INFINITY WORLDみんなと合宿最終日
合宿四日目。今日が合宿最終日。
あたしは目覚ましで直ぐに起床するとテキパキと布団を畳んだり身支度したりして準備をする。
この手際のよさ。何故かと言うとこういう何かの“最終日”の日って「最後だ!頑張ろう!」ってなるからテキパキ動けるんだよね。短大の頃の保育の実習でもそうだった。懐かしい。
あたしは厨房に行くと最後の朝食を作る。今日の夕方で終わりなので昼食まで此処を使用させてもらう事になっている。四日間お世話になった厨房に心でありがとうを連呼しながら作っていると、ガラリとドアが開いた。見てみると真ちゃんがいて、随分早いなと時計を一瞥してから真ちゃんに視線を戻す。
「おはよー。どしたの?もっと遅くでもいいのに」
「おはよう。目が覚めたから来ただけなのだよ。…何か手伝える事はあるか?」
「あ、じゃあ野菜千切ってー」
「わかったのだよ」
真ちゃん料理苦手なのに手伝ってくれるから嬉しいよね。簡単な作業をお願いすると手を洗ってからレタスを千切り始める。
あたしは鼻歌を歌いながらリズムよく包丁を振るっている。
トトントントトン
「デデンデッデデン」
トントントントントトトトトン
「トントントントンひののにトン」
「静かに切れないのか」
怒られた。
それでもケラケラ笑いながら楽しく調理をしていると、続々秀徳の部員が集まってきて賑やかに朝食作りをする。タカ君はちょっかいが多いけど何気に器用に何でもしてくれるので助かる。
「ねえねえ裕ちゃん」
「ハイ」
「そらさんって呼んでみ?いいんだよ?呼んでも」
「え?あ、じゃあ遠慮なく。雌豚、次なにやればいいッスか?」
「これは突っ込むべき?あまりに酷過ぎてツッコミ忘れそうになったんだけどどうしたらいいの?」
清ちゃん弟とも仲を深めようとしたが平然と雌豚呼ばわりされたので、清ちゃんとは違う暴言のレベルに戸惑っているあたしの後ろでタカ君がゲラゲラ笑っていた。笑うな。
そんな事もありつつ朝食が出来、みんなが集まってから秀徳の所で楽しく談笑しながら食事を済ませ、最後の合宿練習に入る。
あたしはいつも通りにマネのサポートをして動き回っており、今日もあたしがいるのは体育館だが暑いので首にタオルを巻き付けてTシャツにハーパンスタイルで暑さを凌ぐ。動いてなくても暑いのに当然動くともっと暑いから、リコぴんはタンクトップだしさっちゃんもTシャツにハーパンと少しでも涼しい格好をしている。
たださっちゃんの近くを通る度に男子もあたしも胸に視線が向いてしまうのは致し方ない事だと思う。うん。
そんな午前の練習中。もうちょっとしたら昼食作りに行くかーと思っていると、休憩中の峰さんに呼ばれてそっちに向かう。
「1on1しようぜ」
「無理」
「何でだよ」
「あたしバスケ出来ないもん。バレーなら出来るけど」
「やってみろって」
「レイアップすら出来ないんだよ?無〜理〜」
「やめろその妖怪の真似」
それでもしつこく訴えてくるので、仕方なくちょっとだけする事にした。
「手加減はしてやっからよ」
「いや当たり前だから。そうじゃないと勝負にならないでしょ」
そう言って峰さんと向かい合いあたしから先攻でボールをドリブルする。一生懸命抜こう抜こうとしても全然抜けなくて、結局シュートしようとしたのに跳ね飛ばされて出来なかった。
「思った以上にへったくそだった…」
「だから言ったんじゃん!もう!」
あたしが地団駄を踏んでドンッと床を踏むとピョンッと跳ねる峰さん。オイそれ大御所芸人某三人組の真似か。やめろ。
「腹立つ!!」
「仕方ねえな。レイアップ教えてやるよ。お前じゃ勝負にならねえし」
「えーやだー」
「そらさん!頑張って下さーい」
そう言いながらもさっちゃんからエールをもらって取りあえずやる事に。しかし。
ひょこひょこひょこ ピョンッ
「「ペンギンか!!」」
「だから出来ないんだってー!」
なんの公開処刑だ!!周りの子も見ていて峰さんと一緒に突っ込んでくるし、監督達には笑われるしで最悪だった。あ!赤君まで笑ってる!!
