INFINITY WORLD
あたしと事前準備

 十月半ば。寒さがこれから本格的に増してくるという時期。
 高校生は二学期の中間テスト期間中らしくいつものように家に勉強会をしに来る事がしばしばあった。あたしは平日夕方までいないので、夕方以降に来たり休日に来たり。

 今日も今日とて、桐皇の馴染みの四人が勉強をしに来ているのだが、そこで気になる話題が出てきた。

「バスケットボール教室?」

「はい!去年とあるストリートバスケの壁にみんなでストリートアートをしまして」

「うわー楽しそう」

 さっちゃんの話を聞いて思い出した。それってアニメのエンディングにあったやつの事かな。楽しそうだったもんな〜。

「WC後にそこでバスケをしていたら近所の子どもがやりたいって混ざってきて。そこからバスケットボール教室っていうのをやってみる事になって一回やったんです!すいません!」

「へ〜」

 それもエンディングにあった気がする。みんなでワイワイ楽しそうにバスケ教えるやつでしょ。

「で、反響よかったから今年もやろうって話になってんだ。テストが終わったらチラシ作って呼び掛けて十一月の休日にやる」

「紫原とか赤司とかも来るってよ」

 もうそこまで話が大きくなってるんだ。あたしはあっちゃんと赤君の名前を聞いて僅かに身を固くする。当然会いたいけど変に緊張する。
 まあ三年生も受験勉強の息抜き程度にいいだろうしいい企画だと思う。峰さんが固まった体を伸ばすように伸びをして後ろのソファーへ倒れ込む。

「ただ十一月は文化祭がある高校が多いので、部活もあるしみんなで集まるっていう時間が中々作れないと思うんです。そこでそらさんにお願いが!」

「もう直ぐ延期になった運動会予定してるし十一月には保育参観とかハロウィンパーティーとか芋掘り大会とかあるからな〜」

「そ、そこを何とか…!」

 全てを言わずとしてわかりますとも。手伝って欲しいんでしょ。んでもって作業する場所を集まり易い此処にしたいんでしょ。場所の提供はいいけど、今も君らが勉強している間運動会の準備で色々作ってて忙しいし保育参観なんて保護者様が来るからその準備も忙しいんです。

「子どもが沢山来るんですよ!そらさんの好きな子どもです!」

「でも小学生くらいでしょ?嫌いじゃないけどあたしは幼児専門です」

「うっ…!お、親も様子を見に来たり一緒に参加したりするんですけど、前回は子連れの方でぐずる赤ちゃんに苦労してた方がいたので…そらさんならそのフォローとか出来るかもと!」

 褒めたって何も出やしませんよ。あたしは苦笑しながら話を聞いてさっちゃんの必死の訴えに耳を貸す。

「あとそらさんにはプレゼントのお菓子作りもやってもらいたいんです!私達もしますけど、唯一女子の中で得意じゃないですか?当日の子守りも是非、担って欲しいんです!そらさんにしか出来ません!」

 最後の言葉にピクリと反応したのが自分でもわかった。あたしって単純だな。しかもさっちゃんに加え良君の捨てられた猫や犬みたいな目で見られたら断ろうにも断れない。

「んー……わかった。出来る事はしよう」

「やったぁ!」

「ありがとうございます!すいません!」

 その二人の喜びようを見てあたしはまだ何もしていないのにいい事をした気分になった。

「でもその日が土曜日で土曜保育と被ったら参加出来ないからね」

「わかりました!調節します!」

 調節するんだ。そこまでしてくれるのね。あたしが言わなくても休みとかわかってそうなさっちゃんに改めて感心しつつ、喜ぶ天使二人と何気に嬉しそうな峰さん、保護者のように温かい目で見守る若ちゃんを見てあたしも温かい眼差しを向けておいた。










 後日。みんな中間テストを無事に終え、あたしも保育園の運動会を終えた頃、ハロウィンパーティーに向けて準備をしながら並行してバスケットボール教室のチラシ作りをする。
 現在自宅にて手書きで色々キャッチフレーズや日程など書き込んでおり、空いたスペースに絵を描いた。ネコとかクマとかウサギとか変なおじさんとか。

