INFINITY WORLD
みんなと冬合宿�A

 あれから練習は続き少し長めの休憩に入った。部員にタオルやドリンクを渡した後、タカ君がちょいちょいと手招きをしたのでそちらに向かい先程言っていた場所へ座った。いくつか遠くから視線を感じるし普通に人目につく所だ。汗を拭きながら隣にタカ君が座る。

「タカ君よ、話って何?」

「いや、大した事ないんだけど。あれからゆっくり話せてなかったからちょっとね」

「あれから?」

「チューの時」

 それを聞いてあたしは吹き出す。ごめんツバ飛んだ。
 しかし何故今その話なんだ。

「そらさんにオレやみんなの事ちゃんと見てって言ったじゃん」

「言ったね」

「だからそらさんは変わったよな」

「向き合う意識してるからね」

 あたしに視線は向けずに足元を見つめながら言うタカ君の横顔をあたしは見つめる。綺麗な顔してるなぁ、本当。
 タカ君は汗ばむ頭を軽く掻くと苦笑しながら顔を上げあたしを見る。

「嬉しい半分、後悔半分なんだよなー。みんなのそらさんへの態度見てると言わなきゃよかったってたまに思う」

 それを聞いてあたしは目を丸くさせた。きっかけは峰さんとタカ君の指摘で、あたしは考え方や見方を変えた。それはあたしにとって大変な事ではあるが大事な事で、タカ君には気付かせてくれた感謝しなければいけないのに、本人は言って後悔していると言う。
 何故かは聞かなくても何となくわかる。タカ君の気持ちは前に聞いたから。

「そらさんが向き合うようになってからみーんな自分を見てもらおうとしたり振り向かせようとしたり態度変わんだもん。オレも焦るわ!ちゃんと伝えられてない気がしてさ、このままオレだけアウトオヴ眼中は嫌じゃん」

「アウトオヴ眼中」

「そこ吹く所じゃないからそらさん!」

 ごめん発音よかったから。

「だからもう一回ちゃんと告白させて欲しいなって思ってさ!」

「えっ」

 それが主旨?と聞くと素敵な笑顔で頷かれた。え、ちょっと待って。この前ので充分にあたしには伝わったよ。恥ずかしいから何回も言わなくていいんだよ。
 そう言いたくなるがタカ君は自分がちゃんと伝えないと嫌なようで、あたしに向き直ると真剣な顔をするものだから反射的にあたしも向き直って口を結ぶ。

「…基本的にチキンだけど勇気があってみんなを包み込む優しさがあるそらさんが好きです」

「ごめん最初のやつ言う必要あった?」

「まあ聞いてよ!欠点も含めて好きだから!」

 ちょ!もう少し声抑えてもらっていいですか。周りに聞こえちゃうから。

「他は、保育士だからか?何か接し方に偶に愛を感じる」

「プッ!あ、愛って」

「笑わなーいの!甘やかし上手だけど本当はそらさん自身寂しがり屋で甘えたいんじゃないかなって思う時がある。オレはそれに気付くと甘えさせたい!って思うんだけど、結局いつも甘えちゃってんだよなー。甘やかし上手だから」

 ちょいちょい恥ずかしい言い回しをしてくるのでタカ君からの視線に耐えられず目線を落として膝を見つめながら聞く。ちゃんと聞いていますよ。

「前と似たような話になるけど。人の感情とか気持ちがわからない程鈍感でもないそらさんは、オレみたいにそらさんを好きって気持ちを気付かないフリしてみんなに同じように接して関係性を変えようとしなかった。オレはそれで進展しないのが嫌で、色んな奴がいる中でもオレを選んで欲しいって思って“ちゃんと見て”って言ったんだけど」

「うん」

「そんな臆病なそらさんも、自分を変えようとしているそらさんも、全部が大好き」

 その言葉に顔を上げるとニシシッと白い歯を見せてはにかんで笑うタカ君が目に入った。眩しい笑顔だ。イケメンだ。そして太陽みたい。

「人は直ぐに変わんないからさ、焦らなくていいと思うよ。それに変わってなくないし、ちょっとずつ変化してるぜ。だから大丈夫」

 あたしが前と変わってないとか思ったり同じ事を繰り返してしまったりする事を少し悩んでいたのも見抜かれていたようで、タカ君はそう言って頭をポンポンと撫でてくれた。鷹の目ってそんな所まで透視出来るの。なんちゃって。
 ちゃんと見てくれている、って思うと恥ずかしいけど嬉しさがあった。

