INFINITY WORLD
あたしと霊障相談

「…大分よくなったのだよ」

「本当?やったー!」

 届いた電子ピアノで真ちゃんに二日に一回程度で教えてもらい、真ちゃんから借りた楽譜での練習から始まり今では弾くよう指示された楽譜を結構弾けるようになった。
 自宅にて、タカ君がソファーに座り携帯を弄っている中であたしは真ちゃんに見守られながら童謡を弾く。ミスはあるにしても最初と比べれば聴ける程度には弾けるようになったので、真ちゃんに褒められ凄く嬉しかった。

「そらさん頑張ってんねー」

「みんなも部活とか学校頑張ってるのと同じだよ」

 タカ君にも褒められて鼻が高くなってしまうのは仕方ないと思いたい。だって頑張り認められて嬉しくないわけないし。

「明後日弾くんだっけ?」

「うん。最初の印象が大事だからね。此処でスラスラ〜って弾ければ“まあ!山口先生上手ね!”って先輩方に評価もらえるじゃん」

「ああ…うん」

 何その微妙な反応。その職場で上手くやっていく為には先輩の評価大事でしょ。

「練習はした。自信を持ってするのだよ」

「うん。真ちゃん本当にありがとね!またわからない時は頼みます」

「仕方ないのだよ」

 眼鏡を押し上げて目を逸らしながらも見捨てない真ちゃんマジイケメン。
 そして二日後、無事に子ども達にピアノを披露し楽しそうに歌う様子を見て癒され先輩方にも評価を頂きました。
 ただ4歳児担任の先生に今後教えていく予定の歌の楽譜もいくつか渡され、この調子でどんどん頑張ってねと言われた時は一瞬白目剥いたけど。だがこれも保育士の務め。頑張ろう。










『お願いそらさ〜ん』

「うーん…」

 とある土曜日。今日は土曜保育から外れ休みなので一週間蓄積された疲れを癒そうと家でのんびり過ごしている時、かずやんから電話が入り出ると今直ぐかずやんがいる所に来て欲しいとの事。
 理由を聞けば、先日かずやんが心霊スポットへ友人に連れられて行ったらしくそれからかずやん達の周りで不可解な事が続いて起きているとの事。この状態であたしの家に来たら家に連れてくるなと追い返されるのは目に見えているので、行かない代わりに会いに来て欲しいと言うのだ。

 誰が霊がいるとわかって行くよ。助けてあげたい気持ちは全くないわけではないけど、あたし結構心霊スポットとか行くなよってみんなに言ってたはずなのにかずやんが守らなかっただけだし、自業自得というか自己責任というか…。何度も言うようだけど大分霊力の扱いは出来るようになったもののまだお祓いは出来ない。ちなみに今でも修行は続けてますよ。
 朱雀も円堂の一件で出したっきりで出てないし。一朝一夕でいくような簡単な事でもないから仕方ない。

 おっと話が逸れた。ひのちゃんパパに頼るよう言ったけどお金払うのは…と渋っていた。じゃあマジで心霊スポットとか行くなし。一発殴らせて10円あげるから。

『そら』

「え、マコマコ?」

『ああ。お前は来なくていい。オレがコイツら説得して自分で神社でも寺でも行くように言うから』

 急に声が変わったかと思えばマコマコが出てきた。近くにいたのね。
 マコマコはかずやんに呼ばれて先程合流したらしく、あたしに電話して巻き込もうとしているのを見て代わった様子。マコマコの細やかな優しさが見えて胸がじーんとした。本人は認めないがな。

 だが向こう側から半泣きの声が聞こえてきて、悲痛なかずやんの訴える声を聞いて可哀想になってきた。
 うーん…軽率な行動はしたくないけど、あたしが今持っているお札で祓えるなら祓って、祓い切れない相手でも有白家に転送する形であたしがお祓い代金立て替えて支払うのでもあり、かな。ええ、かずやんを同情しての事です。でもお金に余裕があるわけではないから後者は最悪の話ね。
 高校生が簡単に出せるような金額ではないし、かずやんバイトもしてないからお金ないのはないんだろうし。仕方ない。

