INFINITY WORLD
みんなと合宿二日目後編

 病院へ搬送後、検査や診察をしてもらったが奇跡的に症状は軽くそこまで海水も飲んでいなかったので脱水症状もなく、特に異常はない為帰ってもいいが今日は安静にするように言われ帰された。
 的確な処置があったから大事に至らずよかった。マジであの時死ぬなって思ったもんね。

 原因はわかるかとお医者さんに言われたが足が攣ってと話しておいた。幽霊の話しても信じられないだろうしね。足首に痣あるけど。痣に関しては海藻が絡まったのかも〜と適当に言っておいたら難しい顔をされたが深くは突っ込まれなかった。

「リコぴんパパ、付き添いありがとう。迷惑掛けてごめんなさい」

「気にすんな。わざとじゃねえし、何があっても可笑しくないのが海だ。オレら大人こそ気付いてやれずにすまなかったな」

「んーん。大丈夫。中谷さんも迎えありがとうございます。忙しいのにすみません」

 中谷さんに迎えに来てもらい、その帰りの車中でお礼とお詫びを伝えるとポンポンと頭を撫でられた。中谷さんも短いが気にするなと返事をもらう。

「本当に足が攣っただけかな」

「え?」

「痣があったが…」

 それまで黙って運転していたが中谷さんから問い掛けられ言葉に詰まる。だが心配させまいと苦笑を返した。

「足が攣っただけです」

 隣のリコぴんパパが難しそうな顔をしていたが二人共それ以上聞く事はなかった。

 少しして合宿所に着いた。時刻は13時前で、溺れて助けてもらったわ昼食作りは出来なかったわマネのサポートは出来なかったわで散々な迷惑を掛けて合わせる顔がない。
 あんだけ注意してたのにと、むむむ…と言いながら合宿所に入ろうとしないあたしをリコぴんパパは後ろからグイグイ押す。

「気にすんなって。みんな心配してるだろうから元気な顔見せてやれ」

 そう言われお礼も言わないとだしなと思い頷いた。そのまま食堂に行くと食事を終えたみんながおり、既に準備の為この場にいない一年生ら下級生やマネがいない学校もあるがあたしを見ると複数名が立ち上がる。

「ただいまです。大変ご迷惑をお掛けしました」

「そらさん…!お帰りなさい!」

「大丈夫っスか?」

「こっちに座って下さい!あっ偉そうにすいません!」

 あたしが監督達を始めみんなに頭を下げると真っ先にさっちゃんが駆け寄ってくれて、大丈夫なんだけどあたしを支えながら良君が引いた椅子に座らせられる。きー君も心配そうに眉を下げて正面に座った。監督達は一安心したのか少し表情が和らいでいた。

「心配掛けてごめんね。でももう大丈夫だから!ありがとう」

 ニッといつものように笑って見せると安堵したのか息を吐き出していた。リコぴんパパは監督達と話をしており、検査結果や今日の仕事はさせない旨を伝えているんだと思う。車内で出来ると言ったんだけど、中々鋭い眼光でさせない安静にしろと言い切られてしまったのでお言葉に甘える事にしている。
 リコぴんパパ怒ると怖し。

「赤君と真ちゃん、玲央きゅんも助けてくれて本当にありがとう」

「私は何もしてないわよ」

「当然の事をしたまでなのだよ」

「大事に至らなくてよかったです」

 助けてくれたのは誰かリコぴんパパに聞いていたので、近付いてきた三人にお礼を言うと三者三様に返事が返ってきた。真ちゃんの相変わらずなツンデレは可愛い。
 しかし赤君は応急処置とは言え何度も人工呼吸をしてもらったと聞いたので、ほんの少しだけ顔を合わせ辛い。状況が状況だし仕方ないんだけど申し訳なさと恥ずかしさが入り混じってます。でも何食わぬ顔をしているのであたしも気にしないようにしよう。変に意識しても迷惑だろうし。

