INFINITY WORLDあたしが激おこ
試合が始まった。
ゆっきーが相手の出方を窺っていると、ジュニアが素早くハイテクニックなドリブルを披露する。
一言で言えばすげえ。あたしから見る位置では背中の前で宙に浮いているけど、ゆっきーからでは見えずボールが何処に行ったかわからない。からのエルボーパスで早速得点を入れたジャバ。
ありゃ魔術師と言われても過言ではないなと思った。会場はそのテクニックに魅了され大盛り上がり。
でもあたしはジュニアの顔を見て少し違和感を覚え始める。
同時に清ちゃんが相手のドリブルに翻弄され、顔にボールをぶつけられた。
「!!」
あたしは無意識に立ち上がって叫びそうになった。だって清ちゃんの美しいベビーフェイスに傷が付いたらどうすんだ!!
その相手のケラケラ笑う様子を見て、青筋が一つ立つ。
ナメてんじゃないか。完全に。
最初は盛り上がっていたが、次第に空気が変わっていく。試合の様子が可笑しい事に気付いたんだと思う。
あたしは最早ムカつき過ぎて吐き気がしてきた。言ってやりたい。でも何を言えばいいやら。
あたしが立ったままポテトを摘み唸っていると、リコぴんパパが口を開いた。
「ストバスにおいて、相手を挑発したりおちょくったりすんのは珍しくねえんだよ。寧ろそれが
高等技術でキメたらイカすって認識だ」
「でもあんなの馬鹿にされてるだけじゃんか」
「そうだな」
横目で見たリコぴんパパの額にも青筋が浮かんでいた。
「あたしが見たかった試合はこんなのじゃない」
大事な友達が翻弄されて馬鹿にされて、黙ってられるかっつーの!
強いのはわかったからジャバのプレイはもういいわ!翔ちゃん達のカッコいいプレイ姿が見たい!
そして第4Qまで終え、銀髪黒人、もとい銀ゴリラが岡さんを屈させる程の勢いでダンクを決め、86対6でジャバの勝利で試合は幕を閉じた。
《…たっ、
試合終了ー!!さ、流石Jabberwock圧倒的ー!!》
司会の人も言葉を詰まらせながら、ジャバを称する。だが試合をしていたStrkyのみんなも、会場のみんなも、後味が悪過ぎる表情をしている。
そんな中でゆっきーが手を差し出し握手を求めた。ここまでされて握手を求めたアンタは漢だよ、ゆっきー。カッコいい。
「あ、あのっ…素晴らしい試合でしたねっ!よかったらファンの皆さんに一言…」
マスコミかな。女性がマイクを向けると、英語でジュニアが話し始めた。
あ、これから先の〔〕は全部英語の日本語訳です。
〔そうだな…今回の試合で改めて思ったよ。お前らを見てると心底反吐が出る。此処にいる奴ら全員…いや、この国でバスケごっこをしている奴ら全員。今直ぐ辞めるか死んでくれ〕
英語だから全くわからない。だけどリコぴんパパの表情、女性の固まった顔、deadとかの単語が聞こえてよくない話をしているのはわかった。
〔お前らにわかりやすく例え話をしてやるよ。人間とほぼ同じ知性を持った猿がいたとして、そいつらが相撲をしてんだよ。まわしをしてルールも慣習もそっくり真似てよ。で、ある日お前らの国の力士にこう言ってくんだ。「僕らと一緒に相撲をしようよ!」…お前がもしその猿と相撲とる事になったらどうする?ブチ殺したくなるだろーが!〕
何かmonkeyとか相撲とか聞こえる。で、最後にkill。…え、何?殺したいの?日本人?戦争勃発か?