「そらさんの絵素敵!」

「本当ですね!絵心あるッス!」

「まあね」

 現在誠凛のみんなが作業をしに来ていて、そこには一年生の二人も混ざっていた。何気にあたし宅に初訪問だったりする。リコぴんと誠凛一年生の夜木少年があたしの作品を見て目を輝かせた。可愛い。
 緊張しつつも人懐っこい笑顔が可愛い夜木少年。そして無表情で黙々と字を書く朝日奈少年。朝と夜ってだけあって正反対で面白い。

「でもこっち中二っぽさが出てるんだけど」

「“オレの奥義スプリングシュートの継承者募集”…これは破棄」

「!?丹精込めて作ったのに!!」

「著作権侵害」

 何でよ!ジョ◯ョっぽい男の子の絵描いただけじゃん!でもジ◯ジョじゃないんだからいいじゃん!
 コガと順ちゃんの容赦ない攻撃を受けてあたしは落ち込む。それを見て夜木少年がわたわたと慌てた。

「山口さん!大丈夫ですよ!他の絵も充分素敵ですから!」

「ありがとう夜木君。じゃああたしを癒してたもう」

「え?え?」

「山口じゃなくてそらでいいよ」

「ええ!?でもオレなんか、恐れ多い!」

「いや何も恐れ多くないから大丈夫」

「寧ろそっちの方が喜んでくれると思うよ」

「という事ですな」

 ここぞとばかりに名前で呼びよう伝えると慌てながらブンブンと頭を横に振るが、それを俊ちゃんとツッチーがフォローしてくれた。ナイス。それを聞いて夜木少年は口をモゴモゴさせた後小声で名前を紡ぐ。

「え、と…そらさん…」

「グッフォア!!」

「!!?」

「あ、いつもの事だから」

 嗚呼、あたしに新たな天使が舞い降りた。おずおず呼ぶ様子にやられたあたしが心臓を押さえて後ろに倒れこむと、夜木少年はビビっていたが至って冷静に放置しろと言うかがみん。酷くない?
 あたしは起き上がると夜木少年を見つめてあだ名を考える。

「夜木悠太……よし。メーちゃんね」

「え!?」

「ヤギだからでしょう」

「正解」

「普通に呼んであげて下さい」

 テッちゃんに少し厳しい指摘を受けて渋々悠君と呼ぶ事にした。

「火神先輩はなんて呼んでるんですか?」

「あ?そらの事か?」

「はい。…じゃあそらさん。宜しくお願いします」

「え?あ、はい宜しく」

 続いてそのやり取りを見ていた朝日奈少年がかがみんに質問を投げ掛けてその答えを聞くと同じように名前で呼ぶ。いいんだけど、急にどうした。

「朝日奈君は火神君が憧れなんです。だから彼の言う事はよく聞くんですよ」

「成る程」

 いよいよかがみんも先輩っぽくなってきたなー。もう入学して半年経ってるから当たり前か。てか崇拝し過ぎだろ朝日奈少年よ。
 テッちゃんの解説に納得していると、朝日奈少年にじっと見つめられる。あだ名か?あだ名付けていいのか?無表情だから全然感情が読み取れん。

「朝日奈大悟……じゃあ、大悟ね」

「「何の捻りもない!」」

「大ちゃんだとさっちゃんの峰さんの呼び方と被るじゃん。じゃあアサゴ」

「アサゴ…」

 フリと河ちゃんに突っ込まれ、自分的には可愛いあだ名を付けてあげるとひろやんが微妙な顔をした。

「何でもいいです」

「ほら」

「やめろよそのドヤ顔」

 特に異論はないと言う朝日奈少年にあたしがフフンと笑うと順ちゃんに冷たい視線を向けられた。辛い。でもアサゴに決定な。

「あれ?誰がこれ持ってきたんだ?」

 不意に俊ちゃんが何かに気付きみんながそちらを向くと、そこには大きなハリセンやピコピコハンマーが壁に立て掛けられていた。水戸さんはハリセンを手に取って首を傾げている。

「ああ、それあたしの」

「え?こんなの置いてありましたっけ?」

「最近買ったんだ」

「何でまたこんな物を…」

 犯人はあたしで、リコぴんやツッチーの言葉に立ち上がり水戸さんからハリセンを受け取ると、そのままベランダに向かって歩き出す。
 閉まっていたカーテンを開けるとそこには人が窓に張り付いていた。

