INFINITY WORLD
あたしが避けられる

「山口そらです。宜しくお願いします!」

 真新しい夏用のスーツに身を包み、名前を告げて丁寧にお辞儀をする。朗らかな女性に座って下さいと促されて失礼しますと返し椅子に腰掛ける。

 現在あたくしはとある都内の保育園の面接を受けております。そうです、就活です。保育士の資格取れたしね。
 喫茶店のマスターには既に話をしてあるし、受かったって聞いて一緒に喜んでくれた。これまで色々とよくしてくれたマスター達には感謝の言葉しかない。

 目の前にいる眼鏡を掛けた優しそうな年配の女性は園長先生。今面接が始まる。
 大丈夫だ。さっちゃん達に面接官やってもらって面接練習したし。こんなの短大以来だったわ。
 自慢の笑顔でハキハキと喋り自分をアピールする。アピるの得意だし大丈夫だ。

 そして場面は移り一週間後。無事に採用の通知が届き、九月始めから保育園で雇ってもらえる事になった。展開が早いって?何事もスピーディーにいこうぜ。

 車がないので暫くは電車通勤になるけど、たまにはいいかなと思う。車の方が便利だけどね。

 とまあ、何やかんやでトントン拍子に進み、夏休みが明ければ無事保育士として働き出します!イェア!!
 八月も残り半月。目一杯エンジョイしようぜ!バイトも最後まで頑張るんだぜ!










 そう思っていたあたしだが、最近何やら可笑しい。
 可笑しいというのはあたしではなく、周りのみんながだ。

 残りの夏休みを満喫しようと思って、部活の休みとか午後から空いてる時とかに一緒にプール行こうとかBBQしに行こうとか誘うんだけど、忙しいらしく一緒に行けない。

 前なら「よっしゃ!行こうぜ!」「行きましょう!楽しみだなぁ!」とか凄く可愛くていい反応が返ってきたんだけど、それがなく急に素っ気ないというか関わりたがらないというか。うん、とにかく避けられてる感じ。

 「悪い、その日無理だわ」とか「すみません、最近忙しくて…」とかの返事ばっかり。
 それは高校生組だけではなく大学組もそう。

 あたし何かしたかな?と思い、色々と思い返すが…き、嫌われるような事しかしてない気がする。
 えっと、まず勝手に学校潜入して好き放題やったでしょー、こないだマコマコのお尻触ったら拳骨食らったでしょー、家に遊びに来た時コガが自分用にって買ってきてたプリン先に開けて三口くらい食べたでしょー…挙げ出したらキリがない。

 自由過ぎるあたしに飽きた?嫌気が差した?
 確かにあの世界での事で恩返しする的な事とかよく言われたけど、もうそれチャラになるくらいに尽くしてくれてるし。

 そう思うとガーンと頭に打撃を受けたような衝撃が走りあたしはソファーに倒れる。

「…LINKすら入らない…」

 これまでなら毎日必ず誰かから他愛ない事でLINKに連絡が入ったがそれもない。しかも洛山とかの県外の子達まで。ショックを隠し切れない。
 嗚呼…みんなが遠くに行ってしまう…嫁や婿に出す時の心情のようだ…。

