INFINITY WORLD
あたしにお誘い

 新年が明け、三が日を過ぎて仕事も始まりいつものように毎日を過ごしていたある日。リコぴんよりLINKで要請があった。

[今度の三連休に冬の合同合宿があるんですけど、夏合宿の時みたいに食事作りなどお願い出来ませんか?]

 との事。夏に食事作りやマネのサポートをしたが今回も是非と言われあたしは悩んでいた。
 あたしは寒がりなので、寒い時に動きたくない派である。だから夏みたいに茹だるような暑さならまだ耐えられるが、冬の寒い日に全員分の食事作りとなると早朝起床は必須。早朝=超寒い。これヤバいやつ。

 面子は夏と同じで正邦は抜きでみんなはあたしが来るものだと思っているらしい。誘ってもらえのは嬉しいが、三日間乗り越えられるか。それに赤君達と二人っきりとかになる可能性もなくはないと考えられるしそれは今は避けたい。逆にさっちゃん達に協力を得て距離取って遠目でみんなのよさをよく見るいい機会ではあるかもだけども。

[ちょっと考えさせて]

 そうメッセージを送るとわかりましたと返ってきてスタンプもきたが、その後が吃驚した。
 恐らくリコぴん伝いに聞いたであろう人達から是非来て下さいメッセージが大量に届いたのだ。何これ怖い。
 峰さんからはあたしがいないとまともなご飯が食べられる気がしない、死んでもいいのかとの内容。他からも特にこれ系の訴えが多く、これが示唆するのはリコぴんとさっちゃんの料理だろう。あたしがいなきゃ彼女らが作る=死ぬみたいな。

 連休は予定入ってないし行けるのは行けるんだけどね。でももし寝坊とかしちゃったらどうするよ。冬は二度寝しちゃうからあり得なくもない。迷惑が掛かってしまう。

 現在仕事終わりで自宅にいる。うーんと悩みながら携帯とにらめっこをしているとインターホンが鳴った。え、まさか直接物申しに来たの?

 恐る恐る画面を覗くと、そこにはスガの姿。予想外の人物に目を瞬かせながら、声を掛けて中に入れた。

「急にごめんなー」

「いいけど、どうしたの?清ちゃんは?」

「今日は内緒で来たんよ」

 ニシシと悪戯に笑うスガにあたしが目を瞬かせて首を傾げていると隠して持っていた箱を持ち上げる。

「!?そっ、それは駅前のケーキ屋さんの一日限定100個のスペシャルショートケーキ…!?」

「当ったりー。そらさんケーキの中ならショートケーキが好きっしょ?友達がそこでバイトしててさ、頼まれ事手伝ったらお礼に二個くれたんよ〜。で、折角だから一緒に食べようかなって思って持ってきた。だから宮地には内緒で」

「スガァァァ!!神よ!!」

 ずっと食べたいなって思ってたけど毎回買いに行く時には絶対に売り切れてるし、一生食べられないんだと思ってたらまさかの奇跡。急にきた事をいつもならもう少し責めるところだがスガ様と崇めながら中へ通し、夜ご飯がまだだと言うので喜んでお作りした。あたしもまだだったから一緒に食べた。

 その後デザートにケーキを頂く。コーヒーを出して二人で手を合わせて食べ始める。スガは直ぐに食べ始めたけど、あたしは二度と食べられないと思い携帯で写真を撮った。ついでにスガ様のお姿も撮った。神だから。

「急に撮んなし〜」

「スガ様お味は?」

「うむ、美味でごじゃる」

「何でおじゃる風?」

 そんな会話を経てあたしも一口フォークに掬い口内へ運んだ。程よい濃厚なクリームの甘さとカットされた苺の甘酸っぱさ、しっとりしたスポンジケーキの素材の味を感じ今までで食べてきた中で一番美味しいショートケーキだ。涙が自然と出た。

「美味過ぎ…死んでもいい…」

「いや死んだから困るよー」

 スガは大袈裟だと笑いながらあっという間に食べてしまっていた。もう少し味わってもよかったんじゃないかな。
 あたしがゆっくり味わって食べていると食べ終えたスガが頬杖をつきながら眺めてくる。その視線に耐えかねて見るなと言うとクスクス笑った後質問を投げ掛けてきた。

