INFINITY WORLD
あたしと夏祭り

 先日のプールで少し日焼けした肌が痛いなと思っている今日この頃。日中のバイトを終えて帰宅すると、フロントにあるポストに手紙が入っている事に気付く。
 それを取り出し歩きながら差出人を見るとアレクさんだった。

「ふおおお!アレクさんからだー!」

「あらあら、そらちゃん元気ねえ。いい事あったの?」

「はい!久しい方からの文が!!」

「よかったわねぇ」

 偶然通り掛かった同じマンションの住人さんが微笑ましそうにあたしに話し掛けてくる。そして昔の人みたいな喋り方だと笑う。
 あたしは嬉々として玄関を開け部屋に入ると、リビングに半透明のスーツを着たおじさんがいるのに気付いて固まる。

 お帰りー

「此処はあたしの家だァァァ!!」

 痛い!!

 薄っすらと禿げた頭に容赦なく平手打ちが出来る程幽霊の扱いが慣れ(?)始めたあたし。しくしくしながら頭を押さえる霊を放置して床に荷物を置くと早速封を切る。
 だが後ろから覗く視線を感じ振り返って溜め息を吐く。

「あたしには何も出来ません。強制的にとある神主の元に送るしか出来ませんが、強制的に除霊は嫌ですよね。帰ってもらえませんか?」

 ええ…でも折角若い女の子の所に来たのに…

「そんな事言ってると地獄の鬼が迎えに来ますよ」

 そう言うと少し顔を青ざめさせて渋々窓をすり抜けて帰って行った。物分かりのある方で助かるわ。
 そしてあたしは封筒から手紙を取り出すとそれに目を通す。

 だが書いてある事は全て英語であたしはチンプンカンプンだった。こういう時英語話せて読める人が羨ましい。でも部分部分はわかり、ヨッシーやにじむーの名前も書いてあるので近況か何かだろうと思う。悪い意味合いの英単語は書かれていないと思うので、悪い話はなさそうだ。多分だけど。

 英語読める人って言ったら…パッと思い付くのはやっぱりかがみんとたっちゃん。あとマコマコと真ちゃんも読めるだろうな。よし、またかがみんに読んでもらおう。

 またみんなでワイワイ出来たらなと思いながら手紙を大事にしまい、帰宅後の手洗いうがいをしに洗面台へ向かった。










 あと一週間程で八月も終わりという頃。
 あたしの家にはさっちゃんとリコぴんがいて、あたしはせっせと二人の浴衣の着付けとヘアアレンジをしている。
 そうです。今日は近くで開催される夏祭りなのです!花火もやるんだってよ。夏の風物詩フゥ〜!!

 今時の浴衣は簡単だから助かる。帯も嵌める式が多いし、それで充分可愛く見えるから便利だ。ただふわふわしたのは付けず、昔ながらの装飾にちょっとこだわってみる。昔の心を忘れないで。

 着物の着付けとか帯巻けるようになったらカッコいいんだろうな。どっかで習おうかな。そんな事を思っていると漸く二人のが完成した。

 リコぴんは短い髪を全体的にコテでふんわり巻いて、サイドに編み込みをしてパステルカラーの緑の花の髪飾りを付けた。帯は朱色、浴衣は黄色の生地で鮮やかな小さな花が散りばめられて描かれているもの。華奢なリコぴんにピッタリ可愛い。

 さっちゃんは長い髪を三つ編みにしてクルッと巻いたまとめ髪にした。いい感じにボリュームがあるし華やかに見えるし、何より綺麗な項が見えるようにした。色っぺぇぇぇ。帯は白色、浴衣は臙脂色の生地で桜があしらわれている。ピンクの髪とよく似合っています可愛い。

 そしてあたしは帯は山吹色、紺色の生地に牡丹柄が入っている浴衣。可愛いんだなこれが。これまた一目惚れして買ったやつ。あたし身長ある方だから大きな柄の方が似合うからこれにしたんだけど、やっぱ正解。
 髪型はさっちゃんにしてもらった。斜めサイドで結ってネジネジしてクルッとピンで留めただけの、簡単だけど大人の気品さが漂う髪型。ごめん大袈裟に言いました。そこに髪飾りを付けて完成。

「いい時間ね」

「忘れ物ありませんか?」

「ん、大丈夫」

 リコぴんが時計を見ながら立ち上がり、それに習ってあたし達も持ち物など確認しながら三人で揃って外に出る。きゃいきゃい話をしながら目的地に向かっていると、遠くでは祭り囃子が微かに聞こえてきて楽しみな気持ちが更に高揚しドキドキと心臓が速くなる。うわあああ!久しぶりの祭りでテンション上がってきたあああ!