「…やだなぁ」

 寂しい。










 その日の夕方。あたしは重い体を起こしてバイトに来ていた。
 いつもより元気がなく気を抜いたら溜め息ばかり吐くあたしにマスターが心配そうに声を掛ける。

「そらちゃん、どうしたの?元気がないね」

「マスター…」

「何かあった?仕事関係?」

 カウンターに座っていた常連さんも顔を上げてカウンターの中にいるあたしとマスターを見つめる。あたしはコップを拭く手を止めた。

「すみません、仕事中なのに。仕事関係じゃなくて、あたしの可愛い可愛いあの子達が遠くに行っちゃうんです…」

「え?みんな引っ越しか何か?それとも遠征?」

「心の話です」

 あたしはポツリポツリと最近の事を話し出す。人からすれば些細な事なのに真剣に聞いてくれる二人に泣き付きたくなった。

「そうは思わないけどなぁ」

「オレも。だってあんなにべったりだったじゃねえか」

「だって…あたしやりたい放題してたし」

「「それは否定出来ない」」

「ほらぁ!」

 ですよねー。自分が思っているように周りからもそう思われてるんだよ。今までの自分に反省。
 反省しても関係が戻らないと何の解決にもならないが。

「心配し過ぎだと思うけど」

「うんうん。つか本人達に気聞けばいいんじゃねえの?」

「うう、怖くて聞けなかったんです」

 でも言われてみればそうだ、聞くのが一番早い。あたしの性格上、そうやって気になる事は直ぐに聞きたくなるのだが今回はみんなからって事でどうも聞きにくくその手段はなかった。
 よし、今日の夜に聞いてみよう。まずはLINKでいいかな。

《LINK!!》

「…お前携帯此処に置いてあるけど」

「あ、ポケットに入れたままで邪魔だったからそこに置いたんでした」

 カウンターに置いてあったあたしの携帯が鳴る。マナモにすらしてなかったのかあたし。あたしはマスターの反応を窺うが特に気にしていないようで食器の片付けを行いながらこちらを見て微笑んでいる。

「悪い、誰から連絡きたか見ちまった。でも丁度いいんじゃねえか。そらの言う可愛い可愛いあの子達の内の一人からだぞ」

「えっ」

「見てごらん」

 ロック画面にダイアログで誰かからのメッセージか表記されるので、それが目に入ったらしい。あたしに手渡す常連さんの手から受け取るとマスターからも早速見てみるよう促され、お言葉に甘えてメッセージを開く。ドキドキする。何かのお誘いかな?あたしの気にし過ぎかな?
 相手は峰さん。

[お前わ血祭り迎えに逝く]

 え?

「えええええええええ!!」

「っ!?何だよ!」

「こっ殺されるううううううう!!」

「落ち着いてそらちゃん!」

 あたしは携帯を投げ出しひいいいと後ずさると二人がその内容を覗き込んで顔を引き攣らせた。
 どういう意味?あたしが誰かを血祭り会場に迎えに行くって事?それともあたしが血祭りにあげられて悪魔的なのが迎えに行くぞっていう予言!?

「血祭りって…からかってるだけだよきっと」

「打ち間違いかもしれねえぜ?それか相手間違えたか」

「ひいいいい死ぬうううう!!血祭りにあげられるんだァァァ!!」

「「(駄目だこりゃ)」」

 それからバイトも終わり帰宅の時間になったが、あたしは鞄を抱えて建物や電柱の陰という陰を渡って周りを警戒しながら帰宅中です。
 いつ峰さんに奇襲を仕掛けられるかがわからないからな。周りの人が何コイツとビビってるけど、あたしはそれ以上にビビっているので勘弁してもらいたい。

 もう直ぐ家だ。だが最後まで油断してはならない。いつ何があるかわからないんだからね。
 家が見えてきた時、不意に後ろから手が伸びてきて布で口を塞がれ目隠しで布が目の上に巻かれた。

「んんんんん!?」

 そしてあたしはヒョイと担がれそのまま連れて行かれた。ひっ、人攫いだ誘拐だ何がどうなってるんだあああああああ!!










「「そらさん!保育士試験合格と就職おめでとう!!」」

「………は?」

 連れ去り事件があって数分。あたしが連れてこられたのは何処かの飲食店。
 口を塞がれていた布と目隠しを取り払われると、暗さに慣れていた視界へ光が飛び込んできて眩む視界の中で同時にパンパンッていう音と共に聞き慣れた声が複数聞こえた。
 最初狙撃されたと思ったが鼻腔を擽る火薬の匂いと視界に映る色取り取りの紙テープに気付き、直ぐにクラッカーだと気付く。視線を上げればニコニコと笑ったみんなの顔。

「え、え?何?何?」

「そらさんへのサプライズパーティーだよん」

「本当は合宿の時に祝いたかったんだけど準備がまとまらなくてな」

 そう言うのはかずやんとザキ。

「洛山と陽泉と、あと海常はコレ。テレビ電話繋いでっから」

『『そらさんおめでとう!』』

 アイパッドをスルスル使い熟し画面を見せる清ちゃんとスーさん、そして翔ちゃん。自分達が大学で使ってるやつだ。その画面には洛山と陽泉と海常のみんなが映っていて、ヒラヒラと手を振ってくれたり人を押し退けて前に出たりと騒がしい。

