INFINITY WORLD
みんなでカラオケ

「夏の合同合宿?」

 只今バイト中。あたしはグラスを拭きながら前のカウンターに座るさっちゃんを見遣る。その隣には峰さんが座っていてもぐもぐとナポリタンを頬張っている。
 期末テストが無事に終わり残り数日で学生は夏休みになる。大学生は別だけど。そんな今日は平日で、二人共部活後に立ち寄り今日はあたしも遅番なので相手をしているわけだが、さっちゃんの口から飛び出た言葉にあたしは興味が湧く。

「はい!今年から各校の監督の間で合同合宿をしようって話になって、キセキの世代がいる六校で合宿する事になったんです。I・Hの後の八月に」

「へぇー。I・Hの後とか気まずそうだね」

「そうですね。でもそこは置いといて!手の内晒す事になりますしデメリットもあるんですけど、メリットはお互いを研究し合って能力向上を図ったり意識を高め合う為にもいい時間になるんじゃないかなって事で決まりました」

「成る程ね〜。霧崎とか正邦は誘ってないの?」

「正邦は断られちゃったんですけど、霧崎は今交渉中だって言ってましたよ。でも渋ってるみたいです」

「まあマコマコだからね。でもそうなんだー。みんなでとか楽しそうだねぇ」

「そこで、です!」

 さっちゃんは身を乗り出すとあたしに顔を近付けた。何だか企むような嬉々とした目をしているが何だろう。

「そらさんも手伝いに来てくれませんか!?」

「…え?あたし?」

 バスケに関係ないあたしが行ってもいいものかと少し渋るあたしを見て完食した峰さんが口を挟む。

「飯作ってくれよ。練習での手伝いはマネージャー的な事をちょっと手伝うとして、そらの仕事のメインは飯作りだ」

「ご飯作り?え、六校分の?」

 そりゃ無理っしょ。どんだけの育ち盛りが揃ってると思ってんの。

「経費削減で食事の用意は断るそうなんです。なので各校がローテーションで食事を作るんですけど、苦手な人もいますしそのサポートと言うか食事作りの司令塔またはリーダー的なのをそらさんにやってもらえないかと思って」

「司令塔…リーダー…!」

「(そらちゃんは単純だねぇ)」

 マスターが隣で微笑みながら思っている事を察する事が出来るはずもなく、あたしはさっちゃんの言う言葉に魅力を感じた。

「それに宿泊所のある所の前に海があるんです!海での練習もありますし、海で泳ぐ事も出来ますよ!」

「海!?」

 そして極め付けに海があると言う。海なんて数年行ってないから超行きたい!スイカ割りにビーチバレーに花火に…と妄想は膨らむ。

「勿論負担はなるべく掛けないようにします。みんなが美味しいご飯でお腹を満たせて有意義な合宿に出来るように協力してくれませんか?」

「んー…」

「手伝ってあげたらどうだい?そらちゃん料理上手だし」

「上手だなんて、一般家庭レベルですよ。普通です普通」

「その普通の飯がいいんだよ。さつきに作らせると死人が出るし」

「もー!一々言わなくていいよ大ちゃん!」

 ウルウルしたさっちゃんの目にやられつつあたしに出来るのかどうしようか迷っていると、マスターが後押しするように助言する。峰さんも頼むと珍しくお願いしてきた。

「わかった。やる!」

「本当ですか!?やったぁ!早速リコさんに連絡しないと!」

 さっちゃんは手を組んで目をキラキラさせながら喜ぶと早速携帯を出して連絡する。そんなに喜んでもらえると嬉しいな。そしてさっちゃん天使。

「これで合宿中の飯の心配はないな」

「まああたしがいなかったとしても、かがみんとか料理出来る人いるから大丈夫な気もするけど」

「けどオレら練習で疲れっし」

「あー確かに」

 なら尚更行く方が彼らの為になるかと思うとやる気が出てきた。確かに美味しいご飯を食べさせて、練習で疲れて筋繊維ぶちぶちな体を修復させるのは大事だ。余談だけどこの知識は漫画から拾ってます。

