INFINITY WORLDみんなと打ち上げ
ソファーに軽く押し倒された状態のあたしと押し倒した張本人のあっちゃん。あっちゃんの告白に心臓は鼓動を速め、目前に迫るあっちゃんの顔にピントが合わずぼやけてきた。
嫌かと言われれば嫌ではない。だけどまだ考え中だから、告白はいいとしてこういう事は…!と思いそっとあっちゃんの胸に手を置いて押し返そうとした時、その場にそぐわない音が響いた。
ピンポーン
「「………」」
二人の動きが止まる。またインターホンが鳴り、あたしの後方に位置するインターホンの画面を見上げた。そこに映っているのは峰さんとさっちゃん。ひらひら手を振っているのが見える。
「あ、あっちゃん迎えが…っ、」
来たから離れて、と顔を向けて言おうとしたが不意に首筋にぬるりと何かが這う感覚が伝わる。あっちゃんが首元に顔を埋めていて舌を這わせていた。
「ちょ、ちょちょちょ!ま、待ってあっちゃん!」
「やだ」
「あ、や、駄目だって、あたしは中途半端な状態で出来ないから!」
そう言うとピタリと動きを止めた。そして顔を上げると鼻先付きそうな距離で見つめられる。
「中途半端な状態って?オレは自分の気持ちを伝えてるのにそらちんからは何も言ってもらってない状態の事?」
「そ、そう」
「付き合ってないのにって事?」
「そうです」
「じゃあ付き合ってよ、オレと。そらちんにもっと触りたい。オレ、ずっとずっと我慢してんだから」
熱を帯びた瞳を見つめ返しながら、あたしは少し目を伏せて口を開く。
「あっちゃんの事を、あっちゃんみたいに恋愛感情で好きなのかまだわかんないから…これから真剣に考えるって決めたから、待って欲しい…デス」
「え〜まだ待つの〜?」
「う、ご、ごめん」
「…まあ、向き合ってくれるだけマシかなー」
ちなみにこんな会話をしている間にもインターホンは鳴り続けています。早く出てあげないと、またあたしに何かあったかもって騒動になり兼ねない。
「じゃあお預け食らったからー、これくらいは許してもらおっかな〜」
「え、んっ」
残り僅かの距離を詰められるのはあっという間で、ふに、と唇にあっちゃんのそれが重なった。同時に未だ鳴り続けるインターホンと電話の着信音が鳴り響き、あっちゃんはそっと離れてペロリと唇を舐めていった。
「〜っ!!?」
「もーうっさいなー。はいはーい」
『あ!やっと出た…ってこの声、ムッ君!?』
「そーだよ〜。そらちん今髪の毛乾かしてるから仕方なくオレが取ってあげたんだよ」
『仕方なくって…テメェ、出るの遅えよ』
「ごめんって〜。準備出来たみたいだから今から降りるねー」
『あ?ちょ、』
ブツ、とインターホンの通話を切ったあっちゃん。電話も切れており、さっちゃんらが掛けてきていた確信をする。だがあたしはそれどころではなく、赤面して口元を手で押さえながら硬直していた。
「そらちん、行くよ〜」
「ちょ、ま…待ってくれよあっちゃん…」
早々に切り替えるあっちゃんにあたしはついていけなかった。ジュースを一気飲みしてキッチンの流しにコップを置きポテチのゴミ袋も捨てたあっちゃんは、あたしの荷物を持って早くと促す。
もうあたしは既に気力を使い果たしたようにぐったりしてしまい、あっちゃんはそれを見てヘラヘラ笑った。
「笑うな!あんたの所為でしょうが!!」
「そらちんとまたチューしちゃった〜」
「ギャァァァァ!!」
一々言わんでいい!!
