INFINITY WORLD
あたしと怖い話�@

「さあ…今宵もやって参りました…。納涼企画第一回、チキチキ、怖い話をして背筋を凍らせよう大会…恐怖の夜の始まりです…」

「全然怖くねえんだけど。つか今宵“も”って第一回っつってんのに矛盾してるじゃねえか」

「おどろおどろしい感じ出してるんだろうけど全然出来てねえから」

 八月の終わり掛け。今日も今日とてあたしの家に集まる皆の衆。
 リビングを真っ暗にして懐中電灯だけ点けたあたしは顎から光を当てて低い声で司会を務めるが、あっさり怖くないと清ちゃんと村ちゃんに否定されてしまった。

 今日のメンバーはツボちゃん村ちゃん、清ちゃん、誠凛三年組の計十名。あたし入れてね。また異色のメンバーが揃ったが、事の発端はコガの怖い話大会しようぜの声だった。その為に来た誠凛三年組と、そこに元秀徳三人組がご飯を食べに家に寄ってたまたま合流したわけです。

 夕食を終えてから早速しようとコガが意気込み始める事になったが、ノリノリなあたしを心配する複数。

「そらさん大丈夫なんですか?」

「何が?怖い話のネタなら沢山あるよ」

「だろうな。ってそうじゃなくて、怖い話してると幽霊寄ってくるって言うじゃん。それに霊感ある人ってこういう百物語的なので話したがらないって聞くし」

 代表してリコぴんと順ちゃんが質問してくる。心配そうにしていた意味を理解するとあたしは納得したような顔をして答えた。

「まあ霊感ある人は人それぞれじゃないかな。あたしの友達の親とか霊感あるのにホラーの特番よく見てるって聞いた事あるし。あたしは元々怖い話好きだし、霊感に目覚めてから色んな体験してるけどその体験談を話したくて仕方ないタイプ。それにこれ百物語じゃないし。でも心霊スポットは絶対に行かない行っちゃ駄目だよ」

「ああ…そう…。わかってるよ」

「あと幽霊だけど、寄ってくるよ。だけど今日は特別。ひのちゃんパパに来てもらったよ」

「こんばんはー」

「うおおおおお!?」

「いつの間に!?」

 一つひとつ答えてからヒョイと懐中電灯の明かりを隣に向けると先程まではいなかったはずのひのちゃんパパ(久しぶりの登場)がにこやかに座っていて全員がその場から引いた。

「サプライズ成功ー」

「イエーイ」

「イエーイじゃないよ!…ハッ!漸く建設が終わり新しく建ち並んだ家々が両手を伸ばしみんなでイエーイ…キタコレ!」

「伊月黙れ」

「きてねえよ!!」

「つか長いわ!!」

 あたしとひのちゃんパパがハイタッチする様子を見て久しぶりに俊ちゃんが駄洒落を言い、順ちゃんは安定の冷たさでコガとツッチーが突っ込む。確かに長い。あたしは長過ぎて逆に面白いと思う。

「有白さん、いいんですか?」

「僕がいるからね。あんまりオススメはしないけど、みんなの怖がる反応が面白いのはわかるからね」

 ツボちゃんが怖い話をするのはいいのかと最終確認をするが、ひのちゃんパパは自分がいれば大丈夫だし何より恐怖に慄く顔は嫌いじゃないと言う。こんな神主さんもいるんですね。ひのちゃんパパだけか。

「じゃあ始めようか。…まずはあたしから…」

「そのおどろおどろしい感じで話すのやめてくんない?聞き取りにくいんだけど」

 また最初と同じように話を始めるとコガにサラッと酷い事を言われた。あたしは渋々懐中電灯を置いて部屋全体が僅かに明るくなるだけの空間で口を開いた。

「オホンッ…これはあたしの友達とその母親の体験談です。さっき言った霊感あるけどホラーの特番よく見る親子です。まずは友達の方から」

 静かに話し始めるあたしに、みんな一様にゴクリと息を飲む。





 仮に友達をAさんとしましょう。
 ある日、Aさんは自宅のリビングのソファーで昼寝をしていました。その枕元には座椅子に背を向けて座りテレビを見る母親。
 暑い夏の日。その日もうだるような暑さでしたが、エアコンの効いた部屋で快適に過ごしていました。しかしそれは突然やってきたのです。

 一度目を覚ましたAさん。ですがまだ眠気が覚めずうとうとしながら寝る体勢を変えようと体を反転させ、足のあった方に頭を置いてもう一度目を閉じました。
 すると、突如耳鳴りが鳴りました。耳鳴りが日常茶飯事あるので大して気にしないタイプなのですが、実はAさんは耳鳴りに階級を分けていたのです。
 耳鳴りがすると霊が近くにいるとよく言います。そこでAさんは、高い音は気候が変わる時、低い音は近くに霊がいる時、その真ん中の音は取りあえず要注意の時。その三段階に勝手に分けていたのです。ただ、真ん中の音と低い音は今まで聞いた事がりませんでした。

 そしてその時の音は、真ん中の音でした。

「(あー、これもしかして霊的なのくるんじゃないの?イヒヒ)」

 今まで霊体験をした事のないAさんは興味本位でふざけてそう思ったのです。するとその瞬間、全身の鳥肌がぶわっと一気に立ち耳鳴りが脳を占める程煩く感じそして低い音に変わりました。