「もうやめた!!バレーならいつでも受けて立ぁつ!!」
「じゃあ今度しようぜ」
「いいよ!ミラクルスパイク見せてやんよ!」
普通のスパイクですけどね。
あたしは恥ずかしくてスタスタと元の位置に戻ると赤君が歩み寄ってきた。
「む。馬鹿にしにきたの?」
「そんな事しませんよ」
あたしが警戒心丸出しにしていると赤君は苦笑してあたしの隣に立った。
「合宿中、あまりゆっくり話が出来なかったなと思いまして」
「あー、そうだね。この前のI・Hの時またゆっくり話そうねって言っててあんまりだしね」
成る程。赤君は寂しかったんだな。なんて思いながらあたしは汗をタオルで拭う赤君を見上げてから周りに目を向ける。
休憩中なので各々座って休憩したり峰さんとかがみんみたいに動き回ったり、テッちゃんみたいに床に倒れて死んでたりしている。
誠凛とかはまだしも、洛山と陽泉の子達にはまた暫く会えないんだもんな。そう思うと急に寂しくなった。海常もそうだけど、海常は結構近いから行こうと思えば直ぐ行ける。
「…赤君」
「何ですか?」
「寂しくなる」
あたしは一歩赤君の方に寄るとピトッと引っ付いてみた。暑いのに引っ付くなって思われてるだろうな。でも今は何だか甘えておきたい。折角だし。蹴られても本望だ。Mではないよ。
「…そうですね」
赤君はクスリと小さく笑ってポンポンと頭を撫でた。前も撫でられた気がするけど撫でるの好きなのかな。
「また遊びに行くからね。赤君達も東京帰ってきたら連絡してね」
「はい。でも京都はあまりそらさんとの相性がよくないのでオレ達が行きますから」
「うん。電話いっぱいしようね」
「ええ。沢山かけます」
「「(遠距離のカップルの会話かよ)」」
あたしらが話をしているのを聞いて一部の人が心中突っ込んだのは当然知らない。
こうしてあたしはここぞとばかりに赤君にベタベタしていると案外赤君は嫌がる様子なくニコニコして受け入れてくれた。なんて心の広い。
だが周りがそれを引き離そうとしてくるのであたしは躍起になって赤君に引っ付いた。もうそれはコアラの如くヒシッとしがみついて。
「ちょ!そらさん全然離れないんだけど…!!」
「そらさん力強すぎ!!」
「征ちゃん折れちゃうから!!」
ぐぎぎぎ、とあたしの腹に手を回して後ろに引っ張るのは俊ちゃん。赤君は苦笑してされるがままであたしは離れず、その光景を見てザキや玲央きゅんもいい加減に離れろと言うがそう言われると益々離れたくなくなる。
ぎゅうううと赤君に抱き着いていると後ろから拳骨で頭を叩かれた。
「いったぁ!?」
「いい加減にしろ。練習出来ねえだろうが」
「まだ休憩中じゃん」
「もう始まるんだよ」
「ケチ!麻呂眉!バーカ!」
「お前マジで何なの?」
駄々をこねるあたしを見てマコマコは心底呆れた顔をした。だから洛山と陽泉は会えなくなるから寂しさを埋める為にやってるんだって。
じゃあなんで赤君ばっかにって?べ、別に赤君を贔屓してるんじゃなくてずっとさっきから隣にいてくれたからなだけだし!
