INFINITY WORLD
あたしとスケート

 十二月に入った。冬になってグンと冷え込むようになり、あたしはストールや帽子を手放せなくなっていた。
 みんな先月WCの予選があって今月はいよいよWC開幕。丁度クリスマスら辺なので、残念ながらお祝いは出来なさそうだ。だが年越しは出来ると信じたい。

 そんな中あたしはというと、お遊戯会やクリスマス会が近付いてきているので専ら行事の準備に勤しんでおります。

 そんなある日の平日。今日は早番でいつもより早く仕事が終わり早くに帰宅した。今回あたしは優秀で、早めに行事の準備に取り組みさっさと行っている為殆ど準備が終わっており帰宅後は暇なのである。暇を持て余すなんてお久しブリーフ。我ながら古い。

 あたしがダラダラしようとソファーに寝転んだ瞬間にインターホンが鳴った。もう何だよと言いながら起き上がると、画面には制服姿の峰さん。え、何で?

「峰さん?どうしたの?」

『お、やっぱいたか。さつきが言ってたんだよ、今日早番だから早く帰るだろって』

 さっちゃん、あたし言ってないのにまた知られてたんですね。いつもの事ですけど。慣れましたけど!

「いや峰さん学校は?」

『終わった』

「部活は?」

『それよりスケート行こうぜ。半額券もらったんだよ』

「いや聞けよ」

 部活はサボりか。ピュア峰になってきたって聞いてたのに、こりゃさっちゃんが探し回ってるぞと思いながら唸る。またマイちゃんの写真集人質に取られても知らないぞ。

『早くしろよ。さっさと降りて来い』

「あ、行くのは前提なんだね。やだな、あたしが共犯って思われるの」

『思わねーだろ。いいから来いよ。一分以内に来なかったら全裸で滑らせる』

「公然猥褻罪で捕まるわ」

 仕方ない。どうしても部活をサボって行きたいようなので、あたしの所為にしない事を約束して動き易い服に着替え荷物を持って部屋を出てフロントに向かった。

「一分普通に過ぎてんぞ」

「あたし仕事終わりで疲れてんの。一分なんて無理じゃい」

「あー。わり」

 峰さんは疲れているの言葉に反応してバツの悪そうな顔をする。あたしはそこじゃないんだけどと思いながら訂正しておく。

「疲れてるけど誘ってくれたのは別に迷惑とも思ってないよ。一分は無理だって話なだけで、誘ってくれたのは嬉しいから」

「そうかよ」

 そう説明すると安心したのか少し表情を緩めていた。峰さんも全くの無神経ってわけじゃないんだね。うん、成長成長。

「テメェ今余計な事考えてんだろ」

「別に?ほら行くよ」

 睨み下す視線を受けながらしれっとして否定し歩き出すと彼も横をついて歩く。スケート場って此処からちょっと行かないといけない。バスで行けるかな。にしても、峰さんと二人とか新鮮。

「もう直ぐWCなのに練習しなくていいの?この日に練習しとけばって後悔しても知らないよ」

「別に。たまには息抜きしてぇだけだ」

「かーらーのー?あたしに会いたかったんでしょわかってるよ」

「あ?」

 あたしがそうやってからかうと峰さんは怪訝な顔をしていたが、直ぐにニヤッとした笑みに変えた。何だと。

「おう。まあな」

「………」

「テメェから言ったんだろうが!!」

 あたしがゲテモノ料理でも見たかのような顔をしていたのか、言った後に少し恥ずかしそうな顔をして怒ってきた。いやまさかそう返してくるとは思わないじゃん。
 あ、今思い出したけどプールで意味深な事言われたんだった。クソ、からかう相手間違えた。

 そこからは他愛ない話で、今日は何したとかマイちゃんの写真集が神だとか何とか話しているうちにスケート場に着いた。帰宅途中の学生が立ち寄る事が多いのか学生服を着た子も少なくはない。
 あたしは寒いと思ってヒートテックの服を上下着込んで下はストレッチ素材のジーンズ、上はトレーナーとラフな格好だ。いやしかし暖かい。着込んで正解。

