INFINITY WORLD
あたしが大学潜入

 数日後。今日は平日だが休みだ。久しぶりの平日の休みだ。みんな働いているのに自分は休みなので何だか優越感にも似た感覚がする。

 今日は先月末に延期で行った運動会の振替休日なのです。この時期になったのは色々行事などが重なった為、ズレてしまったからである。
 まあ何であれあたしは休みをもらえてハッピー!って感じです。という事で現在自宅にてゴロゴロ中です。ソファーに寝そべってます。

 そういえば聞いてよ奥さん。この前の合コンでいた女の子がさぁ、巨乳だからって乳を翔ちゃんに見せ付けて押し付けてたのよ。酔ってたのもあるかもしればいけど、どう思います?目が獲物を狙うハンターの目してたから女って怖いなって改めて思ったわよ。

 翔ちゃんは言葉ではあしらいながらも離れる素振りないし、結局男はどいつもこいつも乳かと心中悪態吐いたのは記憶に新しい。峰さんならさり気なく触ってたな絶対。
 今思い出してもイラッとするわ。うちの翔ちゃんに何すんの!って乳揉みしだいてやればよかったかな。寧ろもぎ取って自分に付ければよかったかな。

 ん?よくよく考えればこれは嫉妬に入るのか?翔ちゃんがあたしが足触られた時に直ぐに来てくれたのは嬉しかったし安心した覚えがある。見向きもされてない女の子が不憫に思いつつ優越感感じちゃったもんな…あたしも性格悪いな、前からだから気にしないけど。
 よくわかんないんだよね、そういう時の自分の感情というか考えが何なのか。最近色々考え過ぎて頭ショートしそう。

「んー…このままゴロゴロしてても考え込んで疲れちゃう。ちょっくら散歩にでも行くかね」

 あたしは財布と携帯と家の鍵だけを持って、上着を羽織りストールをマフラー代わりに巻いて家を出た。










「…此処って福君と岩ちゃんの大学か」

 天気は晴れ。寒いけどあてもなくブラブラ歩いているとある大学の門の前に来ていた。まだ午前中なので学生は沢山いるし出入りも結構思っていたより多い。あれか、空き時間だからどっか行ってくるわみたいな。
 じーっと門を見つめていると通行人の視線を浴びたが、気にせず今あたしは葛藤している。

 入るか、否か。

 大学潜入したいなーって思ってたんだけど、結局時間なくて出来なかったし今では保育園に就職してしまったからもう出来ない。今日くらいしか潜入出来ないのだ。
 あたしの服装は至って普通だし年も相応だし、入ってっても大学は大きいからバレないと思う。よく漫画や本などにもお忍びで授業受けちゃった!とかあるし、大丈夫だと思いたい。あ、授業は忍び込んでも話は聞かないよどうせわかんないし。