「この気持ちに一切嘘なんかないから。これからもゆっくりでいいから考えて、オレを選んでね」

「最後のアピールは欠かさない」

「当ったり前じゃん!」

 ブレないタカ君に思わず笑うとタカ君も笑ってふにふに頬を突いてきた。何だこの手はやめろ。

「いつまで話してるのだよ。もう直ぐ休憩が終わるのだよ」

「ほいほーい」

「はーい」

 うりうりとしつこく(優しく)頬を突かれあたしもやり返そうとうりうり突き、二人で突き合っていると眉根を寄せた真ちゃんが声を掛けに来てくれたので立ち上がる。
 真ちゃんから何の話をしていたのか聞きたそうな雰囲気を感じ取ったが、あたしは知らないフリをしてお多恵ちゃん達マネズの元へ行き次の練習の準備を手伝い、それを終えると厨房へ向かう。後に桐皇から良君と一年生が、陽泉から一年生が応援に来てくれて一緒に夕食作りをした。良君まで来てくれたので超助かった。










 専ら傍観態勢なので、食事作りやマネのサポートをしながらみんなを観察している為、特に何も起こらないまま一日が過ぎた。タカ君のリベンジ告白はあったが。
 二日目。朝食はお多恵ちゃんら秀徳のマネと一緒に作ったが、お多恵ちゃんの女子力が高過ぎて涙出た。味噌汁が優しい味だった。

 そんな今日は誠凛桐皇洛山を分析したいと思います。と言ってもあたしはマネが少ない所のサポートを重点的にしているので、通り掛かったり呼ばれたりした時くらいしか見られないが。

 洗濯物を干したりドリンクを作ったりと忙しなく動いているとリコぴんに呼ばれ、体育館に向かえば誠凛と桐皇が試合形式でミニゲームをしていた。
 リコぴんとリコぴんパパに頼まれバインダーに言われた事を書き込んでいく。

「切り換えろ!一本取り返すぞ!」

 コートの中でPGとして指示しながらドリブルをする俊ちゃんがいた。昨日彼が言い逃げしてから何度か目が合っているが意味深な笑みを向けられたりヒラヒラ手を振られたりと、最初のぎこちなさは何処に行ったと言いたくなる程の切り換えのよさに吃驚しているあたしです。
 試合中も関係なくダジャレを言い空間をシラッとさせるお茶目で残念なイケメンの一人だが、周りはよく見てるし冷静さもあるし何より潜在能力もっとあると思うんだよね。鷲の目が既にあるけど。今注目してる選手で言ったらあたしは断然俊ちゃんを推すよ。推しメンだよ。

「火神!来いよ!」

 かがみんと1on1で向き合う峰さん。かがみんと峰さん単品でも勿論充分凄いけど、二人がこうして向き合って勝負していると野生の動物が縄張り争いしてるくらいの迫力あるし、何より速くてあたしの動体視力では全く追い切れません。人間ってこんなに速く動けるんだなぁって思う。
 圧倒されながらも楽しそうにバスケをする峰さんはピュア峰みたいに目がキラキラしてて楽しそうに見える。チラリとさっちゃんを盗み見ると嬉しそうに安心したような、それでいて彼女も楽しそうに微笑んでいる。心配してたもんね。
 みんなもそうだけど、本当にバスケ大好きなんだなって凄く伝わるよね、この様子見てるだけで。汗もキラキラしてて眩しい。たまにゲスい顔するくせに今は爽やかだ。

「そらさん、ありがとうございました」

「あいよー」

「ボーッとしてるかと思ったがちゃんと書いてたんだな」

「モチっす」

 リコぴんパパの言葉にサムズアップで返すとワシワシ撫でられた。観察してたからな。手が動いていたのは条件反射だろうか。
 あたしは自分が書き込んだ相田家二人の分析結果を見ながら感嘆の息を吐き出す。