あたしがポカンとしていると、テントの中で近くにいた人がこっそり意味を教えてくれた。意味を知ってまた怒りが沸々と湧き上がる。ついでにその後も翻訳してくれた。
〔親善とか笑えねーんだよ。子ども連れて来いと言ったのはそんな猿の子どもの夢を潰したかったからだ。家族連れで来いと言ったのはそんな猿の家族に最低の思い出をプレゼントしたかったからだ。一言だあ?まずお前らは猿って事を自覚しろ。猿にバスケをやる権利なんてねえよ!ははははははははははははは!!〕
ジュニアがゆっきーの手に唾を吐いた。
そらちゃんもう我慢出来にゃい。
関係ないけど“は”のゲシュタルト崩壊起こったし。
「別に殺したくならないよ!寧ろ健気で可愛い!」
〔…ああ?〕
「あっ…おい!」
制止するリコぴんパパを無視してあたしがテントから出ると、Strkyに近付きハンカチを出してゆっきーの手を拭いた。
観客席からあたしの名前を呼ぶ声が聞こえた気がする。声からしてリコぴんだな。わかったのは愛の力さ。
「…そらさん?」
「ちなみに人間の先祖は猿なんだよ?知らないの?アウストラロピテクス。猿に見えても別に可笑しくも何ともないですけどぉー。寧ろ自分達だって言えば猿とかゴリラに見えますけどぉー」
〔…何だ?この女〕
「自分の国が発祥のゲームだか何だか知らないけど、ジュニアがそんな事言う権利ないじゃん」
あたしより遥かに高い位置にある顔を見上げて言った。言ってやらん事には収まらない。
「ジャバはトイレに帰れ」
「いやそこは謝れとかじゃないんか!?」
岡さんの冴え渡るツッコミをバックにあたしが言うと、ジュニアがニタリと笑った。
〔意味わかんねえ事言ってんじゃねえよ〕
意味わからん的な感じだろうか。まあそりゃそうだろうな。トイレのジャバ知らなかったらそうなるわな。
そして彼らが踵を返そうとしたところで、あたしとは別に声が上がった。
〔待てコラガキ共ー!!〕
リコぴんパパだった。
〔折角来たんだ、もう少し遊んでけよ。オレが奢ってやるからよ〕
おお、英語カッコいい!
〔はあ?どういう事だ?〕
〔そんで一週間後リベンジマッチだ…!!コッチが負けたらオレが腹でも切ってやる!テメェらが負けたら詫び入れた後イカダでも使って自力で家帰れ!!〕
おお、リベンジマッチ!ナイスアイデア!
〔あ゛あ゛?何言ってんだオッサン。何でオレ達がもう一回試合してやんなきゃいけなんねーんだ。馬鹿か〕
「お前がな」
「シッ!!」
foolって言ったからそう呟けば後ろから清ちゃんに口を押さえられた。もう余計な事言うなってか。
〔オレはこのまま黙る猿ならいいが、ナメた口を利く猿は勘弁ならねぇ。オッサンのハラキリショーなんざどうでもいいが、やんなら違う形で償いはしてもらうぞ。一週間後、二度とナメた口利けないようにしてやるよ〕
取りあえず交渉成立だろうか。ニヒルな銀さんの笑みを見てそう解釈した。
つかこの黒人達、あっかんべー率高過ぎて腹立つ。あっかんべーするな。
すると、ジュニアがあたしの方を見て口を開いた。
〔おい、女〕
「え?」
〔お前も覚えておけよ〕
何て言った?remember?まあいいや。
「OK!」
「いやOKじゃないし!!」
「何かあったら呪ってやんよ」
「冗談に聞こえんわ…」
清ちゃんと翔ちゃんのやってくれたな…みたいな焦る声を聞きながら、ニヤリと笑って去って行ったジュニア改めてジャバ一行を見送った。
まああたしが呪わなくても既に銀ゴリラは呪われてますけどね。他のみんなも一二体は憑いてるし。ざまあ。
よし、一週間後トイレグッズを買い揃えて渡そう。勿論嫌がらせです。やられたらやり返す精神でいきましょう。
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