベルの霊能力者やし、妖怪からも美味しそうに見えるやろうけどオレら男からしても若い体ってだけで充分美味しそうやん?」
あたしを見下ろしながら舌舐めずりする円堂にあたしはあの感覚が蘇ったようにぞわっと寒気がした。早くお風呂に入りたい。
「花宮以上のゲスだな」
「あ゛あ?」
ザキの呟きにマコマコは当たるように睨んだが直ぐに引いたザキ。心を強く持てよザキ。
「折角来てくれたけど堪忍なぁ。お前らに出来る事はもうないから、後は徐々に弱っていくそらちゃん見とるだけしか出来へんで」
三人はそれを聞くと黙り込んだ。あたしはハッとし今は押さえられていない手で口のガムテープを剥がした。普通に剥がせたじゃん何ボケッとしてたんだあたし。
「汝、我に集いし
命の魂達よ。我の言霊と霊肉に忠誠を誓え」
「!!」
「四神召喚、朱雀」
あたしはブツブツと独り言を言うように早口言葉で有白家に教わったばかりの詠唱を唱える。それに気付いた円堂はまさかあたしが何かの術を使える程成長したとは思っていなかったようで口を塞ごうと手を伸ばすが、それよりあたしの早口言葉の方が早かったらしく言い切った。
するとぶわっとあたしと円堂の周りで一瞬大きな熱い風が吹き、餓鬼が一歩離れた。突然の風にマコマコ達は驚いており円堂は怪訝に顔を歪めると印を組んだ。
「何でお前そんなもん!」
少し狼狽したが気持ちを切り替え何かの呪文を告げようとした瞬間、赤いかなり小さな光が円堂の前を横切り集中を途絶えさせる。
「よっしゃああああ!!成功じゃぁぁぁああ!!」
「は!?」
マコマコ達には見えていないが、赤い光の正体は小さく実体化する。
「な、は、はあ!?何でお前こんなもんを!!?」
円堂は瞠目し冷や汗を滲ませて喫驚する。それもそのはず。詠唱通りあたしが呼んだのはかの有名な四神のお一人朱雀さんである。ほんの3cmにも満たない大きさの赤い鳥だが、立派な四神さん。
赤い体で宙を自在に飛び回る小さい朱雀は円堂の目の前でピィと小さく鳴いた。かわゆし。
「昨日の修行でね、詠唱だけ教えてもらって呼んでみろって無茶振りされたからヤケクソでやってみたら朱雀さんだけ出てきてくれたの」
「は?朱雀?」
「四神の朱雀さん。駄目元でやったら今日も来てくれたわ」
三人には見えない朱雀を召喚したと言えばいつの間にそんな事が出来るようになったんだと目を見開いていた。
ただ一つ言っておこう。朱雀はあたしに応えようとして出てきたのではなく、本人談では暇で散歩中に何処からか呼ぶ声が聞こえたので出てきたらあたしの所だったとの事。決してあたしの力が強かったとか心動かされたとか式神になりたいとかではなく、ただの暇潰しで来たそうな。今日も多分そんな感じだと思う。
あの時の朱雀の目。こんな弱っちい奴の所出ちゃったよと後悔したような目だった。寧ろ後悔の言葉を口にしていたな。え?喋れるのかって?喋ってたよ。今は鳴くだけで喋ってないけど。
しかもサイズが小さいのはあたしの霊力の扱いが下手くそだから。力を出しきれていないからだそうな。実際はかなり大きいらしい。見てみたいものだ。
あと余談だが四神さんが凄いのは名前でもう伝わっていると思うが、これかなり霊力と体力消耗するんだよね。だからぶっちゃけ今超しんどい。
「ハッ…朱雀出した所で何も変わっとらへんやないか!無駄な力使っただけや」
そう言うと印を組んだままだった円堂はまた詠唱か念仏か何かを唱えようとするが、朱雀がその前を飛んで邪魔をする。呼び出したからには何か一つ命を与えなければならないので、円堂の邪魔をして欲しいと念じたからである。