心の中でツンデレ披露しても誰も突っ込んでくれないからやめた。
「練習再開するわよー」
リコぴんの声に部員みんなが返事をして準備をする。
あたしは赤君から漸く離れると赤君はさっき拳骨を食らった部分を撫でてコートに入っていった。ほらね、そういうところがイケメンなんですよ。
そう思いながらマコマコを見ると凄い険しい顔で睨まれた。恐ろしい。
暫くマネの仕事をしてから昼食作りに向かい、昼食は桐皇に手伝ってもらって最後の食事の準備をする。良君がいてくれたのでそりゃもうスムーズに美味しいのが出来ましたよ。
さっちゃんは峰さんや部員が仕事を色々頼んでこっちに回さないようにしていたのをあたしは察したが、あたしとしてもその方がぶっちゃけ助かったので何も言わなかった。
最後の食事はさっちゃんと良君に挟まれて食べた。両手に花、正しく。良君女の子じゃないけどね。
そして午後も練習が始まり、午前中体育館を使わなかった陽泉と秀徳と海常が体育館を使って練習。午後も体育館でサポートしたあたしは夕食作りがないので最後までマネ業務に勤しむ。
途中あっちゃんが引っ付いてきたが、さっきの赤君と一緒で寂しかったので抵抗せずされるがままでいると、調子に乗っておぶさってきたからそれは背負い投げした。重かったけど簡単に転がった。
たっちゃんと劉ちゃんから拍手が起こってちょっと嬉しかった。
そして遂に、合宿が終わる。
「今回の合宿で得たものは多い。次に会う時も敵同士だが、今回の経験やデータを活かし互いに全力を出し合い、いい勝負が出来る事を期待している」
「「おす!!」」
「四日間お疲れさん。個々に反省する点は反省して、後ろばっか見ないでちゃんと前向いて少しずつ前進していきなさい」
「「あス!!」」
「暑い中よく頑張ったな。この合宿で互いに意識も高め合う事が出来ただろう。どの学校も次に会う時が楽しみだな。お疲れ様」
「「あざっす!!」」
「お疲れ様でした。この暑さの中、皆さん誰一人欠ける事なく無事に合宿を終えられた事を喜ばしく思います。他の監督方が話された通りなので、特に他には言う事はありません。そして今回、アクシデントはあったものの四日間栄養のあるバランスのとれた食事を提供してくれて、サポートまでしてくれた山口さんに今一度お礼を言います。ありがとうございました」
「「あざっした!!」」
15時過ぎの体育館にて。洛山監督の白金さん、中谷さん、荒木さん、原澤さんより監督代表の挨拶があり、閉会式みたいに話をする。
原澤さんの言葉であたしに視線が向くと緊張でギクシャクしてしまうがあたしからも挨拶をする。
「あっ、いえいえー。あたしなんてなーんにもしておりませんよ。食事作りはどの学校の子も文句言わずに手伝ってくれたし、マネージャー業務は殆ど雑務くらいしか手伝えなくて申し訳なかったけどあたしも凄く楽しかったです。途中迷惑掛けてすみませんでした。でもまたこんな機会があったら参加したいですねー」
「勿論。是非お願いします」
「「お願いします!!」
あたし結構好き勝手やっっていたし、マネ業務とか普通レベルにしか役に立たなかったけど、監督達も部員達もみんながまたお願いしますと言ってくれたのがあたしは単純に嬉しかった。
こうして夏の合同合宿は幕を閉じた。
そして帰り。あたしはリコぴんパパに乗せてってもらうので此処でお別れ。あたしは洛山と陽泉のみんなに向き合う。
「ううう…四日間一緒だったから寂しいー!」
「オレもー。ねえそらちん」
「はい」
「赤ちんだけ狡いからオレもいい?」
「?…って、わああああ!?」
グズグズとあたしが寂しいと連呼していると、あっちゃんがあたしに近付いてきてあたしの両脇に手を通し抱き上げた。
「ちょ、高い高い!」
「またね、そらちん」
「む」
「あ」
「「…ああー!!?」」
ひいいいい!と高所に慄いているとあっちゃんは自分より視線が少し高くなったあたしに軽くキスをする。あたしが驚いて固まっていると、周りも唖然とした後絶叫した。
「あ、ああああああっちゃん!!?」
「またアツシは…じゃあオレも」
「え!?」
降ろしてもらったあたしはこんな公の場で!!と赤面していると、たっちゃんも近付いてきて次は左ほっぺにチューをされる。
「あら。じゃあ私も」
そして右頬に玲央きゅんがチュー。いや君達じゃあってなんだよ、じゃあって。
あたしはパクパク口を金魚みたいに開け閉めしていると、劉ちゃんや永ちゃんやコタは笑うだけで助けてくれなかった。まあ…永ちゃんまでし出したらあたし気絶するしね。筋肉怖い。笑ってくれればそれでいいんだけど、この空気どうしてくれよう。
東京組はみんなポカン顔だ。それが普通だよね。
「ならオレからも」
「赤ちんは今までに何回もしてきたでしょー」
「何回もというわけではないよ。なら今回は、」
あっちゃん、その言い方は語弊があると思う。あたしが心中突っ込んでいると、近付いてきた赤君はあたしの前髪を分けてでこちゅーをする。
「これで我慢します」
そう言って笑った赤君は離れたが、あたしは目を見開いてショートして固まった。
みんないつの間にこんなにプレイボーイのなったの?
そんな固まったあたしをリコぴんが引きずって車まで乗せてくれて、みんなと別れた。
別れ方もうちょっとちゃんとしたかったのに…なんでこうなった。
この話題でまた暫くリコぴんやさっちゃんに問い詰められるんだろうなと、車が出発して数分後に復活した頭で考えるのであった。
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