 何より食堂のメニュー気になる。あと岩ちゃんと福君の授業風景も見納めておこう。折角の潜入だし。

 というわけで悩む事数秒。あたしは入る事にした。悩むの短いとか気にしない。

 堂々と敷地内に足を踏み入れ外をフラフラ歩く事数分。遠くからズドドドと音が聞こえてきた。

「オイ何してんだそらさん!!」

「あ」

 もう見付かった。福君がやや息を切らせてあたしの前に立っておりさっきの音は福君の足音で、目を丸くしながら何故わかったと問うてみる。

「向こうの廊下歩いててなんとなく外みたら見た事ある顔の奴がいたから…つか何してんだよ」

「即興大学潜入捜査であります!!」

「オレは隊長でも何でもねえぞ」

 ピシッと敬礼して目的を言うと白い目で見られながらあんまり相手にしてもらえなかった。

「だってみんなの大学潜入しようと思ってたけど今ではもう出来ないし〜」

「つか何で今此処にいんだよ。仕事は?」

「今日は振替休日でお休みなのです」

「あー、成る程」

「暇だったから散歩してたら此処に辿り着きまして。あれかな、福君の何かに引き寄せられたのかな。運命?」

「ハァ?な、何馬鹿な事言ってんだよ!」

 説得力ないです福君隊長。ほんのり顔を赤らめている福君にあたしがニヤニヤ笑っていると軽く頭を叩かれた。照れ隠しですねご馳走様です。

「言っとくけど、見付かっちゃったけどあたしは大学潜入続けるよ」

「オレに見付かってんのに潜入とは言わねえだろ。つか潜入つっても隠れる気更々なかったじゃねえか。高校への潜入とは違って変装すらしてねえし」

「思い付きだったもので」

「だから即興か」

 じゃあビデオもねえんだな、と言われ頷いた。いいよ、携帯で動画撮るから。

「福君今から授業?」

「おう」

「あたしも行っていい?大丈夫授業の話は聞かないで福君見つめるだけだから」

「やりにくいわ!」

 そう言いつつも拒否せず彼が歩き出したのであたしは嬉々としながらその後をついて行った。
 後で食堂でご飯食べて岩ちゃん探して授業風景見てからその後の事は考えよう。










【福井side】

 今日は朝から全てコマが埋まっている。眠い頭を必死に働かせながらやっと一つ目の授業を終えた。
 大学で知り合った奴らと廊下を歩きながら欠伸を噛み殺し、ふと天気のいい外を見た後視線を落とすとテクテク校舎に向かって歩く女がいた。見覚えあるマフラーってかストール巻いてんなって思ってよく見たらそらさんでブッフォと吹き出す。高尾か。つか何でいんの。

「何急に吹き出してんだよ」

「何か面白かったか?」

「い、いや何でもねえ。ちょっとオレ用事思い出したから先行っててくれ」

 そう言って走り出し階段を駆け下りてそらさんの前まで行く。オレ今までで最速で走れたんじゃね。
 聞けば今日限定の大学潜入をするらしい。いや、潜入って高校生の奴らにした時と全然クオリティ違うじゃねえか。やるなら本腰入れて同じようにやれよ何か適当感感じて寂しいだろうが。

 結局帰る気はないらしくオレの授業についてくると言うので何も言わず連れて行く事にした。そらさんとゆっくり関われるこのチャンス逃すわけねえべ。いつもの煩い連中いねーし。

 そして講義室に行くと知り合いは真ん中辺りに座っていたが、オレはそらさんもいるので人が少ない後ろの方へ座る。その隣にそらさんは座った。

「前の方に行かなくていいの?友達は?」

「あそこにいる。けど他の奴にそらさんの事聞かれて答えんの面倒くせえから此処でいい」

「気遣わせて悪いねー」

 へらっと笑って謝るそらさん。多分本人も見ず知らずの奴に色々聞かれんのが面倒なんだろうな。
 講師が来たので講義が始まる。

「あたしの事は気にせず授業受けてね」

 そう言って携帯を向けてくるそらさんから携帯を奪った。見つめるだけっつって動画撮んじゃねえよ。声にならない声を上げてショックを受けるそらさんのデコにデコピンをかます。

「いてっ」

「あの講師の人別に何してても何か言ってくるわけじゃねえけど、目立たないように大人しくしてろよ」

 既に知り合いがオレとその隣にいる見た事ない女がいるのに気付いて興味からかちらちらこっちを見てコソコソ話してるから、変にこれ以上悪目立ちしねえようにと釘を刺しておくと渋々頷いていた。
 オレは参考書やノートを取り出すと話を聞きながら板書を写し始める。いつも通りに始めたのはいいが、隣がやっぱり気になる。めちゃくちゃ視線感じるし。

 チラッと視線を寄越してみるとそらさんは頬杖をついてオレを見つめており、恥ずかしさや居心地の悪さにオレは視線を少し彷徨わせてから前に向き直った。するとそらさんはクスクス小さな声で笑う。

「福君照れ屋さんだよね」

 そう言って楽しそうに笑うそらさん。授業は殆ど頭に入ってねえけど、なんかいい。こうやってそらさんが同じ大学にいる事が新鮮で、他の奴らが中々味わえないシチュエーションなのだと思うと少し嬉しかった。

 思えば他の奴抜きでそらさんと二人でいるってのは風邪引いた時以来か。あの時は……あ゛。思い出しちまった!!オレやらかしたんだった!!
 あの時のオレ本当どうかしてたよな。普通あんな行動取らねえ…いや待てよ?普通男ならやるか。いやいや全ての男がそうするわけじゃねえけども。

 此処で弁解するがそらさんが小さく見えたからどっかに行かないようにって意味で抱き締めたのは本当だ。あの瞬間マジで小せえなって思って、元々違う世界からきた人だから消えちまうかもって思うと怖かった。あの世界から戻ってきた時最初そらさんいなかったしな。

 ただ肩にキスした時は咄嗟に焦りを感じて衝動的にとは言ったが、実際殆ど裸の女が目の前にいたから理性に負けたのが本音だったりする。いや普通に綺麗だったから、つい。オレも男だし。
 肩に擦り寄ったのはその前の抱き締めた理由言ったらそらさんが優しい声で宥めてくれたから何か恥ずかしくなっただけだ。そこはそれだけの理由だ。