それからあたしとあっちゃんがフロントに着くとさっちゃんと峰さんがやっと来たと少しプリプリしてた。
「…あれ?そらさん、ちょっと顔赤くないですか?」
「え!?い、いや?風呂上がりだからじゃないかな?」
「そうでしたか!もう、ムッ君来てるなら来てるって言ってよ!全然インターホンも電話も応答ないから何かあったって心配したじゃない!」
「別にいいじゃーん」
あっちゃんから荷物を受け取り鞄の中の携帯を見るとさっちゃんと峰さんからの着信履歴が残っていた。それを見ながらさっちゃんとあっちゃんの会話に耳を傾け顔を上げると、峰さんがあたしを何か言いたげにじっと見つめる。その探るような視線に耐えられないが逸らしたら何かが負ける気がして見つめ返し首を傾げた。
「…何でもねえ。行くぞ」
歩き出した峰さんにあたしとさっちゃんが並んで歩き出し、赤君が予約した店で何が美味しくてどう有名だとか情報を教えてもらった事で、さっきの出来事を意識し過ぎなくていいように気持ちが切り替えられた。
「…出るの遅過ぎだっつーの。何かしたんじゃねーだろうな」
「べっつに〜」
あっちゃんは前で峰さんの隣を歩いており、そんな会話がされているのにはさっちゃんとの話に盛り上がっていたあたしは気付かない。
【赤司side】
予約の時刻。全員集まった所で丁度時間になり店の中に入る。充分学生の財布に優しい値段で和洋折衷美味しい物を提供してくれるこの店は、オーナーと父が知り合いの為団体予約した事もあって更に価格を下げてくれた。
その事に皆が喜び雑談を交わしながら大広間の座敷へと通される。長机が並べられ何処ぞの会社の宴会のようなセッティングにされていた。
県外へ帰る者は壁側に荷物をまとめて置く。
「そらちんこっちー」
「こっちっすよね?そらっち!」
「いやいや、そこはこっちっしょー」
「貴様らの近くでは煩くてそらさんも落ち着いて食えんのだよ」
紫原や黄瀬、高尾がそらさんを取り合うように誘導するがそこへ緑間が仲裁に入りつつさり気なく自分の近くに誘導している様子を見て苦笑が溢れる。
夏合宿で会った時よりアピールがみんな一目瞭然となっている。今朝の宮地さんの言葉も氷室さんの行動もそうだが、以前と状況が変わりつつある現状にオレは人知れず溜め息を零す。
「あたしはこっちで食べる!二号、初めまして!」
「ワン!」
そらさんはやり取りを困惑した様子で見ていたが、顔を黒子の方へ向けると鞄の中から顔を出した犬に話し掛けていた。この店はペットお断りだったはずだが…まあ利口な犬らしいし鞄の中で大人しくするならもう何も言うまい。
必然的に黒子の近くで食べる事になり大の男達が押し寄せようとしたが、そこは桃井と相田さんが素早く仕切りそらさんの付近は黒子、桃井、そらさん、相田さん、森山さん…と横一列に並んだ。
横が無理ならばと対面側に黄瀬達が座ろうとした所で、大学生の方達が素早くその場を取り結局黄瀬達は少し離れた位置に座っていた。座るまでに時間が掛かるな。
「赤君?棒立ちしてどうしたの?」
「いえ、何でもありません」
そらさんに声を掛けられ傍観していたオレは笑みを返すと空いた所に腰を下ろす。
各々がメニューを開いて何を食べるか決め店員数名が聴き取りにやってくる。それぞれが注文を終えた頃、今日の話や最近の出来事など昨日今日では話し尽くせなかった事を話し出す。
「そしたらさ、その子が「わたしもママとみたよ!てんくーのしろあぴた!」って言うの。ラピュタねって言い直してあげたらちょっと顔赤くして照れて「まちがえたっ」って笑うの!」
「へえ!可愛いですね!」
「メロメロだな」
