INFINITY WORLD
みんなと合宿二日目前編

 ピピピッ、と電子音が聞こえ手探りで携帯を探す。目覚ましを止めて眠たくて開かない目を抉じ開け、寝起きでボーッとする頭をゆっくり起こし周りを見渡すとスヤスヤと寝息を立てている三人の女性陣。
 昨日は色んな子にトランプをしようなどと誘われたが早めに寝たので体の疲れは大分取れているものの、朝の5時に起床はキツい。朝食は6時半からなのでさっさと身支度して朝食を作らなければ。あ、あと海常の罰ゲームも作んないと。

 本日合宿二日目、始まります。今日も暑くなりそうだ。










「「いただきまーす!」」

 朝食は陽泉に手伝ってもらった。陽泉もまた主に一年が手伝いに来てくれてたっちゃんも来てくれたんだが、味付けとかは抜群なんだけど見た目が汚いというかちょっと散らかったのが問題だった。

 6時半。みんなが食堂に揃い朝食を食べ始める。あたしは陽泉の所で食べており、あっちゃんが隣で話し掛けながら嬉しそうに食べていて朝から眼福だ。

「でね、その時室ちんがめっちゃキレてて超怖かったんだよ〜」

「怖いねぇ。たっちゃんエレガントヤンキーなんでしょ?怖いねぇ」

「ねー」

 緩い感じで朝から癒されるわ。当の本人たっちゃんは意味深長な笑みを浮かべているが何も言わない辺りちょい怖。劉ちゃんはその隣で眠たそうにしながら黙々と食べている。

 食事後、片付けをしながら思い出したように厨房から海常人数分の飲み物を持ってくる。みんなが退散する前に済ませねば。
 それをドンと机に置くと海常のみんなが目を丸くした。

「何スか?これ」

「昨日の罰ゲーム!!フー!!」

「朝から煩えよ」

 きー君の問い掛けに対し一人で拍手をして声を上げると峰さんに怒られたが気にしない。霧崎は思い出したのか楽しげにニヤニヤ笑って期待している。

「武内さんのもあります」

「!?」

「勿論飲みますよね?海常率いる監督ですもんね?」

 あたしが監督を強調して言うとリコぴんパパら親父世代が愉快そうに笑う。当の武内さんは顔を引き攣らせて苦い顔をしている。その間にあたしは海常全員にドリンクを配り終えた。

「中身何スか…」

「怖いッス…!!」

「飲んでからのお楽しみ〜」

 冷や汗だらけのきー君とハヤヤがコップの中の飲み物を見ながら言う。色は普通のお茶のような色合いで、一見罰ゲームには見えない。
 各校が見守る中で全部員と武内さんがコップを持ったのを確認したあたしが合図を出す。

「はーいカンパーイ」

「「カンパーイ…」」

 意を決しグビッと煽った瞬間。

「「ブッフォ!!!」」

「「うわあああああ!!?」」

「「キタネッ!!」」

「「まっずぅぅうううう!!」」

 予想した通り海常全員吹き出し、海常同士向き合って座っていた者は吹き出したソレで顔濡れ、海常と向かい合っていた誠凛の一部(順ちゃんとか主に三年)が犠牲になった。武内さんの正面に座っていたマー坊こと中谷仁亮さんも犠牲となり、静かに怒っているのか髪からそれを滴らせながら無言だった。
 それを見て周りで爆笑する者もいれば、呆れた顔をしたり顔を歪めたり様々だった。特にリコぴんパパとタカ君が中谷さんを見て大爆笑。

「あー駄目じゃんちゃんと飲まなきゃー」

「中身は何なんですか?」

「センブリ茶プラス檸檬の果汁100%」

「うっわエグ…」

 さっちゃんの問いにあっけらかんと答えると若ちゃんが顔を酷く歪めて呟いた。

「昨日の事忘れてたと思ってたのに〜…!」

「忘れるわけないじゃん、こんな楽しそうな事」

「「目がキラキラしてる…」」

 きー君が涙目でえぐえぐ言いながら逃れられると思っていたようで、あたしがそう答えるとそれを見ていた康ちゃんと健ちゃんが淡々と呟いた。

「もし他のチームも罰ゲームあったら言って下さいね!」

「「(凄い生き生きしてるんだけど)」」

 他にも罰ゲームは作れるからと監督さん達に言うと頬を引き攣らせながら頷いていた。ただ部員は気が気じゃなかったのは言うまでもない。










「これより海での練習を始める。泳ぐ範囲は決めてあるから守るように!」

「離岸流などの危険があるから海を侮るなよ。もし何かあったら直ぐに助けを呼べ」

 午前の練習開始。二日目の今日は海で水の抵抗を受けながらゲームをしたりダッシュをしたり、一見遊びのように見えるが海を使っての練習をする事になっている。
 ただ海は何があるかわからないので事前に沖に流されないように網を張った辺り用意周到な監督達。それでも何処に危険があるかわからないので、細心の注意を払いながら行うように監督達が声を掛けていた。