 峰さんを見るとブレザーを脱いでいたので見ている方が寒くなった。

「あたし来たのはいいけど滑れないんだけど」

「あ?仕方ねえな。掴まってろ」

「おー峰さん優し……って、ギャァァァァ!!」

 スケート靴を履いてぎこちない歩きでスケートリンクへ行ったはいいものの、滑った機会が少なく壁に掴まりながらプルプル震えていると峰さんが服を掴んでいいと言ってくれた。
 やだ男前と思っていると、後ろの服を掴んだ瞬間に勢いよく滑り出し叫ぶ羽目になった。

 速い速い速いよ峰さんんんんんん!!峰さんもあんまり滑った事ないって言ってたくせにクソ速い。運動神経いいしスケートでも難なく滑れるのは凄いけど、速さ考えて。こっち初心者同然。

「おー気持ちいーなー」

「あばばばばばば!!こっ転けるううううう!!」

 峰さんは呑気に優雅な感じで滑っているがあたしは遂に力尽きて、カーブを曲がった時に手放しリンクに倒れた。背中から転けてそのまま倒れた状態でくるくる回転して滑って行き、壁にぶつかって止まる。よかった、頭からいかなくて。

「おい、大丈夫か?」

「んなわけあるか!!」

「うお!?あっぶねええええ!!」

 寝転んだまま覗いてきた峰さんを蹴ろうとスケート靴を履いたままの足を上げたが躱されてしまった。だが本人は金具で怪我するかと思ったと吃驚していたので少しすっきりした。

 濡れた服を乾かそうと暖房のある所へ向かいベンチに座る。全く、開始早々転けるとは。

「ほれ」

「ん?あ、ありがと」

「怪我してねーだろーな」

「うん」

 峰さんが見当たらないと思っていたがジュースを買いに行っていたようで、差し出された温かいココアを受け取りブレザーを肩に掛けた彼を見上げる。気が利くなと思っていたら転けたのを心配してくれているようで、本人なりに悪いと思っている様子。可愛い奴め。
 隣に座った峰さんは冷えた体を温めるように足を摩っていた。巨体縮こませて可愛いな。顔は厳ついけど。

「そういやさ」

「んー」

「プールの時言った事覚えてっか。誰が好きとかどうのってやつ」

「あー、うん」

 峰さんが同じココアを飲みながら地面を見て口を開く。あたしはハッキリと覚えているので頷く。正直あれからちゃんと今の状況を真剣に考えるようになったからね。峰さんがきっかけを与えてくれたも同然なわけで。

「誰が好きかわかったのかよ」

「いんや、まだわかんない。けどみんなをちゃんと見るようにしてるよ」

 峰さんに言われてから、ちゃんとねと言うと峰さんが視線だけこちらに向けた。

「周りから好きって言われてちゃんと向き合ってなかったから振り回してるって言ってたじゃん」

「おー」

「あたしなら、好意をわかっててちゃんと答え出さないとか中途半端にしないって信じてくれてたじゃん」

「おー」

 聞いているのかいないのかわからない返事だけど、表情はちゃんと真剣な顔をしているので理解してくれているはず。

「中身が年離れてるって思うと子どもとして見たり一線引いちゃったり、関係崩れるのが怖くて目を背けてたんだけど。峰さんに言われてからよくないってちゃんと思うようになって、好意を伝えてくれた子を一人の男の人として見るようになったよ。だけどね…」

「数が多いってか?」

「…うん。ありがたい事だけど」

 まさか人生の中でこんなモテ期が来るなんて誰が思うよ。某映画のモテ男も吃驚してたじゃん戸惑ってたじゃん迷ってたじゃん。
 今までそんな経験がないからあたしみたいなタイプは余計に戸惑って、誰も傷付けない方法とか全然わかんないし上手く立ち振る舞えないんだよ。

「峰さんってよく周り見てるよね、意外と」

「失敬だな」

「だって峰さんにまさか指摘されるとは思わなかったし。あんまり考えてないとか思ってたけど、そうでもないんだね」

「本当に失礼な奴だなお前は」

 確かに言い草はかなり失礼だけど。峰さんだって普段あたしに対して酷いからね?失礼な事いっぱいしてるからね?