「ぎゃんかわあああ!てなった!」
そらさんも方からも楽しげな声が聞こえてくる。どうやら保育園でのエピソードを語っているようで、チラリと視線を向ければ大坪さんの妹さんと木村さんと楽しそうに笑うそらさん。
それを微笑ましく感じていると前に座った紫原がムスッと唇を尖らせていた。
「…アツシ。顔が怖くなってるよ」
「だってー」
視線はそらさんの方を向いており、一緒に座れなかった事に拗ねているらしい。紫原らしいと感じていると彼の目がこちらを向く。
「…何だ?」
「…別に何も〜」
言いたい事は何となく察する事は出来るがこれ以上その話題を広げる事なくオレも何も言わなかった。
少ししてドリンクが運ばれてくる。岡村さんの音頭で全員で乾杯をした後は料理に舌鼓を打ち会話に花を咲かせ楽しいひと時を過ごす。
だが事態は急に変わった。
「うい〜!!」
「ちょ、そらさん落ち着いて!」
「何でだ!!此処は宴!!騒がんとして何とする!!」
急に上がった声に何だと皆が意識を向けると顔を真っ赤にさせたそらさんが仁王立ちしておりそれを止める諏佐さん。そらさんは気にせずジョッキを持つと半分程の量が入ったドリンクを一気に飲み干す。
「っぷはぁ!!あ〜ぅんまい!!」
「そらさんお水飲んで下さい!」
「いらーん!!」
桃井が水の入ったコップを手渡そうとするが、そらさんはプイッと顔を背けて拒否する。
「え、何?酔ってんのか?」
「何かさっき店員さんが新しくドリンク持ってきてくれたんだけどさ〜、それに酒が混ざってたらしくて」
「誰か頼んだのか?」
「いや、誰も」
小堀さんが目を瞬かせながら周りにいた人に声を掛けると、春日さんと岩村さん曰くジュースの中にカクテルが混ざっていたとの事。どうやら店員が間違えたらしい。それに気付かずそらさんが辛い物を食べて流し込む為に一気飲みし、途端に騒ぎ出した様子。
ドリンクはジュースでもジョッキで提供する店なので、パッと見でわかるビール以外の酒類が混ざっていても一見では違いに気付かない。特に酎ハイやカクテルといったものなら尚更だ。
そらさんは中身は成人を超えているとは言え体は未成年。そらさんなら酒だと直ぐに気付いただろうが、夢中で一気に煽ったなら話は別だ。
そしてそらさんは酒に弱く、酒を飲んだら普段の性格より一層パワーアップするらしい。
「もっと酒持ってこんかーい!!」
「そらさんは今未成年なので」
「中身は成人ですぅ〜!!みんなよりうーんと年上でお酒も飲んだ事ありますぅ〜!!ビールはないけどねっ!!酎ハイカクテルワインだぁ〜い好き!!」
「でも今の体は未成年っしょ!?中身は今関係ないから!」
黒子の声にも耳を貸さないそらさんはいつも以上に声が大きい。津川でさえも止めに入っている光景は珍しい。そらさんは真っ赤でやや虚ろな目でそこまで言うとハタ、と動きを止めて着ていたセーターを脱ぎ出した。
「「ぶっ!!?」」
「そらさんんんんんん!!」
「あっつー!クーラーつーけーてー!!」
「今は冬だよ!」
ニットのセーターの下にはタンクトップを着ていたようだが急な行動に一部の者は飲み物を吹き出す。相田さんが必死に止めようもののそらさんは押し返して拒み、赤面した伊月さんが的確な指摘をするが聞いていない。
「そらさん、一度落ち着こう。水が嫌ならお茶を飲んで」
「今は暑いかもしれないけど、此処で脱ぐのは得策ではないわ」
大坪さんと実渕が優しく逆鱗に触れないように促すがそらさんは全く聞いておらず唐揚げを指で摘んで食べていた。
「オイ、行儀悪いだろうが。座って食え!切るぞ!」
「そらさん、酒よりもっと美味しい物あるんじゃが、食わんか?」