「日にちはまた決まったら連絡しますね!霧崎がどうかわかりませんし」

「オッケー。というわけでマスター」

「うん。勿論シフトの調節はするよ」

「ありがとうございます!」

 まだ先のシフトは出てないけど、予め知っておいてもらう事は大事だからね。マスターありがとう。
 その時ついでにI・Hの日程を聞くと快く教えてくれて応援に来て欲しいとも言われたので二つ返事を返した。

 そして勤務を終え二人に家まで送ってもらった後、風呂上がりにLINKに通知が来て開くとマコマコからだった。[夏の合同合宿本当に行くのか]だって。リコぴんにでも聞いたかな。
 [行くよーん]とおじさんが飛び跳ねるスタンプを返したがそれ以降は返信がなかった。既読スルーかよ。自分から聞いといてコンチクショウ。

 そして翌日の朝。さっちゃんから霧崎も参加する事になった旨を聞いて、もしかしてマコマコあたしが行くって聞いたから決めたのかな?と自意識過剰にもそう思うと可愛くてニヤニヤしてしまう。
 そのニヤニヤは止まらずマコマコに[あたしと一緒に合宿したかったの?]ってニヤニヤスタンプ付きで送ると[は?死ね]とだけ返ってきた。死ねって…ちょっとからかっただけなのに。

 ムカついたので激おこスタンプと地団駄踏むスタンプ連続で送り続けるとまた怒られた。何でそんな事したのかって?ムシャクシャしてやった。










「「カラオケ〜フー!!」」

「うるさいのだよ」

 カラオケなう。タカ君とマイクを持って叫ぶと真ちゃんに怒られた。
 メンバーはテッちゃん、かがみん、真ちゃん、タカ君、峰さん、さっちゃん、そしてあたし。テッちゃんと真ちゃんと峰さんは各相棒が無理矢理連れてきたらしい。確かに真ちゃんとか嫌がりそう。

 今日夏休みに入ったとの事で午前で授業が終わり午後からは普通に部活だったがいつもより少し部活が早く終わった彼らが、仕事終わりのあたしを背後から捕獲しカラオケに連れてきたのである。
 暗殺かと思ってマジびびったよ。

「そらって歌下手そうだよな」

「ぁあん?」

 みんなが座りタカ君とさっちゃんが曲を選んでいる中、ジュースを飲みながら峰さんが喧嘩を売ってきた。

「替え歌とか歌ってっけど大体下手じゃん」

「バッキャロー。わざと下手に歌って笑い誘ってんに決まってんだろ」

「あれ笑い誘ってたんですか」

「当たり前じゃん!あたしだって普通に歌ったら普通に上手いよ!カラオケに来たらタンバリンの山口って言われるくらい巧みなんだよ!タンバリン捌き見せてやるぜ!」

「自分で上手いって言うか普通」

 峰さんが馬鹿にしたように言うのでムッとしたあたしは言い返す。テッちゃんは無表情にあたしを見て突っ込むのでいかに自分が普通にすれば下手ではない事とカラオケに来たら絶対にやる事を力説するがかがみんが白けた目を向けてくるだけだった。信じてねえな畜生。

「だからカウンターでタンバリン持ってきたんですね」

「うん!人の歌盛り上げるの得意だから任せて!」

 さっちゃんが納得したように言う。あたしは既に準備万端でタンバリンを持ってソファーの上に立っている。

「行儀悪いですよそらさん」

「ちぇ。わかったよ。降りればいいんでしょー」

 先生みたく注意するテッちゃんの視線に耐え兼ね素直に降りる。するとタカ君が曲を入れたらしく画面に視線を移す。

 “エース様に万歳”

「…え?」

 見た事のある曲名に目が点になる。そして聞き覚えのあるイントロが流れてきた。その次にさっちゃんが入れたのは“GROWING UP!!”でリコぴんとコラボ曲。

「ちょっと待てェェェェ!!何で各自のキャラソンあんの!?」

「「これが黒バス界での不可思議」」

「君らが黒バス界言うのはアウトー!!」

 何でキャラソンあるんだよ!彼らが有名人って設定になっちゃうじゃん!いや有名人だけど曲出す有名人ではないじゃん!
 つかやっぱりタカ君上手いな!!生で聴けて嬉しいけど複雑だよ!!