 練習でも海に入れるのは嬉しいのか部員の表情は明るい。今日も暑いがまだ朝なので日中よりは過ごし易いし、午前で切り上げるので日焼けは当然あるだろうが部員達は楽みな様子。言わずもがな、全員水着着用だ。

「そらさん、その水着似合うんだから勿体ないですよ!」

「パーカー脱いで下さいよー」

「えー」

 女子軍も水着でさっちゃんとリコぴんは既に水着になっているがあたしはパーカーが脱げずにいた。理由は一つ。焼きたくないから。恥ずかしいのもあるけどまず焼きたくないから。

「ほらほら早く脱いで!」

「水着買ったんだろ?勿体ねえだろ」

「いやん」

「気持ち悪いですよ」

 コガとかがみんにも言われるが体を抱き締めながら真顔で恥ずかしいと言うとテッちゃんに一蹴された。最近酷くない?
 ちなみに水着は予め持ってくるように言われていたのでさっちゃんに付いてきてもらって買いに行った物だ。言われなくても持って行ったが。

 白地に淡いカラフルな花が描かれているビキニで一目惚れした物。下は水着用のショートパンツを履いているが一応ビキニなのでやっぱりちょっと恥ずかしい。
 昨日からよく頑張ってくれているのであたしやマネのみんなも自由に泳いでいいよと言ってもらっており、是非とも泳ぎたいしそうなるとパーカーを脱ぐしかない。周りの視線は勿論気になるが綺麗な海を見て我慢出来ずに脱ぐ。

「「おお!」」

「そらちん似合ってるよ〜可愛い」

「え、えへへ…ありがと」

 みんなから褒められて照れ臭い。あっちゃんが早速近付いてきてベタベタ引っ付いて来るが、水着姿なのでもう少し自重して欲しい。

「じゃあストレッチしてから入るわよー」

 誠凛に声を掛けるリコぴんの声を聞いてあたしもストレッチをしようとするが、ズルズルとあっちゃんに引きずられ陽泉の所に拉致られる。

「でかしたアツシ」

「オレ達が面倒見てやるアル」

「何で上から?」

 たっちゃんと劉ちゃんも喜んでいるようなのでまあいいかと思いそこでストレッチをしたが、あっちゃんのスキンシップが多くて些か困っている。

「ムッ君狡い!私もそらさんと泳ぎたい!」

「オレらが約束したんだもん。ねー?」

「いや、してないけどね」

「でもさっちん達はいつも会ってるでしょ?オレら普段会えないんだから今まで会えなかった分埋めなくちゃ駄目だし〜」

「カップルかよ」

 さっちゃんがプリプリしながら来たかと思えば自分と泳ぐと言い出す。しかしあっちゃんはあたしを後ろから抱き締めながら無理だときっぱり断っていた。て、照れるぜ。この状況も充分恥ずかしいけど取り合う様子にデレちゃう。そんな状態でもツッコミは欠かさないけどね。
 ぶっちゃけ学校潜入の時に会ってるけど、まだ言っていないのでそこは黙っておく。

「喧嘩はなし!みんなで泳ごう!」

 バチバチと睨み合い険悪なムードになりつつあるので間に割り入って仲裁すると渋々だが収まった。

 そして海へと入る。
 浅瀬の方は少し温めだが沖へ行くと冷たくて気持ちいい。

「うへー!気持ちー!」

「やっぱり夏は海やプールですよね!」

「そらちーん」

 パシャパシャとさっちゃんと掛け合っているとあっちゃんが呼ぶので振り返るとヒョイと持ち上げられ沖の方に投げられた。

「ぎゃああああああ!!」

 バッシャーン!!

 急な事で叫びながら大きな水飛沫を上げて海に沈む。息を止めてジッとしていると直ぐに浮き上がり顔を出す。

「ぶはっ!!急にしたら吃驚するわ!!死ぬかと思ったわ!!」

「あははー。でも楽しかったでしょ?」

「スッゲー楽しい!!」

「「どっちだよ!!」」

 怒ったように言うが中々のスリルがあって楽しかったのは事実。笑顔で答えると周りから的確なツッコミがきた。ナイスツッコミ。

 それから他の子もあっちゃんに投げてもらったりいつの間にかさっちゃんに桐皇のいる方に連れて行かれたりして暫し楽しく過ごし、海に慣れた頃部員のみんなは海でリレーしたりダッシュしたりと練習を始める。

 あたしはそれをさっちゃんらマネ組と応援したり眺めたり自由に過ごさせてもらった。
 そして現在。大分深い沖の方で浮き輪でぷかぷか浮きながらのんびり泳いでいる最中です。監督達が張った網が少し近くにあり、一番近くでは洛山対秀徳でリレー勝負をしている。

 さわっ

「ん?」

 不意に足に何かが掠めた気がしたので下を見る。だが何もなく海なので魚かと思いそろそろ岸へ戻るかと泳ごうとしたが、違和感を感じる。

「…何か…静か?」

 みんなは見える所にいるしワイワイバシャバシャ聞こえるが、それとは違いあたしの周辺がだけが妙にシン…としている。沖の方なので波はあるが音は岸ほど大きく聞こえない。
 一人だから寂しいのかな、と思い急いで戻ろうとした瞬間。