「ありがとマコマコ。でも取りあえずあたしそっちに行くよ。あたしが持ってるお札で祓えるか祓えないかくらいはわかるから、その状況を見てどうしたらいいかかずやんに進言するよ」

『チッ…お人好しが』

「ごめんね。でも心配してくれてありがとう」

『別に心配してるわけじゃねぇよ。バァカ』

 出たバァカ。はいご馳走様です。
 場所とオレもいるから早く来いとだけ言うと電話を切ったマコマコに笑いながら、あたしは簡単に身支度をすると言われた場所へ向かった。










 向かった所は霧崎第一高校の近くの大きな公園。日中なので子ども連れの家族がいたりカップルがいたり人が多い。
 日差しを避けるように陰があるベンチでマコマコとかずやん、他に男の子三人がいた。

「あ、そらさん!来てくれてあんがとー」

「うん」

「……何でその距離?」

 あたしは五人に近寄れないでいた。お察しの通り、視えてます。
 特にかずやん以外の恐らく一緒に心霊スポットにいったであろう三人には今近寄りたくない。それぞれの肩に女の人や子ども、おじいさんが憑いていてこちらをじっと見つめている。かずやんは微かに黒い靄が背中に視えるだけ。

 あたしが半笑いで立ち止まっているのを見てマコマコが近寄ってきた。

「いるのか」

「はっきり視えるのは三体」

「札でいけんのか?」

「微妙〜…」

 近寄りたくない負のオーラを感じるからな。変に手を出してあたしに跳ね返ってくんのも困る。
 でも話を聞かないとわからないと思い、意を決して四人に近付く。

「紹介しとくよん。左からタイゾー、ヒロミツ、マサト。で、こっちがそらさん」

「どうも…」

 タイゾーと呼ばれた人が軽く会釈をする。同じ学校の友人らしく、坊ちゃん学校といえどかずやんと友達なだけあってやや偏屈気味な雰囲気を感じます。すみません偏見です。
 あたしが霊感あるとは伝えてもらっているようだが、あんまり信じてない顔をしている。

「宜しくね。一郎君、二郎君、三郎君」

「「「名前覚える気ないよね!?」」」

 ツッコミ力はよし。名前を覚えるのが面倒なので一〜三郎君でいいや。それに今三人をあんまり直視したくない。あたしはベンチに距離を置いて座った。

「で、流れをお聞かせ願える?」

「ん。学校からそこまで遠くない所にあるこの辺では有名な心霊スポットの廃病院があって。一昨日の木曜の夜にそこに行ったんだよん」

 かずやんの話はこうだ。一〜三郎君達の中で受験勉強の息抜きにノリでそこに行こうという話になって、そこに通り掛かったかずやんが誘われ(一応断ったが押し切られまあ少しならいっかという気持ちで)同行。
 20時くらいに現場に向かい、中を一階部分だけ一周する。それだけの簡単な探索だったのだが、終盤で院内の何処からか電話の鳴る音が聞こえ逃げるように帰ってきたらしい。
 その翌日から今日に至るまで、学校の階段で足を滑らせ落ちそうになったり人に押されたように前のめりになって赤信号の横断歩道に出そうになったり、不吉な事ばかり起こるのだという。
 また一郎君は夜中に首を絞められるような感覚がしたり、二郎君は女の人の影を見たり、三郎君は肩が酷く重く頭痛がやまないなどの霊障もあるらしい。かずやんは寒気がするくらいで大きな事はないらしい。