「(うわああああ!何これ何これ!気持ち悪い!)」

 まるで砂嵐のようにノイズまで走っています。恐怖と吐き気で身動きが取れません。
 ですが恐怖が占めるその中で、更に恐怖が増す声が。

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

「(じゅ、呪怨!!やめてやめてやだやだやだ!!)」

 観た事ある映画のあの声のような声。必死に嫌だと脳内で叫び思考を振り払うように拒否をしました。すると…






「に゛ゃーーーーーッ!!」

「うおおお!?」

「ビビったぁ!!」

「…と脳内を猫の声が通り過ぎていったのです」

「…はあ?」

 あたしが声を上げると全員が肩を飛び上がらせた。特に水戸さんビクゥッてしてて可愛かった。
 あたしは面白くて笑いを堪えつつ話を続ける。清ちゃんが怪訝な声を上げるがあたしは手を向けて制止させた。

「言いたい事はわかる。けどまだ話終わってないから」

 そう言うと口を噤んでくれたので続ける。





 「(…え!?猫!?)」

 猫の声が通り過ぎていってから少し間を置いて脳内の耳鳴りやノイズはピタリと止みました。ただ何故猫がと疑問が残ります。
 でもやっと解放された。初めての恐怖体験を早速母親に、と思い体を起こそうとしました。

 が、起こせませんでした。金縛りです。
 しかし目は開きます。薄っすら開く視界の中では見慣れたリビングの景色。微かに視界の端に母親の頭が見えます。

「(全然動かない!どうしよう…気持ち悪いよう…)」

 そう思いながらも一生懸命声を出そうとします。口が動きました。でも声が出ません。

「…ぁ…っ…、っ…(ああもう!全然声が出ん!つかこの声量でもこの距離にいるんだから気付けや!!)」

 耳が遠くなっているのです。全く見向きもしない母親にAは怒りました。

「…ぉぉお母さぁん!」

「は!?何?」

「お、おお…!今金縛りに遭ってたんだけど!!」

 中途半端な声でしたが叫んで起き上がれました。それに驚く母親と金縛りが解けて驚くAさん。Aさんは金縛りに遭っていて助けてくれなかったと文句を言います。母親は霊感があるので、気付いて欲しかったのです。

「ああ、ごめん。テレビに夢中で。道理で耳鳴り煩かったわけだ。あはは」

「あははじゃないよ!!呪怨怖かった!!ニャーって!!」

 こうして、Aさんの初心霊体験が起こったのです。その後も何故か何度も金縛りに遭うようになってしまいますが、それも半年すると大分減り今ではあまり問題ないようです。






「終わり」

「…で、何で猫?」

「Aさん曰く、死んでた猫を見付けた時があったらしくて。猫が死んでいるのを見て可哀想って思うのあまりよくないって母親に聞いていたらしいけどやっぱ可哀想なものは可哀想だから、そう思ったからかな?って話してた」

「へぇ〜。そんな事もあるもんだな」

「でもニャーって…」

 清ちゃんが疑問をぶつけてくるのを聞いて答えると村ちゃんも納得したようだが、少し間抜けな話に聞こえると俊ちゃんが苦笑した。

「あともう一つAさんの母親の話もあるから」

「まだあんのかよ」





 Aさんの母親、仮にBさんとしましょう。

 Aさんの一件があって一二年後。その日はAさんの帰りが遅く、一足早く寝ていたBさん。

 ふとBさんは夜中に目を覚ましました。玄関からガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえます。

「(ああ、Aが帰ってきたのか…)」

 そう思いもう一度寝ようとすると、Bさんの部屋のドアが開きました。

「(ん?Aがわざわざくるなんて…)」

 珍しい。そう思い掛けた時に強い耳鳴りが鳴りました。

「(あ!これあかんやつや!!)」

 そう思いながら目を閉じて寝たままでいると、枕元に来た気がする何かが言いました。

 ぎゅ◯とらー…

 そう言って女の人の声が通り過ぎていきました。そこでピタリと耳鳴りが収まりました。

「(…何でぎゅ◯とら?)」

 某地域の某スーパーの名前です。何でだ?と半笑いで首を傾げているとまた玄関がガチャガチャと鳴り、次は本物のAさんが帰ってきてトテトテと足音を立てていつものようにリビングへ向かうのを聞き、眠りについたそうです。






「終わり」

「いや何だそれ」

「何ぎゅ◯とらって」

「前の世界にあったお店の名前」

 ツボちゃんと清ちゃんが真顔で聞いてくるので真顔で返す。

「何か…怖い話なんだろうけどあんまり怖くないな」

「実際体験した人は怖いんでしょうけど…ねえ」

 ツッチーとリコぴんが顔を見合わせて半笑いで言う。確かに恐怖体験なはずなのに面白いという。これじゃ背筋凍らないかな。

「ちょっと内容が甘かったか…」

「今寄ってきてる?」

「コガの肩に乗ってるよ」

「ええ!?」

「嘘だよ」

「こらそらちゃん。やめなさいプッ」

「いや有白さん笑ってるじゃないッスか!!」

 あたしが反省しているとコガが周りを見て少し恐々と幽霊の存在を聞いてくるのでからかってやるとひのちゃんパパに注意された。が、ひのちゃんパパもコガのビビリっぷりにちょっと馬鹿にしたように笑っていてウケる。当然コガは怒っていた。

「まだまだいけそうだね。よし。じゃあ続けよう。次はひのちゃんパパで」

「任されたし。だが一旦此処で切ろうか。次回に続く」

「え!?この話続くの!?」

 はい、続きます。






怖い話は実話だったり。

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