 その後も順番に巡っていき真ちゃんらも歌った。あたしは最初放心状態だったがもう気にせずノッてしまえと思いタンバリン芸を披露すると上手過ぎてヤバいとか引くとか言われながら盛り上がった。
 ついでに合いの手を入れると更に盛り上がる。すげー超楽しい!

「次そらさんですよ!」

「あ、うん」

 みんなキャラソン歌ったけどあたしはこっちの世界のアニメの歌や人気歌手の歌を入れた。マイクを持っていざ歌うぞと息を吸い込む。










 ベシッ

「いった!?」

「いつまで寝てんだよ。着いたぜ」

「え?」

 不意に頭に痛みが走り目を開けると峰さんの顔が見えた。何でだとポカンとしたが峰さんに背負われている事に気付く。

「あれ?何であたし…」

「さっき大ちゃんと高尾君がそらさんの後ろから突っ込んだ所為で気絶したんですよ!衝撃で意識飛ばしただけだと思いますけど、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だけど…此処、何処?」

「カラオケです」

 さっちゃんとテッちゃんの言葉を聞きながら個室に入りソファーに降ろされた。周りを見ると誠凛の光と影コンビ、秀徳の光と影コンビ、桐皇の幼馴染みコンビがいた。どうやらさっきのは夢のようで、夢と同じメンバーが目の前にいてカラオケに来ている。そしてテッちゃんと真ちゃんと峰さんは無理矢理連れてこられたらしく、明日から夏休みというのも夢と同じ。

 確かに記憶を呼び起こすと仕事終わりに歩いてたら背中に凄い衝撃走って意識飛んだと思う。その後の記憶ないし。夢と同じようにカラオケに行く為突っ込んできたようで、デジャブとはこの事かと思った。つか気絶した奴連れてまでよくカラオケ行こうと思ったな。
 そう思っていると峰さんとタカ君に軽く謝られたので取りあえずデコピンしておいた。

 じゃあキャラソンは夢か、と思うと安堵したが今はカラオケ店。まさか全部正夢になったり…と思っていたが、タカ君が入れた曲はあたしも知ってるこっちの世界での有名な曲だった。
 よかった。普通だ。そしてめっちゃ上手い狡い!!

 あたしは部屋にあったタンバリン片手にタンバリン捌きを披露すると夢と同じように上手過ぎてヤバいとか引くとか言われながら盛り上がった。ついでに合いの手を入れると更に盛り上がる。

「次そらさんですよ!」

「よっしゃ任せろ」

「どうせ下手なんだから気楽に歌えよ」

「替え歌とか歌ってっけど大体音痴だしな」

「アホ峰バ火神黙れ。アレはわざとですぅ〜。あたしの美声に酔いしれるがいいわ!!」

 そして息を吸い込み歌い出す。曲はドラマの主題歌になったロック系。夢では歌わず仕舞いだったが今は現実なので普通に歌える。
 床に立ってノリノリでラップとか歌っているとみんなの目が見開いたり点になったりしている。え、そんな反応?マジで下手だった?
 不安になりながら歌い終えるとさっちゃんに手を握られた。

「そらさん凄いいいいい!!カッコよかったです!!上手!!」

「え?あ、そう?」

 顔をほんのり赤らめて褒められて嫌な気はしない。満更でもない顔で照れているとテッちゃんや真ちゃんからも褒められた。
 ドヤァとかがみんと峰さんに顔を向けると面白くなさそうな顔をされた。解せぬ。

「そらさん上手いな!じゃあ次バラード系歌ってよ!」

「任せろ」

 順番に回ってきて次はタカ君リクエストのバラード系を歌うとさっちゃんはメロメロだった。ほれ見ろ、美声に酔いしれたでしょ。フフンとドヤ顔をしていると峰さんに頭を殴られた。何でだ!

 その後もさっちゃんとデュエットしたりみんなに絡みまくったりして楽しい時間を過ごした。キャラソンは夢で本当によかった…。

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