「ちなみに真ちゃんよく泳いで助けに来られたね。眼鏡かけてなかったのに」

「その前にリレーで泳いでいただろう。オレのゴーグルは度入りなのだよ」

 ああ、そう言えば普通に泳いでたな。あの時ゴーグル着けてたんだね。偉そうに言うブレない真ちゃんにぷくくっと笑っていると怪訝な顔をされた。

「昼食は何処の学校が?」

「秀徳と私よ」

「え」

 何とリコぴんが手伝ったらしい。一瞬吃驚したが以前よりは料理の腕もマシになりつつあるので大丈夫だった様子。簡単にかつ栄養満点でボリュームのある昼食にしたらしい。どんな昼食だ。
 あたしの昼食も残してくれているみたいだが、今はあまり空腹感がないのでお腹が空いたら食べると伝えた。

 すると、視界に何か白い物が掠めそちらを向くと、この食堂内の壁際に昨日視た女の人が立っていた。俯いており表情は見えないが、何かをポツリと言った。
 あたしは眉を寄せて少し耳を澄ませると、微かに聞こえた声にゾッとし鳥肌が立った。





 死ネバヨカッタノニ





 衝撃的な言葉だった。女の人がまた昨日みたいにゆっくりと顔を上げようとしあたしは瞠目したままそこから目が離せないでいると、それを遮るようにあたしの視界に人が立った。顔を上げるとタカ君で、後ろを横目で一瞥した後あたしに軽くデコピンをかました。

「いてっ」

「何ボケッとしてんの?見るならオレ見た方が目の保養になるっしょ?」

「自分で言う?」

 地味に赤くなった額を摩っていると心配そうに隣からさっちゃんもあたしの手を握った。
 もしかしてあの人から逸らさせてくれたの?

「…タカ君がイケメン過ぎて辛い」

「あんがとー。もっと見てもいいんだよ」

 ニッと笑ったタカ君に感謝だ。ただ調子に乗り易いからある程度で抑えないと。

「そらさん。部屋に戻りましょう。ちゃんと休んだ方がいいです」
 
 あと出来ればあの時何があったか教えてくれませんか、と小声で言葉を続けた赤君にあたしは頷いて立ち上がった。










 午後の練習が始まるまで、女子部屋で何があったかを話す事になった。あたしは楽なように座らせてもらっているが、本当至れり尽くせりで申し訳ない。軟弱じゃないのに軟弱な感じになっているのでもっと強くならなければと思った。

 事情を知っている全員が聞きたがったが部屋に全員は入れないし寧ろ全員は邪魔だとリコぴんに一蹴され、あの時助けてくれた三人とリコぴんとさっちゃん、ハヤヤにたっちゃん、マコマコかずやんがこの場にいる。
 霧崎二人もいらなくね?と思ったがまあいいかと何も言わなかった。
 あの時あたしが感じた違和感から話し始める。

「そしたら急に足首掴まれて、掴まれたって理解する前に引きずり込まれたんだよ。下見たら藻だらけの奴がいて、明らかに幽霊の類だったから首に掛けてたお守りで何とか撃退しようと思ったんだけど、首から外した時に振り回されて手放しちゃって…」

「オレはそらさんを助ける時にそれをたまたま見付けて奴に押し付けたら消えました」

「だから征ちゃんがお守りを持っていたのね」

「そうだったんだ…余談だけどお守りではお祓いは出来ないから一時的に退散させただけだと思う。でも本当に助かったよ」

 助けてもらった経緯も教えてもらい、再度お礼を言うと何度も言わなくても気持ちは伝わっていると真ちゃんに言われた。

「んで必死にもがいてちょっと顔出したのは覚えてるんだけど、その後はまた引きずり込まれて覚えてないから意識失ったんだと思う」

 あれでこれだけの軽症で済んだのが本当奇跡だ。キセキの世代に助けられたからかな?なんちゃって。
 その後の流れも大雑把に聞き、引っ掛かる事が一つあったのかたっちゃんが口を開く。

「どうしてそらさんだけじゃなくて、三人にも姿が見えていたのかな?」

「んー…ひのちゃんママに聞いた事あるけど、霊感ない人でも幽霊を視る事は可能性としてあるみたいだよ。波長が合ったりすると視えたり聞こえたりするらしい。あと幽霊の種類も沢山いるからね。害のない成仏出来ないだけの普通の幽霊や、怨霊悪霊みたいな悪い霊、その土地の神とされている霊…って感じで色々あるから、普通の人にも視える霊はいるのかもしれないね。今回のアレがそうなのかも」

