INFINITY WORLD
みんなと冬合宿�@

 シューズのスキール音や掛け声が響く体育館。こちらまで熱気を感じるくらいに温まった体を動かし汗を流しながら練習に励む部員達を見据え、持っているバインダーに海常監督の武内さんに言われた事を書き込んでいく。現在あたしはマネ業務をしているのである。
 各校半分に分けて外組と体育館組に分かれており、中にいるあたしは言わずもがな体育館組です。この場にいるのが海常秀徳霧崎陽泉なので、秀徳マネのお多恵ちゃんや他男子マネと一緒に協力しながらマネ業務を行っています。

 ふと時計に目を向ければそろそろ時間なので食事作りに行く旨を伝えて体育館を後にする。体育館を一歩出れば冷たい北風が吹き、素早く宿泊施設へと移動してそそくさと厨房へ入る。此処の厨房に暖房やエアコンはないので服を着込み動いて暖かくするしかない。

 あ、現在あたしは冬合宿のサポートに来ています。説明が遅くなりました。
 冬の合同合宿の手伝いを了承し、連休初日の土曜の早朝に相田カーに乗って出発して前回とは違う合宿所へ来た。今回も大きく古い建物だが今の所よくないものは感じないので気にしない事にする。勿論前回の経験があるので油断はしておりません。ちなみに近くには山があるので外組はまた山を走る事になりそうです。残念ながら雪は積もっていない。

 前回で部員に顔を知られているのでお互いにあっさりな感じで今回も宜しく〜みたいな感じで挨拶を済ませた。今回は前回に加えお多恵ちゃんも参戦だ。

 で、現在冒頭から順に状況を説明した通り、海常でのサポートを終えて今から早速一日目の昼食作り開始です。
 今回は前回の逆にローテーションをしていくとかで、洛山→桐皇→陽泉→秀徳→霧崎→海常→誠凛で食事作りの補助をしてくれるらしい。夜は多いので二校に補助してもらう。

 という事で一日目の昼食作りは洛山の男子マネが途中から来て手伝ってくれた。慣れとは恐ろしいもので何だかんだ全員分作れるものですね。

 ここで急ですが今回の目標発表。みんなを適度な距離で観察してみる事を主にやっていきたいと思います。勿論サポートはちゃんとやりながらね。
 なのでいつもとちょっと違う感じに関わりますよ。あんまり甘やかし過ぎないって決めたの。あっちゃんとかきー君とか甘えてくるけど甘やかし過ぎないって決めたの。

「さっむ…順番に取ってってね〜はいそこ止まらない進んで進んで〜」

 動いて幾分暖かくはなったが寒いのには変わりない。小刻みに足踏みしながら体を動かし続け練習を終えて昼食を食べに来た部員達に配膳をする。
 今の格好はヒートテックにロンTにパーカー。下は裏地がモコモコの長ジャージでヒートタイプのタイツと靴下を履いている。その上にエプロンなのでややずんぐりしたように見えなくもない。勘違いしないでくれ、正月太りはしていないよ。…多分。

「プッ…そらだるまみてえ」

 いつぞやの如く馬鹿にしてきた峰さんにあたしはその喧嘩を買った。

「テメェが鼻水垂らして練習している間もあたしだって寒さに耐えながら飯作ってんだよありがたく黙って食いやがれガングロビチクソ野郎」

「オイ!またそれか!下品過ぎんだろっつーかガングロは関係ねえだろうが!」

「うるっせえ毎回毎回外見の事言わなきゃ気が済まねえのかこのウ◯コ野郎!!イカ墨でもっと黒く塗り潰してやろうかああん!!?」

「ぐえっ!!」

「「ブッ!?そらさん食事前!!」」

 キレたっていうより前回のノリを覚えてしまったのでそのノリで言いながらカウンター越しに胸倉を掴んだ。寒さで別にイライラはしていないからあくまでノリだ。だけど言い過ぎたようで周りからウ◯コ発言に対してお叱りを受けてしまった。すんまそん。