「そらさんさー、今度の連休空いてる?」

「え?あー…何で?」

 まだ合宿に行くかの答えを出していないが微妙な為答えはせずに失礼だと思いつつ質問で返す。

「いや、どっか出掛けたいなって思ってさ〜。連休中休みあんの」

「へぇ、成る程。うーん…」

「予定ある?」

「んとねぇ…」

 隠すような事でもないしと思い合宿に行くか行かないかで悩んでいる事を寒いという理由だけを添えて伝えるとふんふんと話を聞くスガ。

「そういや夏も行ったって言ってたもんな」

「うん。だから迷ってて」

「オレはそらさんと出掛けたいし、普通に答え出すなら合宿に行かずにオレと出掛けよって言うけど」

「ですよね」

「でも頼りにされてんなら出来る限りで応えてやってもいいんじゃないのって思うし」

 スガは優しいな。そう思ってうんうんと話を聞いていると、スガが真剣な顔で見つめてきた。

「実際、行きたいのはどっち?」

「え」

「寒いのとか抜きで合宿か、オレとデートか」

 さっきはデートなんて言葉を使わなかったのに、と思いながら固まる。またここでも究極の選択か。
 夏合宿の時にまた機会あったら参加したいって言った通り合宿自体行きたくないわけではないし、スガとデート…お出掛けも何処に連れてってくれるのかわからないけど行きたい所にも行けるなら行きたいし。

 うーんと悩んでいるといつの間にか真横に来ていたスガにポンポンと頭を撫でられた。瞬間移動?

「行き先もそうかもだけどさ、人で考えて答えてな〜。あいつらと過ごすかオレと過ごすか」

 それを聞いてあたしは固まる。ひ、人で…だと…。

「な、何で」

「ん?あれ、わかってない?」

 スガはそう言うといつぞやの如くあたしの肩を寄せて額に唇を押し付けた。

「!?」

「夏にもしたよなー」

 後ずさろうにもしっかり肩を掴まれているので手でスガの唇が触れた所を押さえるしか出来ない。またやられたとじわじわ熱が集まる。

「オレがデートに誘ってデコチューまでしてさ、他に負けてらんないって言ったのに気付かないかね?」

 いやそんな、全くわかっていないわけではないけどまさかスガまでとは思うまいよ。

「い、いや…あたしもいい加減大人だしわからなくもないけど」

「だよな〜。半信半疑ってやつなんだろうけど、夏に言った事もデコチューしたのも何とも思ってなかったらオレ言わないしやらないかんね」

 スガはそこまで言うと肩を掴んでいた手を離し何故かあたしに残りのケーキをあーんして食べさせてくれる。何だこの光景。

「最近宮地の様子とか高校生の奴らもバスケ教室の時に様子見たけど、大分関係性変わってきたみたいじゃん」

「…まあ…」

「オレも鈍感ではないから気付くとこは気付くし、そらさんも状況ちゃんとわかってるみたいだから言うけど、選ぶならアイツらん中にオレも入れてな〜」

 全部完食させるとスガがふきふきとティッシュで口を拭いてフィニッシュしてくれた。最後の方話ばっかりが頭に入って味わかんなかったんだけど。

「それで、今選ぶならアイツらかオレか、どっちにする?」

 あたしが迷いまくってるのをわかっていてこの質問は些か意地悪ではありませんか。










【春日side】

 前から見ててそらさんに懐く以上の感情持ってそうな奴らにはわかり易いし直ぐに気付いた。オレもそらさんといたら雰囲気が落ち着くから安心するし一緒にいて楽しいしみんなが懐く理由はわかる。んで周りの奴らの変化を見ていたらオレもいつの間にか気持ちが変化してた。

 今はタメだけど人生の先輩だとか頼りになる先輩みたいな感じで甘える存在だったのが、今では逆に甘えて欲しいし他の奴には見せない一面をオレだけに見せてくれたらって考えるようになった。女としてオレの傍に置けたらなっていつも会うた度に思った。
 焦ってるのが知られたくなくて態度を大っぴらにしていないし、紫原みたいにわかり易いアタックとかもしてないけど。

 夏の祭りに行った時は周りの変化に気付かない程鈍感でもないこの人が気付かないふりして周りと関係性変えようとしてなかったのが、何度か会っている中で今では少しずつ向き合ってるのもわかった。きっかけは何であれ、進展するチャンスだと思うと同時にそれは他の奴には言える事で、オレが出遅れている事に気付いたのは大晦日の時。

 周りはそらさんを常に気にしているし、そらさんもそいつらを気にする様子があってオレアウトオブ眼中になってんじゃんってそりゃもう焦った焦った。夏にちょっとほのめかしたとは言え伝わってない気がしたけど、時間が中々取れなくて直接的なアタックが今日になった。
 今日は邪魔者もいないしゆっくり話せると思って、勇気を出して二人で出掛けないか案を出すと反応が悪い。