 どぷん、と浮き輪から抜けて下へ引きずり込まれた。










【実渕side】

「…あれ?」

「何だ」

「そらさんは?」

 洛山対秀徳のリレー後。真剣に勝負していた事もあり息が切れながらみんなで岸へ向かっていると、不意に和成ちゃんが気付いたようにそらさんを探す。鷹の目の持ち主である彼が見落とす程集中していたのかしらと思いながら私も見渡すが姿が見えない。
 緑の彼も見渡して探していると逸早く和成ちゃんが何かを見付けた。

「!あれそらさんの浮き輪じゃね!?」

「本当だ!でもそらいなくね?」

「浮き輪だけ流されたのか?」

 小太郎や永ちゃんも沖の方を眺めていると征ちゃんが目を細めた。

「様子を見てくる」

 そう言って征ちゃんが沖へ向かい掛けた所で浮き輪付近が波打った。

「っ!!っは…た、す…ッ!!」

「!?そらさん!!」

 バシャッと顔を一瞬出したそらさんがもがいていて、叫ぶが直ぐに沈んだ。私が悲鳴を上げると同時に征ちゃんと緑の彼が早急に沖に向かう。その騒ぎを聞き付け監督や他の部員達が駆け寄ってきた。

「いやぁ!!そらさん!!」

「落ち着けさつき!!」

 半泣きで海に行こうとする桐皇のマネちゃんを止める青の彼。私もいてもたってもいられなくて止める小太郎を無視して沖へ泳ぐ。
 海へ潜りそらさんのいるであろう方を見ると、透き通るような綺麗な海の此処ではよく中が見えた。視線の先には動かないそらさんの姿と、それを助けようとする征ちゃんと緑の彼。だが様子が可笑しい。

 普通に溺れたなら直ぐに助けられるが引っ張っても引っ張ってもそらさんが浮かび上がらない。二人の顔が焦っており私はそらさんの足元を見ると、ブクッと思わず空気を吐き出し口元を押さえた。

 そこには藻に体を覆われた真っ黒な人間のような形をしたモノ。この世界で視たのは初めてで驚いたが、恐らく悪霊と呼ばれるモノ。

「(どうしたら…)」

 このままでは征ちゃん達も引きずり込まれてしまうかもしれない。そう思って私は泳いで近付くとソイツを力の限り後ろから蹴った。
 蹴ったとはいえ水中なので威力は弱いが一瞬怯んだソレの隙を突いて緑の彼がそらさんを引っ張った。同時にこちらに矛先を向けたソイツに青ざめるが、征ちゃんが何かをソイツに押し付けた。

 その瞬間ジュワッと泡になって消えたソレに瞠目したが、三人で浮上し水面から顔を出す。

「っぷは!!」

「っは、そらさん!」

「ゴホッ…しっかりしろ!!」

 ずっと潜っていたので肺いっぱいに酸素を取り込む。征ちゃんと緑の彼がそらさんに呼び掛けながら岸へ泳ぐが、そらさんはぐったりして返事をしない。息をしていないようで征ちゃんが頭を反らせ息を数回吹き込んだ。
 私は浮き輪を持って四人で急いで岸に向かうと監督達が迎えに来る。
 緑の彼がそらさんを抱き上げ波打ち際に敷かれたレジャーシートの上に寝かせた。

「そらさん、そらさん!」

「息してねえな…心臓はまだ微かに動いてる」

 誠凛監督とお父さんの方の相田さんが処置をしようとするが息をしていないと聞いて一気に体温が下がった感覚になった。
 征ちゃんが傍に座り再度そらさんの顎を上げ大きく息を吸い込み数回息を吹き込む。そして相田さんが心臓マッサージをするとそらさんが噎せたので、誠凛監督が急いで顔を横に向けると水を吐き出した。

「っ、ゴホッ…ゲホッゲホッ」

「そらさん!聞こえますか!?」

「ゴホッ……う…ん」

 目を薄っすら開けたそらさんは相手を確認するとへらっと笑った。それを見て誠凛監督が安堵して腰を抜かした。
 監督達は救急車を呼んでいたようで遠くでサイレンが聞こえる。

「え、あ…救急車…」

「ああ。直ぐに意識は回復したが念の為病院に行く」

「はい…ごめんなさい…」

「謝る事はねえ」

 そらさんはわざわざ呼ばなくてもと言いたげだったが相田さんに諭され素直に頷く。直ぐに救急車が着き救急隊がこっちに向かっている時に、征ちゃんがそらさんの首に何かを掛けた。
 それは普段着けているお守りで、何故征ちゃんがと思ったがあの時アイツに押し付けたのはこのお守りだった事に気付く。

「また戻ってきたら説明します。…無事でよかった」

「ごめん赤君…ありがと」

 一瞬目を見開いたがそらさんはふわりと笑うとタンカーに乗せられて救急車で病院へ搬送された。
 付き添いとして相田さんが一緒に行ったが、私の脳裏には溺れているそらさんの姿と悪霊と、タンカーで運ばれる際に視界に入ったくっきり握り痕のある足首だった。

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