「ショウゴ君は恥ずかしがって来ずで電話も繋げてないんですけど、その内LINKでも連絡が入ると思います」

 さっちゃんは少し苦笑をして話す。
 あたしは美味しそうな料理も並べられているこの空間を見て、少し間を置いてから顔を歪める。

「うっ…」

「嬉しい?嬉しい?」

「泣く?泣くの?」

 タカ君とともっきーが嬉々として顔を覗き込んでくる。あたしはぶわっと涙を流す。

「うわああああ!よかったぁぁぁ!!あたし嫌われたかとっおも、思って!みんな連絡しても相手にしてくれないしっ…峰さんからは脅迫されるし!」

「あ?してねえよ」

「した!!今日のLINK!!」

 最初はあー…と少しバツが悪そうに苦笑していたが、めそめそ泣きながら脅迫と訴えるあたしに全員が疑問符を浮かべる。峰さんは否定するがあたしは忘れもしないあの文面とばかりに訴え続ける。

「そういえば大ちゃんそらさんに迎えに行く事LINKで送ってくれてたよね」

「おう」

 峰さんがLINKを開いてさっちゃん達桐皇が見てみると、そこには間違いなく[お前わ血祭り迎えに逝く]の文字。それを見て若ちゃんが峰さんの頭を殴った。

「いてっ!何すんだよ!」

「お前の所為じゃねえか!無駄に不安にさせやがって!」

「そうだそうだ!」

「あー悪ィ悪ィ。お前ん家まで迎えに行くって打ったつもりだった」

「打ち間違いと予測変換の所為だな」

「にしても酷い打ち間違いだな」

「そりゃ怖いわ〜」

 若ちゃんに言葉に賛同していると思いの外すんなり謝罪をもらえた。岩ちゃんとツボちゃんとスガがしみじみとした感じで言うが、送られてきた側はそんな冷静ではいられないからね。

「だから異常にビビってたのか」

「え?」

「オレがお前迎えに行ったら挙動不審な動きしてたの見た」

「逆に怪しいな」

 マコマコがあたしを見て呆れた感じで言う。それを聞き康ちゃんは想像したのかそう呟く。

「え、マコマコだったの?打ち間違いだったけど峰さんが迎えに来るんだったんでしょ?」

「青峰が寝てて起こしても起きないから花宮が行ったんだよ」

 健ちゃんが答える。何してんの峰さん。みんなが準備している中で昼寝?緊張感ないな。

「寂しい思いさせてごめん。そらさんが誰とも連絡取れない事を気にしてへこんじゃう事わかってたんだけど、今日のこの瞬間に吃驚させたくて」

「いつも吃驚させられっぱなしだからたまには逆もいいなって思ったんだが…予想以上にへこませちまったみたいだな」

 俊ちゃんと順ちゃんが口を揃えて申し訳なさそうに言うが、さっきまでの不安な気持ちは消え嬉しい気持ちでいっぱいだ。

「そらさんの事、嫌いになったりしませんよ」

 不意にテッちゃんがふわりと優しく微笑みながら嬉しい事を言ってくれる。うわ、キュン死にしそう吐血しそう。
 そしてお祝いのプレゼントをもらったり言葉をもらったりして、あたしはサプライズパーティーを満喫する。

「これから頑張るのだよ。ピアノならいつでも教えてやる」

「うん!」

 真ちゃんがわざわざ近くにきて言ってくれた言葉が嬉しかった。きっとあたしの今の顔はだらしなく笑いっぱなしなんだろうね。笑い過ぎて顔が痛いくらい。

 その後はみんなで楽しく食事をしました。勘違いでよかったです。本当に。
 みんなありがとう。サプライズ最高だ!ただ、する側はいいけどされる側はちょっと色々たまったもんじゃない場合もあるけどね。

 でも気持ちがこもってればオールオッケー!

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