「ふーん…」

「自業自得だな」

「そうなんだけどよ…」

「まさかこんな事になるとは思わねえだろ」

 マコマコが冷たく言うと三郎君と次郎君がモゴモゴと呟く。
 すると霊達はその言葉を聞いて目を見開き、恐ろしい顔をしてあたしに手を伸ばしてきた。

「あたしが言ったんじゃないし!」

 慌ててその場から飛び退く。立っていたマコマコにぶつかったがふらつく事なくあたしを支えた。故意ではないだろうけど。

「は?」

 三人が何この人みたいな顔であたしを見てくるが、あんたらの所為だよと心の中で怒る。

「君達の三人の軽率な行動と言動に霊達が怒ったんだよ。もう正直に言うね。一郎君には子ども、二郎君は女の人、三郎君にはおじいさんの霊が憑いてる」

「「「え」」」

「オレは?」

「何かよくわかんないけど黒い靄が背中に視える。このままだと怪我するのかも」

 あたしがそう言うと三人は青ざめて固まり、かずやんはマジでかと頬を引き攣らせた。

「おふざけで行ったから怒って憑いてきてるんだよ」

「オレには何も出来ません何も出来ません」

「自分達から行っといてそれはない。ふざけてんの?」

 追い込むような言い方で悪いけど事実だし。そう思いあたしから視た霊の様子で見解を述べると二郎君が手を合わせてブツブツ言うのであたしが霊の代わりに怒っておく。するとウンウン頷いていて同意してくれた霊達。ノリいい感じが伝わってきてちょっとほっこりなるんだけど。顔怖いのに。

 よくテレビでも廃墟とか検証に行って実際霊障あった時に「何も出来ません」って唱えてるけど、故意的に行っておいてそれは効かないと思う。たまたま泊まった旅館でそういう霊障があったとかだったら話は別だけど。

 あたしの言葉を聞いて二郎君は合わせた手を下ろして落ち込む。

 来てくれたら…

「ん?」

 謝罪に来てくれたら…許す…

 二郎君の後ろから微かに聞こえる女の人の声。あたしは耳を澄ませながら言葉を聞くと顔を歪めた。廃病院に来いって言うの?また行くのは逆に危険な気がする。

 私達を…送り届けて…

 ああ、怒って憑いて来たから許す為にちゃんと供養の気持ちで何か手土産的な物持って病院に再度来いと、んで自分達を病院に送って行けと。はいわかりましたっていくわけない。

 そう思って歪めた顔のまま二郎君の後ろを視ると女の人が悲しそうな目を向けて見つめてきていたので、あたしは肩を落とす。

「廃病院に謝りに来いってさ」

「え?」

「そしたら許してくれるって言ってる」

「マジか!?じゃあ直ぐ行こう!!」

 そう言って一郎君が立ち上がるのを阻止する。

「待って待って。ウェイト。供養の気持ちが大切だしもう二度としないって約束もしなきゃなんだよ」

「わかってるッス」

「でも行ったからって言ってこの人達が許してくれても他の人が許してくれるとは限らないよ。それでも行くの?」

 そうやって思い付きで行動するからこんな事になるんだよ。反省させる為に落ち着いたらちゃんと話をしてあげないと。あるいは有白家直々にありがた〜いお話(小一時間)をしてもらうか。
 あたしの行くかとの言葉に四人で顔を見合わせた後、自分達にはお金はないし今出来る事がそれならと言うので、あたしは頭を軽く押さえながらかずやんもいるし首突っ込んじゃったからついて行く事を決めて一緒に今からいく事になった。

 そのやり取りを聞いていたマコマコは怪訝な顔で舌打ちをする。

「どうなっても文句は言えねえぞ」

「ん、わかってるよ」

「オレも行く」

 マコマコはあたしの頭を軽く叩くと自分も一緒について行くと言った。正直マコマコは何も害がないんだし連れて行きたくなかったけど、何かあった時の為にと言って聞かなかった。

 こうして今から廃病院に行く事になったのです。昼間とはいえ嫌な予感しかしないよね。

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