「そらさん下品です」

「すみませんでした」

「青峰も毎回余計な事を言うな。ありがたく頂戴するんだよ」

「チッ、冗談じゃねーか」

「一々冗談で喧嘩売らないで下さい〜」

 やっぱり赤君からお叱りを受けてしまい胸倉から手を離すと赤君は峰さんにも説教をしており、本気で言ったわけではないと言うがこの忙しい時にわざわざ言う事ではないのでやめて欲しい。ノったけども。

 そして配膳が終わり頂きますの挨拶をしたのを見届けてあたしもトレーに乗せた食事を持ってみんなのいる所へ行く。

「そらっち!こっち座って下さいっス!」

「そらちん此処空いてるよー」

 早速声を掛けてくれたワンコとお菓子の妖精だが今回の目標を忘れてはならぬ。

「ありがとー。だけどごめんね、あたし監督さん達の方で食べる約束してるんだー」

「「えー!」」

 やや良心が痛むが事前にお願いして合宿中は監督さん達の方で食べる事にしたのだ。また引っ張り合いとかあると嬉しいけど面倒な事もあるし。
 でも寂しい気持ちも勿論ある。みんなとの距離を調節するだけでこんなに寂しいと普段どんだけ近かったんだって思った。

 じと目を向けられているような視線を感じるが誤魔化すように監督さん達にバスケの練習内容の事で色々聞きたい事があると話を振ると、みんなバスケが好きなだけあって饒舌に話してくれるので会話に尽きる事はなかった。終始視線はビシバシ痛い程感じるが耐えろあたし。

 一足早く食事を終えると片付けに移り部員達の協力を得ながらスムーズに片付けを終えられた。

「そらさん」

「!?び、っくりしたぁ」

 拭いた食器を棚に戻しているといつの間に厨房の中に入ってきたのか俊ちゃんが近くにいて、背後から声を掛けられて完全に油断していたのもあり吃驚した。失礼だったねごめんよ。

「ごめん、驚かせて」

「いや、いいよ。あたしこそごめんね。何か用事?」

 カウンターの向こう側には人がまだいるので二人っきりではない。しまっている途中の残り僅かな食器を一度置いて向き直ると、俊ちゃんはやや言いにくそうに視線を泳がし口をモゴモゴさせた。何だ?

「トイレ?トイレなら行っといれ?」

「違う!…ハッ!キタ、ってそれはありきたりなダジャレだから既に書いてあるな…」

 違うとわかっていながら緊張を解くようにダジャレを含んで尋ねると直ぐさま否定された。そしていつものように彼の頭上の豆電球がついたかと思ったが、やはりオーソドックスなこのダジャレは既にネタ帳に書いてあるらしく顎に手を添えながら新ネタじゃなくて残念だと呟く。
 いや本当に君どんだけダジャレに真摯に打ち込んでるんだよ。その努力ちょっとは他に回した方がいいんじゃないかな。

 だがお陰でいつもの俊ちゃんに戻ったようで彼は苦笑すると頬を掻いて本題に入った。

「前のお見合いの時の事なんだけど」

「お見合い…ドッキリの時のね」

 ドッキリと言うと彼はやや遠い目をしたが頷いてあたしを一瞥した後視線を落としながら続ける。

「勢いであんな事を言ったからその後合わせる顔がないと言うか、気まずいというかそんなのがあって…年末年始にも結局話が出来なくて。でもこのまま話さないのはキツイと思って話し掛けたんだけど」

 本人の中では言ってしまった感が強く会っても目を合わせられないし話し掛けにくいしで、色々悩んでいた様子。あたしもその時の事はよく覚えているしドキドキもしたから俊ちゃんと似たような気持ちだったので、今こうして話せているのは嬉しい事だ。