 曖昧で申し訳ないが専門家ではないし、ひのちゃんパパとママに聞かないと詳しくはわからない。だがそれとなく納得はしたようで、成る程と呟いたたっちゃん。相変わらずのイケメンだ。

「…じゃあさっき食堂で何を視た?」

「あの時、そらさん顔が真っ青で吃驚しました」

 話はそこから先程の事に移る。マコマコも気付いていたようであたしをじっと見据えながら聞く。さっちゃんも手を握った理由として何かを視ていたのには気付いていたらしい。

「…昨日もそこの廊下で視たんだけどね。白いワンピースを着た女の人がいるの。昨日は俯いて立ってるだけで何もなかったんだけど…」

 あたしは低い声で呟かれた言葉を思い出し気分が悪くなる。ああもう、やだなぁ。此処いそうだなって思ったんだよ。本当勘弁してくれ。

「“死ねばよかったのに”って言われた…」

「「……」」

「…ゾッとする話に投稿出来そうだね」

 自分達に視えていなくてもいると聞けばそりゃ気分良くないよね。リコぴんとさっちゃんと玲央きゅんは青ざめており、ハヤヤは怖いのか冷や汗をかいている。
 かずやんの空気が読めない発言があってもこの冷たい空気は変わらなかった。

「あの言葉聞いて、今回襲われた事があの女の人に関係があるのかとか考えたからゾッとしたよね。ただそれより気になるのは顔を視てない事なんだよね。二回共俯いてて、向こうが顔上げようとする前にタカ君みたいに遮りがあったから視なくて済んでるんだけど。見せようとする素振りがあって結果毎回視てないって事がフラグ立ってる気がするんだけど」

「どんな?」

「顔がぐちゃぐちゃとか…顔見たら呪われるとか…」

 洒落にならん話になってきてあたしはもう乾いた笑みしか浮かばなかった。
 そんなあたしを見て赤君が声を掛ける。

「残り三日間、なるべく一人にならないようにして下さい」

「赤君のそれも充分なフラグでもうマジ怖いんだけど。絶対一人になる瞬間くるじゃん一人になった時襲われるじゃん何処でフラグ折ればいいの?」

「落ち着いて下さい」

 崩壊し掛けたあたしに赤君はあくまで冷静に話をしている。その様子を見て少しは落ち着いたが気が気じゃない。また何かお詫びするから帰っていい?このままトンズラしていい?

「それは駄目です!そらさんがいないと大変だし寂しいしご飯どうするんですか!」

「そうだよねごめん。この状況でまだいさせるって正直鬼畜だけど逃げるあたしが間違ってた。だけど心の中読まないで」

 リコぴんの言葉に嬉しいような悲しいような複雑な気持ちで心がいっぱいになった。

「でもお守(り)やお札があ(る)か(ら)大丈夫なんッスよね!?」

「そうだね。うん、お守りもお札もあるから大丈夫。流石に海でお札は使えなかったけど、今なら大丈夫」

 ハヤヤの言葉に頷き返し鞄から数枚お札を出すとポケットに突っ込み自分に言い聞かせるように呟いた。今から手放さないようにしよう。

 それからはあたしはこの部屋で過ごす事になりみんなは練習があるから早速一人になるわけだが、ひのちゃんパパに電話して結界の張り方はあるか聞けば今持っているお札で作れるらしく四方に貼って即興結界を作った。この中なら安全と言えばそれで納得したらしく、たまに様子を見にくるからとの事でみんな練習に向かった。

 今日は一切マネのサポートや食事作りはしなくていいと言われているので怒られるのも嫌だしと思い寝る事にした。ご飯は…また夜でいいや。
 布団を敷いて寝転ぶと疲れていたようでそのままスッと眠りについた。










 羨ましい…

 みんなに囲まれて…羨ましい

 私も…あなたみたいになりたい…





 ぱちっと目を覚ますと、夕暮れなのか窓の外が少しだけオレンジ色だった。随分寝ていたんだなと思い体を起こす。

「あ、そらさん起きましたか?どうですか?体の調子は」

「あ、うん。大丈夫」

「よかった…お昼食べてなかったからお腹空いてますよね。夕食食べられそうですか?」

「うん。食堂まで行けるよ」

「じゃあ一緒に行きましょう」

 起きたらリコぴんが自分の荷物を漁っていてあたしに気付くと声を掛ける。どうやら起きるまで待っていてくれたらしい。寝ただけで随分と体が楽になったので立ち上がり食堂に向かう。丁度先程夕食が始まったらしい。