 理由を聞けば合宿の話と被っているって事で、我が儘言えばオレの欲望に沿って合宿は断ってオレを選んで欲しいのが本音だけど、あんまがっついてるって思われたくなくて合宿組も考えてあげてって取り繕って言っておく。
 するとそらさんはうんうん言いながら悩み出したので、現段階で色んな奴の間で悩んでいるのをわかっていながらちょっと意地悪したくなって、また悩むよう選択するよう仕向けたらそらさんの顔が引き攣った。
 …オレが思ってた以上に相当ナイーブな問題で相当悩んでんのな。

 それでも行き先や場所で考えるよりアイツらかオレかで選んで欲しいって思って、欲望のままに選択肢を与えると更に顔が引き攣る。目を泳がせて必死に考えんのを見て、人数などで簡単に決めず悩んでくれるのが何か嬉しくて思わずデコチューをかましたら顔が赤くなった。普段下品なくせにこういう時照れるから可愛い。

 肩越しに伝わる緊張がわかって少しでも気を抜けるように余っていたショートケーキを食べさせると、無言で口を開けてもぐもぐ食べるそらさんがまるで動物に餌をあげているようで面白かったから完食させて、クリームが付いた口まで拭いてやる。舐め取ってもよかったけど避けられると思ったし爆発したらアレかなって思ってやめた。

「それで、今選ぶならアイツらかオレか、どっちにする?」

 そう言うと俯いてしまった。やり過ぎかと思ったけど、選んで欲しいって期待があるからやめない。選ばれなくてもこれでフラれるわけじゃないから気にしない。数日イライラするかもしれんけど。

「…えっと、」

「うん」

 暫くして口を開いたそらさんの顔を覗き込むと必死に考えている顔をしていた。思考を巡らせて巡らせて、どうしようって、そうすればなるべく人が傷付かない方法を取れるかって考えてる顔。
 前から人が傷付くような選択があったら自分が傷付けばいいって考える人だからな、そらさんって。だからこの場合出て来易い答えは「どっちも行かない」ってどちらも取らない方法かね。

「…合宿に行く」

 あら?予想が外れた。オレが目を丸くするとそらさんは顔を上げて申し訳なさそうな顔をした。

「スガと出掛けたくないわけではないよ。単純に考えて先に話出てたのは合宿が先だし前にまた機会あったら是非って言ったのもあるっていうのと、スガが頼りにされてるんだからって言ってくれたからっていうのと…」

 あーあ、取り繕うのに余計な事言ったからー。内心そう思っているとそらさんはまた顔を赤らめてチラチラこちらを見ながら続きを言った。

「それにさ、そんな事言われた後でスガと二人っきりで出掛けるとか、緊張するし変に意識するし…恥ずかしいから今回はやめとく」

 オレは目をパチパチ瞬かせる。成る程、そらさんは二人っきりでになる確率が低い方を選んだんか。
 多分本音は合宿なら女子もいるし、言い寄ってくる奴らが一緒の空間にいたとしても女子の協力を得ながら適度な距離で関われるだろうし、その中でゆっくり考えられるだろうって意味もあるんだろうけど。

 まあ逃げではないし今回はこれでいっか。恥ずかしいって素直に言ったし、既に意識してくれてんのはわかるからいいや。

「もっと意識してくれていいんよ?」

「っ、か、考える時間が欲しいのだよ!みんなに言ってるけど考えさせて欲しいのだよ!」

「緑間になってんけど」

 言葉に出して首を傾げると恥ずかしいと言いたげな勢いでそう言うので大人しく引き下がった。

「じゃあ待ってるかんね。で、また機会あったら出掛けよーな」

 答えは待つ、けどまた出掛けるチャンスは頂戴ねってポンポンと頭を撫でて伝えると、そらさんは苦笑して頷いた。オレも吹っ掛けた側だけどそらさんも悩まされて大変だな。

 その後そらさんがLINKで合宿に行くって返事をして、ありがとうとかよかったとか言われている光景を眺めながら合宿に行くなら守って欲しい事を伝えておく。

「そらさん」

「何?」

「貞操はしっかり守ってなー」

「冗談に聞こえない」

 オレも冗談に思えないから言ってんの。でも貞操奪うまでやらかすような奴らではないとここは信じとく。男なら耐えろよ〜お前ら。

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