「あの時は急にごめん」

「いいよ、別に気にする事じゃないよ。ありがとね」

 謝罪されるのは少し違うと思ったが苦笑して頭を横に振る。でもこれでギクシャクがなくなるならいっかと思っていると、俊ちゃんも同じように苦笑をした後真剣な顔になった。

「でも、あの時言った事は本心だから。勢いで言ったけどそらさんを渡したくないっていう気持ちは嘘ではないから、それはわかっていて欲しい」

「え、へ?」

 それだけ言うと俊ちゃんは少し耳を赤くさせて俯き、その場を去ってしまった。い、言い逃げ…。

「そらさん!そ(れ)しまった(ら)一緒に行きましょう!…って、どうしたんッスか!?」

「な、何でもないよ!今行く!」

 ハヤヤがカウンターにたたたっと駆けてきて顔を覗かせながら誘ってきたが、恐らく顔が赤いあたしを見て吃驚したのか元々大きい声を更に上げてきて慌てて否定すると、残りの食器を棚に戻してエプロンやバンダナを外し厨房から出た。
 もう、言い逃げとか俊ちゃんやってくれたな…!何なのあの顔可愛過ぎでしょ!!こんな事言ったら不機嫌になるだろうから言わないけど。










 午後からの練習が始まった。午前と午後で練習場所が入れ替わり、午前中体育館だったあたしも外の練習について行く。言わずもがな超寒い。上着着ていても寒い。
 お多恵ちゃんと凍える体を寄せて震えていると、それを見たランニング中のマコマコが鼻で笑って主にあたしに挑発してくる。

「ふはっ!んな所で突っ立ってるから脂肪があっても寒いんだよ。ダイエットも兼ねて走れ」

「失敬だな!!」

「オレはふわふわしてる方が抱き心地よくて好きだよ〜」

「聞いてねえよ」

 脂肪はほっとけやい!そう言うとまた鼻で笑ってマコマコ過ぎて行く。その後にあっちゃんがダルそうな顔をしながらも走っていて、ちゃっかり話を聞いていたのかそう言っていくのでツッコミをお送りしておいた。
 今は宿泊施設の外周をしており、結構大きい施設なので距離はあるがもう何周目かわからないのにそこまで息を切らせていない部員達に感嘆の息が漏れる。

「凄いですよね、バスケ部の皆さん」

「だねぇ」

 鼻を少し赤くさせながら感心したように言うお多恵ちゃんにあたしも頷く。息を吐き出すと白くなって宙に消えていき、この寒い中であたしみたいに厚着の中の厚着ではない格好で息を切らせて走る姿を見るだけでぶっちゃけカッコいい。頑張ってるなーって感じがして。

 海常秀徳霧崎陽泉の四校が今外にいるが、ストップウォッチを眺めタイムを気にしつつ前を走り過ぎていくみんなを眺める。

「よっしゃー!緑間っち抜いたっス!」

 きー君流石何でもコピー出来るだけあって走り方が上手だな。何かマラソン選手みたいに安定のある走りっていうか、そんな感じに見える。誰かの真似してるのかな?
 真ちゃんと競争しているのか対抗心燃やしている感じで二人共息を上がらせながらもしっかり足を動かしている。あ、真ちゃんを抜いた。
 きー君は笑顔がキラッキラしてて綺麗だな。流石デルモって感じ。でも雑誌とかで見る笑顔じゃなくて心からの笑顔は凄く素敵だと思う。抜けてる所もあるしあたしと同じで馬鹿だけど、愛される馬鹿って感じ。あとワンコ。

「フン、馬鹿め」

 真ちゃんは流石毎日人事を尽くしているだけあって努力家だと本当にそう思う。どんな時でも妥協を許さないしストイックだ。
 さっきもきー君に抜かされたけど焦る事なく自分のリズムを崩さないように走っている。そして着実に追い付き終いには抜いた。あ、今ちょっとドヤ顔した。
 自分に自信があって、でも甘えはない頑張り屋な真ちゃんが凄いと思う。たまに息抜きとか肩の力抜くとかもう少しした方がいいんでないかな?そう言っても聞き入れなさそうだけど。