一方餓鬼は小さいサイズと言えど四神が目の前にいるのでビビっているのと主人である円堂が上手く操作出来ていないのもあってその場を動けないでいた。オイお前。
その隙を突いてマコマコは普段運動しているだけあって素早い身のこなしであたしの所まで来ると、床に転がっているあたしをザキ達の方に思い切り転がした。
「ひゃああああああ!?」
「!?お前何勝手な事してんねん!!」
「勝手はどっちだバァカ!!」
ゴロゴロと勢いよく転がっていく体を康ちゃんが受け止めてくれて、その間にマコマコに矛先を向けた円堂は印を組んでいた手を解き殴り掛かる。しかししゃがんで避けた後足払いをして円堂を転ばせ、尻餅ついた隙にいつの間にそっちに行っていたのかザキが顎を蹴り上げた。
バキッと鈍い音が聞こえ、円堂は後ろに仰け反り地面に倒れる。
「大丈夫か花宮」
「ああ」
二人が一息ついた瞬間、まだ気絶には至らなかったのか円堂が素早く起き上がる。
「
去ね!!」
「花宮!山崎!」
あたしに上着を掛けてくれていた康ちゃんが珍しく声を上げた。円堂は隠し持っていたナイフを出し二人に突き刺し掛かる。
「やめて!!!」
あたしが叫んだ途端に円堂の後ろから何かが飛んで来て円堂の後頭部に強打した。
「ふごぉお!!?」
衝撃を受けて前のめりに倒れる円堂。マコマコとザキは後退してそれを避け、倒れた円堂の側にテンテンと音を立てて落ちたのはバスケットボール。
「凶器なんか持ち歩いてんじゃねーよ。危ねェな」
あたし達がいる方から姿を現したのは、暗闇にやや同化しつつある峰さん。
「みっ峰さぁぁぁぁん!!」
「お前今失礼な事考えてたろ」
「いえ全く」
そしてその後ろにはさっちゃんが涙目で立っていて、何故いるのかと問う前にあたしを見ると同時に走り出した。
「そらさん!!!」
駆け寄ってきたさっちゃんはあたしに抱き着くとその大きなお胸を押し付けて泣きじゃくった。
「よかった…よかった…!!」
震える声と体であたしの無事を確認したさっちゃんに、凄く心配掛けてしまったなぁと思い余計な心配は掛けまいと泣きそうになるのを抑えてポンポンと背中を叩いてあげた。
ザキはナイフを円堂の手から離しあたしに使ったガムテープで拘束している。峰さんもこちらに近寄って来るが、あたしは餓鬼が視界に入った途端鳥肌が立った。
「っ、ストップみんな動かないで!!」
気付かなかったけど黒い靄が増している。主人が気絶して暴走し始めたのか徐々に黒さを増していくそれに恐怖する。
「が、餓鬼が凶暴になってる気がするぅぅぅ!!」
「は!?お前祓えねえのかよ!?」
「無理無理!!何か出来たとしても今あたしさっきので力使っちゃってもう動けないもん!!」
マコマコはその場から一歩後退りながら聞いてくるが否定する。朱雀はというと円堂が気絶して役目を終えたのでとっとと帰ってしまっている。朱雀がいてもあたしに祓える力は元々ないので結果は変わらない。
あたし以外は霊感はないので触る事も出来なければ戦う事も出来ない。物理攻撃が効くとも思えない。このままでは一番弱っているあたしが先に喰われてみんなも何かしらの被害に遭ってしまうのでは、と思うと絶望しか頭になかった。
「
縛」
突如その場に凛とした声が響いた。瞬間、餓鬼はビシリとその場に固まって動かなくなった。峰さんのいる後方から足音が聞こえ、目を移すとそこにはひのちゃんパパがいた。
「私がいるからもう大丈夫。安心しなさい」
「ひっのっちゃんパパァァァァアア!!」
何でみんなこんなに登場シーンがカッコいいんだ!!絶望的状況から救い出されるこの何とも言えない感覚は今日で何回目だろうか!!