 ちなみにリコぴんは順ちゃんら誠凛三年組と、さっちゃんは峰さんやテッちゃん達と、そしてあたしは岩ちゃんとスガとともっきーの四人で行く事になっています。何で岩ちゃん達かって?スガに誘われたからです。

 お祭り会場に着くと既に人で賑わっていた。リコぴんとさっちゃんはナンパの可能性を考えて待ち合わせ場所にきちんと送り届けた。保護者みたいなもんだからね。

 待ち合わせ場所は各々近かったので面倒でもなかったし問題ない。たださっちゃんを送ってった時にテッちゃんから「よくお似合いです」と微笑んで褒められた時にはテッちゃんの頭撫で回したくなる程悶えた。可愛いのは君だよテッちゃんんんんん!!あ、別に可愛いって言われたわけじゃないわ。
 あと順ちゃんがリコぴん見て頬を染めていたのが面白かった。あたしに感謝したまえよ。

 そしてあたしも待ち合わせ場所に向かうと三人が既に揃っていた。

「お待たせ〜。ごめんね」

「おー!そらさん浴衣!珍しく可愛い!」

「何でともっきーはいつも一言余計なの?」

「すまんな。コイツはいつもそうだ」

 もう少し言葉を選ぶっていう事を学んだ方がいいと思うよともっきー。でも褒められたのは嬉しいのでお礼を言っておく。
 岩ちゃんはフォローした後に同じように似合っていると褒めてくれたので嬉しかった。

「三人共浴衣なんだね。あ、ともっきーは甚平か」

「たまにはいいかと思ってな」

 ふと三人を見渡してみると各々祭りに見合うような格好をしているのに気付き、カッコいいしよく似合っていると褒めると嬉しそうに微笑む。
 ともっきーが刺子縞の浅緑色の甚平、岩ちゃんがかすれ十字の枯茶色の浴衣、スガがかすれ縞の灰色(薄鈍色)の浴衣。

 スガがずっと静かなのに気付き顔を向けると、じっと真顔で見つめてきていて狼狽える。

「な、何?スガ」

「んーん。似合ってんね」

「あ、ありがと」

 爽やかな顔で暴言吐かれるかと思った。似合うと言われ安堵しホッと息を逃した。

「じゃあ行くか〜」

 スガの声で四人で歩き出す。甘い香りや香ばしい香りが漂っていてあたしは色んな屋台に目移りする。

「オレたこ焼き食べたいッス!」

「おー買ってこ〜い」

 テンションが高いともっきーは近くにあったたこ焼き屋に走っていく。それをスガがのほほーんと促しているのを見て扱い慣れているなと感心した。それを見て隣の岩ちゃんと苦笑していると、あたしの視界に焼きそばが入る。

「岩ちゃん、焼きそば食べたい」

「なら一緒に行こう」

 焼きそば屋を指差し隣の岩ちゃんに報告するとついて来てくれると言うのでお言葉に甘える。スガはチラリとこちらを一瞥し、ともっきーを回収しに行ってくると言いともっきーの方へ行った。
 あたしは岩ちゃんと大学の話やバスケの話など他愛ない話をして焼きそばを無事購入し、適当に座って食べる。そこにスガとともっきーが合流した。

「屋台のたこ焼きとか焼きそばってさ、一段と美味しく感じるよね」

「わかるわー」

 スガの同意を得て笑い合った。その後も各々が唐揚げやクレープや綿菓子など好きな物を購入し、食べ歩きを続ける。

「花火って何時だっけ?」

「20時半とかじゃなかった?」

 携帯の時間を確認すると一時間程時間があるので、ゆっくり食べ歩きが出来るなと思いながらカステラを頬張る。
 岩ちゃん達曰く、花火を見る穴場があってそこで見ると人もあまり混雑していないしゆっくり花火を楽しめるとの事で、そこに案内してくれるそう。やるな。
 何でも祭りに来れる年はそこで毎回見るのだとか。みんなの青春の一ページに混ぜてもらって感謝感激だ。

「あ、そらさーん」

「おー、さっちゃーん」

「はいかき氷」

「ん、あんがと」

 歩いているとさっちゃん達とすれ違い、その際にレモン味のかき氷をさっちゃんに放り込まれてパクリと食べた。甘いっす。
 お返しにもうカステラは充分なので押し付けるという形で残りを渡すと案外喜んでもらえた。カステラって一番小さいサイズ買っても多く感じるよね。正邦組にももう沢山分けたし、いらないと思う。

「初キッスはレモンの味っつってね」

「!?な、何言ってるんですかそらさんっ!」

 テッちゃんの隣をキープしている様子を見受けてからかうと赤面してわたわたと慌てる。可愛過ぎか。
 他のメンバーはかがみん、真ちゃん、タカ君がいるらしく、離れた位置ではしゃいでいるのが見えた。峰さんもそこに混ざっている。