「そりゃあお前、見るだろ」

「ん?」

「気になる奴いりゃあ、何処にいたって見るだろ」

 顔を向けてきた峰さんにあたしは目を丸くする。確かに一緒にいて楽しいとかいつも一緒なら毎日楽しそうとか言ってくれてたけど。
 また、その目だ。熱を含んだ目。

「まあ、向き合うようになっただけ成長なんじゃねえの?」

「何これ。峰さんに諭されたとか教えられた感ハンパないんだけど。かなり上から目線なんだけど」

「事実だろ」

 頭をわしわしと撫でられる。峰さんの手は温かかった。

「けどお前、忘れてんぞ。オレの事」

「え、いや、忘れてないよ」

「じゃあオレが今何考えてるとかどんな気持ちとかわかんのかよ?」

「いや、その」

 あれ。可笑しい。あたし何でこんな腰が痛いの。何でこんなに体が反ってるの。そして何で周りに人がいないの。

「オレ言ったよな。一緒にいたら楽しいしこれからも一緒だったら毎日楽しいだろうなって」

「は、はい」

「あれからどれだけ時間経ってると思ってんだよ。どれだけの奴がお前見てる視線に気付いてると思ってんだよ」

「う、うーん…?」

「…オレだって嫉妬くらいするわ」

 そう言って峰さんはあたしの唇に噛み付いた。










【青峰side】

 バスケ教室の後。さつきと迎えに行った時に出てくるのが遅かったそらと紫原を見て思った。紫原が何かしたって。そらの奴は隠してるつもりでも挙動不審だし顔赤ェし、紫原は雰囲気が嬉しそうだった。紫原は否定してたけどどう見ても何もなかったようには見えなかった。

 前からずっと見てりゃ、赤司がそらの事を他の奴らよりも大事に扱ってるのはわかるし、紫原は公に告白した上で常にそらの周りチョロチョロしてっし、高尾もやたらそらに絡みに行くし、花宮も邪険に扱うくせによくそらの方見てっし。他にも“懐く”とか“心配で”とかの目じゃなく気にしてる奴がチラホラいる。

 そらはわかってる時とわかってねえ時がある。殆ど気付いてて気付いてないフリしたり、目を逸らしたりする。その理由はさっき聞いたが納得した。コイツ中身20半ばだもんな。何だかんだ年の差気にしてんだな。

 最初はこんな普通のペーペーでもモテんのかと感心すらしてたけど、そらが近くにいる時の楽しさを知ってるからか誰か他の奴のモンになって近くにいないのを想像して、寂しいとかあり得ねえとかつまんねえって思った。
 コイツは普段馬鹿な事する場面が多いが周りからオレと同類と言われるだけあって普通に面白ェし、サプライズとかふざけた真似すんのも被害被るとうぜえけど楽しい。
 見てても一緒にいても飽きないコイツは、一緒に騒がしい時もあれば周りを静かに落ち着かせる時もあって、無意識にやってんだろうけどそのギャップが退屈しないんだろうなと思う。

 ただそれだけの理由だ。けど充分な理由だろ。そらと一緒にいたいって、オレのモンになればいいって思うだけ。単純にそらが好きだって思ったのは最近だ。

「んっ…、ま、ぁっ…ふぅ、んんっ」

 後頭部を支えて引き寄せ噛み付くようにキスをすると目を見開いて驚き、ベンチに後ろ手をついて体を支えるのに必死なそらは目を白黒させて震える。

 無遠慮に貪るように角度を変え、空いた隙間から舌を差し込むと体が大きく跳ねた。いい反応すんな、コイツ。
 素早く舌を絡め取り吸い上げしつこく絡ませるとそらがぎゅっと目を閉じた。息は上がりそして涙が滲む。暫くそれを見て堪能した後軽く吸い付いてから離してやる。
 糸を引く唾液を絡め取ればそらは目を開けて真っ赤な顔をしていた。

「っは……今日誘ったんだってな、お前と二人になれると思ったからだ」

「はぁ…っ、は…」

 息を整えるのに必死なそらはそれでもオレを見上げたまま。

「部活サボってまで今日お前と此処にいんのは、他の奴らが本気でお前を落としに掛かってるってわかってるからだ。焦ってんだよ。他の奴に取られるって…バスケと違ってこっち方面は疎いんだからな、オレ自身」

 そこまで言ってのし掛かっていた体を離し、自分の体を支えるのに必死だったそらの体を引き寄せて自分の方へ傾ける。すっぽり収まったコイツの小ささを改めて感じた。

「好きだ」

「っ、」

「オレにしろよ、そら」

 またコイツの悩みが一つ増えたなと他人事のように思いながら、これで他の奴らと同じようにオレの事も本気で意識するだろうな、とほくそ笑んだ。

「大ちゃん何してんの!!」

 バシィッ!!