ひのちゃんパパはふわりと微笑むと、以前黒鬼を祓ったように祝詞を捧げ祓っていく。黒鬼より手は掛からず直ぐに祓い終えて、その場の空気が軽くなった。
「…空気が変わったな」
あたしを後ろで支える康ちゃんが呟きあたしは頷いた。見事過ぎる。
「そらさん!!」
「無事か!?」
そしてその後直ぐにマコマコ達が来た方から走って来たのはリコぴんとリコぴんパパ。状況を見たリコぴんパパは直ぐ様警察へ電話をする。
リコぴんはあたしを見ると直ぐに駆け寄って来てさっちゃんと同じように抱き着く。
「そらさん…っ!よかったぁ…」
ぐすぐすと泣く二人の女の子に挟まれてあたしは苦笑した。どれだけの人に心配掛ければ気が済むんだあたしは。
「もう大丈夫だからな」
みんなが近寄って来たのを見上げていると、ポンとリコぴんパパに頭を撫でられる。
「我慢すんじゃねえぞ。女の子だろ」
それを言われた途端我慢していた涙がぶわあっと溢れ、二人の温もりに触れて安心したのもあってかさっきとは比にならないぐらい涙が流れた。
「うっええええ…怖かったぁぁぁ…ありがとおおおおお…!!」
「怪獣みてえな泣き方だな」
「余計な事を言わない」
年甲斐もなくわんわん泣くあたしをさっちゃんとリコぴんはぎゅうっと優しく抱き締めてくれた。一方余計な一言を言った峰さんはひのちゃんパパにペシッと叩かれていた。ざまあ。
あれから警察が来て大事になってしまったが、何とか事態は収拾した。円堂は強姦未遂やら婦女暴行罪やらで即逮捕。円堂に買われた男も重要参考人として事情聴取の為連行されて行った。
あたしから奪ったお守りはちゃんとザキが回収してくれている。そんでもって余談だが、ひのちゃんパパが警察が来る前にコソコソと円堂に何か術的なのをかけていたのを目撃するが、爽やかな笑顔でスルーされた。あの笑顔の裏に隠された実態や如何に。
あたし達が事情聴取を受け終えた時刻は深夜。各自親御さんに連絡は入れているみたいだが、保護者二名が付いていながらもあたしの所為で22時以降も出歩かせてしまったので今日は警察の方から簡単に事情を伝えてもらう事にして、みんなにはひのちゃんパパやリコぴんパパに送ってもらって先に帰ってもらった。勿論明日以降謝罪に伺う。
一方あたしは顔に叩かれた痕があるので念の為に警察の方に病院へと連れて行ってもらったが特に大きな異常はなし。
腹部と左頬に殴られた痕はあるが、数日後には完治する程度との事。あとやっぱり後頭部には軽いたんこぶが出来ていた。精神面も特に問題ないと自己報告し家に帰る事になった。
自宅に送ってもらうと帰りが遅いあたしを心配してくれていたのか、もう深夜だというのに管理人の高橋さんが起きていて駆け付けてくれた。
高橋さんには色々とお世話になっているので、心配は掛けたくなかったが簡単に何があったか伝えておいた。そしたら辛かったねと抱き締めてくれてその温かさにまた泣きそうになったのは言うまでもない。
そしてその晩は高橋さん宅に泊めてもらった。一緒のマンションだけど、一人でいるよりはと言ってもらいお言葉に甘えた。旦那さんも優しい人なのでいっぱいご飯食べさせてくれたり面白い話をしてくれたりした。
「本当にすみませんでした」
翌日、バイトは休みだったので一軒一軒リコぴんパパに車を出してもらってみんなの親御さんに謝罪しに伺った。「うちの子を振り回すなんてけしからん子ね!」と怒られる覚悟で行ったが怒る人はいなくて寧ろあたしが心配されたのでどんだけいい人揃いの世界だよと思った。
謝罪回りが終わり、あたしの家に来たリコぴんとさっちゃんから昨日の詳細を聞く。
さっちゃんはマコマコからの連絡で不審に思い直ぐに情報収拾をし始め、かずやんから詳細が送られてきた時点では既にストバスでバスケをしていた峰さんを引き連れて捜索していたとの事。