「そうそうっ!そらさんコレ美味かったよ!」
「これもこれも、ほらこれだって」
宮地さんが注意するが一瞥して鼻で笑うだけで言う事は聞かず、岡村さんや小金井さん、土田さんと水戸部さんが酔いが醒めるまで食べ物で気を紛らわせようとする。
「今食べたくなーい!!」
「我が儘言うんじゃねえよ!さっさと食え!」
「無〜理〜!!」
「ムカつくなあの顔」
福井さんが痺れを切らせて注意するがいつもの調子でふざけて返し、直接言われてはいないが日向さんが口元を引き攣らせていた。
するとまたそらさんがタンクトップを脱ごうとする。
「そらさん。それ以上脱ぐんやったら全部脱がすで?」
止めて駄目ならとことん押してみる、とでも言うのか、ニヤリと笑った今吉さんが恐らく脱ぐのを止める為に声を掛けた。するとそらさんの動きは止まり、今吉さんを見つめる。
「それなら手伝いましょう!!さあ!!」
「面白そうじゃん。オレも参加するー」
「オレも手伝ってやるアル」
「おおおおいアンタらなぁ!!青峰も調子乗ってんじゃねえ!!」
「森山テメェふざけてんじゃねえぞ!!」
森山さんと青峰と劉さんもノリノリでその手に乗るが下心が見えるのは気の所為だろうか。青峰は確実だな。そこへ若松さんと笠松さんが顔を赤くさせながら止めようとするが、そらさんが口を開く。
「じゃあ、脱・が・せ・て!」
「「ブハァ!!」」
こちらもノリノリだったようでいつもとは違い妖艶に微笑むそらさんがそう返すと、森山さんを始め黄瀬や高尾らが撃沈した。
「オラ、もういいからこっちで食え!な?」
「これ分けてやっからよ」
更に見兼ねた根武谷と火神が自分の飯を分けてやるとでも言うような表情で手招きするが、そらさんは一瞥した後またプイッと顔を背ける。
早川さんが呼んだらしい中村さんや誠凛一年生の二人は面識があまりないのもあって、動揺しながら見守る事しか出来ない。朝日奈とかいう奴は無表情だが。
「あのねー!あたしがいくら食いしん坊だからって食べ物に簡単に釣られると思うなよ!!あたしをナメんなよ!!それより酒だ酒だーい!!」
「ちょ、赤司!何とかしてく(れ)よ!!」
「ほら!!あんなそら止めらんないって!」
「もう見てられません…!すいません!」
暴れるそらさんを見ていたが不意に近くにいた早川さんと葉山と桜井に止めるよう促される。桜井は林檎のように顔が真っ赤で両手で顔を覆っていた。たまに指の隙間で見ている事にはあえて指摘しないでおこう。反応は目に見えている。
「赤司君が行かないならオレが行こうか」
「ハァ〜?室ちんも赤ちんもじっとしてろし。オレが行くし〜」
「ああもう!誰でもいいから止めてくれ!!」
「ちょ!?服投げられた!!」
「ああ〜!!脱いだら絶対に後悔しますからァァァ!!」
氷室さんが腰を上げようとして紫原が止めた。その表情は面白くなさそうで、そのやり取りを見ていた降旗と河原、福田も騒いで収集つかなくなってきたので息を逃し、オレも腰を上げる。河原に投げられてきたセーターを渡された。
「ちょっと待って赤ちん」
「…お前は来る前にいい思いをしただろう?」
「!」
「見ていればわかるさ」
青峰と桃井とそらさんの四人で来た時の事を思い出す。紫原が話し掛けるとそらさんの様子が少しトギマギしていて、それを見て紫原は薄く笑う。何かあった事は直ぐにわかり、少し顔が赤いそらさんを見て胸がモヤモヤと居心地悪かった覚えがある。
それを指摘すると紫原は目を見開き、オレはそれを見て少し笑うと福井さんに羽交い締めにされているそらさんに近付いた。
57/73
←|→
BACK/
TOP
ALICE+