 さっちゃん達と別れて前を向くと、やっちゃった。

「何処行った?あの三人。迷子かな」

 すみません。あたしが迷子です。何も言わず立ち止まったからだ。キョロキョロ見渡すが何処にも見当たらない。

「携帯…」

 巾着から取り出そうとして影が差し掛かり顔を上げると前にスガが立っていた。

「ふぉ!?」

「なーにやってんの」

「ごめんね、さっちゃんと話してたら逸れちゃった」

「待ってたんだけど人に流された。こっちこそごめんな〜」

「ううん。戻ってきてくれて助かったよ。ありがと」

 スガはコクリと頷くと辺りを見渡して遠くを指差す。

「岩村達多分向こうまで歩いてったと思う」

「あ、じゃあ行こっか」

「ちょい待ち」

 進もうとするとスガがあたしの前に立ったまま呼び止め、何だと首を傾げて見上げるとスガはいつもとは違い歯切れ悪く頭を掻く。

「どうした?トイレ?ついてってあげようか?」

「違うから。…ちょっと二人で回んない?」

「別にいいけど岩ちゃん達いいのかな」

「大丈夫っしょ。花火まで一時間切ってるし、花火見る所で合流しよ。LINKしとく」

 そう言うや否やパパッとLINKでメッセージを送ったスガがあたしに向き直る。やる事早いな。

「じゃあ行こ〜」

 そう言ってスガはあたしの手を握ると歩き始めた。おお、ナチュラルだ。照れる。
 いや待てよ?あたしがもう迷子にならないようにって事か?子ども扱い…。

「最近あんまゆっくり話せなかったからさー」

「だね。高校生組とはよく会うんだけどね」

 のんびり会話しながら歩いていると、りんご飴の屋台が見えた。デザートにいいね。

「スガよ、りんご飴買ってきてもよい?」

「んー」

 スガはあたしの手を引いてそちらへ歩いて行き一緒に並んでくれる。何気に紳士だよね。そして買ってくれた。出来る男は違うな。だけど年下に奢らせて悪いなぁ。
 小さいサイズのそれを早速食べる。うん、甘い。これ食べると祭りきたーって感じする。そして舌が赤くなるのもいい。

「一口ちょうだい」

「ほい」

 スガが顔を向けてくるので持ち上げて食べさせる。お返しに買おうかと聞くが一口でいいからと言う。
 そして射的やくじ引きやヨーヨー釣りなどのゲームも楽しみ、あっという間に景品でいっぱいになった。スガ射的上手過ぎ。周りの女子がきゃあきゃあ言っていたのがわかるくらいカッコよかったよ。こんな人と一緒に歩いているなんて…今更ながら恐れ多い。てか普段からあたし美男美女連れて歩いてるよね?あたしいつか殺されるんじゃね?怖っ!

 そうこうしているうちに時間になったらしく、道行く人が花火の時間と口にしているのを聞いてスガに集合場所に行こうと促す。
 スガに引かれて歩く事数分。人気が少ない方にやや坂道を歩いていくので下駄を履く足への負担と少し不安になり手を握る力を僅かに込めると、それに気付いたスガが振り返り立ち止まる。

「ごめん、歩くの早かった?足痛い?」

「いや、大丈夫。暗かったからつい」

「あーごめん。もう直ぐで着くから」

 スガは微笑むとあたしの手を握り返して歩き始める。その笑顔と声色に安堵してあたしはまた歩き出す。

 すると、行く途中で花火が始まったようでドンッと大きな音が鼓膜を揺らした。

「あちゃー、始まったー」

「でもまだまだ時間あるし大丈夫だよ」

 二人で立ち止まり上がった花火を見上げる。あたしはそう言ってから久しぶりにこんな近くで花火を見たと思い少し見惚れていると、スガは花火からあたしに視線を移す。それに気付いて疑問符を浮かべながら見つめると、スガはあたしに向き合って立ち口を開く。

「…浴衣姿見た時さ、ちゃんと言えなかったけど」

「?うん」

「浴衣、本当によく似合ってんよ。そらさん、可愛い」

 スガが暗がりでもわかるくらいに頬を染めて真っ直ぐ見つめながら言うので、あたしにもそれが移ったかのように頬に熱が集まった。

「ありがとう」

 照れ臭くなって思わず笑うと、スガはあたしの手を軽く引き体勢がグラついたあたしを支え額に唇を押し付けた。

「…ぅえ!?」

「ガキ共に負けてらんないかんね〜」

 そう言うとスガはあたしの手を引いて再度歩き出した。みんな急にそういうキュンを仕掛けてくるので心臓痛い。
 そして目的地に着くと当然そこには岩ちゃんとともっきーが揃っていて、更にリコぴん達やさっちゃん達のグループもいて結局揃うのねと思い笑った。

「…何で手繋いでんの?」

「え、ああ。逸れないように」

 タカ君の声であたしはスガと繋いでいた手を見下ろすと苦笑して迷子になったあたしが悪かったと説明し、スガにお礼を言ってから離す。そして柵にもたれながら続々と上がる花火を見上げた。
 岩ちゃん達の言っていたこの穴場は祭り会場から少し離れた公園、でも花火はよく見え辺りも静かだったのでゆっくり花火を鑑賞出来た。此処いいな、来年も来たい。

 みんなで空に広がる花火を見ながら楽しかった夏ももう直ぐで終わるなぁと改めて感じ、少し寂しく思いながらもこれからも沢山の楽しい事があるであろうと想像すると楽しみな気持ちは消えず、この幸せが続けばいいなと思った。

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