そして居場所がわかり現場に向かおうとするが距離があり、円堂がいるならばと念の為にさっちゃんはひのちゃんパパにヘルプを求めて一緒に車で来たとの事。ナイス過ぎるさっちゃん。
声が聞こえる方に峰さん達が来てあの瞬間に間に合ったらしい。何でバスケットボールがあるのかと思ったらストバスしてたからなんだね。どんだけバスケ好きだよと笑えた。
これまた余談だが、ひのちゃんパパは餓鬼を視て祓う準備をしていたので登場が遅くなったとの事。そのお陰でかなりカッコよかったよね。
ともあれ、ちょいちょい警察から電話がくるのでまだ落ち着いた気分にはなれないがひと段落はついたと一息つく。
今回の件でみんなが益々過保護になった気がするので、本当に自分自身気を付けなきゃみんながいつか危ない目に遭う気がすると思った。このまま修行続けて四神全部召喚出来るようになったらあたしの事一流霊能力者って呼んでくれるかな。んふふ。
そう考えているとインターホンが鳴り、出てみるとそこにはマコマコがいた。一人とか珍しい。中に入れるが部屋に入ってもソファーに座っても何も話そうとしない。女子だらけで緊張してんのかな?
「あっ、私達飲み物か何か買ってきますね!」
「え?あるよ?」
「私新作のアイス食べたくなってきた!行きましょ桃井さん!」
「え、ちょっと」
止める間もなく去って行った二人にポカンだったが、マコマコは逸らしていた視線をあたしに向けた。あたしはマコマコの隣に行くとぺこりと頭を下げる。
「マコマコありがとう。一番にあたしの異変に気付いてくれたんだってね」
「あ?…偶然だ」
「でもその偶然があったから今があるんだよ。あたしあのままだったら妖怪に喰べられちゃってたからね」
苦笑しながら言うとマコマコは眉根を寄せて溜め息を吐く。
「本当にありがとう」
「…今度から気を付けろ」
「はーい」
小さく紡がれた言葉に返事をすると、マコマコは手を伸ばしあたしの左頬に貼られた湿布にそっと触れる。痛みはないがまだ少し赤いので貼っているだけなのだけども。
「痛むか」
「ううん。大丈夫」
「…怖くねえのかよ」
「…マコマコだし。エンドウ豆じゃないじゃん」
普通なら男性にあんな事された後直ぐなのだから恐怖するのかもしれない。酷ければそのまま男性恐怖症なんて事もあり得るが、あたしの深く考えない性格が功を奏してか男性であるマコマコと二人きりでも恐怖心やフラッシュバックはなかった。
「そのエンドウ豆ってやつやめろ。今度から食えなくなるぞ」
「大丈夫だって。煮たり焼いたりして食ってやる」
「その表現もやめろ」
ふはっと馬鹿にしているのか吐き出すように笑ったマコマコは手を下ろす。あたしもふへっと吹き出し笑っていると暫くしてマコマコが真剣な顔をしてあたしを見た。それに対し首を傾げると、マコマコは静かに問い掛ける。
「オレは怖くねえか」
「怖くないよ」
「…嫌なら押し返せ」
そう言ったマコマコはゆっくりあたしに近付くとそのしっかりした腕であたしを緩く抱き締める。マコマコの香りが近くに感じて緊張していると、マコマコは小さく吹き出す。
「一丁前に緊張してんじゃねえよ」
「これに一丁前とかあるの?」
「うるせえ」
少しずつ抱き締める力を強めるマコマコに対し、あたしはやっぱり恐怖心はなく広い背中に手を回した。それに応えるようにまた力が強くなった。
「…無事でよかった」
肩口に顔を埋めたマコマコが本当に小さく、静かな部屋であたしが無言でないと聞き取れないくらいの声量で囁かれた言葉を聞いて、あたしは目に溜まった涙を押し付けるようにマコマコの肩に顔を埋めた。
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