「手止まってるよ?何考えてんの?」

 気付けばそらさんはさっきより近くにいてオレのノートを覗き込んでいた。思考を巡らせていて手が止まっていたのを不審に思ったらしい。慌ててペンを走らせるとそらさんはしつこく理由を聞いてきた。煩くはない、ねえねえ言いながらツンツン突いてくるだけだから。つかヤメロその仕草可愛いだろうがクソ。

 …って何考えてんだオレ!!落ち着け!!
 何かそらさんといると調子狂うな…。クソ、普段ならオレが翻弄する方だと思ってたのに。特にゴリラに対してだが。

 追求を早々に諦めてノートを読んでいるそらさんに視線を向ける。顔は普通に何処でもいそうな人、性格は悪くないけど口は悪い、全体の容姿はスタイルがいいっつうか足が綺麗。身長は女にしては高めだがオレよりは普通に小さいし身長差も普通。
 自分の身長にコンプレックスあっからタイプが身長低い奴なんだが、そういやそらさんに身長で弄られた事ねえな。陽泉の時は周りがでかい奴らばっかだったから「福井君小さく見えるね」とか何度か言われてそれが嫌だった。まあ今ではネタに出来るくらい心に余裕は出来たが。腹は立つけど。

 オレが言われて嫌だって知ってんのかな。それか気にしてねえか…。うん、気にしてなさそうだな。
 居心地は悪くねえ、つか寧ろいいんだけど何でこんなに調子狂うのか。暫し見つめていると、視線に気付いたそらさんと目が合った。

「…福君授業全然聞いてないね。あたしがいるから気が散っちゃう?」

 そう言って困ったように眉を少し下げて笑うそらさんに、心臓の鼓動がドキリと大きく鳴った。何だこれ。

「いや、別に。そらさんがいるのが新鮮に思っただけで何でもねえよ」

 そう言って視線を外しノートに意識を向けるが、そらさんの顔がチラついて集中出来ねえ。普段から「今頃保育園かー」とか「急に飯食いに行くって言ったら怒るかなー」とか考えてはいたが、実際本人が目の前にいるとここまで変な感じになるとは思わなかった。さっきまで普通に出来たのに。
 これじゃまるでそらさんが好きみてえじゃねえか。

「…ん?好き?」

「え?」

「え、あ、いや何でもねえ」

「え、何それ」

 思わず呟いた言葉を拾ったそらさんが目を瞬かせていた。慌てて撤回しようものの気になるという視線で見つめてきて冷や汗が出る。
 いや人として普通に好きだし頼れるし、っていうのは前から普通に感じてた事だけど。好きって何だ。今普通に恋愛の好きって意味で考えてたよなオレ。

 そりゃ言動は面白いし馬鹿っぽい事もするけど結構真面目で、誰にでも平等に接するし飯美味いし人の喜ぶ事惜しまずにやってくれるしよく笑うし…いい所がいっぱいある。無茶してでも真っ直ぐに突っ込んでく時はあるけど、悪い所でありいい所ってとこか。
 確かに魅力いっぱいっちゃあいっぱいだけどそれが恋愛って…。

 頭を抱えて悩んでいるといつの間にか講義が終わっていた。嘘だろマジか時間過ぎるの早…ってヤベ、ノート取ってねえ!!余計な事考えてたから!!
 知り合いにノート見せてくれなんて言ったら絶対「何で出席してたくせにノート取ってねえんだよ。女といて浮かれてたからなんじゃねーの?ん?」とか言ってからかわれるに決まってる。最悪だ。

「福君あれから寝ちゃったから代わりに書いといたよ。はい」

「え」

 隣から差し出されたのはオレのノートでいつの間にかオレの手元から抜き取っていたらしい。つか寝てたと思われてたのか。ノートを見てみると続きから綺麗な女らしい字が綴られていた。オレのより見易い。
 吃驚してそらさんを見つめるとはにかんで笑いながら「板書そのまんま写しただけだけどね」と言う。

「急に何か言ったかと思ったらそこから寝ちゃうんだもん。狸寝入りかと思ったら何も反応しないから寝る事で追求から逃げたなって思ったよ」

 そう言うそらさんはオレのポケットからさっき没収した携帯を取り出すと時間を確認してご飯に行こうと誘う。
 そらさん…やべえマジやべえ。神。

「さんきゅーな」

「どいたまー」

 隣にいたから“この人はよく人を見てるな”とかそういう話じゃねえけど、代わりにノート取るとかお人好しか。でも助かった。マジ助かった。

「久しぶりにする板書写しはいいね。たまにするだけなら苦痛じゃなくて懐かしいだけだし」

 「久しぶりに学生した〜」と笑って立ち上がったそらさんに続いて荷物を持って立ち上がる。
 この人のこういうさり気ないフォローっつうか優しさが人の信頼を得てるんだろうなと思った。