「「ひいいいいっ!?」」

 人と言っても幽霊の類ではなく、歴とした人間です。それを見たコガや悠君が悲鳴を上げて後ずさった。その正体は、

「おふゅすぁすぃむいでう、そらすぁん!(略:お久しぶりです、そらさん!)」

「毎日顔合わせてるから!しつこいからマジ帰れこの変態ストーカー野郎!」

「ストーカーじゃなくて恋のハンターです!!」

「前と変わってんじゃねえか!!スナイパーどこいった!!」

 ガラッと窓を開けると侵入してこようとするのはストーカー男、内藤騎士。ああもう、また窓が皮脂で汚れた最悪。
 清ちゃんが追い払ってから暫く姿を見ないと思っていたが、あたしが気付かなかっただけで毎日尾行されていたらしい。それに気付いたのはつい最近で、何か熱っぽい視線感じると思ってカーテンが開いている窓の外見たら内藤さんが今日みたいに張り付いていた。

 幽霊以上に怖くて当然悲鳴上げたよね。まだ無断侵入されないだけマシだけど、此処何階かわかってんの?っていつも思う。
 それからというもの、こうして気付けば視界に入ってくるので武器を調達したのです。これで殴り飛ばす。正当防衛です。マンションから飛ばされて普通の人間は生きていないけど、こういう人に限って生命力パネェから手加減しない事にした。

 侵入を足蹴にして防ぎハリセンを振りかぶって窓の外へ弾き出す。キラーンと光って空の遥か彼方に飛ばされるのを見送り、あたしは静かに窓を閉めた。

「この為の武器です」

「心中お察しします」

「「ご愁傷様です」」

 やり取りを見ていたテッちゃんに合掌され他の子にも哀れな目を向けられた。そう、まだストーカー被害は終わってなかったんです。
 よい子は真似せずストーカー被害に遭ったら警察を頼って下さいね。
 とまあそんな感じで日々チラシ作りを行い、出来たそれらを各自分担して配布してくれるそうな。










 参加者が着実に集まっているという報告を受けながら、あたしは保育園の行事を一つずつ終えていく。そしてあっという間に十一月。

 以前言ったように同じ4歳児担当の先生が産休に入るので、十一月に入って数日後にはあたしは一人担任となった。業務の引き継ぎは出来ているのでその辺は問題なく、子ども達と一緒に作ったお祝いを渡すと涙を流して喜んでくれていたのがいい思い出だ。あたしってばいい先輩を持ったな。

 そんなある平日。夕食を食べているとインターホンが鳴ったので出てみれば、そこには真ちゃんとタカ君がいた。
 久しぶりのタカ君にドキリとしたが二人を上げる。さっちゃんから預かってきた物を持ってきてくれたらしい。

「日程は来週の日曜だったよね」

「ああ、変更はないのだよ」

「そらさんも参加出来るんっしょ?」

「うん。休みだからちゃんと行くよ」

 当日のスケジュールやプレゼント用のお菓子のレシピを預かってくれたようで、それに目を通しながら会話をする。自然に出来てる、はず。
 二人に夕食はと聞くと真ちゃんは用事があるらしく早々に帰るらしいので、タカ君だけが残って食べていく事になった。ストーカー被害の話を聞いてわざわざ様子を見に来てくれたらしい。遠回しに言ってたけどツンデレ万歳。

 そして真ちゃんが帰宅し、タカ君と二人で夕食のシチューを食べる。テレビはついてるけどあんまり会話なくて、やっぱり緊張しているのが自分でもわかった。タカ君も気まずいのかな。

「…そらさん」

「ふぁい!?」

「…プッ!ククッ…何もしねえよ!そんな緊張しなくても」

「え、いや…ハハハ」

 急に声を掛けられてビクつきながら肩を飛び上がらせた。思っていた以上の自分の反応に顔が熱くなる。タカ君はそれを見てケラケラ笑うので、少し肩の力を抜いた。

「この前はごめんね。急にあんな事して」

「い、いや。ううん。あたしも悪いし…でも、ね」

「うん」

「ちゃんと、向き合う事にしたから。…ちゃんと見て、考えるよ」

 この前の一件を詫びられると鮮明に思い出してしまって今すぐ穴に入りたくなったが、それをぐっと堪えてタカ君の方に向き直り真っ直ぐ見つめながらそう伝える。するとタカ君はつり目な瞳をパチクリと瞬かせた後、嬉しそうに、でも少し照れ臭そうに笑って頷いた。

 いつものタカ君の笑顔を見られてあたしは安心し、それからはまたいつものように他愛ない話をした。
 バスケットボール教室はいよいよ来週だ。

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