「いってぇ!!?」

 不意に後ろから頭を殴られ痛みで叫ぶとそらも飛び上がった。振り返れば声でわかったがやっぱりさつきで、目を見開いて若干赤面しながらわなわなと震えていた。

「部活に来ないと思ってLINKもメールも電話もしたのに全っ然応答ないし!写真集使っても無反応だから探し回ってやっと見付けたと思ったら…そらさんに何してんのよ!!」

「痛えって!!ちょ、バインダーで殴んのやめろ!!」

「煩い!!」

 何度も殴られて痛みでそらを抱き寄せていた手で頭を押さえるとその隙にさつきにそらが抜かれた。

「そらさん大丈夫ですか!?抱き締められて…っ、他に何もされてませんか!?」

「…っ、え、と…」

 さつきに立たされて両肩を掴まれたそらはそう聞かれて茹でタコみてえに真っ赤になって答えなかった。答えられなかったんだな。オレのキスにやられて。目は口…何だっけか。目は口から…物語を作る、だっけ?まあいいかそれで。正しくそれだ。
 それだけで他にもやったと当然バレて、ゴミを見るような目でさつきに睨まれる。

「同意も得ないで何やってんの!この野蛮!!そらさんに近付くの禁止!!」

「ハァ?お前が決める事じゃねえだろーが!」

「無理矢理何でもかんでもしていいってもんじゃないのよ!!そらさん悩んでるのわかっててするなんてガングロ野蛮人!!」

「テメッ…ガングロは関係ねえだろうが!!」

 とにかく暴言を吐くさつきはそらを抱き締めてよしよしと頭を撫でる。そりゃ無理にしたのはアレかもしんねーけど、男なんてセーブ効かねえ時が殆どだぜ。

「もういい!そらさん帰りましょう!送って行きます!」

「おい待てさつき!そらの返事聞いてねえ!」

「返事も何も、悩み中の人の答えは決まってるでしょ!暫く考えるから待って、よ!ね、そらさん?」

「ソウデス」

「ほらね!」

 ドヤ顔するさつきにイラッとした。そりゃわかってっけど、もしかすると直ぐに答え聞けるかもって思うだろ。
 そらはさつきに何もかも見抜かれて恥ずかしいのか、それともオレとさつきの間でそらのそういう話を普段してるってわかって恥ずかしいのか顔を両手で覆いながら頷くだけだ。耳まで赤ェ。

 さつきはそらの荷物を持って背中を支えながら出口に向かうので仕方なくオレもついて行く。一人でこんな所いても仕方ねえし。

「ガングロ野蛮人無神経大ちゃんは部活に今から行って下さい」

「長ぇわ!メンドクセー」

「大ちゃん?」

「………チッ」

 久しぶりに黒い笑いを浮かべたさつきを見た。過去に見た事があんのはいつだっけか。普段怒るっつっても「もう!」とかプリプリしてるだけだが、コイツこんな顔すんのは本気で怒ってる時だからな。触らん女神にほにゃらららってやつだな。

 結局その日はちょっとしか滑られずでオレは部活に行き、そらを送ってったさつきも部活に戻ってきて部活中から帰り道に掛けて長々説教を食らう事になった。ほぼ聞いてねえけど。
 でもさつきもかなりのそら信者だからな。単にオレが男としてそうやって色々出来るのが羨ましいらしい。自分が男なら確実に惚れて落としに掛かってたとかよく言うしな。

 さつきに邪魔されたがこれでそらがちゃんとオレも見るようになってりゃあ後は気長にやるかと思いながら、ボールをゴールに向かって投げた。






IW本編が十二月に入りましたが、WCの描写が原作でも一切ないので捏造するにもしにくい為IW本編でも一切の描写を省きます。
十一月にバスケ教室などやっていましたが、本来昨年の流れでいくとWC予選がある時期なのでひっそり予選があったとでも思って下さい。ご容赦願います。

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