 そして食堂に向かう為に廊下を歩いていると先程同じ講義を受けていた知り合いがニヤニヤしながら近付いてくる。

「なあ福井この子誰だよ。お前が女子と講義受けるとか初めてじゃね?」

「うっせーよ。別に誰でもいいだろ」

「初めまして、福井の友達でーす。名前何て言うの?可愛いね」

「話を聞け!」

 そう言ってそいつらが目を丸くしているそらさんに絡み出すのを見てイラッとした。余計なお世話だ。つーか何気安く肩組んでんだよどんな口説き文句だっつーの。

「今から飯食いに行くから」

「じゃあオレ達も、」

「オレらの邪魔すんな」

 その腕を振り払ったがついてこようとしたので咄嗟に口が動く。そう言ってハッとしたが既に遅し。知り合いはニヤニヤ笑っていてそらさんは吃驚したように瞠目していた。

「はいは〜い。折角の二人っきりの時間邪魔しちゃ悪いよな〜」

「だな〜。じゃ!またあ・と・で」

 そう言ってすたこらとその場を去った奴らに溜め息を零す。またやっちまった…。

「福君ありがとね。福君の友達だし悪い人じゃないんだろうけど助かったよ」

 「助けてくれる為にあんな事言って〜」と言ってオレの肩を叩くそらさん。そうじゃねえんだよ。そうじゃ、ねえ。
 助ける為ってより触んなってオレの勝手な独占欲みてえな感情が強かったから、あれは嫉妬だ。流石にそれはわかる。

 そらさんが食堂に向かって歩くのを一歩後ろで見つめながら眉根を寄せる。
 そらさんを気に入ってる奴は他にも見た感じいるし、あいつらがいるからってどっか引け目感じてたんかもしれねえ。特にキセキの世代とか…一般人は勝ち目ねえだろって誰もが思うと思う。

 他の奴と話すのはともかくベタベタ引っ付くのは見過ごせないっつーのは前からあった。特に敦な。あいつすげー引っ付くよな。かと言って引き離しに行くとかしねえけど、いい気はしねえ。
 それも嫉妬だとしてさっきもベタベタすんなって相手の奴(普段はいい奴らだが)ウザかったし、そらさんの悪い所も知りつついい所いっぱい知っててそれが魅力だって感じて、笑顔にドキドキするって…。

「…やっぱ好きなのかね」

「え?何て?」

「え、や、何でもねえ」

「福君今日どうしたの?独り言多いし一人で考え込むし…いつも大学でこんな感じなの?」

 そらさんの所為だよ!なんて口が裂けても言えねえ。
 つかそうか。そらさんの事…ってオレは乙女か!どこぞのゴリラ馬鹿に出来ねえわ。アイツどっかでくしゃみしってっかな。

 そう思うと更に少しギクシャクしてしまう気がした。変に意識するな、オレ。落ち着けゆっくり考えろ。

「福君も学食だよね?何する?あたし天津飯気になる。海老めっちゃ入ってんだって!」

 食堂に着いてメニューを見ながら嬉しそうに話し掛ける様子を見て、自然と頬が緩むのがわかる。
 やっぱいい笑顔すんなーこの人。

「ちょ、福君早くしないと食券売り切れるんじゃない!?急げ急げ!」

 別にそんなに争奪戦があるわけでもないから焦る必要ねえけど、人の多さにビビってんのか焦るそらさんを見ながらその慌てっぷりが面白くて笑った。開き直るけどやっぱオレこの人の事好きみたいだわ。

 昼食中に岩村と偶然会ってそらさんが誘い一緒に食べた。別にそこは全然気にしてねえよ。昼からは岩村の授業風景を観察すると言うそらさんとそこで別れたが、その後は部活まで見学すると言いまた笑顔でオレの所に戻ってきた時に抱き締めたいって思ったのは仕方ない。だって岩村いんのにオレ優先してくれたんだぜ?普通に嬉しいだろ。

 部活後はそらさんと岩村の三人で帰ってそらさん家で夕食。途中から春日と宮地も来て比較的落ち着いていた空間が少し煩くなった。けどまあ普通に楽しかったな。





 〜福井が思っていたその頃の岡村〜

「ぶえーっくしょい!!」

「うわっきたねっ」

「つうかお前でけーよくしゃみ。このアゴリラ」

「此処でもアゴリラ!?」

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