 少し汗をかいていたのでそれを手で拭いながら先程の夢を思い出す。
 あたしの勘違いでなければ、あの女の人の声に似ていた。何かを訴えてきているのか、と思っているとリコぴんに声を掛けられそちらに意識を戻した。

「うわー!美味しそう!」

 食堂に着くといい香りがしていた。夕食は洛山と桐皇が担ってくれたようで良君も作ったと聞き安心して食べられる。

「これは私が作りました!」

 席に着いたところでさっちゃんが意気揚々とあたしに見せる皿に盛られた物は真っ黒だった。本物のダークマターだ。

「何これ」

「ナスの煮浸しです!」

「ごめん今日はちょっと…」

 パッサパサのそれはどう見ても好物のナスの煮浸しには見えない。あたしはハッキリ言いたくなる気持ちを抑え食べる気力が…と嘘を吐いて遠慮すると少し残念そうだったが他の人に食べさせに行った。第一の犠牲者はテッちゃんだった。ご愁傷様。

「そらさん。これを」

「…湯豆腐?」

 不意に赤君が持ってきたのは彼の好物の湯豆腐。優しく微笑み食べ易い物をと思いまして、と言う辺り彼も食事作りに携わったのだろうか。まさか、主将直々に?

「そらさんの為にこれだけですが」

「あ、そうなんだ。ありがとう」

 わざわざあたしの為に作ってくれた(というより豆腐をお湯で温めるだけだが)赤君が可愛くて仕方ないんだけど。
 他にも良君がきつねうどんを作ってくれて持ってきてくれた。あっつい時期にこれ…と一瞬思ったが今日あたしは溺れたので体を温める為かなと思う事にして頂いた。味は勿論美味。

「そらさーん」

「ん?」

「上手く撮れてるっしょ?」

 不意にかずやんがあたしの隣に座って見せてきたのは携帯で撮ったあたしの水着姿の写真。うどんを啜っていたあたしは目を見開いて硬直する。

「そらさんって美脚じゃん?だから撮っちった」

「なんてオープンなんだかずやん。そして悪びれた様子が一切ない」

 主にあたしの足が撮られたデータを複数見せられどう反応しろと…と困った。
 セクハラと言い携帯を奪おうとしたが避けられた。

「かずやん盗撮!駄目絶対!!」

「別にいいじゃんそらさんだし」

「どういう意味だゴルァ!!」

「別にいいじゃねえか」

 言い合いをしているとそれを遮る声。あたしがそっちを向くとマコマコで、携帯を見ながらフッと鼻で笑った。

「水着が似合ってて可愛かったから撮ったんだろ。別に知り合いなわけだしそんな怒るなよ」

 ま、マコマコが可愛いって…!?あたしは頬に熱が集まるのを感じたが、やはり相手はマコマコ。

「なんて言うと思ったかバァカ」

「毎度の上げて落とすやつ!!また騙された!!」

 マコマコはあたしを無視してかずやんから携帯を奪うとデータを消していた。

「あ゛ー!?何すんの花宮!!」

「悪趣味だ。そいつ撮っても金にならねえだろうが。やめとけ」

「何であたしこんなに酷い扱い受けてんだろ。被害者なのに」

 マコマコは携帯を返すとその場を去って行った。あたしは大ダメージを受けて近くにいた俊ちゃんと水戸さんに泣き付いた。

「(まあもう家のパソコンに送ってあるからいいけどね)」

 ふとかずやんを見ると「家のパソコンに送ってあるし」とか思ってそうな顔をしていて、結局あたしが損した気分になってつらたん。

「でも本当によく似合っていたよ。あの時は少し照れ臭くて言えなかったけど…」

 不意にあたしを慰めていた俊ちゃんがそんな事を言うので、あたしの胸は当然鼓動が高鳴った。狡いぜ俊ちゃん。水戸さんもうんうんと頷いていて心がポカポカした。

 こうしてその後は何事もなく二日目が過ぎていきました。

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