「今年度リコぴん卒業でしょ?来年度はこのままリコぴんパパが誠凛の監督やったらいいのに」

「おう。そらちゃんが言うならやるわ」

「おー頑張ってー。……ええっ!?」

 んなあっさり決めていいんですか!?と吃驚して声を上げながら顔を上げるとニッと笑ったリコぴんパパ。リコぴんも隣で目を丸くして喫驚の表情を浮かべている。

「え?マジで?」

「本当に?パパ」

「おう!リコたんとそらたんが言うならやってやるよ」

 そらたんって。にしてもそんな軽く決めていいんですか。リコぴんパパは笑いながら他の奴らも監督やってるしなーとやる気がある感じで言う。本人がいいならいいのか。でも誠凛に関係ある人じゃなくても出来るのかな。まあそれは来年度の楽しみって事でいいか。

「山口さん。次はこちらを手伝ってもらえるかな」

 バインダーを渡し次の作業に移ろうとしたら洛山の監督白金さんより手招きされてそちらへ向かう。
 洛山マネは他の作業をしているらしく言われた事をこなしていると、赤君の声が聞こえて顔を上げる。

「落ち着いて周りをよく見ろ。そこで切り返せ」

 コートの一角で主将として全体的に声を掛けに指示を出す姿は流石の一言の尽きる。
 容姿端麗頭脳明晰、正に文武両道の彼に欠点なんかないけど意外な一面はある。年相応に思春期だったり寂しがりというか甘えたさんだったり。そこが可愛いんだよな赤君。
 品がある女性がタイプなのに真逆のあたしが好きだっていう意味がよくわからない時があるが、まあ理想と現実は違うって言うから気にしない事にする。
 彼もまた周りの変化に敏感だし観察眼優れてるし、一年から主将で生徒会長ってチートな赤君だけど、これからも無理しない程度に頑張って欲しいな。僕司君にお会いした事ないから少し会ってみたい気持ちがなくはないというのは余談で。

 そんなこんなであっという間にお昼に近付いた。あたしは厨房に向かう事を告げて寒い思いをしながら宿泊所の中を通り廊下を歩く。

 ピチャン

「ん?」

 水の滴る音が聞こえてあたしの足は止まる。この宿泊所にはあたし達一行しかいないので宿泊施設の管理人以外に他に人はいないはず。しかも今は練習中だし、管理人さんはがいるのは正面玄関付近にある管理人室だ。
 宿泊所の中に人がいるわけでもないのに、音がしたので勝手に鳥肌が立った。

 ピチャン

 また音が聞こえたのでその音を探るように辺りを見渡すと視界に入ったのは、廊下の窓の外に見える古い手洗い場。締め切っているドア越しでは聞こえにくいはずだが鮮明に聞こえるので、そこではないと思い目を逸らそうとしてギクリとした。
 蛇口は向こう側に付いているようで見えないが水がぶしゃあっと噴水のように一瞬上がったかと思えば、長く白い手が現れおいでおいでと手招きをしたのだ。

「う、おお」

 久しぶりに視たぜと一歩後退り胸元のお守りを握り締める。あいにく今は一枚の札しかポッケに入っていないので、今大群で押し寄せられでもしたらひとたまりもない。
 あたしは今更遅いかと思ったが目を逸らし、足早にその場を去る。

 惜シカッタ…

 何も聴こえない聴こえない聴こえない。

「おっ昼はなぁににしっよおっかなァァァ!!」

 恐怖心を拭い去るように大声を出しながら手をパンパンと叩き邪気を取り払うかの如く拍手しながら厨房に向かった。

「何叫んでんだよ!ビビんだろうが!」

「ッギャァァァァァ!!!」

「ッギャァァァァァ!!?」

 背後から急に声を掛けられて絶叫しながら振り返るとトイレに来たらしいザキだった。あたしの絶叫と顔にビビったのか同じように絶叫したザキの騒ぎ声を聞き付け、外で練習していた海常や陽泉の人達が来て、何の騒ぎだ大丈夫かなどきー君らが押し寄せててんやわんやになった。

 叫ぶ癖直したい。

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