「ほら、もう少しだから頑張って」

 あ、たっちゃんだ。自分のペースで真剣に走りながらもエロいってどゆこと。何か汗がキラキラしてるように見えるのはあたしの目にエフェクトが掛かってるだけなの?そう思っているとたっちゃんと目が合い、爽やかで妖艶な笑みを向けられた。何だその意味深な笑みは。今エロスは不要だよ。
 たっちゃんは少しペースの落ちた部員の肩を抜かす際に叩いて励ましていた。流石現主将。部員も持ち直してしっかり走り直す所を見ると信頼されてるんだなって感じた。基本的に普段は優しいけど、部活中好きなバスケで熱くなると厳しさが増しつつ冷静な判断が出来るらしいたっちゃん。貫禄出てきたな。なんて。

「ハァ…ハァ…ッ、うっす!スンマセン!」

 お、次はタカ君。ちょっとしんどそうだけど大丈夫かな。心配げに見つめていると視線に気付いたのか目が合って、ニッとピース付きで笑い過ぎて行った。まだその元気があれば大丈夫か。
 二年生になって後輩が出来たようだが、合宿は一軍しかいないので一軍入りしていない一年は一人もいない。その為先輩ばかりの中で裕ちゃんにしっかり走れとど突かれたり遅れていると真ちゃんにチクチク言われたりしている様子が見受けられるが、そこで拗ねるとかなくて軽いけどちゃんと謝って諦めずにしっかりやろうとする所が偉いなって思う。普通のようだけどそれって中々難しいと思うのよね。
 鷹の目を持っているとはいえキセキみたいに身体能力が飛び抜けていいわけではないってリコぴんが言ってたから、タカ君も努力家だ。

「あーもー…まだー?」

 あっちゃんはいつも何をするのにもダルそうだけどお菓子が目の前にある時だけは色々俊敏だ。あ、あと試合の時か。
 面倒とかダルいとかよく言うし事ある毎にお菓子を要求するけど、負けず嫌いだし何だかんだやる事はちゃんとやってる辺り素直じゃないだけで偉いと思う。
 今もあたしにまだ走るのか聞いてくるが、途中で投げ出すって事はないから頑張ってるなって思う。お菓子いっぱい食べて体作りする上でカロリーとか邪魔してないのかなっていつも思うけど、あっちゃんのいい所はご飯やお菓子を美味しそうに食べる所だからまあいいか。そして天使。大きいけど天使。

「オイ原ァ、テメェ一周サボってんだろ」

 出たマコマコ。あ、こっち睨んだ。エスパーかよ、サトリとか翔ちゃんに言ってるけど充分自分も妖怪じみた部分あっからな。
 まあとにかくこの子は口が悪い性格が悪い何処でそんなに踏み違えたの?って思うくらいゲスい。でもたまに優しい所があるから、それを隠してる時点でツンデレ属性なんだよね。
 眉毛変だし無駄にイケメンだし性格悪いけど、いつでも周りをよく見てて初対面でも的を得た性格分析とか出来るし何でも出来て頭いいだけあるなって思う。ほら、今だって上手く誤魔化そうとしたかずやんを見付けて注意してるし。
 力はあるのにゲスいって印象強かったけど、最近ではラフプレーの話あんまり聞かないし(気付かないだけでやってるのかもだけど)真面目にやってる場面は何度も見た事があるのでこれからも道を踏み違えないで頑張って欲しいと思います。作文みたいになりました。

「休憩!」

 おっと、休憩か。他の子も勝手に傍観して分析してたらいつの間にかランニングを終えて走り込みをし終えていたようで、息を切らせた部員が歩いてくるのでタオルやドリンクを持ちマネ達で渡し歩く。
 この寒い中よく頑張ったねぇなんてしみじみ思いながら渡していると、タカ君が汗を拭きながらあたしの近くに来た。

「ねえ、そらさん」

「何?」

「後でちょっとでいいから時間くんない?」

 え。と目を丸くさせているとその辺でさ、と物陰でなく周りからもよく見える少し座れるスペースを指差す。何、二人っきりとかにならないようにしているってあたしの意図している事に気付いているのか…!?…まあわかり易いから気付く子は気付くか。
 あたしは一つ頷き了承した。

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